データセンターを全国9カ所で運用し、高付加価値サービスを開発、提供している株式会社IDCフロンティア(以下 IDCフロンティア)。近年では、クラウドコンピューティングの利活用も推進し、お客様の利便性を高めるサービスづくりに取り組んでいます。社会の重要なインフラ基盤として、また災害対策として、経済活動や社会生活に不可欠となったデータセンター事業。同社の具体的な取り組みや、今後の展望などについて、同社取締役 ビジネス推進本部 本部長 中山 一郎にインタビューしました。
日本全国に展開するデータセンター
IDCフロンティアは、2005年にソフトバンクグループに入り、2009年、インターネット事業の持続的な成長と競争力の強化を担う戦略企業として、Yahoo! JAPANグループに参画しました。現在、全国9カ所のデータセンターを拠点に、さまざまなデータセンターソリューションを提供しています。
IDCフロンティアのデータセンター事業は、大きく3つに分類できます。1つ目が、お客様のサーバをデータセンターで預かるコロケーションサービス。回線や保守サービスを提供し、サーバへ電力を安定的に供給しています。2つ目はネットワークサービスです。インターネットへの接続性(コネクティビティ)を確保し、大容量でつなぐネットワークサービスを提供しています。これはただ接続するだけではなく、ファイアウォールをはじめとして、外部からの不正侵入を防ぐシステムや、ロードバランサー(負荷分散装置)を提供するなど、ネットワークに付随するシステムも提供しています。3つ目は、サーバ利用状況の監視、障害対応など、日頃お客様がサービスを提供するうえで必要なさまざまな運用サービスです。
「IDCフロンティアでは、お客様が自社のビジネスを推進することに専念して取り組んでいただけるよう、高信頼のデータセンターサービスを提供しています」と語るのは、同社取締役 ビジネス推進本部 本部長の中山 一郎です。中山の説明のとおり、高い信頼性を誇る同社のサービスは、実際にソフトバンクグループの多くの企業でも利用され、各社が提供するサービスを支えています。
データセンターは単なる建物ではない
IDCフロンティアのデータセンターの中でも、福岡県北九州市に立地する「アジアン・フロンティア」は、ユニークな特徴を持つデータセンターです。その特徴のひとつが、「モジュール方式」と呼ばれる業界初の建設方法。「アジアン・フロンティア」では、1棟を1モジュールとし、需要に応じて建設していく「モジュール方式」を日本で初めて採用しています。
「『モジュール方式』での増設により、常に最先端の技術を取り入れることや、財務的なインパクトを最小限に抑制することができます。また北九州は、国内でも大地震が発生する可能性が比較的低い場所であることから、『アジアン・フロンティア』は、ディザスターリカバリー*1の拠点としても最適なデータセンターとなっています」と、中山は「アジアン・フロンティア」の強みを語ります。「アジアン・フロンティア」の敷地面積は、東京ドーム約3つ分。最大12棟まで建設可能です。現在建設中の3号棟は、2011年10月初旬より稼動を開始する予定で、次の4号棟の建設も決定しています。「アジアン・フロンティア」という名称には、日本だけにとどまらず、ゆくゆくはアジアをターゲットにして展開していきたいという、IDCフロンティアの志が込められています。
こうしたデータセンターの“外側”における工夫の一方で、IDCフロンティアは、独自のソリューションを開発、採用し、データセンター内の空調の効率化を高めています。「データセンター内はサーバなど機器の排熱の影響で室温が上昇してしまうため、“冷やす”空調が必要です。これまで、データセンターでは、とにかく冷房して、強制的に冷却する空調が一般的でした。そこで我々は、むやみに温度を下げるのではなく、サーバラックを最適な温度で保つことに取り組み、空調効率の向上に成功しました」(同)。空調の効率化を実現した方法は、フロア全体のエアフローを綿密にシミュレーションした結果生まれたソリューション「ColdMall®」です。ラックを前面どうし、背面どうしが向かい合うように配置したうえで、空調機から吹き出す冷たい空気が通る通路(Cold-Aisle)と、サーバの背面から排出される暖かい空気が集まる通路(Hot-Aisle)を作り、冷気と暖気を完全に分離。さらに冷気の通路には扉と屋根を取り付けて拡散を防ぎ、暖気の通路の上には搬送ファンを取り付けて、熱気の滞留を防いでいます。
