今や日本人の国民病ともいわれている肩こり。スマホを長時間使用したり、PCを使ったデスクワークをし過ぎたりすることなどが一因と考えられています。どちらにも共通して言えるのは、長く同じ姿勢でい続けること。それによって、肩こりはもちろん、猫背や巻き肩を引き起こして、普段の姿勢そのものを悪くしてしまうのです。
そこで今回は、アレックス脊椎クリニック院長の吉原潔さん監修のもと、デジタル機器の使用による肩こりの原因や解消法をご紹介。肩こりを予防する習慣についても教えていただきます。
目次
姿勢の悪さが原因? 肩こりが起こるメカニズムとは?
肩こりは一般的に、長時間同じ姿勢でい続けたり、重いものを持ち続けたりすることによって、筋肉が緊張して硬くなることで血流が悪くなり、老廃物が溜まって痛みを発生させると言われています。しかし吉原さんによると、これは医学的に証明されているメカニズムではないのだそう。
「肩こりの原因は、医学的にはまだはっきりと解明されていません。マッサージなどに行くと筋肉が硬い=『こっている』と言われることが多いですが、実は筋肉が硬くても『こっていない』人もいますし、筋肉がやわらかくても『こっている』人がいるんですよ」と吉原さん。
メカニズムには諸説あるものの、首から肩甲骨のあたりまでひし形に走っている「僧帽筋(そうぼうきん)」が過緊張状態になっていることを、いわゆる「肩こり」と表現することが多いといいます。肩こりのメカニズムがはっきりしないのには、1つ大きな要因があります。それは、ストレスなどの心理的な要素が深く関連していることです。例えば、ストレスなどで自律神経が乱れて肩がこる、あるいは「こっているように感じる」ということがよくあります。また、肩こりは頭痛や吐き気、めまいなどを併発することもありますが、これはよく言われる血流の滞りだけでなく、メンタル面からの影響も考えられるためです。
このように、肩こりはさまざまな要因が絡んだ複雑で奥が深いものです。とはいえ、肩こりに悩む人に共通する主な原因として、デスクワークやスマホの長時間使用が挙げられます。長時間、悪い姿勢を続けることで、僧帽筋の緊張状態が続き、肩こりにつながってしまうのです。「普段、気がつくと数時間PCやスマホを触っている」という人は要注意。その他にも、運動不足や加齢なども肩こりの原因として考えられます。
<通常の状態>
<長時間スマホやPCを使っているときの状態>
猫背・巻き肩ってどんな状態?
肩から背中にかけての僧帽筋が上下左右に伸ばされた状態のこと。パソコン作業やスマートフォンの操作などで、首が前に出た状態や、前かがみの姿勢が長く続くと、肩こりだけでなく猫背や巻き肩など見た目への影響も出てきます。
「医学的には猫背や巻き肩という名称は用いませんが、一般的な見分け方として、猫背の場合は「横から見た時に、背中が丸まっている状態」、巻き肩は「上から見た時に、背中が丸まっている状態」を指します。猫背と巻き肩は、両方を併発しているケースがほとんどです。これらを改善するには、日頃から正しい姿勢でいることを心がけ、僧帽筋の緊張状態をやわらげるストレッチなどを取り入れて、若いうちからケアをしておくことが重要です」
まずは、正しい立ち姿勢をチェックしてみよう!
肩こりの改善にも重要な正しい姿勢ができているか、セルフチェックしてみましょう! まず、壁に背をつけて立ちます。このとき、後頭部、肩甲骨、おしり、ふくらはぎ、かかとの5点が壁につくのが正しい姿勢です。
吉原さんいわく、「正しい姿勢とは、天井から降りてきたロープで頭の上からつるされているようなイメージ。頭の真上からスポットライトを照らしたときに、影が一番小さい状態がベストです」とのこと。何となく「猫背の姿勢が楽」と感じている人もいるかもしれません。しかしそれは、本当に正しい姿勢を知らないから。正しい姿勢が本来は最も楽なのだそうです。
自宅でできるセルフケア! 簡単肩こり解消&姿勢改善ストレッチ
次に、肩こり解消につながる自宅やオフィスで簡単にできるストレッチを教えていただきました。
「肩こりに悩まされる人は、筋肉がこり固まらないように、日常的にストレッチでほぐすことも大切です。血行が良くなる上に、休憩時などこまめに行うことで、スマホやPCの長時間使用を避けることもできます」
① 休憩中におススメ! 立って行う壁つきストレッチ
僧帽筋の伸びを防止するストレッチです。腕を高く上げて壁につき、胸を張るようにして、肩から肩甲骨にかけての筋肉をグッと反らしましょう。このとき、肩甲骨のあたりが伸びているのを感じたら上手にできている証拠。デスクワークの休憩中や、スマホを使っているときにこまめに行えば、筋肉がほぐれて、血流も促されます。
② デスクワークの合間に! 座ったままできるロケット体操
オフィスのデスクで座ったままでもできる、僧帽筋のストレッチです。手を大きくゆっくり動かして、背中の筋肉が収縮しているのを感じながら行うのがポイント。
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STEP 01
椅子に腰かけたまま、両手を横に上げます。
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STEP 02
そのままゆっくりと両腕を上げていきます。胸を張り、肩甲骨をギュッと寄せるように意識しましょう。
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STEP 03
そのまま両手を頭上で合わせます。このSTEP1~3の動きを10回程度くり返しましょう。
ここがポイント!
