
9月30日に発行されたソフトバンクの「統合報告書 2025」。2024年度の振り返りやAIを基軸とした中長期的な成長戦略、財務戦略、株主還元に関する経営陣の考えなどに加えて、「次世代社会インフラ」の実現に向けた技術戦略や、ESG・リスクマネジメントに関する取り組みについても網羅的に紹介しています。
ソフトバンク「統合報告書 2025」

ソフトバンクが目指す姿や中長期的な成長戦略、価値創造プロセス、マテリアリティ、財務・非財務情報を網羅的に掲載し、年1回発行しています。
ソフトバンクは、長期ビジョンの実現に向けて技術戦略を推進しています。2022年4月に設立した先端技術研究所の特長や、「AI-RAN」の戦略的な狙いとこれまでの取り組みなどについて、執行役員 先端技術研究所 所長の湧川隆次のインタビューを一部抜粋して紹介します。
先端技術研究所 所長インタビュー
先端技術研究所が設立された経緯と概要を教えてください。
2022年4月に先端技術研究所を設立しました。当社では元々、新しい技術を導入したサービスを世の中にいち早く展開することを得意としてきました。その一方で、「研究開発」は事業から少し遠い活動だと捉えられており、必ずしも積極的ではありませんでした。ビジネスのスピード感を重視する中で、必要な技術はそれを持つ企業への投資や買収によって獲得することが有効な選択肢だと捉えていたことが、その背景にありました。しかし、現社長の宮川がCTO(ChiefTechnology Officer)だった時代に「研究開発は会社の未来に向けた重要な投資である。ちゃんとやるべきだ」という方針を示しました。この方針を受けて、2016年に先端技術開発本部を組織し、私が本部長となりました。
先端技術開発本部時代の主な成果としては、空飛ぶ基地局「HAPS※1」の研究開発を挙げることができます。当社は、HAPSの研究開発で世界をリードしており、関連する米国特許権の保有件数では世界最多※2となっています。また、2018年には自動運転とMaaS(Mobility as a Service)の時代を見据えて、トヨタ自動車㈱との共同出資会社であるMONET Technologies株式会社の設立をリードし、交通の未来の創造と社会課題の解決に取り組んでいます。2021年4月に宮川が社長に就任したことに伴い、2022年4月には社長直轄組織となり、「先端技術研究所」に名を改めました。現在では、「AI-RAN」や「HAPS※1」、自動運転、量子コンピューターなどのテーマで、70を超えるプロジェクトが進行し、150人超のメンバーが従事しています。
- ※1
HAPS(High Altitude Platform Station):成層圏を長期間飛び続ける無人航空機を通信基地局のように運用し広域エリアに通信サービスを提供するシステムの総称
- ※2
PatSnap社の「PatSnap Analytics」を用い、CPC(Cooperative Patent Classification)H04B7/18504が付与された権利存続中米国特許権を案件単位で集計(2025年5月8日時点)

「AI-RAN」というコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか?
「AI-RAN」のコンセプトは、仮想化(通信専用のハードウエアで行っていた処理をソフトウエアで実現すること)の際に発生する膨大な計算処理に対処する過程で生まれました。
2019年に楽天モバイル株式会社が、同社のネットワーク上で仮想化を実現したと発表し、通信業界では大きな話題となりました。仮想化は、モバイルトラフィックの需要に応じて基地局を柔軟に拡張できるという観点やコストの観点、機能追加がソフトウエアアップデートで容易に可能であるという観点などからメリットが大きいのですが、二千数百万件(当時)のスマートフォン契約数を有する当社の膨大なトラフィックを処理できるほどには、技術として成熟していないというのがわれわれの評価でした。
では、今後どうすれば仮想化が実現できるのかを考えたときに、着目したのがGPUでした。
GPUはグラフィックス処理で培われた技術を有しており、その並列処理能力が膨大な無線機の信号処理に適していると考えたからです。当初はGPUの性能が十分ではなく、なかなか思うようなパフォーマンスがでませんでした。実現に向けて試行錯誤を続けていたところ、米NVIDIAが高性能なGPUを搭載したAI計算基盤を発表したので、「これを使ってAIで無線機の信号処理を行う仕組みを作れば、すごいものができるのではないか」という仮説ができました。これが「AI-RAN」のコンセプトが誕生した契機です。

続きは、「先端技術研究所 所長インタビュー」をぜひご覧ください。
(掲載日:2025年10月6日)
文:ソフトバンクニュース編集部




