
現在、次世代の移動通信システムである6Gの実現に向けて、新たな周波数帯の検討が世界的に進んでいます。
ソフトバンクは、その有力候補とされる7GHz帯(センチメートル波)に着目、ノキアと共に屋外実証実験に取り組み、都市部でも良好なエリアカバレッジと通信品質が得られたことを発表しました。
11月19日、報道機関向けの技術説明会「ギジュツノチカラ センチ波編」と、総務省や通信事業者、研究機関など、6Gの周波数帯の議論を担う主要機関の関係者を招いた「6Gの開発に関する技術カンファレンス」が開催され、屋外実証実験の結果報告およびAI時代を支える6Gに向けたネットワークのあり方について説明が行われました。
目次
6Gで求められる新たな周波数帯。ミッドバンドとセンチ波の特性
現在、世界のモバイルトラフィックは今後5〜9倍に増加すると予測されており、AIの普及により今後さらなる需要の拡大が見込まれています。このままでは、主に5Gで利用されている3.9GHz帯は2030年前後に容量の限界を迎える可能性があります。
こうした背景から、6Gでは新たな周波数帯の確保が重要となり、ミッドバンド(1〜10GHz程度)の中でも高い周波数帯である6.4〜8.4GHz帯が有力な候補として国際的に検討が進められています。6.4〜8.4GHz帯は、波長が約3〜5cm幅であることからセンチメートル波(以下「センチ波」)と呼ばれており、Sub6(6GHz未満)に近い特性を持つと言われています、5Gのミリ波と比べると減衰が小さく、建物の影への回り込みも大きいため、“実用性”と“広帯域”を両立できる周波数帯として注目されています。
6Gに求められる周波数幅としては、200MHzまたは400MHzと、5Gよりも広い周波数が検討されています。センチ波は6Gに必要な数百MHz級の広帯域を確保しやすいことから、ソフトバンクも早くから着目して研究開発を進めており、今回は実用の可能性を検証するため都市部での実証実験を実施しました。

東京・銀座で3.9GHz帯と同等のパフォーマンスを発揮。屋外実証実験で示した7GHz帯の可能性
「ギジュツノチカラ センチ波編」では、2025年6月から東京・銀座エリアで実施している7GHz帯の屋外実証実験の結果について報告が行われました。
今回、実証エリアとして東京・銀座という超高密度の都市環境が選ばれた理由は、7GHz帯がSub6より高い周波数の電波であり、都市部でどの程度カバレッジや通信品質を確保できるかを実際の環境で確かめる必要があったためです。
実証実験では、ソフトバンクがネットワーク構築と検証環境の準備を行い、ノキアが7GHz帯に対応した基地局のプロトタイプを提供。検証エリア内の3箇所に実験用基地局を設置し、都市部での電波伝搬特性やエリアカバレッジ、通信品質を既存の3.9GHz帯基地局と比較して検証を行いました。


実際に計測してみると、7GHz帯の都市部における通信性能は、3.9GHz帯と同等の結果に。見通しの良い環境では、本来不利とされる7GHz帯が都市部の「キャニオン効果」によって3.9GHz帯と同等以上に電波が届くことを確認しました。キャニオン効果とは、ビルの壁面で電波が反射・回折しながら進むことで、電波が外へ逃げにくく、減衰が少なくなるという都市部特有の現象です。これにより、想定以上のカバレッジを構築することができました。

また、見通しの悪い環境でも、圏外エリアがほとんどなく、十分に実用的な通信ネットワークを構築できることを確認できました。7GHz帯はビームが細いため、今回の実証実験のように基地局数が限られた構成では、他の周波数帯の電波からの干渉を受けにくく、反射による電波伝搬も安定していることから、結果として高い通信品質が実現できたと考えられます。

7GHz帯アンテナ搭載車両でデモンストレーションを実施
説明会終了後には、実証エリアである東京・銀座を7GHz帯のアンテナと専用端末を搭載した車両で実際に走行し、エリアカバレッジや通信品質、電波伝搬特性を確認するデモンストレーションが行われました。
車両前方に設置されたモニター上のマップに、走行ルート上の電波受信状況を示すRSRP(基準信号受信電力)※1と、通信品質を示す指標の一つであるSINR(信号対干渉雑音比)※2の変化がリアルタイムで表示され、解説を交えながら3.9GHz帯と7GHz帯の通信品質を比較。デモ中、いずれの値も安定して高い水準で推移。都市部における7GHz帯の有効性を改めて示す結果となりました。

- ※1
RSRP(基準信号受信電力):電波の強さを表す指標。値が大きいほど電波が強い(通信環境が良い)ことを示す。
- ※2
SINR(信号対干渉雑音比):ノイズや干渉に対して信号がどれだけクリアかを表す指標。値が高いほど通信環境が良く、高速で安定性が高いことを示す。
6G時代の要となる7GHz帯の有用性を提言「6Gの開発に関する技術カンファレンス」

ソフトバンクとノキアは、今回の実証実験だけでなく、AI-RANの開発や6Gに向けたネットワーク技術でも共同研究開発を進めており、次世代通信基盤の実現に向けたパートナーとして共に取り組みを続けています。
これまでの取り組みを踏まえ、6G時代の通信方式や周波数帯の検討に関わる産学官の主要な関係者に向け、7GHz帯が6Gの有力候補となる理由や、次世代の通信インフラに求められる技術を共有する場として「6Gの開発に関する技術カンファレンス」が開催されました。
6Gの「ゴールデンバンド」をどう活かすか。世界が注目する7GHz帯の可能性

