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データ農業が世界の食糧問題を救う?「e-kakashi」が挑戦する21世紀型の科学的農業とは

データ農業は世界の食糧問題を救う?「e-kakashi」が挑戦する21世紀型の科学農業とは

設置中のe-kakashi

今、高齢化などで深刻な労働力不足に陥っている日本の農業。後継者不足による自給率の低下は、日本のみならず世界の農業が抱える共通の課題ですが、その一方で、ロボット技術やICTなどの先端技術を活用し、超省力化や高品質生産などを可能にする新たな農業への取り組みが世界的に注目されています。

少ない水量と肥料でも収穫が見込めるコメ栽培の生産性向上と、栽培ノウハウの継承や持続的発展を目指す国際共同プロジェクト「スマートライスファーミングプロジェクト」に、ソフトバンクが提供するAIを搭載した農業向け機器「e-kakashi(イーカカシ)」が採用され、日本から約1万5,000キロ離れたコロンビア共和国で11月から実稼動が始まりました。本プロジェクトを推進する、ソフトバンクの戸上氏に農業が抱える地球規模の課題とプロジェクトでの「e-kakashi」の役割について話を聞きました。

スマートライスファーミングプロジェクト

少ない水量と肥料で育つ “省資源型イネ ”の栽培ノウハウをICT(情報通信技術)などの新しい技術によって電子マニュアル化し、新たに開発された種子と共にラテンアメリカ・カリブ海地域へ普及させることを目的とする壮大なもの。米州開発銀行グループの研究所であるIDB Labと、コロンビアに本部を持つ研究機関の国際熱帯農業センターCIATと進める国際共同プロジェクトです。

e-kakashi

ソフトバンク株式会社が提供する、農業を科学的にサポートするサービス。農業AIブレーンが植物目線※1で栽培をナビゲートして、ほ場で取得した環境データ※2を見える化するだけではなく、現在すべき作業を判断する支援を行います。農業において、最適な生育環境を24時間365日体制でナビゲートしてくれる心強いIoTソリューションです。

「e-kakashi」のウェブサイト

  • ※1植物科学に基づいた科学的アプローチを指す
  • ※2気温、相対湿度、地温、水温、土壌体積含水率、EC、日射量、CO2濃度
  • ※1植物科学に基づいた科学的アプローチを指す
  • ※2気温、相対湿度、地温、水温、土壌体積含水率、EC、日射量、CO2濃度

農業は地球環境にやさしくない? コロンビアが抱える、“米”課題

ソフトバンク 戸上崇(とがみ たかし)
オーストラリア・ニューサウスウェルズ州 公立チャールズスチュアート大学卒業後、国立三重大学大学院の修士課程に進学し、農業ICT分野の研究に携わる。同大学院博士課程において、農業現場におけるセンサーネットワークおよび情報の利活用に関わる研究で博士号(学術)を取得。農業分野の研究者との交友関係が広い。入社後から一環して「e-kakashi」の技術開発をリードしてきた。

コロンビアの米作りの現状を教えてください

コロンビアは人口が約5,000万人、米は1年生作物の中で最大の栽培面積を占める重要作物です。1人あたりの米の年間消費量は42kgぐらいですから日本とほぼ同じぐらい。しかしながら気候変動などの影響や水や肥料の利用効率が低いため、生産コストの高騰や収量の伸び悩みなど、米の需要が高まる中で自給率の安定が一番の課題と言われています。

打開策はあるのでしょうか?

2014年から始まった日本とコロンビアの研究機関による国際共同研究プロジェクト「SATREPS」(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)によって、節水・節肥料型のイネの新品種が開発されました。今後「スマートライスファーミングプロジェクト」を通じて、この品種の栽培指標や栽培技術を確立して普及・定着させていこうとしています。

どうして節水・節肥料型の新品種が開発されたのでしょうか?

農業は水を最も使う産業です。気候変動や爆発的な人口増加は、食糧・水資源確保の課題に直結しているため、現在の農業が抱える問題は国内外問わず共通で、節水・節肥料型の新品種の開発は大きな意味があるんですよ。

日本は水が豊富な国というイメージがありますが……

日本を含めて世界中で、限られた水資源を最大限に活用した収量最大化の技術が必要です。それに加えて、水田は温室効果ガスであるメタン(CH4)の人為的発生源なので、環境負荷の低減も農業の課題です。

農業が環境に負荷を与えるとは意外です

「スマートライスファーミングプロジェクト」は、新しい品種のタネと科学的な栽培方法をセットで広めることで、小さな農家でも収穫量を上げることを目的としています。そのための技術を確立するために「e-kakashi」でほ場のデータを収集し、水管理の最適化を図ります。水資源の最適利用に努めることは不要なメタンガスは発生の防止につながるので、環境負荷の低減にもつながるんですよ。

データに基づく科学的農業が、持続可能な社会をつくる

「e-kakashi」が本プロジェクトで果たす役割をもう少し詳しく教えてください

ほ場に設置して稲作に必要なさまざまなデータを収集します。農業は従事者の経験と勘に長く頼ってきましたが、米作りの工程を徹底的にデータ化し、AI予測モデルを活用して最適解を見つけ、安定した収穫量を上げる農法を確立することが重要です。そして栽培知識やノウハウは電子マニュアル化して次世代に継承することが、持続可能な農業の実現に必要な取り組みです。

「e-kakashi」は、安定したデータを取るだけではありません。国内外の稼働実績で高度なデータ分析ノウハウが蓄積されていますので、適格なコンサルティングも提供することができます。「e-kakashi」はコロンビアのほ場に設置されていますが、遠隔からのモニタリングで現地のCIATの研究員と常に情報共有ができるので、現場で必要な対処を早急にとることが可能です。

ほ場に設置されたe-kakashi(左)、CIATの研究員と現地関係者(右)

ほ場に設置されたe-kakashi(上)、CIATの研究員と現地関係者(下)

食糧の安定供給を目指して

戸上さんは農業分野での博士でもあるのですね

オーストラリアの大学で応用科学を専攻し、エコロジーや生物など環境科学を中心に勉強してきました。また、実習を通じて地理情報システムについても学んだので、農業ICT分野にずっと携わっています。ソフトバンクに入社後一環して「e-kakashi」を担当しているのも、自分自身のそういった経歴からです。

コロンビアで行われたワークショップに参加し、農業の課題について講演する戸上氏

人類が生存していくために農業は不可欠な産業です。世界中で、生産性や品質の向上を目指して新しいテクノロジーが次々と農業へ応用されていますが、中でも日本の農業ICTは非常に優れていて他国と比べても遜色ないと思います。日本の先端農業IoT技術を活用した精密な栽培管理で生産性の向上を実現していく-それが拡大していくことで、食糧の安定供給につながればいいですね。お腹が満たされれば無用な争いは防げるはず、と個人的には思っているんですよ。

プレスリリース

(掲載日:2019年11月7日)
文:ソフトバンクニュース編集部