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進化したライブ体験! 「DIVE XR FESTIVAL」から見る、バーチャルアーティストの〈これまで〉と〈これから〉

進化したライブ体験! 「DIVE XR FESTIVAL」から見る、バーチャルアーティストの〈これまで〉と〈これから〉

(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

今、「バーチャルアーティスト」のライブ表現は、テクノロジーの発達とともに目まぐるしい速度で進化を続けています。

そんな中、バーチャルシンガーの「初音ミク」を筆頭に、バーチャルタレントとして活躍する「キズナアイ(Kizuna AI)」、アニメ/ゲームの世界からは「あんさんぶるスターズ!」など、さまざまな世界で活躍するバーチャルアーティストが集まるボーダレスなイベント『DIVE XR FESTIVAL supported by SoftBank』が、9月22・23日に幕張メッセで初開催されました。

気になるイベントの模様はもちろんのこと、ライブ体験をさらに進化させる未来のテクノロジー、そしてバーチャルアーティストがたどってきたライブの歴史まで、一挙にお伝えします。

  • 本取材は2019年9月23日の公演時に実施しました。
DIVE XR FESTIVAL supported by SoftBank(以下、DIVE XR FESTIVAL)

DIVE XR FESTIVAL

エイベックス・エンタテインメントが主催、ソフトバンクが協賛という形で今年初開催。

出演者は、VTuberからボーカロイド、アニメ/ゲームキャラクター、AIまで、多種多様なラインアップに。幕張メッセを舞台に、9月22・23日の2日間(3公演)で計14,000人の動員を記録しました。

DIVE XR FESTIVALのウェブサイト

目次

DIVE XR FESTIVAL

今回の『DIVE XR FESTIVAL』のコンセプトは、〈没入感型XR LIVE〉。

世界最高峰のクオリティーを誇る「AR映像」、照明やレーザーなどの特殊効果を使用した「空間演出」を追求することにより、キャラクターが自分と同じ空間に存在し、共存しているような感覚を体感することができるのです。

VTuberたちが切り開く。音楽ライブの最前線

VTuberたちが切り開く。音楽ライブの最前線

(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

今や、YouTubeやテレビだけにとどまらず、大型音楽フェスにも出演するバーチャルアーティスト。まずは、そうした盛り上がりをけん引する「VTuber」たちのライブをリポートします。

八王子P(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

八王子P(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

A/V(オーディオヴィジュアル)パフォーマンスの「八王子P」による初音ミク楽曲を中心としたDJをへて、待望のライブ本編がスタート。

HIMEHINA

HIMEHINA(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

トップバッターを務めたのは、田中ヒメ+鈴木ヒナによるVTuberユニット「HIMEHINA」。

オリジナルソングのMV再生回数が750万再生を突破(※2019年10月4日現在)、9月に初のワンマンライブを開催したばかりの、今最も注目すべきVTuberといっても過言ではありません。驚いたのが、2人の伸びやかな歌声が堪能できるその歌唱力。フェスの幕開けにふさわしい高水準のパフォーマンスです。

猫乃木もち(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

SHOWROOMバーチャルスターズ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

左:猫乃木もち/右:SHOWROOMバーチャルスターズ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

上から:猫乃木もち/SHOWROOMバーチャルスターズ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

中盤に登場した「猫乃木もち」がこのあとに出演する有名VTuber・電脳少女シロのイメージソング「またあした」のカバーを披露したり、「SHOWROOMバーチャルスターズ」が、MCで初音ミクと同じステージに立てる喜びに触れていたりしていたことも印象的です。VTuberやバーチャルアーティストの間に、横のつながりや先輩を敬う関係性があるというのは、新鮮な感覚でした。

VTuberがオーディエンスをあおり、対話する

ミライアカリ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

ミライアカリ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

電脳少女シロ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

電脳少女シロ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

イベントも後半に差し掛かると、“VTuber四天王”に数えられる「ミライアカリ」「電脳少女シロ」が立て続けに登場。チャンネル登録者数や動画再生回数など、VTubeの人気の指標はさまざまですが、ステージの見せ方という意味では、決して数字では計ることのできない風格がありました。

特に記憶に残ったのは、ミライアカリがMCの中で自身のファンが着ているTシャツや、曲に合わせたヘドバンに触れていたこと。これはつまり、彼女にも“オーディエンスが見えている”ことを意味しています。優れた歌唱力と音楽性にこうしたMCやあおりが加わることで、生身であっても映像であっても、同じ空間にいるような感覚でライブを楽しむことができます。

