子どもたちが安全にインターネットを利用するために、社会や大人はどのような役割を担うべきか — こうした問題意識のもと、ヤフー株式会社は、フィルタリングサービス*1・エンジン技術の開発とURLリストの収集・分類・配信を行う専門企業ネットスター株式会社と協力して、有識者による「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」を2008年4月に設立。今回は、第一期の活動成果である「双方向利用型サイトの評価モデル」と「保護者のためのモデル教材」を中心に、同研究会の活動についてご紹介します。
保護者のインターネット利用についての知識習得を支援
インターネットの利用が一般家庭に急速に広がり、今や携帯電話やパソコンを使ったインターネット利用は子どもたちの日々の生活にも深く浸透しています。その一方で、子どもたちがインターネットを介してさまざまなトラブルに巻き込まれるケースが報じられるなど、子どもたちとインターネットの付き合い方をいかにして大人が適切に見守り導くことができるかが問われています。しかし、インターネットの普及があまりに短期間に進んだため、教育当事者である保護者には、判断の指標となる経験も情報も乏しく、支援も不十分なのが現状です。

子どもたちのインターネット利用について考えるシンポジウム
このような状況をかんがみ、子どもたちのインターネット利用をより豊かで安心なものにするため、関連する課題について調査・研究に基づいた専門性の高い議論を行い、研究成果を広く公開して社会に貢献することを目的として、「子どもたちのインターネット利用について考える研究会(略称:子どもネット研)」(座長:お茶の水女子大学 大学院 人間文化創成科学研究科 坂元 章教授)がヤフー株式会社とネットスター株式会社により設立されました。

研究会の第一期の活動成果と第二期の方向性をまとめた
「春レポート」
子どもの心理・発達やメディアとの付き合い方についての専門領域を持つ学識経験者と、子どもの教育現場に深く関わっている実務者などを委員として、子どもたちのインターネット利用のための施策について考察し、具体的な取り組みを提唱するための活動が行われています。2008年9月には、子どもネット研と全国高等学校PTA連合会の主催で、小渕 優子内閣府特命担当大臣を来賓に招き、「子どもたちのインターネット利用について考えるシンポジウム」が開催されたほか、同年12月に第一期(2008年5月〜12月)の調査・研究成果を取りまとめた「第一期報告書」が発表されています。
“双方向利用型サイト”の評価モデルを保護者へ提案
子どもネット研の第一期の活動成果の一つが、“双方向利用型サイト”を子どもが利用した場合のリスクを評価するための指標作りです。ユーザ同士が双方向でコミュニケーションをとれる機能を備えた「ブログ」「SNS*2」「プロフ*3」「掲示板」などの“双方向利用型サイト”は、子どもたちがよく利用する人気のWEBサイトです。こうした“双方向利用型サイト”の利用には、悪意のある大人に誘い出されることで生命・身体の危機につながったり、誹謗中傷を受けたり、子どもたち自身が誹謗中傷や犯行予告の書き込みをしてしまうなど、さまざまなトラブルの被害者や加害者になるリスクが伴います。したがって、子どもに携帯電話などを買い与えた保護者がリスクの度合いを正しく把握し、許容できるサイトのみ子どもに利用を許すといったことが必要です。子どもネット研は、そのための判断の目安としてサイトの評価モデルを作成し、公表しました。
“双方向利用型サイト”の評価については、「不適切な書き込み内容の監視・対処」に主眼を置いた健全性認定制度が運用されていますが、子どもネット研が発表した評価モデルでは、「サービスの機能を制限することなく書き込みの監視だけで対処しても、効果が十分とはいえない」という考えのもと、「悪意のある大人からの誘い出しを受ける可能性がある『直接的なやり取り』の機能に関する配慮がどの程度なされているか」を重視して、リスクの度合いを評価しています。また、保護者の視点に立ち、「好ましくないサイトへ誘導する機能」などを評価するための指標も提唱しています。これらの評価指標は、今後保護者からの意見をもとにさらなる改良が施される予定で、一部では既にNPOやPTAの協力を得て実際のサイト評価を行う実証が開始されています。
インターネット利用にともなうリスクについての保護者向け教材を制作
子どもネット研では、第一期のもう一つの活動成果として、「中高生のお子さんを持つ保護者のためのインターネットセーフティガイド」を2008年9月末よりWEBサイト上で無償公開しています。この教材は、優先度をつけて取り扱う内容を絞り込み、子どもたちのインターネット利用に伴うリスクと、それらのリスクを避ける方法について、保護者自身が知識を身につけられるように工夫されています。また、身につけた知識をもとに保護者が自分の子どもに対してアクションを取るためのヒントが数多く盛り込まれている点も特長です。

中高生のお子さんを持つ保護者のためのインターネットセーフティガイド
「中高生のお子さんを持つ保護者のためのインターネットセーフティガイド」のもう一つの際立った特長は、自由に引用や改変が行える“モデル教材”として位置づけられていることです。したがって、モデル教材を素材として活用しながら、地域や学校ごとの事情や方針に合ったオリジナルの教材作りを行うことができます。2009年2月に秋田県内の小中高校やPTAなどに配布された保護者向け啓発教材「青少年の有害情報対策ハンドブック」がそうした事例の一つで、モデル教材をベースに秋田県が独自の編集を加えて制作したものです。

千葉県高等学校PTA連合会研修会
このモデル教材の一層の活用促進を図るため、子どもネット研の主催で、社団法人全国高等学校PTA連合会の協力のもと、モデル教材を用いた保護者向けの講演会が行われています。2009年1月に千葉市内で開催された千葉県高等学校PTA連合会の研修会では、千葉県内の学校長およびPTA関係者など約400名を対象に、「子どもたちのケータイ利用の本当のリスク〜いま、保護者が知っておかなければいけないこと〜」というテーマで、子どもネット研の事務局の立場からヤフー株式会社の担当者が講演を行いました。こうした講演を通して、保護者や学校関係者からの意見・要望を集めながら、モデル教材の活用・普及が進められています。
子どもの発達度合いに応じたインターネット利用の提案に向けて
子どもネット研では、2009年3月〜9月を第二期の活動期間と位置づけ、子どもたちの心理的な発達度合いなどに応じた「段階的なインターネット利用のあり方の提案」を主なテーマとして、具体的な手法を提案することとしています。今後、携帯電話のフィルタリングサービスの設定や利用の自由度が高まり、今まで以上に保護者の主体的判断が求められる場面が増えることが予想されます。そうした状況において、家庭ごとの教育方針に基づいて保護者が子どもに有害と考えるサイトを区別するための判断材料を分かりやすく整理することが狙いです。
インターネットが、未来を担う子どもたちに与える影響について真摯に考察し、解決策を見出していくことを目指す子どもネット研の役割には、子どものインターネット利用に携わるさまざまな関係者から期待が寄せられています。
- ※1
WEBサイトを一定の基準で判別し、有害サイトへのアクセスを制限する機能のこと。携帯電話会社では、アダルトサイトや出会い系サイトなどへのアクセスを制限するフィルタリングサービスを導入し、その普及啓発を行っています。
- ※2
人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティー型の会員制サービス。
- ※3
WEB上で自分のプロフィール(自己紹介)を作成して公開するサービス。
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「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」のWEBサイトおよび同研究会が発行する「第一期報告書」「2009年春レポート」をもとに、ソフトバンク株式会社が執筆しました。
(掲載日:2009年4月17日)