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医師の言葉や動作と連動するアバターロボット。長崎県五島市で医療MaaSによる精神科の遠隔コンサルテーションを実証

医療機関や医師の不足などの課題を抱える長崎県五島市。通院が難しい認知症の方に対し、車両が患者宅や施設などを訪れ医療サービスを提供する「医療MaaS」で、アバターロボットを用いた遠隔コンサルテーションの実証が行われました。
長崎県五島市、MONET Technologies株式会社(以下「MONET」)、長崎大学病院および株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「ATR」)が連携したこの取り組みについて、実際にコンサルテーションを実施した医師やアバターロボットおよびシステムの監修を行った研究機関の所長、MONETの担当者の話を交えて紹介します。

医師不足や地理的制約、高齢化… 離島地域の課題に “移動する” 医療を

五島灘と東シナ海に囲まれた離島に位置する長崎県五島市・福江島。長崎港からフェリーで片道約3~4時間かかるこの島では、住民の医療機関へのアクセスに課題を抱えています。
島内にある病院でも通院に片道1時間以上かかるケースもあり、本土の病院へも長距離移動や費用面での負担により通院が困難な方も少なくありません。また、医師の数の少なさから、往診が難しいため医療が行き届かないという課題がありました。

さらに、島内では住民の高齢化に伴い、歩行速度や筋力が低下する「フレイル」の状態にある高齢者も見られるようになっています。日常生活の中で歩く機会や運動量が減ると、身体機能だけでなく認知機能にも影響を及ぼし、認知症のリスクが高まる可能性があるといわれています。

このような状況を受け、離島地域における医療MaaSを用いた遠隔診療の可能性を広げるべく、五島市とMONET、長崎大学病院、ATRは2026年2〜4月にわたり、医療MaaS車両による認知症のある方への遠隔コンサルテーションの実証を行いました。

診療への心理的なハードルを下げる「アバターロボット」による新たなアプローチ

今回の実証で使用されたのは「Sota」というロボット。病院にいる医師が顔や手を動かすと、その動きに合わせてSotaが連動して動きます。ロボットが医師のアバター(分身)となり、患者との会話やコミュニケーションをとることが可能になるという試みです。

今回の実証は、長崎大学病院 教授の熊崎さん、谷保さん、ATRの宮下さん、MONETの水谷さんが中心となりプロジェクトが進行されました。実施にあたっての背景や、アバターロボットを活用した理由はどのような点にあったのでしょうか。

話を聞いた人

熊崎 博一(くまざき・ひろかず)さん

長崎大学病院
精神科神経科 教授

熊崎 博一(くまざき・ひろかず)さん

離島・へき地における医療課題の研究、改善などに取り組み、本実証における医療機関側のマネジメントを行う。

谷保 康一(たにほ・こういち)さん

長崎大学病院
精神科神経科

谷保 康一(たにほ・こういち)さん

本実証で病院からロボットの操作を行い、認知症のある方との遠隔コンサルテーションを実施。

宮下 敬宏(みやした・たかひろ)

株式会社国際電気通信基礎技術研究所 インタラクション科学研究所 所長

宮下 敬宏(みやした・たかひろ)さん

本実証で使用されたロボット「Sota」と遠隔操作システムの提供、監修を行う。

水谷 誠(みずたに・まこと)さん

MONET Technologies株式会社
MaaS共創部 副部長

水谷 誠(みずたに・まこと)さん

本実証プロジェクト全体の進行管理やシステム提供、車両の運用調整などを担う。

今回の実証を行った背景を教えてください。

水谷さん「MONETでは、これまでにも内科検診や妊産婦健診への対応など、課題に合わせたさまざまな形態で医療MaaSの提供を行ってきました。今までは身体的な診察が中心でしたが、対話が治療の根幹となる精神科においても親和性が高いと考え、新たなサービス提供領域として検討を進めてきたのが背景です。
精神科では特に通院に対する心理的なハードルが高いと言われています。また、離島である五島市は物理的にも通院が難しい地域。医療MaaS車両と連携することでさらなる可能性が広がると考え、長崎大学病院の熊崎さんに提案を行いました」

なぜ、アバターロボットが導入されたのでしょうか?

熊崎さん「アバターロボットを使った診療は、認知症高齢者などの方には画面越しに医師と会話するよりも高い治療効果があるとされており、自身の過去や服薬といったプライベートな話題も話しやすくなる傾向があるという研究報告もあります。今回は、ATRの協力によりSotaを提供いただきました」

水谷さん「診療を受ける方は、医療機関へ行くこと自体、ましてや精神科を受診することに強い抵抗感を持つ方が多い傾向にあります。地域で普段から目にする診療車が自宅近くに赴くことで、通院への負荷を下げるとともに、かわいらしい見た目のアバターロボットとのコミュニケーションにより、診療への警戒心や心理的なハードルを下げ心理的受容性を高めるという狙いがあります」

今回使用されたSotaにはどのような期待がありましたか?

