皆さんは手話を学んだことがありますか? 興味があるので覚えたい… でも、どうやって勉強したらよいか分からないという人もいるのではないでしょうか。
東京農業大学の手話サークル「しゅわべり同好会」とソフトバンクでスマートフォンの手話学習アプリを開発しているメンバーが、手話を始めたきっかけや手話の楽しさ、手話学習での課題などについて意見交換しました。
座談会参加者
東京農業大学「しゅわべり同好会」
左から、西塚 萌(にしづか・もえ)さん、森 遥香(もり・はるか)さん、柳 久遠(やなぎ・くおん)さん、杉山 礁(すぎやま・しょう)さん、齋藤 雄太(さいとう・ゆうた)さん、長澤 里緒(ながさわ・りお)さん
ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 プロダクト本部 UX企画統括部
下村 彩華(しもむら・あやか)
「ゲームで学べる手話辞典」の企画開発担当者。東京農業大学の卒業生。
ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 プロダクト本部 UX企画統括部
植草 瑞輝(うえくさ・みずき)
「ゲームで学べる手話辞典」の企画開発担当者。大学時代は手話サークルの代表をしていた。
私が手話を覚えたいと思った理由
東京農業大学「しゅわべり同好会」のメンバーは19人。活動頻度は週1回程度で、普段は手話の経験者を中心にテーマを決めてオンラインで学び合う活動がメインだそうです。
座談会には「しゅわべり同好会」からメンバー6人と、ソフトバンクのUX企画統括部で手話が学べるスマホアプリ「ゲームで学べる手話辞典」を企画開発している社員2人が参加しました。
植草 「まず、手話を始めたきっかけ、サークルに入ったきっかけを教えてください」

齋藤さん 「僕は『Snow Man』のファンで、メンバーの目黒蓮さんが耳が聞こえなくなる役で出演したドラマ『silent』を見たのが高校3年の冬ぐらい。その後、大学に入学してこのサークルに出会い、体験会のオンライン画面をのぞいてみたらすごく丁寧に教えてくれて、『このサークルなら楽しく学べる』と思いました」
杉山さん 「僕は映画『聲の形(こえのかたち)』を見たときに、こんなコミュニケーションがあるんだ、面白いなと思いました。そのときは手話を学ぶ場所がなかったのでそれっきりになってしまったのですが、大学に入って手話サークルがあると知り、学びたいと思って入りました」
柳さん 「僕は耳が聞こえないので一般の人よりは手話に詳しいです。皆さんに手話を知ってもらって、また、耳が聞こえない人がいるんだということを知ってもらいたいと思って入りました」

下村 「柳さんはサークルでは教える立場なんですよね?」
柳さん 「はい。小さい頃からずっと手話を使っていますが、自分がいざ教える立場になると自分も分からない手話も多く、手話の型の多さに気付かされました」
西塚さん 「私は元V6の三宅健さんが好きで、三宅さんが手話をやっていたので興味を持ちました。最初は自分の住んでいる区の講座で始めたのですが、1年生の途中から大学にコミュニティを持ちたいなと思って、大学の手話サークルにも参加しました」

森さん 「最初に手話をしたのは、おばの結婚式で『手話歌』をしたのがきっかけでした。そのあと『聲の形』を観て手話に興味を持ちました。
私は高校生のときメンズカットみたいなショートカットにしてたんですけど、ある日ショッピングモールのフードコートで勉強していたら隣にろうのおじさんが座って、『見た目は男だけど女なんだ』みたいなことを手話で話して、『わーっ、言い返したい』と思ったんですけどできなかったんですよ。それで自分も手話やったろか、みたいな感じで始めました(笑)」
下村 「えーっ、すごいですね。そのおじさんには再会できましたか?」
森さん 「できてないです」
長澤さん 「私は皆さんのように映画を見たとかそういうきっかけはなくて、2年生になったときにもう1つサークルに入りたいと思って探していたときに見つけたのが『しゅわべり同好会』でした。同じ学科の先輩がいたことが決め手ですかね。手話って難しいのかなと思っていたんですけど、ダジャレだったり、単純にそのままを表していたり、意外と簡単なんじゃない? と思って入りました」
植草 「実際、簡単でしたか?」
長澤さん 「全然簡単じゃないです。覚えられません(笑)」
植草 「皆さん、いろいろなきっかけだったんだなということをお聞きできて楽しかったです」
手話を覚えると仲間が増える、世界が広がる
植草 「手話は言語として楽しいと思うんですけれど、一方で難しさもあるのではないかと思います。最初に、皆さんが感じる楽しさについて教えてください」