また「アジアン・フロンティア」では、「GreenMall®」というソリューションを採用し、空調の効率化とともに、熱循環効率の改善を図っています。「GreenMall®」とは、外気を取り込んでサーバを冷却し、暖かくなった空気を室外に排出する空調方式です。「『GreenMall®』の効果を実証する実験を行ったところ、外気空調を使用しない運用方法に比べ、最大4割弱の空調消費電力の削減効果が測定されました。また廃熱を利用し、温室栽培も行っています」(同)。このように、「アジアン・フロンティア」では、サーバの最適運用と高い省エネ効果を実現しています。
事業継続と災害対策ソリューション
日本では、2011年3月11日に発生した東日本大震災を機に、多くの企業がBCP*2の重要性についてあらためて考え、災害対策として、データ保存を分散化する動きが広まっています。「震災発生後、IDCフロンティアへの問い合わせ件数は、大幅に増えました。計画停電によるサーバ停止を回避するため、それまで自社内に設置していたサーバをIDCフロンティアのデータセンターに預けていただいたお客様や、将来を見据えて、IDCフロンティアのデ―タセンターを選び、移転してきてくださったお客様もいらっしゃいます」(同)と、IDCフロンティアにも需要の変化が表れています。
IDCフロンティアは、データセンターそのものに対して万全の災害対策を行っています。耐震面では、自然災害のリスクが低い地域を選び、地盤調査を行ったうえで頑丈なデータセンターを建てることで、高い耐震性を確保。北九州の「アジアン・フロンティア」では、岩盤まで杭が打ちつけられています。また停電対策としては、備蓄した燃料にて連続で約1日分の電力を供給できる非常用自家発電機を備えています。
世界一のコンピューティングパワーを提供したい
このほかIDCフロンティアは、データセンター事業を基盤にして、2009年6月よりクラウドコンピューティングサービス(以下 クラウドサービス)「NOAH」を提供しています。「NOAH」は、インターネット経由でサーバリソースを利用できる、パブリック型クラウドサービスです。データセンターに自社のサーバを預けるのではなく、「サーバそのものをレンタルしたい」というお客様のニーズに応え、必要なときに必要な分だけの仮想サーバやネットワークなどのインフラを貸し出しています。また、クラウド型システム開発基盤である「NOAH」では、北九州の「アジアン・フロンティア」から他のデータセンターを広帯域ネットワークでつなぎ、東日本・西日本地域でのサービス展開、データセンター間接続や遠隔バックアップサービスを提供しています。
さらに今年の夏からは、オープンソースソフトウエアのクラウド基盤ソフトウエア「CloudStack」を採用した、新しい「NOAH」の提供を始める予定です。「CloudStack」は、すでに数多くの海外大手通信キャリアが採用している技術で、日本ではIDCフロンティアが最初です。IDCフロンティアは、海外展開のビジョンを持ちながら、自社で持つデータセンターと広帯域・高信頼のネットワークを活用し、クラウドにも注力しています。
最後に中山は、「我々の最大の役割は、信頼されるサービスを24時間365日提供し続けること。なおかつ、新しい情報技術を活用して、コンピューティングパワーの新しい価値を提供する。2011年夏には、東日本の大型拠点として、新たに福島県白河市に最新鋭の外気空調方式を採用した大型データセンターの建設にも着手します。データセンターを日々成長させ、お客様の利便性を追求していくことが重要だと考えています。クラウドとの連動もそのひとつです。そして、世界一のコンピューティングパワーを提供する会社になりたいと考えています。日本で圧倒的No.1、アジアでNo.1になって、アメリカを超えることを目指しています。また日本のインターネットカンパニーが、よりいっそう世界に進出していけるよう、引き続きお客様をサポートし、共に発展していきたいと思います」と、力強く今後の抱負を語りました。
安定したサービスを提供するとともに、新しい価値を求めてチャレンジし続けるIDCフロンティアに、どうぞご期待ください。
- ※1
自然災害などで被害を受けたシステムを復旧・修復すること
- ※2
Business Continuity Plan、災害や事故などの予期せぬ事態が発生した際における事業継続計画
(掲載日:2011年8月12日)