2024年10月、愛知県名古屋市に日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」が誕生します。「Aichi-Startup戦略」の中核拠点に位置づけられるこの施設は、愛知県の強みである産業集積を生かし、モノづくりの伝統や技術とスタートアップとの融合によるイノベーションの創出を狙いとします。「STATION Ai」の運営を担うSTATION Ai株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの佐橋宏隆氏に、開業に向けた意気込みを聞きました。
目次
STATION Ai株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
佐橋 宏隆(さはし・ひろたか)
ソフトバンク株式会社入社後、人事部門を経て、ソフトバンクグループ株式会社の社長室で経営戦略を担当。東日本大震災後、SBエナジー株式会社で事業企画部長として再生可能エネルギー事業を管掌。2014年からSBイノベンチャー株式会社で、社内起業家育成プログラムの構築やハンズオン支援を推進。2021年9月からSTATION Aiに出向して現職。
愛知県の産業集積を生かす「STATION Ai」のオープンイノベーション
今年10月に名古屋市に開業する「STATION Ai」とはどのようなものでしょうか。
日本最大のスタートアップ支援拠点であり、オープンイノベーションを促進する拠点です。愛知県が推進している「Aichi-Startup戦略」の中核施設として、県が持つ圧倒的な強みである産業集積を背景に、モノづくりの伝統や優れた技術・技能とスタートアップとの融合によって新たなイノベーションを誘発し、産業の成長を拡大させるエコシステムを形成することを目的としています。
愛知県には、トヨタ自動車に代表されるような世界から注目される技術力・研究開発力を持った企業や大学・研究機関が多く存在していますので、日本で優秀なスタートアップを創出する流れと、世界から有力なスタートアップを呼び込む流れの両面で展開し、グローバルなイノベーション拠点とすることを目指しています。
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オープンイノベーション: 自社の技術と他社の技術を掛け合わせて新たな価値を生み出すこと
日本最大のスタートアップ支援拠点ということですが、特長を教えてください。
やはり一番は入居企業数の多さです。今年10月の開業時には約500社の入居を見込んでおり、5年後を目途に約1,000社まで増やしたいと考えています。スタートアップが入居できるコワーキングスペースは日本でもかなり増えてきましたが、国内外から1,000社規模でスタートアップと事業会社が同居する拠点というのは例がありません。
スタートアップの育成やオープンイノベーションの促進には、コミュニティマネジャーと呼ばれる専門のスタッフを配置して、さまざまな支援サービスを提供します。企業同士をつなぐことはもちろん、スタートアップ支援を目的としたイベントの開催など、自然にコミュニケーションが発生するような仕掛けを施していきますので、協業による新しいビジネスが日々生まれていくというのが最大の特長です。
ソフトバンクは「STATION Ai」にどのように関わっているのでしょうか。
ソフトバンクは、県のスタートアップ支援拠点整備等事業の一環で、2021年に整備・運営事業者(代表企業)として採択されました。100%子会社の特別目的会社「STATION Ai株式会社」を設立し、「STATION Ai」の設計・建設、運営・維持管理などを担っています。また、スタートアップの創出を促進するための、STATION Ai独自のファンドにも出資しています。ソフトバンクの国内外の企業とのネットワークを生かして有力な企業やスタートアップの誘致を行うほか、ソフトバンクのインキュベーション事業やスタートアップ支援のノウハウをもとに、STATION Aiが新規事業の創造に向けたプログラムの提供や起業後のメンタリングなど、フェーズに合わせたきめ細かなサポートを行っていきます。
その他にも、ソフトバンクが竹芝本社のスマートビルなどで活用しているIoTやAI、ロボット、ビッグデータ解析をはじめとする先端技術を「STATION Ai」にも導入し、常に最新のテクノロジーを体感することができる、オープンイノベーションを加速する施設にしていく予定です。
愛知県にはスタートアップ・エコシステムの形成要素がそろっている
愛知県はモノづくり産業の集積地というお話がありましたが、スタートアップ・エコシステムを形成するという点での環境は。
日本政府が「スタートアップ育成5か年計画」を掲げているように、今の日本にスタートアップが必要だということは明白ですが、現状は東京一極集中になっています。東京だけでなく世界に匹敵するスタートアップを生み出すということを前提としたときに、既存の産業が圧倒的に強いということや、優れた研究シーズを持った大学、そこにひもづく優秀な人材がたくさんいるとか、支援する枠組みがあるとか、いろんな要素が必要となってきます。愛知県はその要素がそろっている、本当にポテンシャルがある地域だと思っています。トヨタをはじめ日本を代表する製造業の集積地であり、本社が多い地域だということも大きなポイントです。新規事業やオープンイノベーションの機能を持っているのは、本社なんですよね。