横から見たときに、両腕は体より前に出ないようにしましょう。胸を張り、真っすぐな正しい姿勢で座って行うことが大切です。後ろに壁がある場合は、指先を壁に触れながら行うと上手にできます。
<正しいやり方>
<間違ったやり方>
③ 巻き肩&猫背に効く! 大胸筋伸ばしストレッチ
壁に垂直に立ち、片方の手を壁につけます。手は壁についたまま、体だけ前に出るように力をかけましょう。肩の前側にある大胸筋が気持ち良い程度に伸びたら、反対側も同様に行います。
これらのストレッチは、作業中1時間に一度は休憩して、1日に何度も取り入れるのがおススメです。また、デスクワーク環境を、正しい姿勢を保ちやすいものに変えることも非常に重要です。作業を行う際は、次のような環境づくりを心がけましょう。
- なるべく前かがみにならずに作業できる机や、両足の足裏が地面にしっかりとつく椅子の高さ
- 文字が認識しやすいディスプレイの使用や、部屋の明るさを保つ
- 1つの作業は1時間を超えないようにし、10分ほどの休憩を小刻みにとる
他にも、ぬるめの湯船につかる、散歩などの適度な運動も肩こり改善効果が期待できるそうです。全身の筋肉は相互に作用し合っているため、肩こりだけにピンポイントでアプローチするよりも、全身がほぐれるような方法を心がけるといいそうですよ。
肩こり解消のカギ「習慣化」に役立つ便利なツール
肩こり解消のキーワードは「習慣化」。「肩こりが慢性化してしまうのは、習慣を変えないからです。同じ生活を続けていては、改善しません」と吉原さん。正しい姿勢の意識、環境づくり、ストレッチなどを取り入れて、習慣を変えることで初めて、肩こりの解消につながります。ただ、自分の力だけでは自信がない… という人は、便利なツールを使うのも一つの手です。
① デスクワーカーにおススメ! 1日の運動量がひと目で分かるスマートウォッチ
健康管理やフィットネス管理などができるさまざまなスマートウォッチが出ています。着けているだけで、その日の運動時間や歩数、距離、消費カロリーなどを記録してくれる機能を使えば、運動不足解消のきっかけになるかもしれません。
「タイマー機能を使って、決まった時間にストレッチをしたり、作業時間と休憩時間を計って管理したりするのも、メリハリがついて良いでしょう」
- 健康管理ができる Fitbit 搭載のスマートウォッチ:Google Pixel Watch
② ストレッチやトレーニングを記録してしてモチベーションアップ。フィットネス/ヘルスケアアプリで運動習慣づくり!
その日に行ったストレッチやトレーニングをフィットネスアプリやヘルスケアアプリに記録しておくのもおススメです。何をどのくらい行ったのかを見てモチベーションを上げるのも、習慣化に役立ちます。
「いきなり大きな目標を立てるのではなく、毎日少しずつ、段階的に取り入れることが習慣化のコツです。忙しい人は、カレンダーアプリに、ストレッチをした日に印を付けるだけでもやってみると良いですよ」
- iPhone向けアプリ:フィットネス
- Android向けアプリ:Google Fit
また、吉原さんからは「自分の姿勢がどうなっているかは、自分ではなかなか分かりません。座り姿勢も立ち姿勢も、スマホのカメラでいろんな方向から撮影して、現状を把握するのも良いですよ」というアドバイスも。悪い姿勢は肩こりの大敵。自分の今の姿勢をチェックすることは、肩こり解消への第一歩になります。
意識と習慣を変え、つらい肩こりとサヨナラしよう!
肩こりにはさまざまな要因が複雑に絡み合っていることが分かりましたが、体に良くないことや心の負担になっていることを1つずつ取り除いていくことが重要です。PCもスマホも私たちの生活には欠かせないツールですから、なるべく正しい姿勢、より良い作業環境、適切な連続使用時間を心がけたいものです。
ストレッチなどの運動習慣も取り入れて、自分の体を自分でメンテナンスできるようになりましょう!
あわせて読みたい、肩こりの原因にもなるスマホ首・ストレートネックって?
スマホやPCの長時間使用で引き起こされる「スマホ首」をご存じですか? スマホ首は、うつむいた状態が長時間続くことで、首の前側の筋肉が引っぱられて起こります。首・肩こりや頭痛、猫背、腰痛を招くだけでなく、首のしわ、顔まわりのたるみにつながることも…。スマホ首のメカニズムや予防法、自宅でできるストレッチをチェックしてみましょう!
(掲載日:2023年8月23日)
写真:山野一真
文:佐藤葉月
編集:エクスライト
イラスト:POP CORN STUDIO