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テキストが感情を持つ声に。「音声生成AI」で広がるクリエイティブの可能性

テキストの読み上げから楽曲制作まで! AI専門家に聞く、音声生成AIができること

音声生成AIは、街中のアナウンスや教育現場の教材、エンタメコンテンツなど、さまざまなシーンで活用が広がっています。一方で、「どんなツールがあるのか」「どう活用すればいいのか」と、疑問に感じている方も少なくないはず。そこで今回は、音声生成AIの基礎知識から実践的な活用方法まで、AICX協会代表理事の小澤健祐さんにお話を伺いました。

音声生成AIで、より人間らしいリアルな声を作れるように

ビジネスから日常生活まで、あらゆるシーンで活用が進む「音声生成AI」。まずは、音声生成AIがどのようなツールで、どんな機能を持っているのか、小澤さんに解説していただきました。

はじめに、音声生成AIとはどのようなツールなのかを教えてください。

小澤さん 「音声生成AIとは、テキスト(プロンプト)や音声データを入力することで、AIがその特徴を学習し、新たな音声を生成するツールです。さまざまな形式のデータに対応しており、例えば動画を入力すると、その内容に合ったBGMを生成することもできます。また、特定の人物の声を大量に学習させることで、その人とほぼ同じ声質の音声を再現することも可能です」

音声合成や音声認識との違いは何でしょうか?

小澤さん 「これまでの音声合成や音声認識は、基本的にルールベースでした。例えば初音ミクの音声には、どこか機械的に聞こえる部分がありましたよね。それは、発音やイントネーションなどがすべてルールにもとづいて定義されているために、『この場面ではこう発音する』という細かいニュアンスに対応できなかったからなんです。その点、音声生成AIでは、より自然で滑らかな音声の生成が可能になりました。つまり、柔軟で人間らしい発話を実現できることが、音声合成や音声認識との大きな違いです」

音声生成AIを使用すると、どんなことができるのでしょうか?

小澤さん 「入力したテキストを自然な音声で読み上げる『テキストの読み上げ』や、ある人の声を別の人の声に変換する『声質変換』、ナレーションや音声ガイドを作成する『音声合成』など、さまざまな機能があります。また、音声生成AIは言語翻訳にも対応しているので、ある言語のテキストを別の言語に翻訳し、その翻訳結果を音声として出力することも可能です」

楽曲制作からポッドキャストまで! 音声生成AIの使い方と活用のコツ

ここからは、音声生成AIの基本的な使い方について、小澤さんに解説していただきます。さらに、代表的なツールを比較し、それぞれの特徴や適した用途についてもご紹介します。自分の目的に合うツールを選び、音声生成AIを効果的に活用していきましょう!

音声生成AIの基本的な使い方

音声生成AIを初めて使う方に向けて、基本的な使い方を教えてください。

小澤さん 「音声生成AIの一般的な活用の流れは以下の通りです。

  1. 目的を明確化する
    音声生成AIを使用する具体的な目的や指示を出すための条件を明確にする
  2. 目的に合うツールを選ぶ
    音声生成AIツールの特徴を知り、自分の目的に合うものを選ぶ
  3. アカウントを作成し、初期設定を行う
    使用するAIツールの公式サイトからアカウントを作成し、出力する言語や形式などの初期設定を行う
  4. 入力データを準備する
    音声生成AIに学習させるデータ(テキストや音声データなど)を準備する
  5. 設定の選択をする
    音声の速度やトーン、声の性別や年齢、感情などを選択する
  6. 音声生成を実行する
    入力したテキストや音声データをもとに、AIが音声を生成する

音声生成AIは、ツールによって機能が異なります。さらに、今後は音声が自動で生成されたり、再生ボタンを押すだけで利用できたりするサービスが登場すると思われます。ただ、どのツールでも、基本的には『どんな声で話すのか』を細かく決める工程が大切です。声のトーンやニュアンス、シチュエーション、性別といった要素を調整することで、より意図に合った自然な音声を生成することができます」

目的に合わせて選ぼう。音声生成AIの代表的なツール

音声生成AIの代表的なツールについて教えてください。

小澤さん 「現在、さまざまな音声生成AIツールが登場していますが、今回は代表的なツールを5つピックアップしました。それぞれの特徴についても簡単にご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください」

サービス名
(提供企業)
特徴
VALL-E
(Microsoft)
Microsoftが開発した音声合成AI
わずか3秒の音声サンプルから、話者の声色や抑揚、感情表現まで再現できる
Google Cloud Text-to-Speech
Google
Google の先進的なAI技術を活用した音声生成AI
テキストデータを自然で人間らしい音声に変換できる
Google AI Studio
Google
Google が提供する無料のAI開発プラットフォーム
直感的に操作できるため、初心者でも簡単に利用可能
CoeFont
(CoeFont)
日本発の音声合成プラットフォーム
自然なイントネーションと多彩な音声バリエーションが特徴で、日本語対応に強みを持つ
Voicevox 完全無料・オープンソースの日本語音声合成ソフト
キャラクターボイスが豊富で、自由度の高い利用が可能

