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積読に後ろめたさは要らない。必要なのは積む本の新陳代謝

積読には、やり方がある。人生を豊かにする本棚のメンテナンス

家での過ごし方の幅が広がった昨今、「積読(つんどく)」に拍車がかかっている人も少なくないはず。読まずにいる本が増えていくことに罪悪感を覚える人もいますが、実は、積読そのものは決して悪いことはでありません。しっかりと「本棚のメンテナンス」をすることで、その価値はぐっと上がるんです!

今回は、『積読こそが完全な読書術である』の著者・永田希さんにインタビュー。積読文化の背景やメリット、積読をするための思考術や具体的なメンテナンス方法を聞きました。

永田 希(ながた・のぞみ)さん

(プロフィール)
書評家 永田 希(ながた・のぞみ)さん
1979年アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。書評サイト「Book News」運営。「週刊金曜日」書評委員。その他、「週刊読書人」「図書新聞」「HONZ」「このマンガがすごい!」「現代詩手帖」などで執筆。

永田さんの著書『積読こそが完全な読書術である』

永田さんの著書『積読こそが完全な読書術である』

「読まずに積んでよい。むしろそれこそが読書だ。人生観を逆転させる究極の読書術!」——積んだまま読めない本がたまっていることに後ろめたさを感じている人へ、「堂々と本を積もう」という逆説的読書論を紹介。
この記事では、本書に登場する「積読の後ろめたさの捉え方」に加え、今ある積読をアップデートするためのコツを解説いただきます!

目次

積読の「後ろめたさ」は受け流すべし

積読の「後ろめたさ」は受け流すべし

「世の中そのものが、積読の塊である」と言う永田さん。まずは、世の中にあふれかえる情報の濁流について触れながら、悪い積読について解説します。

永田さん

「現代は、本だけでなく、映画も音楽も何もかもが、私たちの時間を奪い合うほどにあふれていますよね。僕はこれを、情報の濁流と呼んでいます。情報が一方的にやってきて自分のところでたまっていく…… その状態と積読って、実は変わらないと思うんです。これは、個人の力ではどうしようもなく、情報の濁流に飲み込まれてしまった“悪い積読”です」

一方で、「自分が買ってきた本なのになかなか読めずに積んだまま……」という、一般的にイメージされる積読の状態は、必ずしも悪いものとは限らないのだそう。永田さんは「自分の意思で手元に招き入れた本たちをどうケアしてあげるかで、積読の状態をより良くしていけると思います」と言います。

とはいえ、読めずに積まれた本たちを見ていると、「読まなければ」と後ろめたい気持ちになってしまうことも。永田さんいわく、積読に対する後ろめたさは2種類あるそうです。

永田さん

「1つは、積読という環境に、読め! と言われているような後ろめたさ。もう1つは、自分で選んで買ったのだから読まなければいけないと感じたり、読むつもりで本棚に入れているのに読めていなくて申し訳なくなってしまったりする後ろめたさです。どちらも、自力でゼロにすることはできず、どうしても生じてしまうものです。だから、うまいこと受け流しましょう! というのが僕のスタンスです」

積読の「後ろめたさ」は受け流すべし

読書をできるだけ権威付けしたくないという永田さんは、「積むだけで読んだと言っていい」と続けます。

永田さん

「最初のページから最後まで通して読んだとしても、読んだつもりになっただけで実は全然読めていないということがよくあるし、逆に、読んでみたけどあまり理解できなかったと思っている人ほど、本の中身までしっかりと読めているという場合もあります。そんな体験を重ねるうちに、読んだ本とまだ読んでいない本の差なんて、ほとんどないことに気づくわけです。なので、単に通読したということには、あまり意味がないんじゃないかと考えています」

そこで、永田さんがオススメするのが、「好きな本を可能な限り買い、好きなものに囲まれることを自分に許そう」というもの。とはいえ、好きな本を全て買っていると、それこそ積まれていくだけになってしまうのでは……?

永田さん

「僕が推奨している積読は自分なりのテーマを決めて、そのテーマに沿って気になった本を集めましょうというスタイルです。好きなテーマについて大量のサンプルを集めることで、発刊年代やデザインなどから本の概要が見えてきたり、徐々に良い本と悪い本の違いが分かるようになってきたりします」

良質な積読をするには、積む本を選ぶことが大切

良質な積読をするには、積む本を選ぶことが大切

「積むだけで読んだと言っていい」「好きな本を可能な限り買う」と言いつつ、なぜテーマを決めて積むことが重要なのでしょうか?

