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VRゴーグルで驚きの体験が! 人間の可能性をアップデートするVRについて東大の研究者に聞いてみた

みなさんはVR(バーチャルリアリティー、仮想現実)と聞いて何を思い浮かべますか? ゲームや動画コンテンツなどを思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし、VRの可能性はエンタメコンテンツばかりではありません。人間の秘めた力を拡張し、私たちの社会をより良く変えるような大きな可能性を秘めているのです。

今回は東京大学でVRの研究を行っている研究者・鳴海拓志先生の研究室を訪れ、VRの魅力とこれからの可能性について、さまざまなお話を伺いました。

鳴海 拓志 先生

1983年 福岡県生まれ。東京大学大学院 情報理工学系研究科 講師。VRを活用して五感に働きかけることで、人間の行動や認知、能力を変化させる研究などを中心に、VRを応用したさまざまな研究に取り組んでいる。日本バーチャルリアリティ学会論文賞、グッドデザイン賞など受賞も多数。

アバターをアインシュタインにするだけで、頭が良くなる?

初めに鳴海先生の研究内容を教えてください。

鳴海先生:簡単に言うと、VRを活用してさまざまな五感の体験をデザインする、ということをやっています。実は人間の五感って、それぞれが独立して存在しているわけではありません。

例えばプリンを見たとき、実際に触らなくてもその柔らかさや食感って伝わってきますよね。鼻をつまんでご飯を食べると味がしなかったりもする。これは五感が混ざり合い、互いに作用しているからなんです。こうした現象を「クロスモーダル」と言うのですが、それをVRに活用する研究をしています。

具体的な事例について教えていただけますか?

鳴海先生:例えば「メタクッキー」といって、HMD(ヘッドマウントディスプレー)を装着してクッキーを食べてもらう。普通のバタークッキーなのですが、HMDの映像ではチョコレートクッキーに見えているんです。HMDには匂いが出る装置も搭載されていて、チョコレートの香りが出ている。その状況で実際に食べてみると、味もチョコクッキーであると錯覚してしまう。

他にも「扇情的な鏡」といって、鏡に映った自分の表情を実物よりもにこやかに映してあげる。すると、鏡に映る表情につられて、実際に楽しい気持ちになってしまう。

五感だけでなく、VRで人間の感情まで動かすことができるとは驚きです。

鳴海先生: これを活用し、遠隔のビデオ会議で画面上の相手の顔を実際より笑顔で映す実験をしたんです。その状態でブレーンストーミングをすると、通常と比べて出てくるアイデアの数が1.5倍に増えました。VRによって、つまらない会議が生産的な会議へと変換されたわけです。

また、海外の研究事例に面白いものがあって、VR内で認知能力を測るテストをやらせると、自分に似たアバターを使ったときより、アインシュタインのアバターを使ったときの方が、成績がアップしたそうです。

アバターを変えただけで、ですか?

鳴海先生:アバターを変えただけで(笑)。われわれは普段、「このくらいで抑えておこう」と自分の能力に自らリミッターをかけているわけです。それが、アバターが変わっただけで「アインシュタインならこれくらいできて当たり前だろう」となる。

「自分はこれくらいできるだろう」という期待感や自信を心理学用語で「自己効力感」というのですが、VRでこれをうまくコントロールしてあげると人はもっといろいろな能力を獲得できるかもしれない。VRを活用することでいつも以上に能力を発揮できたり、ハッピーになったり、人の気持ちをもっと理解できたり。これがまさに、VRの新しい使い方だと思っています。

研究室の学生が機器を準備してくれたみたいなので、ちょっと体験してみますか?

VRでドッペルゲンガー体験! 「100人の自分」と戯れる

というわけで、別室に移動して研究室のVRを体験させてもらえることに。今回体験させてもらったのは、修士1年生の畑田裕二さんが制作した「二重人殻」というVRコンテンツ。バーチャル空間で自分の分身(ドッペルゲンガー)と向き合うことで、自分自身を見つめ直す体験ができるコンテンツなのだとか。制作者の畑田さんが直々にナビゲートしてくれました。

まずはスマホのアプリで自分の顔を3Dスキャン。スキャンしたデータを基に、VR内に現れる自分自身のアバターを作り出します。全身のスキャンを行うと、よりリアルなアバターが作れるそうですが、今回は時間の関係もあり、顔だけスキャンした「簡易的なアバター」を作ってもらいました。

HMDを装着。センサーを両手足に装着することで、現実の動きがVR内の動きに反映されます。

これがHMD越しに実際にみている映像。もう一人の自分が目の前に現れるという初めての体験です。後ろにいるのは畑田さんのアバター。VR内でもいろいろとナビゲートしてくれる頼もしい存在です。

と、アバターがいきなり分身! 目の前に立っていた自分から分裂するように、もう一人の自分が現れました。

風景が海のような空間に切り替わります。「向こうからさらに98人やってきますよ」と畑田さん。水平線の向こうから、大量の自分がどっと押し寄せてきました。100人に分身した自分がズラーッと目の前に!

右手を上げると……

100人の自分も手を上げる。面白い……けど、かなり不気味な光景です。

小型化する自分たち。ものすごく変な夢を見ているような感覚。

とそのとき、奥の方で不穏な動きをするアバターが。一体のアバターが自分の意思に反して、こちらにゆっくりと近づいてきました。

こ、怖い!

