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AI時代の次世代社会インフラ構築へ。AIとRANの統合ソリューション「AITRAS」を発表

NVIDIAと連携し、AIを活用した次世代通信インフラを構築。AIとRANの統合ソリューション「AITRAS」を発表

ソフトバンク株式会社は、AIとRANの統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」を2024年11月13日に発表しました。AI-RANの実証実験環境を構築している慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(以下「SFC」)で行われたメディア向けの説明会では、「AITRAS」を活用した自動運転やLLMロボットのデモンストレーションも披露しました。

AIとRANを統合することで、低遅延で高度な処理を行う

AI社会を支える次世代モバイルネットワークの基盤として注目されている「AI-RAN」。AI-RANとは、AIアプリケーションと無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)を同じコンピュータ基盤上に統合する新しいアーキテクチャーです。一般的に、大規模なAIの計算は基地局から離れたクラウドサーバー上で処理をする必要があるため、応答に時間を要してしまいます。一方、AI-RANでは、RANと計算リソースが融合することでエッジAIが実現し、大規模なAIの計算を必要とするサービスも低遅延で提供することができるようになります。このAI-RANのコンセプトに基づいた、AIとRANを同一のNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングプラットフォーム上で動作可能にする統合ソリューションが、ソフトバンクが今回発表した「AITRAS」です。

AI-RAN:AIと無線アクセスネットワーク(RAN)の融合

基地局単体ではなくエリア全体をAIで最適化し、通信品質を向上

「AITRAS」の特徴の1つは、基地局間の協調技術により大容量で高性能かつ高品質な通信を可能にすることです。都市部では多くのトラフィックに対応するため、基地局が密集しています。基地局がカバーするエリアが重なると、電波同士が干渉し、通信が不安定になることがあるため、ソフトバンクでは、基地局間の干渉を確認・検証しながら通信ネットワークの最適化を図っています。この課題に対し、「AITRAS」を導入することで、基地局ごとに対策するだけではなく、AIがエリア全体を捉えて基地局間の干渉調整の最適化を自動で行い、ネットワーク品質を向上させることができます。

AITRAS:AI適用と基地局間協調技術

エッジAIにより大規模なAIの計算を低遅延で提供

他にも「AITRAS」の特徴として、AIの計算処理の遅延が少ないことが挙げられます。一般的にAIサービスを活用する際、インターネットを介した場所に計算処理を行うクラウドサーバーが位置するため、モバイルネットワークが5Gで高速化されたとしても、データの送受信に数百ミリ秒の遅延が発生してしまいます。「AITRAS」では、基地局の近くに大規模なGPUインフラを構築することによって、数十ミリ秒という低遅延で大規模なAIの計算が可能に。これにより、即時性が求められる自動運転向けのAIなどでの活用が期待されます。

キャリアだからこそできる低遅延なEdge AI Cloud

都市部を想定した構成で実証実験エリアを構築

AI-RANの構想を実現するため、SFCに通信アンテナとサーバーを設置し、通信ネットワークを構築して実証実験を行っています。NVIDIAのGH200を搭載したサーバーは、AIとRANの処理において、以下のようにそれぞれ特定の役割を担って稼働しています。

都市部を想定した構成で実証実験エリアを構築

「AITRAS」のシステム内のオーケストレーターと呼ばれるソフトウエアによって管理・制御されており、通信やAI処理の需要に合わせて、サーバーごとにRANとAIの役割を動的に切り替えることが可能です。

サーバの役割を最適に変える

また、施設の屋上に設置された通信アンテナは、都市部での運用を想定した間隔で配置。20基の通信アンテナの処理を「AITRAS」はサーバ1つで実行しています。

建物の屋上に設置された通信アンテナ

建物の屋上に設置された通信アンテナ

「AITRAS」を生かした自動運転などのデモを披露

実際に、キャンパス内で「AITRAS」の実証実験環境を活用したデモンストレーションが行われました。デモンストレーションでは、基地局が密集しているエリアでも高品質の通信を提供できることを生かして100台の端末で同時に動画を視聴する様子や、大規模なAIの計算処理を低遅延で行えることを生かした、四足歩行ロボットや自動運転向けのAIアプリケーションのデモンストレーションが披露されました。

100台の端末で同時に動画視聴してもスムーズに再生

合計100台の端末で一斉に動画を視聴する実証実験では、20カ所にそれぞれ5台のスマホを設置し、同じタイミングで動画を再生する様子を中継。基地局が密集する高干渉のエリアでも、パケ詰まり※が発生することなくスムーズに動画を再生でき、高品質な通信ができることを確認できました。

