
copyright Eutelsat
ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、HAPSや静止衛星、低軌道衛星などの非地上系ネットワーク(NTN)を組み合わせることで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指し、災害時の分断や通信網の整備格差といった現在の通信インフラの壁を越えて、世界中の人やビジネスにイノベーションを起こす「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」(以下、UTX)を推進しています。
UTXについてシリーズでお伝えしていく本企画の最終回は、衛星通信によるサービスの取り組みを紹介します。ソフトバンクは、異なる特長を持つ複数の衛星通信ソリューションを活用することで、さまざまなユースケースに対して最適な通信環境を提供しています。現状と今後への意気込みについて担当者に話を聞きました。

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 衛星企画部 部長
小野 敦久(おの・あつひさ)
高速・低遅延の通信環境を衛星通信ソリューションで実現
日本における4Gの人口カバー率はほぼ100%に達する一方、面積カバー率で見ると約60%にとどまっています。残りの40%の国土や、海上を航行する船舶、空を飛ぶドローンなどを含め、多様化・高度化するユースケースを実現するためには、高い可用性と耐障害性を備えた通信ネットワークがますます求められます。こうした通信ネットワークを構築するには、地上のモバイルネットワークだけでなく、衛星通信などによるカバレッジの補完が不可欠です。特に静止衛星(GEO)や低軌道衛星(LEO)といった衛星の特性を生かすことで、用途に応じた最適な接続手段を提供することが可能になります。ソフトバンクは複数の衛星通信事業者と連携しながら、いつでもどこでもつながるユビキタスネットワークの実現を目指しています。
ソフトバンクが現在提供している衛星通信ソリューションについて教えてください。
小野 「現在、法人向けの低軌道衛星を活用した通信ソリューションとして、『Starlink Business(スターリンク ビジネス)』と『Eutelsat OneWeb(ユーテルサット ワンウェブ)』の2つを提供しています。いずれも高速・低遅延の通信サービスにより、お客さまの多様なニーズに応えるサービスです」
Eutelsat OneWeb と Starlink Businessの違いや特長、使い分けは?
小野 「どちらも低軌道衛星を用いたサービスですが、それぞれ異なる強みがあります。Starlink Businessの衛星は高度約550kmに位置し、7,000基以上の衛星が運用されています。高速・低遅延で、比較的安価に利用できるベストエフォート型ブロードバンド接続を特長とし、BCP対策や、建設現場での不感地対策、船舶での通信確保などに最適です。
一方、Eutelsat OneWebの衛星は高度約1,200kmに位置し、654基の衛星でグローバルカバレッジを構築しています。帯域確保型かつ閉域接続対応が特長で、安定性とセキュリティーを重視する利用シーンに適しています」

Starlink Businessは他の事業者も提供していますが、Eutelsat OneWebはどのような提供体制になっているのでしょうか?
小野 「Starlink Businessは他社も取り扱っていますが、Eutelsat OneWebは、2023年9月に当社が販売パートナー契約を締結しており、国内の主要キャリアではソフトバンクのみが提供しています。これは当社の大きな強みとなっています」

copyright Eutelsat
Eutelsat OneWebは帯域確保型・閉域接続対応が特長で、安定性とセキュリティーを重視する利用シーンに適しているとのことですが、どんな活用事例がありますか?
小野 「たとえば、防衛省の高セキュリティー通信や自治体の行政システムなど、秘匿性の高い用途に最適です。さらにEutelsat OneWebは国内で陸上移動の免許を取得しており、この強みを生かした実証実験も行っています。
サイクルロードレース「マイナビ ツール・ド・九州2025」での映像伝送では、山間部など従来の地上網では圏外となる区間があり、安定した映像伝送が難しい状況がありました。しかし、Eutelsat OneWebを活用することで、電波の脆弱なエリアを補完し、これまで利用できなかった区間でも映像伝送が可能になるなど、大幅に利用可能なエリアを拡大できたことが確認されました。これは、移動体通信や広域イベントなどの現場で、Eutelsat OneWebが強みを発揮できることを示した事例です」

Eutelsat OneWebの通信がつながる仕組みはこちらの動画でご覧いただけます。
ソフトバンクは、自社ではどのように衛星ネットワークを活用しているのでしょうか?
小野 「社内においても衛星通信は積極的に活用しています。 平常時には基地局のバックホール回線として利用し、通信エリアの拡張や安定運用に貢献しています。災害時には、可搬型衛星アンテナや、衛星アンテナを搭載した移動基地局車などを活用し、迅速な通信復旧を実現しています。
従来は静止衛星を活用してきましたが、やはり静止衛星は遅延が大きく、帯域があまりないため速度がそれほど出ません。そこで、近年は小型端末でありながら高速・低遅延の通信が可能という低軌道衛星の特長を生かし、Starlinkを導入しています。