実際『DIVE XR FESTIVAL』では、ほぼ全てのアーティストがホログラフィック3Dによって投影されていたものの、途中からは「AR映像である」といった概念さえも頭の中から消え去っていました。この感覚こそが、まさに〈没入感〉なのかもしれません。

時間も空間も飛び超える。未知のアーティストが続々登場

洛天依〈ルォ・テンイ〉(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

『DIVE XR FESTIVAL』には海外のアーティストも出演していました。それが、世界初の中国語バーチャルシンガー「洛天依(ルォ・テンイ)」。

中国でのデビュー以降、ユーザーと共にコンテンツを制作し、投稿されたオリジナル曲は3万超。Siri風のAIアシスタントによるあいさつ、衣装チェンジにとどまらず、ステージ上に大量の料理を出現させてしまう魔法のような演出は、バーチャルライブの可能性を体現しています。今後、本格的な日本での活動が予定されており、バーチャルアーティストにとっての新たな時代の到来を予感させてくれました。

Trickstar(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

あんさんぶるスターズ![Trickstar](写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

Knights(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

UNDEAD(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

あんさんぶるスターズ![左:Knights/右:UNDEAD](写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

あんさんぶるスターズ![上から:Knights/UNDEAD](写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

23日出演の中では、数少ない男性アーティストとなった「あんさんぶるスターズ!(Trickstar/UNDEAD/Knights)」は、2017年10月28日にタイムスリップし、彼らの初回公演を『DIVE XR FESTIVAL』のステージで再現しました。言うまでもなく、バーチャルアーティストだからこそ成せる、時間にさえも縛られない演出の形でしょう。

初音ミク(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

初音ミク(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

初音ミク(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

そして大トリを務めた「初音ミク」は、「テオ」に始まり「ワールドイズマイン」「Tell Your World」といったキラーチューンを披露。途中には、初音ミクの楽曲を総括するような映像が流れ、ファンを大いに沸かせました。

ライブ全体のエンディングでは、60前後のディスプレーに無数の花火が打ち上がり、大団円を演出していたのも印象的です。3時間以上にわたったタイムテーブルでしたが、最後まで転換の時間は一切無し。シームレスに次のアーティストが始まり、曲間では瞬時に衣装替えが行われ、幾多のディスプレーによってあらゆる空間を作り出せてしまう。新たなライブの形、在り方を目撃することができました。

AIもライブをする時代!?

りんな(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

りんな(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

初日の9月22日には、“親分”こと「キズナアイ」や「花譜」といったバーチャルアーティスト、そして元・女子高生AI「りんな」が出演しました。「りんな」はこの日が初のライブ。人型ロボット「Pepper」にも採用された会話プラットフォームを用いており、一般的知名度も抜群です。

「AIと人だけではなく、人と人とのコミュニケーションをつなぐ存在」だというりんなに、バーチャルアーティストとしての可能性を感じずにはいられません。

「りんな」が組み込まれて会話が進化した「Pepper」の記事
一緒に居る人を笑顔にするために。会話力が飛躍的に進化した「Pepper for Home」の可能性

誰もが「オーディエンス」から「演出家」へ? 未来のライブ演出を先行体験

『DIVE XR FESTIVAL』の会場内には、「ADIRECTOR」という名の未来のライブを体験できるブースもありました。

(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

ADIRECTORとは、「A:個 + DIRECTOR:方向性を決める」を意味する造語。アプリがインストールされたスマートフォンを用いて演出に参加することで、一方的に鑑賞するのではない、没入体験を味わうことができます。

(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

ブースのディスプレーには、マネキン・ダンス・デュオ「FEMM」が歌い踊る映像が。スマートフォンでは、多数決による衣装の投票が始まり、票数の最も多かったものへとFEMMの服装が変化します。

画面をタップしゲージが満タンになれば紙吹雪が舞い、最も多くタップした参加者のスマートフォンにだけFEMMが出現。スマートフォンをスワイプすることでFEMMにハートを投げることも可能です。

もし、この技術が『DIVE XR FESTIVAL』に導入されれば、初音ミクの衣装を投票で選ぶことができ、ミライアカリのあおりに合わせて紙吹雪を舞わせることも現実となります。観客一人一人が「オーディエンス」から「演出家」になれる未来がやってきそうです。

ブースは数名での体験でしたが、仮に2日間で約1万4000人を動員した今回のイベントで実現するためには、「高速大容量」「多接続」「低遅延」の5Gが必要不可欠。サイリウムを持ちながらのスマートフォン操作や、大人数だとディスプレーがハートで埋め尽くされてしまわないかなど、多くの課題はありますが、これが新たなライブ体験を創り出すことは間違いないでしょう。

