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顔が見えないからこそ際立つ個性。バーチャルなのに視聴者の心を掴むVTuberの魅力

顔が見えないからこそ際立つ個性。バーチャルなのに視聴者の心を掴むVTuberの魅力

YouTubeなどを通じて配信を行う「VTuber(バーチャルYouTuber)」。近年、世代の垣根を越えて親しまれ、国内のVTuber市場は1,260億円規模にまで成長しています。では、このVTuberブームはどのようにして生まれ、広がっていったのでしょうか。今回は、VTuberの基本からブームの背景まで、シーンに詳しいライターの草野虹さんに教えていただきました。

草野 虹(くさの・こう)さん

教えてくれた人

草野 虹(くさの・こう)さん

音楽・アニメ・VTuberを中心に、REAL SOUND、KAI-YOU.net、SPICE、indiegrabなどさまざまなメディアにライター/インタビュアーとして参加。音楽プレイリストメディアPlutoのプレイリストセレクターとしても活動中。ポッドキャスト番組「Pluto Radio」「虹卓放談」にてMC担当。

ただのキャラクターではない? VTuberって何をしている人?

ここ数年、インターネットの世界だけでなく、街中や雑誌などでも目にする機会が増えてきた「VTuber」。まずは、VTuberの特徴やその活動内容について、草野さんに教えていただきました。

そもそも、VTuberとはどのような存在なのでしょうか。

草野さん 「VTuberは、『2Dや3Dのキャラクタービジュアルを使って活動する配信者』です。活動する時には、人間の動きをデジタル化するモーションキャプチャーや、カメラを通して表情をキャラクターに反映させるフェイストラッキングなどの技術を用いて、ライブ配信や動画配信を行い、視聴者を楽しませてくれます。

創作性や架空性の強い “アニメキャラクター” としてではなく、あくまで “自分自身” の個性を表現しようとする点が大きな特徴で、テレビで活躍するタレントのように幅広い層からの支持を集め、高い人気を誇っているVTuberも多くいます」

配信者の中でも、YouTuberやストリーマーとの違いはどういった部分にありますか?

草野さん 「最も大きな違いは、リアルな外見で活動するか、それともキャラクタービジュアルを通じて活動するか、という点にあります。

VTuberは、YouTuberやストリーマーといった配信・動画投稿の先駆者たちが築いてきた文化やフォーマットを受け継ぎながら活動しています。つまり、VTuberが生み出すコンテンツそのものが新しいわけではなく、既存の配信・動画文化にキャラクター表現が加わることで、新鮮さや独自の魅力が生まれている、ということです。

視聴者も、これまでYouTuberやストリーマーに親しんできた経験があるからこそ、VTuberのコンテンツにも自然と受け入れ、違和感なく楽しめている一面はあると思います」

VTuberは、具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

草野さん 「VTuberの活動内容としては、次のようなものが挙げられます。

ライブ配信 視聴者とリアルタイムでコミュニケーションを取りながら配信
動画投稿 動画共有プラットフォームに動画を投稿
メンバーシップ運営 メンバーシップ制度を設け、入会者限定の特典やコンテンツを提供
グッズ販売 自身のグッズや、他のVTuberとのコラボグッズを販売
ボイス販売 シチュエーションボイスやボイスドラマを販売
ライブイベント 音楽フェスやトークライブなどライブイベントに出演
企業とのコラボ 企業案件として、オンライン配信やCM、ライブイベントなどに参加

ライブ配信や動画投稿の主なコンテンツは、歌、ゲーム実況、雑談、商品紹介、ダンスなどです。また、珍しいところでは、テレビのバラエティ番組のように外ロケを行うVTuberもいますね」

KAMITSUBAKI STUDIOの花譜さん

音楽活動で高い人気を誇る、YouTube発のクリエイティブレーベル・KAMITSUBAKI STUDIOの花譜さん

コロナ禍のインドア需要をきっかけにVTuberブームが広がった

続いて、VTuber文化がどのようにして広まり、現在の人気につながったのか、ブームの背景を探っていきます。草野さんによると、VTuberの視聴者層は、コロナ禍を境に大きく変化したそうです。

VTuberブームは何をきっかけに始まったのでしょうか。

草野さん 「VTuberブームの始まりは、2016年12月のキズナアイさんのデビューにさかのぼります。黎明期のVTuberは、VR技術の可能性を示す広告塔のような存在で、インターネットやネットカルチャーに詳しい層が、技術的な面白さに惹かれて見始めたことがきっかけでした。

そんな中で、キズナアイをはじめとする『バーチャル四天王』が登場し、VTuberをタレントとして盛り上げていこうと本格的に活動し始めたことで、注目が集まるようになりました」

コロナ禍のインドア需要をきっかけにVTuberブームが広がった

VTuberは、具体的にどの世代から人気を集めているのでしょうか。

草野さん 「先ほども少し触れましたが、VTuberの黎明期である2018年ごろは、ファンの多くがインターネットやネットカルチャーに詳しい層でした。ところが2020年頃を境に、メインのファン層は10〜20代の若者へと移っていき、現在では若者だけではなく幅広い層から人気を集めています。

その背景には、コロナ禍によるインドア需要があります。多くの人が自宅で仕事をしたり授業を受けたりする中で、パソコンやタブレットを自由に使って慣れていくにつれて、それまでネットに詳しい人でなければ楽しみにくかったコンテンツが、より身近なものになっていきました。まずはストリーマーが流行し、その流れの中でVTuberの人気にも火がついた、というわけです」

VTuberブームのカギは「親近感」。世代によって異なるコンテンツの楽しみ方

視聴者は、VTuberのコンテンツをどのように楽しんでいるのでしょうか?

