SNSボタン
記事分割(js記載用)

“冷感”と“冷却”はどう違う? 「暑さ対策グッズ」の仕組みと使い方を、熱中症対策の専門家が解説

冷房なしでは過ごすのは難しい最近の酷暑。外出先などエアコンが使えない場面では、日傘やハンディファン、冷却スプレーなどの暑さ対策グッズが欠かせません。しかし「どれを選べばいいの?」「もっと効果的に使う方法が知りたい!」という方も多いのでは。

そこで本記事では、各グッズの仕組みや効果、上手な使い方・選び方などについて、熱中症や暑さ対策に詳しい長谷川博教授にお聞きしました。さらに、通勤・通学、キャンプ・フェスといった屋外イベント、就寝時など、シーン別に使える「冷房以外の暑さ対策」もご紹介します。

教えてくれた人

広島大学大学院人間社会科学研究科教授

長谷川 博(はせがわ・ひろし)さん

1971年東京都生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了(体育学修士)。東京都立大学大学院理学研究科修了(理学博士)。運動生理学を専門とし、運動及び環境ストレス時における生体反応や身体の適応反応について生理学的手法を用いて分析。研究のキーワードは、熱中症予防、暑さ対策、身体冷却、体温調節、スポーツパフォーマンス。日本スポーツ協会「スポーツ医科学専門委員会スポーツ活動中の熱中症事故予防に関する研究プロジェクト」班員、国立スポーツ科学センター「東京オリンピック特別プロジェクト」研究員などを務める。

“涼しさのメカニズム”を知って夏を乗りきろう! 暑さ対策グッズの効果的な使い方・選び方

暑い日に、冷房がない場所や空調が調整しにくい場所へ行くときは、しっかり暑さ対策をしておきたいもの。まずは、暑さ対策が必要な理由について、長谷川さんに教えていただきました。

酷暑の夏は、屋外・屋内にかかわらず暑さ対策が必要

地球温暖化の影響により、夏の気温上昇が続き、熱中症のリスクは深刻化の一途をたどっています。過去10年間で熱中症の患者数は急増。死亡者数、救急搬送者数ともに増加傾向にあり、社会全体で喫緊の課題となっています。特に屋外での活動では、炎天下での短時間の移動でも体温が急上昇し、熱中症を引き起こす可能性があります。厚生労働省の発表によると、2024年に職場で発生した熱中症による死傷者数は1,257人と、過去最多を記録。

注意が必要なのは屋外だけではありません。室内でも、冷房を使わないことで熱がこもったり、外からの輻射熱(ふくしゃねつ)で室温が上昇したりすることで、熱中症のリスクは高まります。

長谷川 博さん

「体には、血液の循環や発汗による体温調節機能が備わっています。熱中症とは、高温多湿の環境下でこれらの機能がうまく働かなくなり、体温が異常に上昇した状態を指します。熱中症のもう1つの要因は脱水です。私たちの体は約60%が水分で構成されており、この水分が過度に失われると、体温調節機能が低下します。つまり、体温の異常な上昇と脱水が重なることで、熱中症のリスクが高まるのです」

冷感と冷却の違いって? 暑さ対策グッズの“涼しい”と感じる仕組みとは

年々厳しさを増す夏の暑さに対応するため、さまざまな暑さ対策グッズが登場しています。でも、その「涼しさ」はどういう仕組みで生まれているのでしょうか?

ここでは、暑さ対策グッズの「涼しい」と感じる仕組みに加え、それぞれのメリット・デメリットや、代表的なグッズについて解説します。

冷感

メントールやエタノールなどの揮発成分が皮膚表面で気化する際に生じる「気化熱」によって、ひんやり感を演出します。冷感を感知する受容体「TRPM8」を刺激することで、実際の温度よりも冷たく感じるという生理的な効果をもたらします。

メリット
  • すばやく清涼感が得られる。
  • 軽量かつ携帯性に優れているグッズが多いため、急な暑さにも対応しやすい。
デメリット
  • 深部体温を下げる効果はない。
  • 冷却効果は一時的で、成分が揮発すると効果が切れる。
  • 肌の敏感な人や、長時間使用する場合は刺激・乾燥を感じることがある。
代表的なグッズ 冷却スプレー、クールジェル、メントール配合のボディシート

接触冷感

温かいところから冷たいほうへ熱が移動する性質を活かして、冷たさを感じさせます。熱伝導率や熱拡散率が高く、サラッとした質感の素材が使われます。接触冷感の商品を選ぶ際は、接触冷感の性能を示す値(Q-max:最大熱吸収速度)を目安にしましょう。

メリット
  • 電気代を節約できる。
  • エアコンによる冷やしすぎを防げる。
デメリット
  • 深部体温を下げる効果はない。
  • 涼しさは一時的。
  • 吸水性や吸湿性の低い素材は汗で蒸れやすい。
代表的なグッズ 冷感タオル、接触冷感インナー、冷感シーツ

