
畜産領域の獣医師不足は、今や全国的な課題です。なかでも日本最大の酪農地帯 北海道では、広大な大地で牧場への獣医師の往診の負担が大きいことが深刻化しています。こうした課題の解決策の一つとして、家畜の遠隔診療サービスを活用した取り組みが始まっています。
2025年6月4日、北海道農業共済組合(以下「NOSAI北海道」)とSBテクノロジー株式会社(以下「SBテクノロジー」)は、北海道江別市の小林牧場で家畜の遠隔診療サービス「アニマルック」のデモンストレーションを実施しました。スマートフォンやタブレットで牛を診療する仕組みを紹介します。
広大な酪農地帯をオンラインでつないだ家畜の遠隔診療サービス
北海道は、乳用牛の飼育頭数が全国の約60%※1、生乳の生産量は約56%※2と半数以上を占めるなど、国内最大の酪農地帯として知られています。一方、日々の家畜の健康を支えている獣医師は、1件の診療にかかる長距離の移動や、冬の厳しい気象条件などにより、非常に大きな業務負荷を抱える状況です。こうした家畜の診療現場の状況に加えて、慢性的な獣医師不足や感染症への対策など、複合的な課題が存在しており、北海道に限らず全国的な社会課題となっています。こうした状況を改善するために、北海道農業共済組合(NOSAI北海道)が家畜の遠隔診療サービス「アニマルック」を導入し、現場の負担軽減や業務効率の向上を目指しています。
- ※1
農林水産省:畜産統計(令和6年2月1日現在)
- ※2
農林水産省:牛乳乳製品統計(令和7年4月分)
「アニマルック」は、獣医師が遠隔診療を行う際に必要なビデオ通話機能や診療予約、診療管理などを一括で提供するサービスです。2024年4月にSBテクノロジーが開発し、これまでにNOSAI北海道やNOSAI沖縄に導入され、さらには大学や研究機関などとも、遠隔診療の活用に向けた普及を進めています。

「アニマルック」でできること
酪農家はスマートフォンのLINEやWebからアニマルックにアクセスし、診療予約から遠隔診療までを簡単に完結。診療履歴はクラウドで一元管理され、いつでもどこでもアクセスできます。
- ビデオチャット
獣医師と酪農家は診療の予約から実際の遠隔診療まで、すべてをスマートフォン、タブレット、またはパソコンで対応 - 予約管理
獣医師が診療可能時間を登録しておくことで、ユーザーは空き時間をアニマルック上で確認して予約が可能 - 診断記録の管理
診察履歴を簡易的に記録できる。画像や動画、PDF等のデータ保存も可能 - 死亡診断
GPS位置情報付きの画像データによる死亡診断機能を搭載 - クラウド管理
データを一元的に管理でき、PC、スマートフォン、タブレットなどあらゆる端末から場所を問わず獣医師、酪農家は共通データにアクセスが可能

遠隔診療のデモンストレーションは、江別市の小林牧場と、離れた場所にいる獣医師をオンラインでつないで行われました。
牧場側は、LINEのアニマルックのトーク画面から、獣医師はアニマルックの管理画面をそれぞれ起動します。牛の体調や体温などの基本的なデータの他に、牧場側でタブレットで撮影された牛の症状や全身や患部の様子などを獣医師が確認しながら牛を診察。診察が終了すると、履歴が「アニマルック」上で保存される仕組みです。

牧場(酪農家)

獣医師による遠隔診療の様子
酪農家と獣医師、双方の負担を軽減する「アニマルック」
デモンストレーションを担当したのは、北海道農業共済組合 石狩北部家畜診療所の獣医師 富永翔太氏と小林牧場 代表の小林紀彦氏。
同診療所は、札幌市など5市町村にまたがる広範囲の診療を担当しています。交通状況や天候などの影響により、事前に伝えた時間より牧場への到着が遅れることがあるそうです。 富永氏は、「距離や時間に左右されない診療が可能になれば、往診の合間のすき間時間などに遠隔診療を実施するなど工夫次第で獣医師の働き方が大きく変わります。また、酪農家の待ち時間が減ることで、双方にとっての効率化につながると考えています」とコメントしました。

(左)小林紀彦氏、(右)富永翔太氏
一方、600頭もの牛を育てている小林牧場は、日々の搾乳や掃除の合間に、牛の体調を確認し、必要に応じてNOSAI北海道の獣医師に往診を依頼。現在は比較的症状の軽い牛の初期治療や夜間など獣医師に往診を依頼するかどうか判断に迷う時など月に10回ほど遠隔診療を利用しています。
小林氏は、「アニマルックを使い始めた頃は操作に慣れが必要でしたが、今では問題なく使えています。スマートフォンの通常の会話なので、軽い症状なら往診を待たずに初期治療ができるため、なんでも相談できる“かかりつけ医”のような安心感があります」とアニマルックの活用効果を説明しました。

SBテクノロジー 執行役員 セールス&マーケティング本部 本部長 兼CMO 上原郁磨は「アニマルックは農林水産省の『2024年 農業技術10大ニュース』に選定された優れた技術です。遠隔診療に加え、GPS情報付き画像送信も可能で、災害時や教育現場などさまざまな場面での活用が期待されています。」と語りました。

NOSAI北海道は、2024年4月のアニマルック導入以降、北海道全域で獣医師や牧場への説明活動を行い、利用促進を進めてきました。NOSAI北海道 家畜部 部長の中尾茂氏は、「昨年4月からアニマルックを導入し獣医師へ操作説明会を実施。その後酪農家に普及活動を始め昨年秋から『アニマルック』の利用が始まり、約250件の遠隔診療が実施されました。今後さらに利用が進めば、一気に遠隔診療は普及すると考えています」と、期待を込めました。
(掲載日:2025年7月15日)
文:ソフトバンクニュース編集部





