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豪雨、猛暑、干ばつ…。異常気象は地球温暖化が原因? 専門家が語るその真相と、変わりゆく気候への備え方

豪雨、猛暑、干ばつ…。異常気象は地球温暖化が原因? 専門家が語るその真相と、移りゆく気候への備え方

「10年に1度の…」 天気予報から、そんな言葉が日常的に聞こえてくるようになりました。梅雨時期とは思えない猛暑、日本列島を何度も縦断する台風、昨今の「気候の異常さ」に、不安を抱いている人も多いことでしょう。日本だけでなく、世界各地でこれまでには考えられなかったような自然災害が相次いで起きています。そんな「異常気象」の原因といわれているのは「地球温暖化」。誰しも聞いたことがあるお話です。果たして、それは真実なのでしょうか。異常気象と地球温暖化はどの程度関連し、最近の気候変動は、どのようなメカニズムで発生しているのでしょうか。

正しい情報に基づいた防災意識は、「未来の災害」から、あなたとあなたの大切な人を守ります。

今回は、気象学の専門家である川瀬宏明さんに、世界各地で起こっている異常気象やその背景にある地球温暖化との関係性、迫り来る気候変動による災害への対策などについて、教えていただきました。

気象庁気象研究所・主任研究官 川瀬宏明(かわせ・ひろあき)さん

川瀬宏明(かわせ・ひろあき)さん

1980年生まれ。気象庁気象研究所応用気象研究部 主任研究官。博士(理学)。気象予報士。気象学・気候学、雪氷学などを専門としており、2019年度には日本雪氷学会平田賞、2020年度には日本気象学学会正野賞を受賞。著書には『極端豪雨はなぜ毎年のように発生するのか』(化学同人)、『異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと』(共著:ベレ出版)などがある。

目次

そもそも「異常気象」って? データから読み解く、日本や世界の気候変動の実態

異常気象に関するニュースを目にすることが増えた、と感じている方は多いのではないでしょうか? 気象庁によると、異常気象は「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」と定義されています。具体的には、猛暑や冷夏、暖冬、熱波、寒波、大雨、少雨、干ばつなどの気象現象を指し、森林火災など、気象現象によって引き起こされる二次的な気象災害を含める場合もあります。

川瀬さん

日本では、「気温や降水量などの30年間の平均値(平年値)」を計算し、そこから逸脱した現象を異常気象と呼んでいます。この平年値は10年に1回更新されているので、50年前と今とでは、異常気象と呼べる現象は異なるのです。

日本の異常気象は増加している?

平均値からの極端なズレを異常気象とするか否かの判断基準としているため、異常気象は本来「増加」するものではありません。ただし、気温や降水量などの平年値そのものの推移を見ることで、異常気象と呼ばれる現象が、どのように変化しているのかを読み取ることはできます。

例えば、日本の猛暑日(最高気温が35℃以上の日)の日数の変化を見てみましょう。

この表によると、直近の30年間(1992~2021年)の猛暑日の平均年間日数は約2.5日。統計期間の最初の30年間(1910~1939年)の約0.8日と比べると、猛暑日は約3.3倍に増加していることがわかります。

川瀬さん

100年前には35℃以上の気温は異常だったのに対し、現在では異常と呼べないほどに、その頻度が増えてきているのです。

世界の異常気象の実態は?

高温などの増加傾向は、日本に限らず、世界各地で起きています。気象庁による異常気象発生地域の分布図を見ると、高温や少雨をはじめとした極端な気象現象が、世界各地で発生していることがわかります。

出典:気象庁「月別値 異常天候図表 [2022年9月]」をもとに作図

出典:気象庁「月別値 異常天候図表 [2022年9月]」をもとに作図

異常気象によって大規模な災害が発生した事例

2020年中国の長江流域での大雨
中国長江の中・下流域では、2020年6月中旬以降、暖かく湿った気流の持続的な流入によって梅雨前線の活動が活発化し、記録的な大雨に見舞われました。7月の降水量は過去24年間で最多を記録し、6月から7月の大雨による死者・行方不明者は160人以上に上りました。

2021年北半球の顕著な高温によるカナダ・リットンでの森林火災
2021年6月下旬から7月にかけて、北米を記録的な熱波が襲いました。カナダ西部のブリティッシュコロンビア州リットンでは、同国史上最高気温の49.6℃を観測。その後に発生した山火事は、「村の90%が消失」ともいわれるほど壊滅的な被害をもたらしました。

異常気象と地球温暖化の関連は?

