与党民主党内で情報通信のあり方を検討している「民主党情報通信議員連盟」の総会が11月10日(水)、東京都千代田区にある衆議院第一議員会館で行われました。ソフトバンクグループ代表の孫 正義が講演者として招かれ、「光の道」に関する講演を行いました。
30年後、日本の経済力は世界8位に転落
「民主党情報通信議員連盟」(以下 情報通信議連)では、日本の今後の通信政策の検討にあたり、11月中に大手通信事業者から数回にわたり、ヒアリングを行うことになっています。その最初の講演者として、ソフトバンクグループ代表の孫が招待されました。会場となった衆議院第一議員会館の大会議室には、情報通信議連所属の民主党議員の皆様をはじめ、議員のスタッフや政府関係者、報道関係者など多数の皆様においでいただき、講演を行いました。
講演の冒頭、孫は「30年後の日本の姿」について、次のように予測しました。
「現在の成長率(年1%成長)が続いた場合、今から8年後にはGDPで中国に2倍の差をつけられるばかりでなく、30年後にはアメリカ・インド・ブラジル・メキシコ・ロシア・インドネシアに次ぐ世界8位に転落してしまいます。しかし、年3%で成長した場合は、4位で持ちこたえることができます。成長率を3%にするためには、現在の500兆円の名目GDPを、1,200兆円に引き上げることが必要です。仮に成長率を3%にできた場合、GDP全体では世界4位ではありますが、国民一人当たりのGDPで見ると、先進国で1位になることができます」
この年3%成長を実現することは、容易ではありません。そのためにもっとも必要なことは、「人・物・金といった資源の成長産業への集中」であると、孫は解説します。そしてその成長産業とは、IT産業に他なりません。30年後の日本の中核を担う人材は、IT技術を自由自在に操れる人々でなければなりませんが、それは今日時点の小学生の皆様ということになります。彼らのITリテラシーを高めるためには、幼少期からの教育を欠かすことができません。そのため、今から全ての教員・生徒に、電子教科書を無償配布したり、教育クラウドを構築するなど、身体で自然に覚えるような環境を造る必要があります。他方、30年後の日本は、高度高齢化社会になることが予測されています。この対策としてもITを駆使した効率的な医療を確立し、余分な手間とコストを削減することがきわめて重要です。 これらを実現した国の形を、孫は「IT立国」と名付けました。そしてこの「IT立国」を支える21世紀のインフラ(社会的基盤)こそが、光回線やクラウドコンピューティング、またWi-Fiなどの無線ネットワークの整備も含めた、超高速・大容量通信を可能とする「光の道」ということになります。
これらのことを前提として、孫は情報通信議連の皆様に「光の道」実現を、強く訴えました。
「日本はADSLで一度、世界一安く、速い国になりました。今は3位ですが、もう一度世界一になりましょう。インフラさえ整えば、(ソフトウエアなどの)アプリケーションの分野は、民間が頑張ります。天下国家のことを議論される議員の先生方には、インフラの議論をまず集中してやっていただきたい。『IT立国世界No.1へ』このビジョンを日本の成長戦略の、“1番ど真ん中”に据えるべき、ということを提言します。『2番3番ではなく、集中的にこれ1つについて大枠を決め、他は全部削る』これが戦略という言葉の意味です。また決断の意味は、『決めて他を切る』ことです。官僚やジャーナリストの皆さんは常に両論併記で、片方を言えば、もう片方の弊害も言わなければなりません。これでは国は動きません。ですから、最後に腹をくくるのは、政治家の先生方なのです。政治家に求められるのは、重箱の隅をつつくような話ではなく、『ど真ん中のど真ん中で腹をくくる!』ことだけなのです。政治家は法律を決めることができますが、民間人にはできません。その法律を決める、立法府の一番の中心におられる先生方に、ぜひとも腹をくくっていただきたいのです。
