首や肩のこりがほぐれない、頭が重い感じがする、眼の痛みやかすみで集中できない……。そんな悩ましい不調の原因は、首が正常な位置より前に出てしまっている「スマホ首」かもしれません。
現代人の約8割が発症しているといわれるこのスマホ首。肩こりや眼精疲労だけでなく、自律神経やエイジングに悪影響を及ぼすこともあるそう。また、スマホの使用だけでなく、長時間のデスクワークが原因になることもあるため、長時間労働に陥りがちなテレワーク時も、注意が必要です。
今回は、整体師の鄭信義先生に、スマホ首の原因や予防法、改善につながる簡単なストレッチについて教えていただきました。
プロフィール
スマホ首の生みの親 鄭 信義(チョン・シニ)先生
整体師。「スマホ首」の名付け親。海外からの来院もあるほどの人気整体師で、常に1年以上先まで予約が埋まっている。テレビ番組「あさイチ」(NHK)など多数メディアでも活躍中。著書に「“スマホ首”があらゆる不調を引き起こす!」(講談社)など。
- ウェブサイト:整体院 チョンさんのところ
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- ※ 取材はオンラインで行いました。
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目次
肩こり、頭痛、首のしわ……。あなたの不調、実は「スマホ首」が原因かも?
スマホやパソコンを長時間使用するなど、うつむく姿勢を続けたとき、私たちは首の後ろ側に違和感を覚えます。整体やマッサージで、「首の後ろ側のこりをほぐしてほしい」とお願いする人も多いのではないでしょうか。しかし、実際に大きな異常を起こしているのは、首の前側なのです。
首の前側には「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)」という大切な筋肉があります。この筋肉が前方に引っ張られて過緊張を起こすと、首のこりや頭痛、めまいなどさまざまな不調が引き起こされます。最近は、うつむいた姿勢でスマホやパソコンを使用し続けて、首が前に出てしまう人が少なくありません。そのため、この状態は「スマホ首」と呼ばれています。
他にも、料理や掃除などの家事に集中しているときや、子どもを抱えるときなども、前傾姿勢になりやすいため注意が必要です。
放っておくとかなり怖い、スマホ首
スマホ首になると、首・肩こりや頭痛、目の疲れ、猫背、腰痛などの影響が出るだけでなく、最悪の場合はヘルニアになってしまうこともあります。また、首のしわ、顔まわりのたるみといった美容面にも悪影響を及ぼす他、自律神経失調症になったり、うつを引き起こしたりするなど、心に影響を及ぼす場合もあります。
スマホ首は、首の前側にある大事な筋肉をカチカチにする
例えば、右手を握って手首を曲げてみると、手首側の筋肉が収縮して、強く緊張するのを感じると思います。「手首側の筋肉=胸鎖乳突筋」と考えると、常に首が前に出た状態であるスマホ首が、首にどれだけ負荷をかけるかがわかりますね。
あなたはスマホ首? セルフチェックをしてみよう
かかと・お尻・肩甲骨・後頭部の4点を壁にピタッと付けて立ってみてください。このとき、後頭部が壁に付かなければスマホ首といえます。もし後頭部を付けられても、胸のあたりが詰まって息苦しかったり、姿勢を維持するのがつらかったりするときは、スマホ首が疑われます。
スマホ首予備軍チェック表
3つ以上チェックが入る場合は、早めに対策をしたいところです。
- スマホを使っているときに、首こり、肩こりを感じる
- 見上げるとき、首に違和感がある
- 首がつまって上を向くことができない
- 長時間うつむき姿勢でいて、姿勢を変えることが少ない
- 目が疲れやすい
- ドライアイである
- 猫背の姿勢がほとんど
- 1日5時間以上、スマホやパソコンを使っている
- 身体が疲れやすいと感じる
- やる気が起きない
- スマホを枕元に置いて寝ている
- 睡眠不足を感じることが多い
- なんとなく身体に不調がある
次ページでは、スマホを使うときの正しい姿勢や、デスクワーク時の姿勢など、スマホ首を防ぐための習慣について紹介します。
スマホ首は「ストレートネック」の予備軍
正常な首は、頸椎(けいつい)がゆるやかなカーブを描いています。この頸椎のカーブが消失した状態が「ストレートネック」。スマホ首によって筋肉が拘縮して固まり、その状態を放置しておくと、関節が変異してストレートネックに発展します。ストレートネックは治すのが非常に難しく、最悪の場合は下半身麻痺につながることもあります。そのような状態に陥らないためにも、正しい姿勢を維持してスマホ首を防ぎましょう。
スマホやパソコンを使うときの正しい姿勢、NGな姿勢って?