2024年に発生した能登半島地震の際には、Starlinkを用いて避難所や臨時拠点にWi-Fiサービスを提供するとともに、基地局のバックホール回線として通信エリアの復旧に活用しました。さらに、小型無線機と組み合わせて避難所向けに、音声通話・データ通信などのモバイル通信サービスも提供しました。

このソリューションを発展させ、法人向けに小型基地局エリア構築サービス「BizCell」として提供を開始しています。ユースケースとしては、建設現場や工場、山間部、トンネル内など、電波が届かない場所でも4G・5G対応の通信環境を低コストかつ短い納期で構築することが可能となっています」
複数の衛星通信ソリューションを持つことにはどんな意味がありますか?
小野 「ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと低軌道衛星や静止衛星、さらにHAPSを組み合わせることで、3次元ネットワークの構築を目指しています。低軌道衛星についても一つに限定せずに提供していく方針ですし、今後は中軌道衛星も活用するかもしれません。
その背景には、過去に実際のサービスが予期せぬ障害によって継続できなくなったという経験があります。こうした出来事から学んだのは、複数の手段を持っておくことで、障害や想定外の事情が起きても通信を継続できるように冗長化できる、ということです。提供する側として多様なソリューションを備えておくことは、お客さまのビジネスや通信の安定性を守るために非常に重要だと考えています。その意味でも、一つに依存せず、複数のソリューションを取り扱うことには大きな意味があると思っています」
圏外ゼロへ――衛星通信がもたらす新しい日常
衛星通信は、既に社会実装が進んでいますが、ソフトバンクが目指すUTXの実現に関係する技術の進展はありますか?
小野 「これまで地上のモバイルネットワーク(TN)と非地上系ネットワーク(NTN:衛星・HAPSなど)は、それぞれ独自の規格やエコシステムで進化してきました。
しかし、モバイル通信の国際標準化プロジェクトである3GPP(3rd Generation Partnership Project)のRelease17以降では、5GをNTNに拡張する規格が盛り込まれています。 3GPPは世界各国の通信事業者やメーカーが参加する国際標準化プロジェクトで、3Gから5G、将来の6Gまでモバイル通信の国際規格を策定しており、現在の通信サービスの多くはこの仕様に基づいて提供されています」

衛星やHAPSを含めたユビキタスネットワークの実現につながる標準化が進んだということですね。
小野 「そうですね。私たちが目指す真のユビキタスネットワークの姿というのは、単一の端末・契約で、利用者が特別な操作をしなくても、地上や上空の最適なネットワークにつながり続けられる世界です。しかし現状ではまだ、地上と衛星で別々の端末を用意しなければならない場合がほとんどです。
この課題に対して、3GPPのRelease17以降では、5Gの無線アクセス技術を衛星やHAPSにまで拡張する規格化が進められています。地上・HAPS・衛星の区別なく共通の仕様に統一され、端末やチップセットの共通化が進めば、シームレスなハンドオーバーが可能になります。
そうなれば、利用者は『圏外』を意識する必要がなくなり、ひとつの端末で本当にどこでもつながる時代がやってきます。これはソフトバンクが推進するユビキタスネットワークの実現に不可欠な大きな進化であり、未来の社会を支える基盤になると考えています」

先ほど、低軌道衛星も一つだけでなく新しいものも見極めて使っていきたいというお話がありましたが、今後の抱負は?
小野 「今は衛星ブロードバンドサービスをはじめ、衛星通信を手がける会社がいくつも出てきています。昔に比べて考えられないほどの “衛星バブル” のような状態になっていますので、どこか1社に依存するのではなく、それぞれの強みを見極めることが重要です。新しい技術をしっかりと評価し、それが当社のビジネスに貢献できるのであれば、積極的にプロダクト化していきたいと思います。現状のサービスで満足することなく、今後も技術調査をしつつ、最善のパートナーを見つけて進化させていきたいと思います」
2025年5月8日の決算会見で宮川社長が、衛星とスマートフォンの直接通信に言及していました。衛星とスマートフォンの直接通信の提供についての進捗は?
小野 「詳細はまだお伝えできませんが、スマートフォンとの直接通信の提供に向けて準備を進めています。これが実現すれば、地上のネットワークの圏外エリアや災害で圏外になった地域でも、スマートフォンだけで通信が可能となります。ぜひ今後の発表を楽しみにしていただければと思います」

いつでもどこでもつながり続ける通信ネットワークの実現によって、想像もしなかったような日常が当たり前になっていく。ソフトバンクは、そんな新たな価値を創出するユビキタストランスフォーメーションを推進していきます。
ソフトバンクが描くUTX
ソフトバンクが推進する「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」についてシリーズでお伝えしていきます。過去の記事はこちらからご覧いただけます。
(掲載日:2025年10月3日)
文:ソフトバンクニュース編集部
UTXでソフトバンクが目指す世界

ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、人工衛星や成層圏通信プラットフォームを活用した非地上系ネットワークを融合することで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指します。