上記のほかに、おススメの音声生成AIツールがあれば教えてください。

小澤さん 「ほかに2つあります。1つはGeminiを用いたAIリサーチアシスタントの『NotebookLM』です。NotebookLMでは、アップロードしたデータをもとに、2つのAIが対談形式で要点を解説する、ポッドキャスト風の音声コンテンツを自動生成できます。

もう1つはアメリカのSuno,Inc.社が開発した音楽生成AI『Suno』。これは、テキストから高品質な音楽を自動生成できるサービスです。例えば、まずGeminiで私のプロフィールを入力し、『私をテーマにした短い曲の歌詞を考えて』といった指示を出して歌詞を生成してもらいます。その歌詞をSunoに入力すると、さまざまな曲調で楽曲を作ってくれます」

「Suno」で生成した、小澤さんをテーマにした楽曲

「Suno」で生成した小澤さんをテーマにした楽曲

目的を明確にすることが音声生成AIを使いこなすコツ

音声生成AIを使いこなすコツを教えてください。

小澤さん 「まず、音声生成AIを使う目的を明確にすることですね。例えば『毎日のニュース記事をラジオ風に聞きたい』や『自分で楽曲を作りたい』など、自分がどのようにして音声生成AIを活用したいかを確認してみるといいと思います。

また、音声生成AIを活用するうえで最も重要なのは、AIに読み込ませるテキスト(プロンプト)の内容と構成です。テキスト作成は、文章生成AIに任せるのがおススメです。例えば、Geminiに『ラジオの原稿を作成。アナウンサーとお笑い芸人がトークする』といったプロンプトを入力すると、ラジオ番組風の台本を生成してくれます」

「Gemini」でラジオ番組風の台本を生成した例

「Gemini」でラジオ番組風の台本を生成した例

効果的なプロンプトの書き方については、こちらの記事をご覧ください。

今、音声生成AIはどんなシーンで活用されている?

テキストの読み上げから楽曲制作まで! AI専門家に聞く、音声生成AIができること

音声生成AIは、私たちの日常生活に浸透し始めています。ここからは、音声生成AIの活用事例と使用時の注意点について解説します。さらに、音声生成AIを活用するメリットと今後の展望についても、小澤さんにお聞きしました。

音声生成AIの活用事例と3つの注意点

音声生成AIは、現在どのようなシーンで活用されているのでしょうか? 活用事例について教えてください。

小澤さん 「日常生活のさまざまなシーンで活用が進んでいます。具体的には、コールセンターでの自動応答、駅や公共施設でのナレーション・アナウンス、学習教材でのテキスト読み上げ、ゲーム内のキャラクター音声の生成などが挙げられます。また、最近では、YouTuberも、動画のナレーションに合成音声を利用しています」

音声生成AIを使用する際の注意点を教えてください。

小澤さん 「注意点は3つあります。1つ目は、著作権侵害のリスクを考慮することです。例えば、著者の許諾を得ずに小説を読み上げた動画を公開すると、公衆送信権の侵害になります。

2つ目は、固有名詞の読み方に注意すること。音声生成AIは、特定の固有名詞や地名、人名を正しく読み上げられないことがあります。特に、読み方が定まっていない名前や珍しい名前は、誤読のリスクがあります。

3つ目は、当たり前ですが、音声生成AIを悪用しないことです。特に、犯罪に利用することは絶対に避けなければなりません。音声生成技術を使って人々を欺いたり、社会的に有害な目的で利用したりすることは厳禁です。倫理的な使用を心がけましょう」

生成AIと人間との関係を深める? 音声生成AI活用のメリット

音声生成AIを活用するメリットや、今後の展望について教えてください。

小澤さん 「メリットとして、一般的には『人件費の削減』や『アクセシビリティの向上』などが挙げられますが、さらに深掘りして考えると、生成AIと人間との関係構築において大きな可能性があると感じています。テキストだけではその人らしさを伝えるのが難しいですが、音声にすることでパーソナリティをより強く感じさせることができます。この音声生成の技術が、従来のチャットボットやAIエージェントと組み合わさることで、人間と生成AIの関係性を築きやすくなる効果が期待できます。

例えば、この技術をコールセンターで活用することで、顧客満足度の向上につながるかもしれません。また、自分の好きな声でeラーニングを受けられるようになれば、学習意欲の向上にもつながるでしょう。

効率化はもちろん大事な要素ではありますが、個人的にはビジネスモデルがどのように変わるのか、そしてユーザー体験がどう向上していくのかといった視点で考える方が、より面白いと思っています」

「今後は、日常生活の中で音声生成AIに触れる機会がますます増えるはず」と話す小澤さん。自分に合ったツールを選び、使い方を工夫することで、移動や学習、クリエイティブな作業など、さまざまな体験がより充実したものになるはずです。本記事を参考に、音声生成AIを仕事や趣味に活用してみましょう。

小澤 健祐(おざわ・けんすけ)さん

教えてくれた人

AICX協会代表理事

小澤 健祐(おざわ・けんすけ)さん

「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに掲げ、AI分野で幅広く活動。著書『生成AI導入の教科書』の刊行や1000本以上のAI関連記事の執筆を通じて、AIの可能性と実践的活用法を発信。一般社団法人AICX協会代表理事、一般社団法人生成AI活用普及協会常任協議員を務める。また、さまざまなAI企業の経営にも参画。

(掲載日:2025年7月15日)
文:東谷好依
編集:エクスライト