多様な支援プログラムを提供
入居するスタートアップにとってのメリットを改めて教えてください。
スタートアップが成長していく上では、ベンチャーキャピタルからの投資や大企業が持っている顧客基盤や営業力など、さまざまな支援が不可欠です。そういう意味で、いろんな企業が1つの拠点に集まっていることは大きな魅力です。
また、協業先の事業会社だけでなく、われわれと同じようにスタートアップ支援のパートナーもたくさん入居しているというメリットもあります。スタートアップには段階的に成長ステージがありますが、ステージによって課題が違うため、必要な支援も異なります。全ての成長ステージに対してあらゆる支援が「STATION Ai」という場にワンストップでそろっていることも大きな魅力ではないでしょうか。
一方、大企業にとってのメリットは。
この7~8年ぐらいでオープンイノベーションが盛んになり、多くの大企業がオープンイノベーションの機能やコーポレートベンチャーキャピタルを持ち始めていますが、スタートアップに出会うことは、実は難易度が高いのです。われわれは入居するスタートアップをしっかり審査していますので、いいスタートアップに出会える確率が高いということが、まず大企業にとっての魅力になります。
また、大企業のオープンイノベーション人材を育成するための支援も提供しています。スタートアップとはどういう “生き物” なのかを理解するところから、大企業がスタートアップと協業をするテーマ設定や、マッチングの手前のある種戦略作りなども支援することが可能です。多彩な支援メニューを用意していますので、それも魅力に感じていただけるのではと思います。
起業という選択肢を当たり前に。オープンイノベーションの聖地を目指す
10月の開業に先駆けて「PRE-STATION Ai」を開設してスタートアップ支援を行っています。運営を通して感じる手応えはいかがでしょうか。
入居企業は2024年6月末時点で426社となり、想定以上のペースで増えています。国内は北海道から沖縄まで、海外も12カ国・地域からスタートアップが集まり、注目度の高さを感じています。 また、地域のスタートアップに対する捉え方も変わってきたと感じています。かつては「スタートアップ不毛の地」と言われたように、私の着任当初は、大学などで講演すると親世代の方から、「新卒でいい企業に就職するチャンスをSTATION Aiは奪うんですか」とお叱りを受けることもありましたが、今はその価値観が変わってきていると感じています。
地域ならではの課題に変化が見られるということですね。
名古屋は人材の流動性が低いという課題もあります。大企業に所属している方たちもどんどんスタートアップにも挑戦してほしいという思いで、社会人向けのプログラム「ACTIVATION Lab(アクティベーションラボ)」を用意しています。まず副業からスタートしてもいいし、報酬もそれなりにもらえるスタートアップに転職ということでもいいので、とにかくスタートアップに関係する人口を増やすための取り組みをしています。
現在参加しているスタートアップはどのような分野が多いなど傾向はありますか。
愛知県の製造品出荷額は45年連続日本一。 基幹産業である自動車や航空宇宙を始め、ロボット、繊維、陶磁器など世界有数の産業集積地となっていますので、そうした産業の関係企業とのビジネスが多いですね。東京との違いで言えば、愛知県は工場が多いので、現場を効率化するプロダクトを持ったスタートアップなどが集まりやすい傾向にあります。ヘルスケア、医療、AIの領域も多いですね。
今後、参加してくれたいいなという分野はありますか。
愛知県ならではの地域のアセットを生かすべきだと思っていますので、既存の製造業をアップデートしていくような領域がまず一つ。また、製造業を中心に日本全体として課題となっている脱炭素や気候テックの領域は、スタートアップから見るとものすごく大きなチャンスがあります。ヘルスケア領域も重点分野と位置づけていて、もっともっと集めていきたいと思っています。
10月の開業、さらにその先に向けての抱負をお願いします。
スタートアップはもちろん、パートナー企業、大企業の誘致も順調に進んでいます。「STATION Ai」に来れば、新しい事業ができると言われるインキュベーション施設づくりをしていきたいです。開業前の段階では、皆さんなかなかイメージしにくいところがあるかもしれませんが、協業に興味がある方たちにとっては、本当に魅力的な環境になると確信しています。
最終的には、「STATION Ai」を拠点に地域自体がオープンイノベーションの聖地、先進地域となることを目指しています。愛知県でのモデルが成功して日本全体に波及していくことで、地域の経済成長はもちろん、日本からグローバル市場に挑戦していくという期待感を多くの方にお伝えできたらと思います。
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(掲載日:2024年8月8日)
文:ソフトバンクニュース編集部
越境の最大地点へ。「STATION Ai」
2024年10月、名古屋市鶴舞公園南側に開業予定の国内最大のインキュベーション施設。敷地面積約7,300平方メートル、延床面積約23,600平方メートル、地上7階建て。スタートアップ・パートナー企業向けオフィス、テックラボ、イベントスペース、宿泊施設のほか、託児施設やカフェ・レストラン、愛知県にゆかりのある創業者・経営者の業績を伝える「あいち創業館」なども整備されます。