世界各地に大きな影響を及ぼしている異常気象。その背景としてよく耳にするのが、地球温暖化との関わりです。世界平均気温偏差の変化を表したグラフからもわかるように、現在、世界の平均気温は、この100年間で1℃近く上昇しているといわれています。その原因とされているのが、人間の活動によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガス。各国政府の気候変動に関する政策に、科学的根拠に基づいた示唆を提供する国連団体、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」による報告書では、「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言されています。

出典:気象庁「世界の平均気温偏差の経年変化(1891〜2021年)」をもとに作図

出典:気象庁「世界の平均気温偏差の経年変化(1891〜2021年)」をもとに作図

では、果たして地球温暖化は、近年の異常気象の増加と関係しているのでしょうか?

地球温暖化は「自然のゆらぎ」による異常気象を強める

異常気象は、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象(熱帯の海面水温が平年とは異なる状態が続くことで、積乱雲が発生しやすくなったり、猛暑、寒波が起きやすくなったりする現象)など、「自然のゆらぎ」と呼ばれる地球にもともと備わった性質によって、ある程度の確率で発生するもの。例えば、近年の日本で、平年よりも冬の寒さが厳しかったり、夏が猛暑になったりするのは、海面水温が平年より低い状態が続く、ラニーニャ現象の影響が大きいといわれています。これを前提とした上で、地球温暖化と異常気象の関連については、次の2つの観点から考える必要があります。

地球温暖化と異常気象の関連を考えるポイント

  1. 地球温暖化によって、異常気象をもたらす自然のゆらぎはどのように変化するのか?
  2. 温暖化した地球で、自然のゆらぎが起こると、異常気象はどのように変化するのか?

川瀬さん

①については、その影響はまだ見えてきていません。一方、②については、関連している可能性があると言えます。例えば、地球温暖化によって気温が上がった状態で真夏にラニーニャ現象が起こると、今より平均気温が低かった100年前から見ると、その気温上昇幅は大きくなります。つまり、自然のゆらぎが同程度だったとしても、地球温暖化が進めば進むほど、より極端な高温になりやすいと言えます。

地球温暖化で雪の量が増える?

地球温暖化が進むと、気温が高くなる分、雪の量は減るのでは? と思いますよね。しかし、実際には雪がさらに増える地域もあるそうです。その理由は、地球温暖化による水蒸気量の増加。地球温暖化によって海水温が上がると、その分蒸発する水が増えるので、大気中の水蒸気量も増えやすくなります。

日本の場合、日本海で発生した水蒸気が冬の季節風によって日本へと運ばれ、日本海側の地域に雨を降らせます。今後、地球温暖化によって、雪の総量は全国的に減るといわれていますが、北海道などの地域では、真冬は当分、通常どおり雪が降ります。そうした場所では、水蒸気量が増えた分だけ、真冬の降雪量が増えると考えられています。

また、北海道や北陸の内陸、山沿いでは、厳冬期のドカ雪(短時間で大量に降る雪)の頻度が上がることも予測されており、注意が必要です。

気候変動の将来予測について

地球温暖化の進行とともに、異常気象を含めた気候変動の将来予測は、いっそう重要性を増しています。これからどのような災害が起こりうるのか、どのような備えをすべきなのかといった、全ての指針となるからです。異常気象と地球温暖化の関連は、ここまで見てきたような実際の数値の変化を統計的に調べていく手法のほか、「大気や海などの中で今後起こるかもしれない現象」をスーパーコンピューターによって導き出すシミュレーションシステム(気候モデル)を用いて研究されています。

そして、IPCCの報告書では、今後、地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出量が非常に少なかったとしても、2021年から2040年までの間に気温が1.5℃まで上昇する可能性があることが示されています。同時に地球温暖化が0.5℃進行するごとに、熱波を含む極端な高温、大雨、干ばつの頻度と強さが高まる可能性があることも報告されています。

川瀬さん

このまま地球温暖化が進行すると、今後は、もともと雨が多い地域はより多く、少ない地域はより少なくなっていくでしょう。つまり、大雨による危険度は増し、砂漠や乾燥地帯の干ばつはますます進む可能性があるということ。日本の場合、東シナ海からの水蒸気が真っ先に流れ込む九州西部などは大雨になりやすいです。過去100年ではありえなかったような大雨が、梅雨前線や台風などによってもたらされる恐れもあります。