菅 直人首相も、『光の道こそ日本の復活の鍵』とおっしゃられています。また原口 一博前総務大臣は、この『光の道』構想を“原口ビジョン”として掲げられ、2015年ごろを目処に、『すべての世帯にブロードバンドサービスを実現しましょう』という戦略大綱を今年の8月31日に発表されました。ぜひこれを先生方のお力で、『光の道3法案』として来年の通常国会に提出いただきたい。また野党の皆さんを説得いただき、どこの政党が良い悪いという小さな次元ではなく、“天下国家のためにはこうあるべき”という議論を、ぜひ堂々と展開していただきたいと思います」
ソフトバンクだけになっても成すべきこと
ソフトバンクグループが提案する「光の道」では、「新たな税金は投入しない」「(離島・山間部なども含め)全国一律で同じサービスが受けられる」「光BBの料金を1,150円で提供する」ことなどが骨子となっています。これらを実現するためにも、メタル回線で多額の赤字を出している、東日本電信電話株式会社と西日本電信電話株式会社(NTT東日本とNTT西日本、以下 NTT東西)のアクセス回線部門を独立させ、新たな光回線会社として設立させることを提案しています。
現在の赤字は、メタル回線を持ちながら、光回線を二重に持っていることで余計にコストがかかることから発生しており、同時に光回線利用料の高止まりを招いています。そこで、すべてのメタル回線を光回線に置き換える事業を、計画的に行うことを提案しているのです。
この光回線会社設立には、増資や設備投資などで4.6兆円ほどかかりますが、これを国と大手通信事業者が応分に負担することで、無理なく実現できると、ソフトバンクグループでは試算しています。この光回線会社がインフラを整備し、その上で各通信事業者による、健全なサービス競争が行われることになるのです。事業の独占を排除するなどの観点からも、国と大手通信事業者が応分に負担するのがあるべき姿です。
しかし賛同が得られない場合は、「5,000億円は、私たちが資本を増資します。現在、NTT東西が持っているインフラ部分にかかわる1兆円の借金も、私たちが代理弁済します。全部で4.6兆円ですが、国家予算はいりません。ボーダフォン株式会社を買収して約2兆円払いましたが、あのときの苦しい状態でも2兆円を調達して対応できました。したがってたとえ新たに4兆円かかっても、私たちならできます」(孫)と、日本の国民と国家の将来のため、ソフトバンクグループだけになってもやり遂げる覚悟を示しています。もちろん仮にソフトバンクグループだけで行うことになった場合でも、決して独占的事業には陥らず、他の事業者や国民の皆様に対して、オープンで透明性の高い経営を行うことも、合わせて強調しました。
我々には「志」しかない
講演の結びとして孫は、情報通信議連の皆様に、最後のお願いをしました。
「私たちには『志』しかありません。『志』をご理解いただける方に、説き歩くことしかできません。
20世紀には、車の道、水の道、電気の道、電話の道がインフラとして作られました。21世紀は情報の道として、『光の道』を引こうという原口前総務大臣のビジョンに、私は心から共鳴しております。民主党政権になり、1年がたちました。かつて明治新政府は、最初の5年で何をしたでしょうか。明治政府にはお金もなく、国民の賛同も十分に得られていませんでした。しかし電信線を引き、義務教育を作り、断髪令、廃藩置県、郵便、鉄道……このようなインフラの整備を、最初の5年間でやりとげました。国民に対し成長戦略を、目に見える形で描いて見せたのです。
今の国民の本質的不満は、『成長戦略が見えない』ことです。これでは国としてのプライドは、失われてしまいます。これを取り戻す国家戦略こそ、『光の道』であり『IT立国』ではないでしょうか。戦略は絞るべきです。100を並べ立てる戦略は、戦略とは言えません。ぜひ日本のために、よろしくお願いします」
情報通信議連の会長である原口前総務大臣は、「今日、孫社長からいただいたのは、熱い『志』です。同じ時期にビル・ゲイツさん、スティーブ・ジョブズさんらが、世界でパラダイムを新しく変えています。そのパラダイムに対してどう働きかけるかが、私たち政治家の仕事だと思います」と、講演を行った孫への感謝のお言葉をいただき、講演会を締めくくりました。
(掲載日:2010年11月17日)