長澤さん 「新入生の体験会で自己紹介の手話をやったんですけど、みんなすごく楽しそうに『これで自己紹介できます! 友だちに教えます』と言ってくれて、こうやって手話が広まっていくんだなあと思うと楽しいです。最初に『東京農業大学』という手話を覚えるんですが、『農業』は畑を耕している様子そのままで、分かりやすいところもおもしろいと思います。
柳さん 「僕は手話を知ってもらうことがうれしいですし、手話の輪が広がっていくのがうれしいなと思います」
齋藤さん 「僕は、話のタネになるのが手話の楽しさだと思っています。しゅわべりで学んだことを友だちに教えていると、面白がって、話したことがない子でも僕のところに来てくれて、『なになに?』って。名前を手話でやるとこうなるんだよって表してあげると、一気に仲良くなれるので、それが手話を学んでいく目的の1つにもなっています」
杉山さん 「似ているんですけど、手話を一緒にやっていると、『これ何だっけ?』と聞いたり、逆に教えたりして、他人とつながるきっかけにもなるし、1番楽しいと思ったのは、ジェスチャーゲームのような形で手話を使うと盛り上がるので、オンラインでもたまにやったりします。そういうのが楽しさかなと思っています」

森さん 「新しく言語が学べる、使えるということが楽しいです。電車の中で、最近自分が勉強した手話を使っている人を見て、『あっ、それ知ってる』とか、アルバイトの接客でもし必要な場面になったら自分が頑張れるぞみたいな、自分の自信につながるというのが楽しいです」

西塚さん 「英語やスペイン語を勉強していて、その国のニュースをテレビで見たときに話していることが分かると楽しいと思うんですけど、それと一緒で、手話も勉強しているとニュースの内容が分かったりします。オリンピックとかパラリンピックでも使われていますが、それも自分で理解できるのが楽しいなと思います」
もっと上達したいけれど…
植草 「皆さん、ありがとうございます。次に、難しいと思うところはどんなことですか?」
長澤さん 「しゅわべり同好会は、久遠くんなしでは勉強ができない、初心者同士で学習し合うような体制が整っていないところです。私だけでは、実際の会話でどう使うのか、動きが正しいのかも分からないのが、難しいところです」
下村 「サークル活動としては、教える人がたくさんいたほうがいいのでしょうか、それとも初心者同士で教え合える環境が必要なのでしょうか?」

長澤さん 「手話を使える人はなかなかいないので、初心者がみんなで向上していって、下の代に教えていけるような体制ができたら理想なんじゃないかと思います」
下村 「なるほど」
齋藤さん 「手話は人によってちょっとクセがあるじゃないですか。そのちょっと違うやり方を自分が分からないときがつらいです。そういうところの理解を、経験値を上げていって、実践レベルで使えるようになりたいです」
柳さん 「たしかに、人によってクセがある。全く分からない人もある」
植草 「僕も何をやっているか分からないと言われたことがあります(笑)」
杉山さん 「僕が感じる難しさは、学ぶ場はサークルとしてあるんですけど、インプットしたものをアウトプットする、実践する場がサークルには無いというところです。やっぱり、使っていないと忘れてしまうので、覚えたらすぐ使うというのが大事なのかなと思います」
森さん 「似たようなことですけど、私はバイトの予定が入り過ぎてて、週1回のオンラインですら、参加できないことが多くて、最近は動画を録画してもらって勉強をしています。インプットとアウトプットの機会が少なくなっていって、それがちょっと難しいところだなと感じています」
西塚さん 「普段の生活で手話を使うにしても、やはり自分は耳とか声を先行しちゃうんです。そうすると、手話が聞こえなくなったりして、自分は小さい頃からやっていないから… という感じになって、そういうところが何というか、大変だなみたいに思います」
植草 「いろいろな難しさを教えていただきましたけれど、このあと、皆さんに手話学習アプリを体験していただきたいと思います」
「手話辞典」アプリを体験、あったらいいなと思う学習機能は?

植草 「今日ご紹介するのは、手話をゲーム感覚で手軽に学べるスマートフォンアプリ『ゲームで学べる手話辞典』です。ソフトバンクが2014年から提供しています。
アプリの内容は、『辞書モード』と『ゲームモード』の2種類があって、辞書モードでは3Dアニメーションで手話表現を360度から確認することができます。ゲームモードでは、手話の単語当てクイズで遊びながら、手話の読み取り練習ができるようになっています。
実際に使ってみて、分かりにくいところ、使いにくいところなど、感想を教えてください」
植草 「辞書モードの中央のキャラクターは360度回転するので、自分と同じ目線にすると、身体が透けて背中から手の動きだけを見ることもできます。説明には簡単な由来が書いてあります。お気に入り登録した単語は、指文字再生をすることもできます」


