SNSボタン
記事分割(js記載用)

踏切のダウンタイム短縮へ。社会インフラ保全の最新IoTソリューション稼働開始

踏切のダウンタイム短縮へ。社会インフラ保全の最新IoTソリューション稼働開始

鉄道と道路が平面交差する部分にある「踏切」。現在、日本国内には約3万3,000カ所の踏切があり、通行の安全を保つために警報機や遮断機などが設置されています。もし踏切が故障した場合、どのようにそれを検知して復旧対応を行っているのでしょうか。

九州旅客鉄道(以下、JR九州)、東邦電機工業、ソフトバンクの3社は、踏切故障の発生原因をより早く特定して迅速な復旧につなげるシステムの開発に取り組み、2022年夏から「踏切IoTソリューション」が本格稼働を開始しました。開発に関わったソフトバンクの担当者に話を聞きました。

目次

今回話を聞いた人

根来昌宏(ねごろ・まさひろ)

ソフトバンク株式会社
西日本IoT技術統括部 統括部長 根来昌宏(ねごろ・まさひろ)

工藤真二(くどう・しんじ)

九州IoT技術部 工藤真二(くどう・しんじ)

踏切のダウンタイム短縮は長年の課題

香椎線の三平踏切を通過するBEC819系「DENCHA(デンチャ)」

香椎線の三平踏切を通過するBEC819系「DENCHA(デンチャ)」

日本国内の踏切は、最も多い時期には全国に約7万カ所以上あったとされています。1961年に踏切道の改良を促進することで、交通事故の防止及び交通の円滑化に寄与することを目的とした法律「踏切道改良促進法」が制定・施行され、2007年には踏切の統合や廃止、連続立体交差化などを促進する制度とその要綱も定められ、現在の踏切数は半分以下まで減少しましたが、それでも約3万3,000カ所が存在します。

踏切は都市部においては道路渋滞発生の原因になる他、生活上の不便が生じたり、事故発生の場合は列車と人や車の接触などによる危険性もあり、対策として踏切自体をなくすことや、立体横断施設や自由通路の整備、踏切支障報知装置などの踏切保安装置の設置、注意喚起のためのカラー舗装・路面標示など、さまざまな危険低減と事故防止の対策がとられています。

カラー舗装がある踏切道。自動車と歩行者の通行空間を分離することで安全性が向上する。

カラー舗装がある踏切道。自動車と歩行者の通行空間を分離することで安全性が向上する。

これらの対策に加えて、JR九州、東邦電機工業、ソフトバンクの3社は、踏切設備の故障(警報が持続した状態等)が発生した場合の早期の原因特定と復旧までのダウンタイムの短縮を目的として、「踏切IoTソリューション」の開発に取り組みました。

これまで踏切トラブルはどのように検知されていたのでしょうか

工藤

踏切には「VAM(バム)」と呼ばれる情報メモリーが設置されています。VAMは、踏切制御装置や警報機、遮断機などのさまざまな踏切設備の動作ログを取得することができる、東邦電機工業社が提供する動作記憶装置です。

踏切故障が発生するとJR九州の管制室にアラートが通知され、それを受けて係員が現場へ駆け付け、踏切内の器具箱に収容されているVAMにパソコンをつないで踏切設備の動作ログを取得して解析を行います。

踏切によっては駆け付けるのに時間がかかりますね

工藤

そうなんです。山間部ですと片道だけで2時間かかるとか、その場所に行くのも大変なところもあります。

現場に到着してから踏切設備の動作ログを確認する作業フローですと、原因の特定までに時間がかかるだけでなく、解析の結果、復旧に必要な部材が持参したものでは足りないこともあります。

部材と言っても、遮断機から機器の回路のようなものまで、さまざまなものがあるので、後から追加で取り寄せたり別班が出動するなどの措置がとられると、ダウンタイムが余分にかかってしまうこともあるわけです。

踏切のダウンタイム短縮は長年の課題
踏切のダウンタイム短縮は長年の課題

そこで、現地に行ってからではなく、通信、IoTで遠隔から何かできないだろうかというご相談をいただいたのが開発することになった経緯です。

鉄道関連機器会社とタッグを組んで「踏切IoTソリューション」を開発

どのようにソリューション開発を行ったのでしょうか

工藤

最初にお話したVAMという情報メモリーを開発している東邦電機工業社とタッグを組んで、VAMのIoT化ソリューションを構築しました。

VAMはもともとほぼ全てのJR九州管内の踏切に設置されていましたので、そこにソフトバンクの通信サービスを組み合わせて、現地に行かなくても確認出来る仕組みを作るというものです。

具体的には、LPWA(Low Power Wide Area)通信モジュール「Type 1WG-SB」を搭載した通信デバイスをVAMと接続することで、踏切設備の動作ログをソフトバンクの IoT プラットフォームに収集し、そのプラットフォームを活用することで、遠隔地でもこれまでと同じインターフェースでVAMの情報を取得・解析できるようにします。

プラットフォームとの間でデータを正確・正常に通信するための通信デバイスの開発をソフトバンクが、動作ログデータをプラットフォームから取得するためのアプリケーション開発を東邦電機工業が担当しました。