異常気象による災害には『備える力』で最善のバランスを

将来的に、異常気象の頻度や強度がさらに高まっていけば、それに伴う災害の規模も大きくなることが懸念されます。そこで、地球温暖化の進行を抑制する「緩和策」に加え、災害を未然に防ぎ、被害を最小化する「適応策」を強化していくことが重要です。

  • 緩和策
    人々が身近なアクションを起こし、温室効果ガスの排出を抑制する
    例:低炭素社会への移行、自動車のアイドリングストップ、冷暖房使用時の温度管理、節電、節水など
  • 適応策
    局地的な豪雨、土砂災害、高温など地球温暖化の影響に備え、事前に対策を行う
    例:災害時ハザードマップの整備、水資源の確保など(家庭用食糧備蓄のコツ

ここからは、私たちが適応策を考えるときに必要な心構えについて、詳しく見ていきます。

気候変動を前に、現代を生きる私たちに必要な心構え

もともと災害が多い地域だけでなく、災害が少ない地域こそ、対策を意識的に行う必要があります。

川瀬さん

すでにいわれていることですが、災害の起こりやすさは、大雨などの災害の原因となる自然現象の発生確率と、『備える力』のバランスによって決まります。『備える力』とは、人の「防災力」と、「自然が持っている、災害の原因となる自然現象に耐えられる力」などを指しています。「自然が持っている、災害の原因となる自然現象に耐えられる力」は、「森林や土壌、地盤の強さ」などが該当します。

気候変動を前に、現代を生きる私たちに必要な心構え

例えば、大雨の発生確率が地球温暖化によって高くなっても、人が事前準備を徹底し、その土地の地盤が頑丈であれば、土砂崩れによる二次災害は最小限にとどめられるかもしれません。逆に言えば、災害があまり起きていなかった地域ほど、備えが不十分なことが多く、今後被害が大きくなる可能性が高い、ということ。そうした地域に住む人は、防災を「自分ごと化」し、『備える力』を高めていくことが必要になってくるでしょう。(土砂崩れが起きた時の対処法

川瀬さん

異常気象に備えるためには、個人、自治体、企業が三位一体となって、気候変動やその将来予測に関する最新の情報を取得し、適応策や緩和策について考えていくことが大切です。異常気象に伴う災害への備えは、全ての人にとって無関係ではありません。まずは自分の住む自治体がどんな対策を講じているのかを調べるところから、始めてみましょう。

埼玉県の適応策

気候変動の将来予測や適応策に力を入れている埼玉県では、2019年ラグビーワールドカップの会場となった熊谷スポーツ文化公園を対象に、植樹や遮熱舗装などの暑熱対策を実施。事前の環境シミュレーションによる予測では、対策領域の気温が平均0.7℃程度低下するという効果が確認されました。自治体における適応策の成功例と言えるでしょう。

異常気象への適応策の検討に役立つサービス・ウェブサイト

  1. みんなの適応A-PLAT+

    暑さ指数(WBGT)や、気候変動適応の基礎知識などを、スマホで手軽に確認できるアプリ。イラスト入りのわかりやすい解説で、熱中症対策や、異常気象の備えに関するインタビュー記事、シンポジウムなどのイベント情報などを発信していて、適応策についての学習に役立ちます。

  2. 地域気候変動適応センター

    気候変動に対する適応策の情報を発信するプラットフォーム。国や地域、企業や個人の取り組みなどを幅広く紹介しています。自分が住んでいる地域の適応策情報を収集する際におススメです。

  3. Yahoo!防災速報

    Yahoo!防災速報

    異常気象が原因かもしれない災害の情報を、素早くキャッチできる無料アプリ。大雨による河川洪水や土砂災害など、いざ「極端な気象」が発生した際の対策として、ダウンロードしておくと安心です。

  4. パリ協定

    2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み。2015年にパリで開かれた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意されました。

  5. 10の行動

    気候危機に立ち向かうために個人ができる10の行動が示されています。

(掲載日:2022年12月5日)
文:白石沙桐
編集:エクスライト
イラスト:Kaya、鎌田涼