「ちなみに、辞書モードの体験例として、『コーヒー』『結婚指輪』『食べる』という単語を選んでみました。ちょっと検索してみてください。
この3つを選んだ理由ですが、コーヒーはカップをスプーンでかきまぜる動きを表現、結婚指輪は薬指に指輪をはめる動きを表現しています。そのままですね。最初の2つは由来が分かりやすい単語の例です。
一方、最後の食べるは、何を食べるかによって4パターンあるという単語の例です」
植草 「続いてゲームモードを体験していただきたいと思いますが、すでにやってみたという方、いますか?」
杉山さん 「無料で体験できるところまではやりました」
植草 「すごいですね。ゲームを進めていくにはキャラクターの手話の意味を回答する形になっていますので、手話の読み取り練習で使えると思います。勉強になりましたか?」
杉山さん 「知っている手話だったんですけど、単語が2パターンあるので、『どっちなんだろう?』ってつまずいたところがありました。『学校』が正解だったんですけど『勉強』だなと思って入力したら違ったみたいなのはありました」
- ※
「学校」も「勉強」も本を開いて読む同じ動きをする。
下村 「以前からアプリをご存じだった森さんと長澤さんは、使ったことはありましたか?」
森さん 「私は、ゲームはどんどん進めたいしアニメーションとかを待てないタイプなので、ほとんど辞書モードで使っていました。ただ、人の手話を見る機会が少ないので、ゲームモードのような感じで手話を見て当てるという機能は良いと思います」
長澤さん 「辞書の単語を実際に自分がやってみて相手に伝わるかどうか、カメラが反応してくれたら伝わっているという機能があったら勉強になると思います」
齋藤さん 「カメラの読み取りまでバージョンアップしなくても、単語の文字だけ先に出して、それを自分がやってみて、後から答えが表示されるとか。あと、自分が1回見た単語に印をつけておくとそれがランダムに出てきて復習に使える機能とかがあるとうれしいです」
植草 「なるほど、英単語の学習みたいな感じですね」
柳さん 「僕はアプリでの指文字の切り替えがもう少しやりやすくなったらいいと思います」
長澤さん 「指文字は、指文字表を共有しているんですけど、矢印がついていて、どう動かしているの? となる。アプリみたいに3次元だと分かりやすいと思います」
植草 「皆さんは活動のときはテーマを決めて、それにあわせて単語を選んでいるのですよね。そういうのがあらかじめアプリの中で、まとまっていたらどうですか?」
長澤さん 「やりやすいと思います。活動のときはテーマにあわせて久遠くんが自分が必要だなって思う言葉をチョイスをしてくれています」
森さん 「私もやりやすいと思います。以前教えてくれていた先輩は、カレーの具材や作り方でやろうみたいな感じのときもありました」
下村 「他の皆さんは今回初めて使っていただいたんですけど、何かここが良かったとか悪かったという感想はありますか?」
柳さん 「手話の動作が後ろから見られるのは、すごくいいなと思いました。ここが一番魅力的です」
斉藤さん 「僕が今日聞いてて思ったのは、ゲームのほうに上級者向けの、時間内に何問答えられるか、ハイスコアを狙えるかみたいなのがあれば、手話が得意な人でもゲームのほうに親しみが持てるのではないかと思いました」
杉山さん 「僕も同じです。ストーリー性を無視した、もっとパッパッパッと進めるようなものがあっていいかなと。あと、テーマに沿ったものとかだったら、間違えた単語をもう1回復習したいなと、そういうのがあったらうれしいなと思いました」
西塚さん 「私は勉強している途中で分からない単語をいつもインターネットで調べていて、その動画や画像を探すのがいつも大変で、アプリにそういうのがあるとは全然知らなくて、今回知ることができて、辞書とかは活用できると思いました」
植草 「テーマごとにまとめて単語を紹介したり、オンラインでやる場合は画面共有したり、一人一人が頑張れるような機能だったり、ついていけなかったときにフォローできる機能だったり…。どこまで実現できるか分からないですけれど、今日お話を聞いた学ぶための課題感を開発に生かして、サークル活動で実践的に使ってもらえるようにしていきたいと思います」
一同 「今日はありがとうございました」
楽しみながら手話を覚えよう。無料のスマホアプリ「ゲームで学べる手話辞典」
「ゲームで学べる手話辞典」の工夫
- 360度回転可能な3Dアニメーションで3,000語以上の手話を学習でき、手話の話者視点でさまざまな角度から細かい手の動きを確認できます。
- 表現の由来も学べるほか、手の動きを自分に合った再生速度に変更することが可能です。
- 背面透過機能によって、話者の視点から手の動きを把握することができます。
- 辞書で覚えた単語は「手話学習文字入力ゲーム」で楽しみながら学べます。
(掲載日:2023年9月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部