冷却

凍らせた保冷剤や氷などが持つ潜熱(融解熱)によって皮膚の熱を吸収し、皮膚温度そのものを下げます。

メリット
  • 皮膚温度を下げて、温熱感覚を改善する。
デメリット
  • 深部体温への効果は限定的。
  • 重量があり持ち運びに不向きなものも。
  • 直接肌に当てると凍傷や血行不良を引き起こすリスクがある。
代表的なグッズ クールネックリング、氷嚢、アイスピロー

風による冷却

風によって皮膚表面の暖かい空気が取り除かれ、代わりに熱を含まない空気と入れ替わることで、熱伝導と対流冷却が促進されます。また、汗が風によって素早く蒸発する際に、体の表面から気化熱を奪うため、涼しさを感じます。

メリット
  • 持ち運びが便利で、外出先でも手軽に涼しさを得られる。
デメリット
  • 深部体温への効果は限定的。
  • ハンディファンは定期的な充電が必要。
  • 気温が高すぎる場所では熱風になり逆効果。
  • 喉の渇きを感じにくくなり、脱水を促進するおそれも。
代表的なグッズ ハンディファン、ネックファン、空調服

遮熱・遮光

紫外線や赤外線を反射・遮断することで、皮膚表面に届く放射熱を抑えます。

メリット
  • 電気代が不要。
  • 輻射熱を遮り、熱によるストレスや体の疲れを抑制する。
デメリット
  • 室内では効果を発揮しにくい。
代表的なグッズ 日傘、UVカット帽子、サングラス、アームカバー

使い方を誤ると逆効果? 暑さ対策グッズを使う際の注意点

暑さ対策グッズを選ぶ際は、価格や見た目だけでなく、「体感温度をどのくらい下げられるか」「効果がどれくらい持続するか」といった点も確認しましょう。特に、接触冷感ウェアや日傘など継続的に使うものは、手入れのしやすさや持ち運びのしやすさも考慮すると、より効果的に暑さ対策を行えます。

長谷川 博さん

「暑さ対策グッズを使う上で最も注意したいのは、表面的な涼感は得られても、体の深部体温はなかなか下がりにくいという点です。例えば、首元を冷やすグッズを使えば首は快適に感じるかもしれませんが、体内部の温度は上昇し続ける可能性があります。これにより、脳が『まだ活動できる』と誤認し、知らず知らずのうちに熱中症のリスクが高まることもあります。ハンディファンで顔だけを冷やす場合も同様で、顔は涼しくても体全体の熱が放出されず、熱中症につながる恐れがあります。

熱中症予防には、こまめな水分・ミネラル補給と、適度な休息が最優先です。暑さ対策グッズは、あくまでこれらを補助するものと捉えましょう。また、暑さ対策には、複数のアイテムを組み合わせるのもポイント。例えば、通勤で体が熱くなったら、冷却スプレーやハンディファンで一時的な涼しさを得つつ、冷たい飲料で深部体温の上昇を抑えるといった組み合わせが有効です」

夏を快適に過ごすために! おススメの暑さ対策グッズと、シーン別の対策法

ここからは、おススメの暑さ対策グッズとその使い分け、シーン別の効果的な暑さ対策についてご紹介します。それぞれの状況に応じたグッズを上手に取り入れることで、より快適に、そしてより安全に夏を乗りきれるはずです。

暑さを効率よくしのぐには? 体温や体感温度を下げる注目のグッズ6選

実際に体温を下げる効果のあるものから、体感温度を下げて、ひんやり感を得られるグッズまで、注目のアイテムを6つご紹介。それぞれの効果的な使い方とあわせてチェックしてみてください。

体温を下げるのに効果的なグッズ

①日傘:直射日光を遮り、体温上昇を抑える

直射日光を遮ることで、体表の温度上昇を抑えられます。遮熱性を重視するなら、傘の表面が白や薄いブルーなどの淡色で、裏地が黒いタイプがおススメ。さらに、日傘に装着できるハンディファンを併用すると、傘内部の蒸れをやわらげ、より快適です。

②氷嚢・クールネックリング:“手のひら冷却”で深部体温をすばやく下げる

氷嚢やクールネックリングは、首筋やわきの下など太い血管が通る部位を効率よく冷やせるアイテムです。最近では、繰り返し使えるタイプや、屋外でも使いやすい持続性のある製品も増えています。

長谷川 博さん

 「こうしたグッズをより効果的に使うには“手のひら冷却”がおススメです。手や足の裏、頬など、毛が生えていない部分には「動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう、通称:AVA血管)」という特殊な血管があります。暑さを感じると、このAVA血管が開き、血液の循環が良くなります。この状態で冷たいものを当てると、血液が冷やされ、冷えた血液が全身をめぐることで、深部体温をすばやく下げることができます。最近では、氷嚢とステンレスボトルの両方の機能を備えたグッズも登場しており、手のひらや頬など、AVA血管のある場所を効率的に冷やすのに便利です」

