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「初心者でも使いこなせるスマホって?」 UXデザインチームがグッドデザイン賞を受賞するまで

「初心者でも使いこなせるスマホって?」 UXデザインチームがグッドデザイン賞を受賞するまで

皆さんは、気に入った商品を見つける時に何を一番重視しますか? デザイン? それとも使い勝手? 昨今は、人がモノやサービスに触れて得られる体験や経験が重要視される「ユーザーエクスペリエンス(UX)」にのっとった考え方が、商品・サービスの企画・開発の場では主流になっています。

2020年10月、スマホ初心者向けの端末であるソフトバンクの「シンプルスマホ5」とワイモバイルの「かんたんスマホ2」が、それぞれグッドデザイン賞を受賞。「ユーザーの意向に寄り添った上質なデザイン・商品性を実現」と審査委員から評された端末の開発を担当したチームに、UXに徹底的にこだわったという開発秘話を伺いました。

今回お話を伺った開発担当チームの中心メンバー5人

(上段左から)木村優太(きむら・ゆうた)、山田聖人(やまだ・きよひと)、根本慧(ねもと・けい)、(下段左から)吉永珠里(よしなが・じゅり)、古木槙太郎(ふるき・しんたろう)

(上段左から)木村 優太(きむら・ゆうた)、山田 聖人(やまだ・きよひと)、根本 慧(ねもと・けい)、(下段左から)吉永 珠里(よしなが・じゅり)、古木 槙太郎(ふるき・しんたろう)

ボディーカラー名称決定のキモ、それはキャンディーズ?

電源ボタンのカラー確認。左側は薄くて右側が濃いのがわかりますか?、色味の確認はこのレベルで調整しています。

電源ボタンのカラー確認。左側は薄くて右側が濃いのがわかりますか?、色味の確認はこのレベルで調整しています。

端末開発担当のUX企画部は活動期間が2年ほどの新しい組織。端末開発には男女合わせて5名、平均年齢30代前半という若いチームが中心に携わることになり、これまでおのおので行っていた手法を見直して、チームとして体系化することに。そしてそのプロセスで、通信事業者が主導しメーカーと二人三脚で企画から商品発売までを、一貫して取り組んだ開発ケースとなりました。新しい端末は、シニア基礎調査、ペルソナやカスタマージャーニーマップの作成、ネット・プロモーター・スコアからの課題抽出と、取り組みポイントを明確化しながら、こだわりをもって開発されたそうです。

開発端末のターゲットユーザーは「スマホ初心者」。まずは何から着手したのでしょうか?

山田さん

「前モデルの顧客満足度調査から大きく課題を把握して、独自の調査で細かいデータを丁寧に拾い積み上げながら、ターゲットユーザーについての理解を深めることから取り組みました。『スマホ初心者』はシニア世代が中心になりますが、チームメンバーは前モデルから担当しているので、自分たちとの世代間ギャップがあったとしても、戸惑いはそれほど感じませんでした。商品の典型的なユーザー像である『ペルソナ』を決定するためにさまざまな調査を改めて実施。その結果、メンバーが持っていた『シニア世代』のイメージは、固定概念でしかなかったことがわかりました」

「前モデルの顧客満足度調査から大きく課題を把握して、独自の調査で細かいデータを丁寧に拾い積み上げながら、ターゲットユーザーについての理解を深めることから取り組みました。『スマホ初心者』はシニア世代が中心になりますが、チームメンバーは前モデルから担当しているので、自分たちとの世代間ギャップがあったとしても、戸惑いはそれほど感じませんでした。商品の典型的なユーザー像である『ペルソナ』を決定するためにさまざまな調査を改めて実施。その結果、メンバーが持っていた『シニア世代』のイメージは、固定概念でしかなかったことがわかりました」