草野さん 「楽しみ方は、世代によってさまざまだと思います。例えば、子どもたちの中にも『VTuberが好き』という子は少なくありません。特に幼児や小学校低学年の子どもたちにとっては、テレビアニメを見る感覚で親しみやすいコンテンツになっていると思います。

10代にとっては、VTuberとリアルタイムでコミュニケーションが取れる “インタラクティブ性” が大きな魅力です。コメントで自由に参加し、好きなライバーと直接やりとりができるのが面白いんですよね。また、今のVTuberは、発言や振る舞いにかなり配慮している人が多いので、安心して見られるという点も、若い世代に支持されている理由のひとつだと思います。

一方、20代以上の大人は、VTuberの発信内容を “メタ的” に楽しんでいる部分もあるように感じます。アニメルックなVTuberが、おすすめのコンビニスイーツや、家電が壊れたなど日常的な話題をするギャップが面白く、親近感が湧くのではないでしょうか」

VTuberブームのカギは「親近感」。世代によって異なるコンテンツの楽しみ方

ライブ配信などを通じて生まれる “親近感” は、VTuberが人気になった大きな理由のひとつですよね。具体的には、視聴者とVTuberの間で、どのような関係性が築かれているのでしょうか?

草野さん 「VTuberとの関係性は、個々のパーソナリティや取り組んでいるコンテンツに対して、ファンがどう反応するかによって築かれていくものだと思います。

例えば、ゲーム配信でどんなゲームを選ぶか、歌の配信でどんな選曲をするかなど、コンテンツの内容を通じてそのVTuberの個性や魅力が伝わると、視聴者は親近感を抱きやすくなるのではないでしょうか。自分自身としては、ボーカルが上手いか下手かよりも、その人の選曲からパーソナリティを見て惹かれるタイプなので、そういう人もいると思います。

また、VTuber同士のコラボレーションは、視聴者が新たな魅力を発見するきっかけになります。コラボによってVTuber同士の化学反応が生まれ、それぞれのパーソナリティや個性が際立つことで、視聴者が『今までこの配信者を知らなかったけど、面白いからちょっとのぞいてみよう』と興味を持ってファンになる、ということもありますね。

現在では推し活ブームも追い風となって、VTuberムーブメントは大きな広がりをみせています。“推し”のキッカケも、VTuber当人の出来事を自分ごとのように共感でき、自己投影できるからで、今後も “親近感” がどのように現れ、感じられるかがキーになりそうです」

VTuberがテレビ番組を持つ日も近い? カルチャーが向かう今後の行方

10〜20代の若者世代に留まらず、いまや幅広い世代に浸透しつつあるVTuber。最後に、カルチャーの拡大や海外展開の可能性など、VTuberブームの今後について、草野さんに考察していただきました。

これからVTuberカルチャーはどのように成長していくと思われますか?

草野さん 「VTube事務所としては、ホロライブやにじさんじがよく知られていますが、実はそれ以外にもさまざまな事務所が存在しています。中には、eスポーツやクリエイター活動に特化した事務所も登場していて、それぞれのカラーを活かして活動しています。

こうした事務所や各ライバーのファンの規模が数千人から数万人、さらには数十万人へと拡大していくことで、社会的な影響力が増していくことが考えられます。例えば、VTuberがパーソナリティを務めているラジオ番組も登場していますが、今後テレビ番組へ出演することもあり得そうで、さらにメディアへの進出が進む可能性も十分あり得るでしょう。

一方で、既存のテレビタレントや声優がアバターを使ってVTuberとして活動を始めるといった動きもあるので、リアルとバーチャルの垣根がますます曖昧になってきているように思いますね」

VTuberに興味を持ったばかりの方に、おすすめの楽しみ方があればぜひ教えてください。

草野さん 「VTuberの楽しみ方に正解はないので、入口は本当に何でもいいと思います。ただ、いきなりライブ配信を3時間見るのは、ちょっとハードルが高いですよね。なので、まずはTikTokなどでショート動画や切り抜き動画を見てみるのがおすすめです。『この方のビジュアルが好き』『自分の好きなゲームを実況している』といった、身近な興味を手掛かりにして、VTuberカルチャーに触れてみてください」

VTuberは、デジタル技術と個人表現が融合した、新しい時代のカルチャーとして成熟しつつあります。気軽に楽しめるエンタメのひとつとして、まずは気になるVTuberの配信や動画をのぞいてみてください。

(掲載日:2025年7月18日)
文:東谷好依
編集:エクスライト