凍らせたペットボトルを手に握って頬に当てるだけでも、手軽に深部体温を下げることができます

<体感温度を下げるのに効果的なグッズ>

③ハンディファン:風の力で汗を蒸発させ、肌を瞬時にクールダウン

手持ちタイプのほか、首掛けやクリップ付きなど多様なモデルがあります。濡れタオルや冷却スプレー、日傘との併用でさらに効果アップ。長時間の外出には3〜5時間以上稼働するモデルを選び、出かける前のフル充電を心がけましょう。

④冷却スプレー/クールジェル:ひと吹きで、外出先でも手軽にリフレッシュ

広範囲をすばやく冷やしたいなら肌に直接散布するミストタイプ、ポイント使いにはジェルタイプ、ほどよいひんやり感が好みなら衣類用スプレーがおススメです。ただし、連続での使用は肌に負担をかけることがあるため、注意しましょう。

⑤クールタオル:水に濡らすだけで、ひんやり感を何度でも

特殊繊維(マイクロファイバーや接触冷感素材)を使用しており、水に濡らして軽く絞るだけでひんやり感が数時間持続。乾いてきたら、再度水を含ませることでひんやり感が復活するため、こまめに濡らし直して繰り返し使えます。

⑥冷感ウェア:汗をすばやく吸収・乾燥させ、ベタつきにくく快適

繊維が汗を素早く吸い上げて乾燥させるため、不快なベタつきを防ぎながら涼感をキープできます。冷感ウェアの素材は熱に弱く劣化しやすいため、タンブラー乾燥は避けましょう。

通勤・通学、フェス、就寝時…シーン別の暑さ対策とグッズを紹介

①外出時

暑さ対策のポイント:

家を出る前に冷たい飲み物をとるなど、深部体温を下げておくことを心がけて。外出中も、氷嚢や冷たいペットボトルでたびたび手のひらを冷やすと効果的です。

おススメの暑さ対策グッズ:

氷嚢、日傘、アームカバー、ハンディファン

②室内

暑さ対策のポイント:

空調がない場所は湿度が高く汗が蒸発しにくいため、体が効率的に熱を放出できず、脱水状態に陥りやすいもの。そのため、こまめな水分補給を意識することが重要です。また、空調の温度をあまり下げすぎたくないときは、クールネックリングやクールタオルなどと空調を併用すると良いでしょう。

おススメの暑さ対策グッズ:

クールネックリング、クールタオル、ハンディファン

③キャンプ・フェスなどの屋外イベント

暑さ対策のポイント:

炎天下で長時間過ごす際は、頭部(脳)を守ることが最優先。屋外イベントなどでは日傘の使用が制限される場合もあるため、帽子を活用しましょう。蒸れを防ぐために、メッシュ素材など通気性の良いものを選ぶのがおススメです。最近では、帽子内部に取り付けられるアイスパッドも登場しています。また、クールネックリングやクールタオルを繰り返し冷やせるよう、クーラボックスや保冷バッグも持っていくと安心です。

おススメの暑さ対策グッズ:

通気性の良い帽子、氷嚢、クールネックリング、クールタオル

④就寝時

暑さ対策のポイント:

熱中症は、気温や湿度だけでなく、体のコンディションに大きく左右されます。特に睡眠の時間と質は、熱中症のリスクに直結するため、夏の夜はいかに快適な睡眠を確保するかが重要です。寝つきを良くし、質の高い睡眠を得るには、寝る前に体温を適切に下げることがポイント。就寝前にぬるめのシャワーを浴びて体を清潔にし、自然に体温が下がっていく状態を作りましょう。寝る前に冷たい飲み物を少量とるのもおススメです。

おススメの暑さ対策グッズ:

冷感シーツ、冷感枕、通気性の良いパジャマ

暑さを避けられない日でも、グッズの仕組みを理解し、適切に使うことで、快適さは大きく変わります。夏を少しでも心地よく、そして安心して過ごすために、本記事をヒントに、自分に合った暑さ対策グッズを上手に取り入れてみてはいかがでしょうか。

(掲載日:2025年7月30日)
文:東谷好依
編集:エクスライト

もしもの熱中症に備える、PayPayほけんの熱中症保険

炎天下のスポーツや屋外レジャー中などの熱中症対策の一つとして役立つのが熱中症保険。PayPayほけんの「熱中症お見舞い金」は、PayPayアプリから手軽に申し込み可能で、熱中症診断による点滴治療や入院時などに医療補償を受けられます。そのほかにもさまざまなニーズに対応した保険が用意されているので、チェックしてみましょう。

PayPayほけん簡単ご利用ガイド