
近年、人手不足の解消や生産性の向上を目的に、工場の自動化が急速に進展しています。特に、重い荷物を運ぶフォークリフトや資材を運搬する現場において、自動運転車両の普及が加速する一方で、自動運転車両と作業員の「出合い頭の事故」など、安全性の確保が課題になっています。
ソフトバンクは、エッジAIとMECを活用し、工場内を自動で走行する作業運転車両の安全性向上を目的とした実証実験を昨年10月に実施。担当者に話を聞きました。
お話を聞いた人

ソフトバンク株式会社 法人事業統括
IoT&プラットフォーム本部 IoT事業管理部
奥山 将明(おくやま・まさあき)
協力会社への呼びかけや、実証実験に向けた全体のスケジューリング、関係各所との調整を実施。

ソフトバンク株式会社 次世代サービス基盤本部
基盤R&D技術部
小林 夢大(こばやし・むだい)
検証に向けた具体的な準備や、協力会社の選定、現場でどのような構成にすれば技術が正しく検証できるかの設計を担当。
AIカメラが棚やコンテナに隠れた「見えない危険」を予測。作業員と車両の出合い頭の事故を防ぐ

今回の実証実験は、工場を走行する作業運転車両の安全性を目的に、住友電気工業株式会社(以下、住友電工)と株式会社テクノプロ(以下、テクノプロ)と共同で実施されたものです。産業用5G端末やMEC(Multi-access Edge Computing)でのエッジAIにより、人と運転車両の接近を低遅延で検知することに成功しました。MECとは、通信を行うスマートフォンやIoT機器などの近くにサーバーを分散配置することによって、データ処理のレスポンスを早め、通信の最適化や高速化をすることができる技術。エッジAIとは、スマートフォンやIoT機器などデータが発生する現場に近いネットワークの端末機器(エッジ)で、AIが推論・処理を行う技術で、データをクラウド(インターネット)で処理せず、ローカル環境で完結可能のため、リアルタイム処理や即時の判断が求められる場面に適合します。
自動運転車両を導入している工場において、どのような課題があったのですか?
奥山 「従来の自動運転車両は、車体に多くのカメラやセンサーを搭載し、自律的に安全を確保するのが一般的でした。しかし、これには車両の重量増や電源負荷に加え、何より、『死角』という大きな障壁がありました。例えば、高さのあるコンテナや棚が整然と並ぶ工場内を想像してください。その間をフォークリフトなどが時速10km(ジョギング程度の速さ)で走り抜けています。一見ゆっくりとした走行に思えますが、車両は1秒間に約3メートルも進みます。
このような状況で、作業員が自動運転車両が近づいてきていることに気付かないまま、コンテナや棚の陰から人がふと現れると、車両側からは死角となり検知が遅れ、作業員に衝突してしまう可能性があります。このわずか1〜2秒の判断の遅れが重大な事故に直結するため、車載センサーだけでは検知しきれない『見えない危険』が現場の大きな課題となっていました」
その課題をどう解決したのでしょうか。
小林 「そこで今回は、車両側の視点に頼るのではなく、工場内に設置した固定カメラで人と車を検知する手法をとりました。
まず、工場内の棚の陰や曲がり角など、車両側からは見えない死角になりやすい場所に固定カメラを設置して現場を撮影します。撮影された映像は、優れたエッジ処理能力を持つ『産業用5G端末』を通じて、リアルタイムで伝送されます。送られた映像データは、現場のすぐ近くに配置されたGPU搭載の『MECサーバー』へと届き、AIが即座に解析を行って人と車両の接近を予測します。もし衝突の危険を検知した場合には、瞬時に現場の警告灯を点灯させることで、作業員やドライバーへ回避行動を促します」

わずか0.15秒でAIが危険を判定。3社で実現する「安全維持インフラ」

実証実験はどのような環境で行われたのですか?
奥山 「実際にソフトバンクの法人向け5Gネットワークサービス『プライベート5G』を導入している大規模な工場で実施しました。工場内はフォークリフトが頻繁に行き交い、コンテナや棚が並んでいるため非常に死角が多く、まさに『安全第一』を掲げる現場において、接触事故の防止は切実な課題でした」
この技術によって、現場の安全性はどう向上するのでしょうか?
小林 「実証実験では、目標としていた『遅延150ms(ミリセカンド)=0.15秒以下』での検知・判定に成功しました。この『0.15秒』という数字は、現場では劇的な意味を持ちます。例えば、フォークリフトが時速10kmで走っていると、1秒間に約3m進みます。もし判定に1秒かかっていたら、危険を知らせた頃には作業員に衝突してしまいます。しかし、0.15秒であれば移動距離はわずか50センチ程度に抑えられ、この差が、事故を未然に防ぐ決定打になるんです」

奥山 「また、一連の流れをソフトバンクの『プライベート5G』と『MEC』でつなぐことにより、大きなメリットが生まれました。まず、車両1台ごとに高価なセンサーやカメラを山積みする必要がないため、車両コストを大幅に抑えることができます。さらに、既存の現場設備を大きく改修することなく導入できるため、コストを抑制しながら高度な処理能力を柔軟に確保することが可能になりました」
小林 「さらに、今回は通信リソースを優先的に割り当てる『スライシング技術』を活用しました。工場内の5Gネットワークが混雑している状況でも、安全に関わる通信は『優先度』を高めることで、遅延の振れ幅が少なくなり、常に安定した速度で人や障害物の検知を実現できることが証明されました」
奥山 「住友電工によるエッジ処理能力に優れた産業用5G端末と安定した通信基盤、テクノプロ社が独自に開発した高度な衝突回避AIプログラム、そしてソフトバンクが提供する5G通信とデータ処理を高速化するMEC環境の構築による3社の専門技術が連携し、ひとつのシステムとして統合されたからこそ、安全を担保するために不可欠なこの『速さ』を実現することができました」
エッジ処理機能を搭載した住友電工の産業用5G端末
今回は工場での実証でしたが、この技術は他の分野にも応用できるのでしょうか?
奥山 「車両側の軽量化やコストダウンにより実装のハードルが下がることで、工場だけでなく、道路の交差点など、あらゆる場所へ応用できる基盤技術になると確信しています。実証実験は成功しましたが、これをいかに社会実装していくかが次のステップです。単に『速いネットワーク』を提供するだけでなく、パートナー企業と共に、現場の『安全を維持するインフラ』を作り上げていきたいと考えています」

- AI機能搭載の産業用5G端末、プライベート5G×MECによるリアルタイムAI処理の実証実験に成功~工場の安全性向上へ~(2026年5月19日住友電気工業株式会社 プレスリリース)
- 5G端末やMECでのエッジAIによるリアルタイムAI処理の実証実験に成功~低遅延・高品質なデジタルインフラの実用化により安全な工場の実現へ~(2026年5月28日株式会社テクノプロ プレスリリース)
(掲載日:2026年5月28日)
文:ソフトバンクニュース編集部