カンファレンスに登壇したノキアのストラテジー&テクノロジー事業部 バイスプレジデント&CTOのアリ・キナスラティ氏は、6.4〜8.4GHz帯を「6Gのゴールデンバンド」と位置付け、各国でミッドバンドを6Gの候補周波数として検討する動きが進んでいる現状を解説しました。
また、今回の実証実験で設置したノキア製の7GHz帯基地局のプロトタイプについて、「3.5GHz帯と同等サイズでより多くのアンテナ素子を搭載できる設計。高い周波数帯でも十分なビーム形成性能を確保でき、3.5GHz帯と同じ基地局配置で展開できる」とその性能と特徴を解説しました。

さらに、実証実験の結果を踏まえ、ミリ波と異なり、屋内外での電波減衰が比較的少なく、既存インフラを活用した展開が可能なため、ミッドバンドが6Gにおける主要周波数となる可能性が高いことを強調しました。
有限な資産である電波を賢く活用。AIと通信を融合し新たな通信時代を築く

続いて登壇したソフトバンク株式会社 執行役員 先端技術研究所 所長の湧川隆次は、「現在ソフトバンクはAI前提社会に全振りして取り組んでいる。ネットワークもAIを運ぶインフラへと大きく変わっていく」と述べ、AI社会の到来を見据えソフトバンクが注力する取り組みについて説明しました。
AI時代に必要とされる新たなネットワーク像
従来のモバイルネットワークは、主にスマートフォンでの利用を前提として設計されていました。しかし、AIの普及によるトラフィック増や、自動運転、遠隔医療などリアルタイム性と大容量伝送を同時に求めるサービスが増える中、ネットワークにかかる負荷は大きく変化しています。

湧川は現在のネットワークが抱える課題として「5Gは高速・大容量を実現したが、アプリケーション処理はインターネットの先のクラウド側で行われるため、ベストエフォートの制約から本来の能力を十分に活かせていない場面が多かった」と説明し、この課題を解決する仕組みとして、端末に近い場所で処理を行うことで、遅延を最小限に抑えつつ安定した通信を実現するエッジコンピューティングに触れました。
一方でエッジコンピューティングが抱える課題として、エッジコンピュータで実行するアプリケーションの少なさを挙げました。この課題に対して湧川は「ロボットにおけるフィジカルAIや遠隔手術などはエッジAIが有効であり、AI-RANによってエッジAIを実行する環境が提供できるようになる」と説明しました。
AI-RANは“AnyG”の取り組み
湧川は、ソフトバンクが開発を進めているAI-RANのプロダクト「AITRAS(アイトラス)」に触れ、「GPUの汎用性により、無線処理とAI処理を同じ基盤で動かすことができる。ソフトバンクが研究開発を進めてきたさまざまな技術要素を組み合わせて構築されており、AI推論処理の最適化や電波環境の自動調整など、次世代ネットワークに必要な機能を包括的に実現するための基盤となる」と説明。「AI-RANは6Gのためだけではなく、4Gや5Gにも適用できる“AnyG”の取り組みである」と、AI-RANの実用化が遠くないことを強調しました。

また、今回実証を行った7GHz帯は帯域幅が広い一方で、基地局を高密度に配置すると干渉が生じやすいという従来の課題に対して「7GHz帯は3.9GHz帯に比べてビームをシャープにすることができるため、電波の通り道が予測しやすく、思ったよりも使いやすい」と語り、2027年に開催予定の世界無線通信会議で7GHz帯の議論が行われることを見据えて、世界と協調しながら周波数を割り当てることの重要性を示しました。
“スペクトラムセンシング”で電波の動的共用を可能に

さらに湧川は、限られた周波数資源を効率的に使うための技術として、スペクトラムセンシングを紹介しました。AIを用いて周囲の周波数利用状況をリアルタイムに検知し、空いているチャンネルを自動で利用する仕組みです。
日本では現在6.5〜8GHz帯が衛星通信や放送事業などで利用されており、周波数共用の可能性が議論されています。湧川は「AI技術を活用することで、既存システムに干渉せずに共用できる可能性がある」と述べ、AIが電波利用のあり方を大きく変える可能性に言及しました。
AI×通信の標準化に向けた国際調和と国内整備の両立を

カンファレンスで基調講演を行った東京大学 大学院 工学系研究科 中尾彰宏教授は、「AIと通信の融合が次世代ネットワークの鍵になる」と強調しました。
東京大学も参画するAI-RANアライアンスや、日欧の共同研究プロジェクト「6G MIRAI-HARMONY」において、AIを活用したネットワーク最適化や通信方式の標準化が進められている現状を紹介するとともに、周波数政策に関して「既存業務との共用を前提に、国際調和と国内整備を両立させる必要がある」と指摘。総務省、通信キャリア、研究機関が参加するXG モバイル推進フォーラム(XGMF)による議論が、今後の日本の6G方針形成に重要であると述べ、産学官連携の必要性を強調しました。
ソフトバンクは今後も、実用化を見据えた研究開発と国際的な連携を通じて6G技術の確立に貢献し、AI時代の次世代社会インフラの実現に向けた取り組みを加速していきます。
(掲載日:2025年12月11日)
文:ソフトバンクニュース編集部