開発で作成した調査用のプロトタイプ

開発で作成した調査用のプロトタイプ

調査用のカラーチップ

調査用のカラーチップ

木村さん

「今の60代は非常にアクティブで、やりたいことがいっぱい。ただ、スマホを使いこなしたい意欲があるものの、使い方がわからないという方が多い。そういったニーズに応えるにはどうしたらいいのか? という試行錯誤の連続でした」

古木さん

「例えば、グレイヘアーに合う『指し色』の赤を端末のボディーカラーに取り入れるなど、『シニア世代』のイメージから地味な色をそろえるという発想はしないようにしました」

根本さん

「色の話でエピソードをひとつ。『シンプルスマホ5』のボディーカラーの表現で、ネイビーブルーかネイビーか、どちらが伝わりやすいかを検討していたとき、父に聞いたらキャンディーズの曲のフレーズを歌い出したんです。この世代にはネイビーブルーのほうがなじみがあるんだ! と確信した瞬間でした」

開発はオフィスでできるんじゃない。 解決策はユーザーがいる場で見つかるんだ!

開発はオフィスでできるんじゃない。 解決策はユーザーがいる場で見つかるんだ!

新端末の「ペルソナ」を決定したチームUXは、各担当が連携し、新しいことに挑戦しながら、さらに試行錯誤を重ねて開発に取り組みます。

特に意識したのは、ユーザーの立場に立って考えること。インタビュー調査で実際にユーザーの声を聞くことで本質的なニーズを見極めながら、「どんな人が、どんなときに、どんな気持ちで、どう使うのか」を1つ1つイメージ。モックやソフトウエアのプロトタイプを搭載した試作機を、何パターンも作成してユーザーの実態を把握し、できあがった試作画面で問題なく操作を完遂できるか、わかりにくいことがないかの確認なども行ったそうです。

木村さん

「端末のサイズを決めるときは、実際に端末(モック)を触ってもらうようにしました。これまでやったことがなかったので、すごく新鮮でしたね。ユーザーはガラケーになじみがある方が多かったので、画面の大きさについて、意見をしっかりデザインや企画に反映させました」

山田さん

「スマホはいろいろなことができて便利ですが、便利な機能を数多く付加するのは正解なのか? 私たちが設定した『ペルソナ』は、デジタルリテラシーの幅が広いので、何を搭載するのかバランスを考えなければならないのが難しかったです。使ってもらわないと意味がないので、足し算だけでなく引き算する勇気も必要でした」

吉永さん

「プロトタイプを作り、実際にスマホ初心者の方に操作していただきながらインタビューしました。実際に手に持ったときの印象がかわるので、調査のやり方を変えたことで、より精度が高い回答が得られました」

強力(協力)助っ人「スマホアドバイザー」は、商品開発アドバイザー

強力(協力)助っ人「スマホアドバイザー」は、商品開発アドバイザー

端末開発時にはソフトバンクショップに在籍する「スマホアドバイザー」からの協力が欠かせないとのこと。実際に行っている、スマホ操作の案内の仕方や、教材やセミナー内容の共有など、常にお客さまに接しているからこそのノウハウが参考になるそうです。

実は、開発が始まる直前にチームUXの中心メンバー5人のうち2人は、「スマホアドバイザー」を務めることに。「ペルソナ」と合致するスマホ初心者に対応する専任のスタッフとして、ショップに4カ月間にわたって在籍していました。

古木さん

「本当に貴重な体験で、調査項目について意見を直接聞く機会を得ることができました。何百人もの方と実際に話すことで、スマホを使う上でほんの少しわからないところなどがある、困っていることがあるといった細かいところまで聞くことができましたね」

山田さん

「設定した『ペルソナ』が、自分の中でリアルに感じられるようになり、開発に携わる中で、『(この機能だったら)この人が喜んでくれるかな?』と、ショップでお会いした方を具体的に思い浮かべたことも。企画に携わる人は多いが、ターゲット層に直接接客するのはマレな経験。開発にうまく生かせたと思います」

強力(協力)助っ人「スマホアドバイザー」は、商品開発アドバイザー

「常に使う人の立場で考えること」が、あの大ヒットサービスに結実!

