通信が届きにくい海上で、大切な人と連絡を取ったり、動画視聴などの娯楽を楽しむことが難しい海運業界の生活。こうした課題に、衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」で解決に挑んだのは旭タンカー株式会社(以下「旭タンカー」)。海上で高品質なインターネット環境を整備するまでの道のりとは一体どのようなものだったのでしょうか。担当したお二人に、お話を聞きました。
旭タンカー株式会社 国内事業第二部 事業開発チーム チームリーダー
大泉 親 (おおいずみ・ちかし)さん
事業開発チームに所属。事業や労務環境の改善などに対して、新しい取り組みの導入を担当。
旭タンカー株式会社 船員部 船員育成チーム チームリーダー
野村 宏祐(のむら・こうすけ) さん
船員部に所属。乗組員の教育や研修、採用などを担当。
海上でもつながることを当たり前に
陸地から遠く離れた海上を運航する船舶は、地上の基地局や光ファイバーなどの通信インフラを利用することができません。そのため、一度、航海に出ると、乗組員は家族や大切な人とのコミュニケーションをとることや、スマホで娯楽を楽しむことができにくい状態が数十日続くこともあります。こうした船上での生活環境は、スマートフォンが生活に欠かせない存在になった時代、あらゆる世代に切実な課題であると同時に、SNSや動画をよく使う若年層の人材採用を特に厳しくしている要因になっています。
旭タンカーは、石油やケミカル製品の海上輸送を主力とし、内航・外航合わせて約160隻と国内トップクラスの船舶を所有・運航しています。長年、こうした海上での通信環境に課題を感じており、通信環境の改善のため「Starlink Business」を導入したといいます。
衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」

通信速度が期待値で最大下り220Mbps、上り25Mbpsと信頼性の高いインターネット接続を実現できる「Starlink Business」。地上からの電波が届きにくい海上や山間部などの地域に空から通信を届けることで、通信インフラが不十分な地域においても、快適な通信環境が構築できます。
今回、旭タンカーは、ソフトバンクが海上向けに提供する「Starlink Business」のサービスを活用。船にアンテナを設置することで、地上のネットワークと同様にWi-Fiルーターからスマホやパソコンなどのデバイスに接続することができます。
「海上から家族と連絡がとれない」「リアルタイムに業務連絡ができない」を解消したい
Starlink Businessの導入以前に感じていた課題はどのようなものでしたか?
野村さん 「船舶業界全体に言えることとして、特に人手不足がとても深刻な課題となっています。『タンカーの乗組員は大変そう』というイメージがあり、なかなか人が集まらない業界なので、なんとかして魅力を伝えていかなくては、と感じていました。また、ベテランの方がだんだん高齢化してきて、若い人が入ってきても途中で業務負担を感じて辞めてしまう方も多く、人手不足が一層深刻になっています」
これまでどのような取り組みをしてきましたか?
大泉さん 「人手不足を解消するためにDXの推進や働き方改革、当社の認知度の向上などに、この数年間取り組んできました。その取り組みの一つとして、2年前に運航を開始した世界初のピュアバッテリー電気推進タンカーです。振動がほとんどない快適な労働環境を提供する試みで、業界での認知度を上げたいという狙いがありました」
そうした課題の一つの解決策として、今回通信環境というところに着目されたというわけですね。
大泉さん 「基本的に海上に出ると通信がつながりにくいので、家族や友だちに連絡することが難しくなってしまいます。乗組員が辞める理由の一つに、家族や恋人と数十日間連絡が取れない寂しさがあげられます。乗組員が通信環境に不満を抱えるという課題を常に感じていました」
プライベートの部分だけではなく、業務上で通信ができないことで何か支障はありましたか?
大泉さん 「海上で通信ができないことによって業務に支障が出ることはありますね。メールなども通信環境がある場所に近づくと一気に送受信するような状況で、タイムリーにやり取りができない状況でした」
野村さん 「乗組員の労務管理は私たち陸上のスタッフが対応しています。船上に通信環境がないと、オンラインの労務管理サービスを使うことができません。乗組員の働き方改革などもあり、かなり労務管理は厳しくなったのですが、リアルタイムの労務管理ができず、そうした面でも通信環境を整えることは重要でした」
導入の際、設置にはどのくらいの時間がかかりましたか?
大泉さん 「港に停泊しているタイミングで2日程度で設置できました。設置は自分たちでもできるぐらい簡単でした」
労働環境の改善だけではなく、業務の可能性を広げる通信
通信環境が整った後、どのような労働環境の変化がありましたか?
大泉さん 「本格導入する前に、試験利用してみたところ、ダウンロードの速度が50倍に、アップロードが115倍に上昇したと聞いています。実際につながるようになって、乗組員が友人や家族に連絡ができたり、動画やSNSをタイムリーに見ることができるようになり、労働環境が改善されたと担当者として感じています。家族とビデオ通話ができるようになったことが非常にうれしいという話も聞きますね」

人材採用や業務のDX推進においては、どのような変化がありましたか?
野村さん 「学校訪問や企業説明会などでは、決まって通信環境について聞かれるくらい、船の上でも通信できるかどうかは学生にとって非常に大事なことです。今は、採用活動時に『船の上でもつながります』とアピールしています」
大泉さん 「船の上でも教育の一環としてeラーニングもできますし、DXが進むことで業務の可能性はとても広がったと考えています」
ソフトバンクは、NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)ソリューションの活用により、海上など陸上基地局の電波が届かないエリアの通信環境の整備に取り組んでいます。
(掲載日:2025年1月27日)
文:ソフトバンクニュース編集部
法人向け低軌道衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」

通信環境が整っていない地域や、事業継続計画(BCP)対策、海上・船舶などにおいても、高速かつ低遅延なデータ通信を利用できます。