宮下さん「今回提供したSotaは、遠隔操作ロボットや3D映像技術などを用いて、身体的能力・知覚・認知能力を拡張する “身代わり” 技術とも呼ばれるサイバネティック・アバター技術が使われています。この技術と医療MaaSを組み合わせることで、地理的な制約に依存しない新しい医療アクセスの形を実証することへの期待がありました」

今回の実証では、五島市が従来より島内で内科診療を実施している医療MaaSの車両を活用。車内には、遠隔で診察する医師が表情や動きをしっかり見られるように患者の正面にSotaを配置し、さらに全体の様子が見られるよう斜め上方にもカメラが設置されました。

実際に遠隔で医師と会話を行ったのは80代の方。長崎大学病院と五島市の医療MaaS車両で、2回にわたり遠隔診療の前段となるアバターロボットを介した遠隔コンサルテーションが行われました。

地域に安心と持続可能な医療を届ける。医療MaaSの持つ可能性

実証を終えて、アバターロボットの活用による成果や今後の遠隔診療への展望などについて、お話をうかがいました。

離島地域における精神科の診療にはどのような課題がありますか?

熊崎さん「精神科に限らず、離島やへき地においては公共交通の撤退や高齢化の進行、施設の老朽化などの課題があります。医師不足も深刻な課題で、病気の発症やけがをして間もない急性期の患者の受入体制の維持や、効率的な医療体制の整備が大きな課題となっています」

今回の2回にわたる実証で、アバターロボットを活用したことによる感想や成果を教えてください。

谷保さん「それぞれ30分程度の会話を行い、全体を通して比較的スムーズにやり取りをすることができました。対面とは異なり、通信や機器の影響で相づちや問いかけなどのタイミングがずれてしまうことがありましたが、高齢者に対しては会話のテンポを意図的にゆっくりにすることが多いので、大きな問題には感じませんでしたね」

宮下さん「2回の実証を通じて、私たちが予想していた以上に、実用性の高い仕組みを構築できたと思います。特に、アバターロボットを遠隔操作する医師が医療支援上の不自由をほとんど感じなかった点は大きいです。また、車両に同乗した看護師との連携により、対面での診療に近い形での支援が実現できた点も大きな成果。運用面の課題も明確になったので、改善に向けて取り組んでいきます」

病院側からの遠隔操作の様子。医師が操作を行うとアバターロボットの動きに反映される

アバターロボットに対する認知症の方の反応について教えてください。

谷保さん「アバターロボットについては、問題なく受け入れられていたと思います。難聴がある方との会話でしたが、こちらの発言内容をしっかり聞き取れており、おおむね問題なく会話できました。コンサルテーションを終える際に手を振るモーションをしてみたところ、少し笑顔も見られました」

宮下さん「遠隔であることによる患者の抵抗感は思っていたより小さかったです。Sotaのような親しみやすい外観のロボットを用いることで、自然なコミュニケーションが生まれやすい傾向が見られました。これは、Sotaの動きが作り出す存在感を伴った支援が、単なるビデオ通話とは異なり、診療への心理的なハードルを下げ、信頼関係の形成にも寄与しているためだと考えられます。
また、医療MaaS車両が自宅の近くまで訪問することで、通院負担の軽減だけではなく、『人目を気にせず相談できる』という安心感が得られる点も、従来の医療機関中心のモデルでは実現しにくい価値ですね」

通信環境の安定化を図るため衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」を導入し、対面と遜色のない円滑な会話を実現

今後の展望や、取り組みたいことを教えてください。

熊崎さん「離島やへき地の医療を支える有力な手段として、今回の実証のような医療MaaSが大きな可能性を持つことは間違いないと思います。ただし、日常生活が困難なほどの重症精神疾患を持つ患者に向けた医療MaaSを含めた遠隔精神医療の提供は重要な課題もあります。今後も実証を重ねて課題を一つずつ克服しながら、安心と持続可能な医療を届けていきたいです」

水谷さん「今回の実証の成果を発展させ、まずは地域に根付く医療として定着させたいですね。アバターロボットの活用により、今後は複数の地域やさまざまなスキルを持つ医師を遠隔で同時に接続することで、医療MaaS車両の中での連携やサービス提供など、よりレベルの高い治療につなげることも可能だと考えています。
将来的には、場所や時間の制約だけでなく、精神科受診に対する『心の壁』を取り払い、誰もが精神医療にアクセスできる社会の実現を目指します。

さらに、この仕組みは医療以外へも応用できると考えており、アバターロボットがMaaS車両で移動できるようになれば、行政相談や教育、介護、さらには買い物支援など、あらゆる対面サービスを自宅のすぐそばまで届けることが可能になります。MONETとしては、この “MaaS × アバター” が作る新しいインフラの形を追求していきます」

ありがとうございました。

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(掲載日:2026年5月XX日)
文:ソフトバンクニュース編集部