永田さん

「いったんテーマという枠を作ることによって、積読がメンテナンスしやすくなるんです。また情報の濁流に飲み込まれてしまわないためにも、テーマがあると良いですね。例えば、小説をテーマにして本を集めるとします。すると、小説だと全然絞りきれないとか、自分が好きなのは小説じゃなくて別の分野だったかも、みたいなことにも気づいていくんです。決めたテーマについて、定期的に見直して積んでいくことが大切です」

このテーマこそが情報の濁流に飲み込まれずに、自分のペースで読書体験を楽しむ積読の足場となります。では、テーマはどのように選んでいったら良いのでしょう。

永田さん

「気楽に選ぶのが大事です。先ほど例に挙げたように、“小説”などぼやっとしたテーマで構わないし、ミステリー、フランスのミステリー、フランスの19世紀のミステリーとどんどん狭くしていくのもいいでしょう。最初は難しく考えずに、なんでもいいので決めてみて、自分が続けられるペースでテーマを見直しましょう」

良質な積読をするには、積む本を選ぶことが大切

テーマを決定した後は、早速本を選んでいきます。感じるものがあれば買ってみる、という気持ちでOKですが、本を選びづらい人は「可処分所得のうち、どれくらいを本に割くか決めるのが有効です。その予算の中で好きなように買っていきましょう」と永田さん。それでは本が増え続けてしまうのですが、古くなった不要なものを出して、必要なものを取り込み、新陳代謝を繰り返すのが理想的な積読だといいます。

永田さん

「僕も定期的に、古書店に本を持ち込みます。その時々の自分に今必要なものは何かを考えること、そして積読を実践した結果、自分がどういう歴史を歩むことになるのかを意識することが、本選びや積読にとって重要なポイントです」

読みそうな本は見える場所にしまう。「メンテナンス棚」を作って積読をアップデート

最後に、永田さんの積読哲学をもとに、今ある手付かずの積読を「良い積読」にするための具体的なメンテナンス方法を教えてもらいました。

本棚をメンテナンスしよう。今ある積読をアップデートするコツ

本棚メンテナンスの3ステップ

  1. 家中の本を全て本棚に並べる

    まずは積みっぱなしになっている本を本棚に並べること。平積みするのではなく、縦に並べるのがポイントです。本棚がない人は本棚を用意するところから!

  2. テーマに沿った本を積むための枠を作る

    本棚の中に1枠メンテナンス用の棚を確保。ここが1番動きのあるスペースになります。本棚全体を図書館に見立て、メンテナンス用の棚はその時々でラインナップが移り変わる「開架」、それ以外は「書庫(閉架)」と考えましょう。メンテナンス用の棚には比較的読みそうな本、それ以外の棚にはすぐには読まないけれど取っておきたい本を入れます。

  3. 購入した本は、本棚の適切な場所にしまう

    新しく買ってきた本はメンテナンス用の棚へ。あまり手に取らないかもと思った本はメンテナンス用以外の棚へ移動しましょう。

永田さん

「メンテナンス用の棚=本棚の中に動きと遊びのある棚を作るということが、積読のメンテナンスの大きなポイントです。僕は月に一度、積読のメンテナンスをしながらテーマごとに見つめ直しています」

本棚をメンテナンスしよう。今ある積読をアップデートするコツ

永田さん

「そもそも家に本棚を置くスペースがない人は、試し読みができる本を電子書籍アプリの本棚に集めてみてください。読書スタイルのエントリーモデルとしてオススメです。また、積んだ本をちゃんと読みたいと考えている人も、ぜひ電子書籍を活用してみてください。1冊の本も読めない時って、本の読み方が分からなくなってしまっているんです。そんな時は一度、指先ですいすいとページをめくってみるといいでしょう。ちゃんと読もうなんて思わずに、パーッと目を通して次のページに進む…… それを何度か繰り返すうちに勢いがついて、敬遠してしまっていた本に手が伸びるようになりますよ」

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積みっぱなしの本に罪悪感を覚えていた人も、最初の一歩として永田さん流のメンテナンスを実践してみてはいかがでしょう。自分なりの積読を、もっと堂々と、気軽に楽しんでみてくださいね。

(掲載日:2022年10月31日)
文:飯嶋藍子(sou)
編集:エクスライト