東邦電機工業とソフトバンクが共同開発した「踏切IoTソリューション」の構成

東邦電機工業とソフトバンクが共同開発した「踏切IoTソリューション」の構成

どんな特長がありますか

根来

開発にあたっては、ランニングコストを抑える、データの正確性・正常性を確保する、運用管理しやすいものとするという3つの条件が提示されていました。

このソリューションでは、通信にLTEの帯域の一部を利用して安価に提供できるLPWAと言われる低消費電力・長距離通信の通信規格の中の、Cat.M1というものを採用しています。採用した通信プロトコルも通信データ量を最適化する工夫をしていますので、ランニングコストを抑えることができます。

正常性・正確性という点に関しては、さまざまな工夫・開発を行いました。通信デバイスをどういう要件で作ればいいのか、踏切器具箱の中にはVAM以外の機器もありますので、仕様に関することを他の機器ベンダーさんとコミュニケーションを取りながら進めました。

また、踏切内に置かれた金属製の箱に通信デバイスを設置するということで、振動や温度条件をふまえた環境性能であったり、無線通信によって送られるデータの正確さを確認するためのチェック機能を入れるなど、データの正常性を担保する工夫を行っています。

運用面でも、遠隔からソフトウェアを更新できる機能を始め、ソリューションを安定的に使う上で必要な機能をふんだんに入れ込んでいます。長くなってしまうので全てをお話しできませんが、今回のソリューションではソフトバンクとしてもさまざまな工夫・開発を行い、通信装置、プログラム、システムなどの技術的な仕組みに関する特許を取得しています。

さまざまな機能を備えて「踏切IoTソリューション」が完成したのですね

工藤

2020年から本格的な仕様検討を開始し、試作機での検証を経て2021年度から商用機を導入しています。1回の出動あたり30分ほどの作業時間短縮につながりそうとのコメントをJR九州様からいただいています。事務所内からだけでなく移動中の車の中からでも、インターネットがつながる場所であればどこからでもプラットフォームにアクセスできるというのは大きな利点と言えるでしょう。

試作段階での試験の様子。VAMに通信デバイスを接続し(左)、車内から遠隔でデータを取得(右)

試作段階での試験の様子。VAMに通信デバイスを接続し(左)、車内から遠隔でデータを取得(右)

復旧対応までの時間が短縮されることで、交通渋滞や歩行者の滞留の時間短縮が期待できる

復旧対応までの時間が短縮されることで、交通渋滞や歩行者の滞留の時間短縮が期待できる

ビッグデータの活用で予知保全を目指す

現在は何カ所の踏切に設置されているのでしょうか

根来

2021年度から商用機の導入を開始し、年度内に100台設置完了しました。2022年度は追加で80台設置する予定です。まずは駆け付けに時間がかかる踏切や交通量が多い道路と交差する踏切から設置が進められています。

JR九州のエリアには約2,600カ所の踏切がありますが、われわれのモチベーションとしては、全ての踏切に置きたいなと思っています。

ビッグデータの活用で予知保全を目指す

遠隔検知できると故障時に早く対応できること以外にも利点がありますか

根来

保全の観点では、TBM (Time Based Maintenance)とCBM(Condition Based Maintenance)という概念があります。5年交換とか1年交換とか、安全率をみて時間を基準にするのが前者。一方、今まで1年交換で使っていたけれどまだ大丈夫だとか、逆に故障のきっかけになるようなデータがとれているので早めに交換した方がよいというように状態を基準にするのが後者です。

現時点でのソリューションの利用方法は、踏切トラブルが起きた時にアラームが発生して、後追いでその踏切にどんなことが起きたのかを確認をしているのですが、定期的にデータを取得していくことでIoTプラットフォームにデータが蓄積され、定常状態と異なるデータが検知されれば「そろそろ壊れる」といった予知につなげられるのではないかと思っています。

状態に即したタイミングでの保全への取り組みは、鉄道業界の課題でありミッションとなっています。VAMで取得できるデータに加えて、たとえば、気温や振動のデータだったり、あるいは、踏切を構成する各種装置にセンサーをつけてIoT によって集まるビッグデータをVAMの情報と組み合わせることで、設備の劣化予測や保守タイミングの最適化につなげられる可能性もあるでしょう。

工藤

駆け付けに片道2時間かかるような現場がある中で、リモートで確認できるようになったことは踏切保全業務の効率化や転換のきっかけになるのではないかと思います。さらに将来のCBMや予知保全に向けて、IoTの基盤となるシステムのネットワーク化は通信事業者が貢献できる部分だと思っています。

踏切IoTソリューションで「鉄道電気技術賞」を受賞

このたびの踏切IoTソリューションの導入により、鉄道電気技術の発展向上に貢献した事業者に贈られる「鉄道電気技術賞」を九州旅客鉄道株式会社が受賞しました。電気部 信号通信課の皆さまからメッセージをいただきました。

踏切IoTソリューションで「鉄道電気技術賞」を受賞

このような名誉ある賞をいただくことができ、ご協力いただきましたソフトバンクをはじめとする関係会社の皆さまにはお礼申し上げます。

記事の中にもあるように、踏切におけるダウンタイムを短縮することは弊社にとって課題の一つでした。

鉄道沿線で使用する装置類は、室内で使用する装置類と異なり、さまざまな厳しい条件をクリアすることが必要です。また、踏切は無数に点在しているため、より安価なものであることも実現のポイントであったと思います。そのような中、打ち合わせを重ね、ソリューションを創り上げることができました。
鉄道におけるDXは道半ばです。今後ともさらなる技術革新のためご協力をお願いいたします。

(掲載日:2022年9月14日)
文:ソフトバンクニュース編集部