「常に使う人の立場で考えること」が、あの大ヒットサービスに結実!

あらゆる可能性を求めて商品開発にまい進した開発担当チーム。常に使う人の立場で考えることはサービス分野の開発でも存分に発揮され、かゆいところに手が届くサービスとして「押すだけサポート」と「迷惑電話対策」に結びつきました。

押すだけサポート

ソフトバンク独自のサービス。ホーム画面のサポートボタンを押すだけで、お困りの状態を解決する機能で、端末の中からコールセンターにつながるという遷移がスムーズで、端末+サービスのセットで提供できるのが特長です。

押すだけサポート

吉永さん

「『ひとつのアイコンから何でもできる』というのをペルソナから考えてみたのです。スマホ初心者の方はちょっとした事で、操作につまずきがち。『押すだけサポート』があれば、わざわざショップに行って聞く必要もなくなだろうと期待しています」

迷惑電話対策

振り込め詐欺やしつこいセールスなど、迷惑電話からの着信時に警告表示でお知らせするサービス。かかってきた電話やSMSをデータベースに照会し、ブラックリストに登録されている番号の場合は警告を表示したり、設定により自動的に着信を拒否したりできます。

迷惑電話対策

山田さん

「『かんたんスマホ』ではアプリで実現していました。『かんたんスマホ2』で間違って迷惑電話を取ってしまったら自動で録音が始まるよう、もっと踏み込んだ機能を実装しました。詐欺被害を防止する最大の対策は電話に出ないことですが、うっかり出てしまうこともありますからね。この機能もCSRなど、迷惑電話に詳しい社内からの情報共有が役立っています」

新型コロナでまさかのリリース延期。知恵とアイデアで乗り切った先に、待っていたうれしい知らせ

カメラ画質に関するユーザー調査設計の様子。被験者が行う撮影方法を検討しているところ

カメラ画質に関するユーザー調査設計の様子。被験者が行う撮影方法を検討しているところ

満を持して発表を準備していた今春、新型コロナウイルスが発生。外出自粛で出社することもままならない中、暫定的に対応できる業務フローを確立するなど、知恵とアイデアで窮地も乗り越え、2020年8月に「かんたんスマホ2」、9月には「シンプルスマホ5」が発売。そして、10月には両端末でグッドデザイン賞のダブル受賞といううれしいニュースがもたらされました。

根本さん

「メンバー全員、ユーザーに寄り添った自信のある商品になったと考えていたので、受賞できたらうれしいなと思っていましたが、ダブルで受賞できるとは驚きました。審査員の方にはかなり細かいところを見ていただいて、採用したフォントや機体のデザイン、操作性など全般にわたって評価していただいたので本当にうれしいです。われわれだけではなく、社内外の多くの人たちにサポートしてもらったことで得られたと思っています」

常に「使う人の立場に立って考える」を実践してきた今回の端末開発。これまでの開発プロセスとは違うアプローチで結果を出したチームUXは、「対象となるユーザー層を広げて、これからも徹底したユーザー視点で、新たなプロダクトやサービスを生み出していきたい」と、すでに次の開発を見据えています。

どんな端末やサービスが生み出されるのか? 今後の活躍が楽しみですね。

2020年度グッドデザイン賞受賞

シンプルスマホ5」と「かんたんスマホ2」は、公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2020年度グッドデザイン賞」をダブルで受賞。「ユーザーの意向に寄り添った上質なデザイン・商品性を実現」(シンプルスマホ5)、「ユーザーヒアリングにより改善・蓄積されたノウハウを数多く具現化した利用者に誠実なプロダクト」(かんたんスマホ2)と、いずれもユーザー意向が反映された商品であり、それぞれがスマートフォン機能の積極的な活用の促進に貢献していると、高く評価されました。受賞の詳細についてはこちらをご覧ください。

(掲載日:2020年10月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部