スマホ首を防ぐ一番の方法は、正しい姿勢でスマホやパソコンを使用すること。とはいえ、日常的に前傾姿勢や猫背が癖になっていると、どの状態が「正しい姿勢」かわからないという人も多いはず。まずは、基本の正しい姿勢から学んでいきましょう。
① スマホを使用する際の正しい姿勢
椅子に座り、足の付け根に手を置いて、軽く胸を張ってみてください。すると、基本の正しい姿勢を簡単につくることができます。スマホを使うときは、この姿勢のまま脇をしっかり締めて、画面を目線の高さに合わせるのが理想です。もしこの姿勢を保つのが苦しい場合は、最低限、前傾姿勢にならないように気を付けましょう。
「私は、椅子にもたれかかって、斜め上を向くようにしてスマホを使うようにしています」
気を付けたい、スマホ使用時のNG姿勢
前傾姿勢以外に気を付けたいのが「ベッドで横になってスマホを見る」体勢。横向きに寝転がってスマホを長時間使うことで、片方の目の視線が鼻側に寄る「急性内斜視」になる人も増えているそうです。不自然な姿勢のため、当然ながら首にも負担がかかりますし、失明につながる恐れもあるので、ベッドに横になってスマホを使うのはやめましょう。
② パソコンを使用する際の正しい姿勢
パソコンを使うときも、基本の正しい姿勢を意識しつつ、椅子に深く腰かけ、足裏全体が床に接するように座ります。ディスプレイは目線と同じ、もしくはやや下になる高さで、40cm以上距離をあけて使用するようにしましょう。ノートパソコンを使用する場合は、スタンドなどを使って目線を調整するのがオススメです。(厚生労働省:自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備)
簡単トレーニングで体幹を鍛えよう
正しい姿勢がわかっても、体幹がしっかりしていなければ、その姿勢を維持するのは難しいそう。そこで、運動が苦手な人でも、簡単にできる体幹トレーニングをご紹介します。
- 椅子に座り、両手を組んで手の平を返す
- そのまま手を前に突き出して、腰を少し浮かせてまた座る。この動きを1日30回繰り返す
「このトレーニングなら、テレビやネットを見ながら体幹を鍛えられますし、下半身で一番大きな大腿四頭筋とハムストリングスも同時に鍛えられます。これ以外には腹筋も、体幹を鍛えるのにオススメですよ」
次ページでご紹介するストレッチも併せて習慣化し、スマホ首による心身の不調を未然に防ぎましょう。
テレワークでも心がけて。1時間に一度の休憩で眼の疲れを予防
眼球の運動は、首の後ろ側にある「後頭下筋群」という筋肉がつかさどっています。長時間デスクワークをしたり、スマホで動画を見続けたりすると、眼球が休むことなく左右に動き、後頭下筋群が緊張します。眼の疲れが首こりや頭痛につながるのはこのため。最近は、テレワークで家の中に長くいて、遠くを見る機会が減っている人も多いはず。1時間に一度は休憩を取り、窓を開けて外の風景を眺めることが眼の疲れの解消につながりますよ。
「スマホ首」を改善! おうちやオフィスでできる、簡単ストレッチ&秘伝のツボ
大掛かりなストレッチやトレーニングはなかなか習慣化しにくいもの。そこで、鄭先生に、自宅やオフィスでできる簡単なストレッチや、スマホ首の改善に効果的なツボを教えていただきました。
その1 胸鎖乳突筋を狙って伸ばす “スマレッチ”で、スマホ首をリセット
耳の下から胸にかけて伸びる胸鎖乳突筋は全体を伸ばすのがなかなか難しい筋肉ですが、鎖骨を手で押さえてロックすることで、端から端までグーンと伸ばすことができます。デスクでも簡単にできるため、1日3回を目安に続けてみましょう。
- 右手で左の鎖骨から肩甲骨にかかる部分を手で押さえる
- その状態のまま、一度ゆっくり上を向く
- 上を向いたまま右側に首を倒し、15秒キープ。反対側も同様に行う
その2 舌骨筋ストレッチで首の“老け見え”を防ぐ
スマホ首は、首のしわなどエイジングにも影響を及ぼします。うつむく姿勢を続けることで、首にしわが寄り、年齢よりも老けて見えてしまうのです。以下のストレッチを1日5〜6回行い「舌骨筋」を鍛えることで、首のしわを改善し、老け見えを防ぎましょう。
- 顔を上に向け、口を横に「イーッ」と広げる
- その後、舌を「ベーッ」と出す
スマホ首による不調を改善する3つのツボ
首・肩こりや頭痛、眼の疲れなど、スマホ首による不調の改善に効果的なツボを、3つご紹介。
- 和髎(わりょう)…耳のすぐ上にあるツボ。頭痛や眼精疲労の改善に効果がある。
- 天容(てんよう)…耳の下、胸鎖突乳筋の一番上にあるツボ。首や肩のこりを解消するほか、血流を促し自律神経のバランスを取る効果もある。
- 風池(ふうち)…首の付け根にあるツボ。和髎と同じく、頭痛や眼精疲労の改善に効果がある。
手はL字形、親指でツボを押しましょう
ツボを押すときは、手をL字形にして後頭部に当て、親指で押していきます。目を閉じてこれらのツボを押しながら、深呼吸を3回してください。圧の強さは、痛気持ちいい程度で。強く押しすぎるのはNGです。
お風呂に浸かって筋肉をほぐすのも効果的
40℃程度のお湯に、10〜15分程度浸かるのがオススメ。半身浴でもいいですが、首まで浸かることで、筋肉繊維をほぐせます。シャワーばかりでは体が冷えて筋肉が緊張するため、できるだけお湯に浸かることを心掛けましょう。
美しい姿勢と首のカーブを維持して、心身を健やかに保とう
首は身体の中でも特に大切な部位のひとつです。今回ご紹介した体幹トレーニングや、オフィスや自宅で簡単にできるストレッチを習慣化することで、美しい姿勢や首のカーブを維持し、心身ともに健やかに過ごせるよう心がけていきましょう。
一緒に読みたい、「スマホ二重あご」の今すぐできる対策
「スマホ首」「ストレートネック」のほかに、ここ最近はマスク生活で顔まわりの筋肉が硬くなり、ふと気づくと、むくみやたるみになる「スマホ二重あご」で悩む人が増えています。二重あごの原因や対策、自宅で今すぐにできるセルフケアの方法を専門家に聞きました。
(掲載日:2020年6月10日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
イラスト:POP CORN STUDIO