  • アンテナバーが立っている(圏外ではない)のに通信速度が極端に遅くなる現象
100台の端末で同時に動画視聴してもスムーズに再生

自ら考え動作するロボット犬が不審者を追跡

続いて行われたのが、高度な判断ができるLLMロボットを用いたデモンストレーション。LLMロボットとは、大規模言語モデル「LLM(Large Language Models)」によって行動を生成するロボットのことで、あらかじめプログラムされた動作に限らず、周囲の状況や情報を取得し適切な動作を自ら判断し実行することができます。そして、このLLMはロボット上の小さなコンピューターで動作させるよりも、「AITRAS」上の大きなコンピューター基盤で動作させる方が、より大きなLLMを利用でき、柔軟な行動生成が可能になります。また、通常LLMはプロンプトを入力してから出力を生成するまで1秒以上かかりますが、ロボットを制御するためには、LLMの推論時間と「AITRAS」の基盤への情報送受信を合わせて0.1秒程度で行う必要があります。そこで、LLMの計算処理の高速化と「AITRAS」を活用した低遅延なRANにより、約0.1秒での制御情報の出力を可能にしました。

ロボットを制御するには高速化が必須
低遅延で動作するLLMロボット

デモンストレーションでは、ロボットに搭載されたカメラで不審者を認識し、追従する様子を披露。RANとLLMの計算処理の低遅延化により、制御情報の出力を1秒間に10回行うことができ、人を見失うことなく追跡することが可能に。その後、RANに遅延が発生した場合の実演も行われました。すると、人の動きの速さにロボットの処理が追いつかず見失ってしまい、その場で足踏みをした状態で止まってしまいました。その差は一目瞭然です。

予測困難なリスクも認識・回避できる自動運転遠隔サポート技術

屋外で行われた自動運転バスを使ったデモンストレーションでは、ソフトバンクが開発した「交通理解マルチモーダルAI」を使用して走行する様子が披露されました。このAIは、汎用的なAI基盤モデルに、交通教本や交通法規などの日本の交通知識に加え、一般的な走行シーンや予測が困難な走行状況におけるリスクと対処方法を学習させたものです。このAIを使うことで、自動運転車の前方映像(ドライブレコーダー映像など)と、現在の交通状況を問うプロンプトを入力することで、リアルタイムで予測困難なリスクを認識し、安全な走行を実現するための推奨アクションを生成することが可能になります。今回は、横断歩道の手前に停車中の車両があり、死角にいる歩行者と接触する可能性がある状況を想定しました。

デモ概要 - 走行シナリオ

「交通理解マルチモーダルAI」は、停車車両を確認すると、リスクを瞬時に分析し、日本の道路交通法にならって「歩行者が飛び出してくる可能性があるため、一時停止してください」と生成。その後、安全が確認されると「普段通りの走行を続けてください」と生成され、自動運転バスが発車するまでの様子が実演されました。

予測困難なリスクも認識・回避できる自動運転技術
予測困難なリスクも認識・回避できる自動運転技術

基地局にAI-RANを導入しネットワークを全て作り直す

代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一は「ソフトバンクの基地局にAI-RANを取り入れて、ネットワークを全て作り直す」とコメント。また、海外への展望について「AI-RANを日本で実装し、有用であると証明できたら、このサービスを輸出モデルにしていきたい。今回の実証実験は世界に対する第一歩である」と意欲を示しました。

基地局にAI-RANを導入。ソフトバンクのネットワークを全て作り直す

先端技術研究所 所長の湧川隆次は「まず、3.9GHzや4.9GHzなどのキャパシティバンド(高周波数帯域)にAI-RANの技術を導入していき、その後、エリアバンド(低周波数帯)にも段階的に導入していきたい。ソフトバンクのネットワークを全てAI-RANにするために、AI-RANのシステムを世の中に浸透させ、いろんな事業者を巻き込んで行く必要がある」と今後の展望について語りました。

基地局にAI-RANを導入。ソフトバンクのネットワークを全て作り直す

「AITRAS」によりソフトバンクが実現する、AI時代の社会インフラをこちらの動画で分かりやすく紹介しています。ソフトバンク先端技術研究所のブログ でもメディア説明会の内容を紹介していますので、ぜひご覧ください。

(掲載日:2024年12月4日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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