アバターに肩をポンとたたかれると、実際に触られた感触が! 思わずビクッとなりましたが、畑田さんがアバターを操作していたのでした。写真を見ても分かりますが、驚きと恐怖でかなり腰が引けています。

「相手の気持ちになって考える」をハイレベルで可能にするVR

もう一人の自分を目にする「二重人殻」、ものすごく不思議な感覚に襲われました。

鳴海先生:実際にVRを体験してみるのが一番説得力ありますよね。「百聞は一見にしかず」とよく言いますが、「百見は一体験にしかず」と言えるかもしれない。やっぱり「知識として知っていること」と「実際に体験して知っていること」というのは全然違うわけです。億万長者が書いた本を読んだからって、誰でも大もうけできるわけではないように。

先ほど、アインシュタインのアバターのお話がありましたが、アクション映画を見た後に、自分も強くなった気分になるのに似ていると思いました。

鳴海先生:近いと思います。ただ、VRが映画やテレビと大きく違うのは、主観で体験できるということ。第三者的に眺めるのではなく、「自分ごと」として体験できるのが大きなポイントです。

海外でこんな研究があって、DV(ドメスティックバイオレンス)の加害者にVR内で女性になってもらう。そしてVR内で体格のいい男性にののしられる体験をしてもらうと、DV傾向が減少したそうです。「暴力は悪いことですよ」といくら言葉で言われてもやめない人が、被害者の立場を体験することで「俺はなんてひどいことをしていたんだ」とリアルに実感できたわけですね。

他にもVR内でスーパーマンになって人助けをすると、現実でも人を助けやすくなるという研究もあります。また、特定の人種に対して差別意識を持っている人に、VR内でその人種のアバターでいろいろと体験してもらう。すると体験後には差別意識が減少したそうです。

「相手の気持ちになって考えなさい」とよく言いますが、VRを活用すれば、それがより高いレベルで実現できるかもしれないのですね。

鳴海先生:もちろん、人間は相手の気持ちを想像したり共感したりする能力を備えています。ただ、常にそれができるとも限らない。そのときにはVRがサポートしてくれるツールになるはずです。

VRで誰もがもっと生きやすい社会を作る

いろいろとお話を聞いて、人間って思い込みに左右されやすい、すごく単純な生き物のような気がしてきました……。

鳴海先生:基本的にはかなり単純だと思いますよ(笑)。VRって突き詰めると「人間の思い込みの力をいかにうまく使うか?」という話なんです。

思い込みと言ってもばかにはできなくて、いろいろお話したようにめちゃくちゃ現実に影響を与えているし、思い込みがあることで世界がうまく回っているような部分もある。VRでそうした人間の思い込みの力をうまく使えれば、誰もがもっと生きやすくなるかもしれません。

鳴海先生はVRの研究を通じて、どんな社会を実現したいと考えていますか?

鳴海先生:個人的には常々、人の感情の仕組みとか世界を認識する仕組みとか、そういったものを解き明かしたいと思っていて。その手段の一つがVRという感じなんです。

人間はまだ「感情」というものを完全に理解し切れていない。だから気分が落ち込んだり、心を病んでしまったりすることを過剰に恐れるのかもしれません。ちょうど大昔の人間が火を恐れたように。

VRを通じて「感情ってこんな仕組みなんだ」とか「身体にこんな影響を与えているんだ」などが分かってくると、自分の思うように感情を設計し、コントロールすることもできるようになると思うんです。それは決して「感情を取り払って冷静になりましょう」ということではなくて、「VRでもっと豊かに感情を使いましょう」という提案ですね。

VRで個々人が「人間ってこういうものだよね」と改めて認識する。それはつまり「人間観をアップデートする」ということでもあります。それによって、誰もがもっと生きやすい社会が作れるんじゃないかと考えています。

ソフトバンクもVRコンテンツの配信などに力を入れていますが、エンターテインメントでの活用をどう思いますか?

鳴海先生:スポーツ観戦などにVRを活用することは、新しい楽しみ方だと思っています。例えば野球だと、打席に立たないと分からない「160kmのストレートのすごさ」を間近で体感できますし、格闘技も迫力がものすごいはず。選手に対して「なんでこの場面でこうしないんだ!」とか、気軽に文句は言えなくなるかもしれないですね(笑)。

鳴海先生直伝! VRコンテンツを楽しむコツ

実は、VRの没入感を高めるコツがあります。VR機器を装着するとき、手軽に装着できる方が良いかというと、実はそうとは限らない。面倒な機材を、手順をこなして装着することで期待感が高まり、没入感がアップする場合もあるのです。VR世界に入るためのルーティン(通過儀礼)を設けるわけですね。

例えばVRで野球のコンテンツを見るときは、まず3回くらい実際に素振りすると「現実との地続き感」を感じて没入感もより高まる気がします。VR機器やコンテンツの制作側が、そうしたVR世界への通過儀礼のところまでうまく設計できると、より没入感の高いVRコンテンツが実現できると思いますね。

(掲載日:2018年12月26日)
文:エクスライト
撮影:高島啓行

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