初音ミクのファーストライブから現在まで。激動のライブ10年史を振り返り

左:初音ミク/右:キズナアイ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

上から:初音ミク/キズナアイ(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

最後に『DIVE XR FESTIVAL』に至るまでの10年間の歴史を、一気に振り返ってみました。

【1】初音ミクはバーチャルライブの先導者でもあった

今年は、初音ミクが初めてライブをしてから10年という記念すべき年でもあります。彼女の初めてのステージは『Animelo Summer Live 2009 -RE:BRIDGE-』への出演でした。

2014年には、BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKUとして東京ドーム公演にコラボ楽曲「ray」で出演。同年、世界的女性アーティストのツアーにもオープニングアクトとして出演を果たしています。初音ミクは、スクリーン+プロジェクターにより表現力を向上させながら、バーチャルアーティストのライブの在り方を拡張し、常に時代をリードしてきた先導者だったのです。

今や日本のトップアーティストになった「ボカロP」といえば?

2017年に米津玄師がハチ名義で発表した「砂の惑星 feat.初音ミク」。彼が初音ミクを用いた楽曲をニコニコ動画に投稿したのは、初音ミクが初めてライブを行ったのと同じ2009年でした。現在では日本を代表するアーティストの米津玄師ですが、初めて脚光を浴びたのが「ボカロP(ボーカロイドを使って楽曲を作り、発表する人の総称)」としてだったということは、初音ミクを語る上で欠かせない出来事でしょう。

【2】身近になった「VR」がバーチャルライブシーンを加速させる

2016年のPlayStation VR発売を機に、VRゲームアプリ、VRアトラクション専門のゲームセンターが徐々にポピュラーなものになっていきます。

同年に発売された『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』は、専用コントローラーにより、自分がコンサートライトを振っている感覚を味わうことが可能です。また2017年には、横浜のVRシアターにて、アニメシリーズの3Dホログラフィックライブが開催。裸眼のままで映像が立体的に見える劇場が生まれたことも、バーチャルアーティスト主体のフェス開催の礎となりました。

そうした流れに先立って、2015年に初音ミクが某音楽TV番組へと出演を果たしたことは、広義でのバーチャルアーティストがお茶の間まで認知を広め、親しみやすい存在へと昇華されるきっかけを作ったといえるでしょう。

「VR」と「AR」、その違いは?

ARP(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

「VR」とは、仮想世界に自分自身が没入する体験。分かりやすい例は、仮想空間「Beyond The Moon」に開業されたライブハウス「Zepp VR」でしょう。VTuberの「輝夜月」の初ライブでは、会場内ドレスコードとして、公演に合わせた特別仕様のアバターが用意されていました。

一方の「AR」とは、現実世界で仮想物を楽しむ体験。9月22日に出演した「ARP」は、ARイケメンダンスボーカルグループです。舞台裏には、全身にモーションキャプチャーのマーカーを付けて踊る4人のプロダンサーの姿がありました。

大VTuber時代到来。そして未来のエンタメの話をしよう

【3】今やVTuberのライブ戦国時代。リアルとの境界線はもはや要らない?

2016年に誕生した、VTuberの草分け的存在である「キズナアイ」。2017年12月にチャンネル登録者100万人を突破し、彼女のブレイクをきっかけに、2018年ごろから急速的にVTuberの数が増加していきます。

テレビ、ゲーム、CMなど、キズナアイの活動は多岐にわたりますが、他のVTuberと比べてもニュース番組への出演、iPhone の発売セレモニーなど、よりパブリックな場面での露出が際立っています。今夏の大型音楽フェスの出演も、音楽アーティストとしてのVTuberの存在感を一層高めた話題でしょう。

また、2018年には同じくVTuberの「輝夜月」が、バーチャル空間に作られたライブハウスで、史上初のVRライブ(観客はアバターとして参加し、好きな場所で体験できる)を開催しました。彼女はそのあともカップ麺/焼きそばのCMに出演するなど、破竹の勢いでその名をとどろかせています。

リアル/バーチャルの境界を感じさせないアーティストも

YuNi

花譜

左:YuNi/右:花譜(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

上から:YuNi/花譜(写真提供:DIVE XR FESTIVAL)

VTuberにカテゴライズされながらも、その肩書きを“バーチャルシンガー”としている「YuNi」と「花譜」。YuNiは2018年6月、花譜は10月と、ほぼ同時期に音楽活動を始動させています。特に花譜に関しては15才の等身大の女の子としての感覚が強く、「amazarashi」「ずっと真夜中でいいのに。」といった、顔出しをしていないアーティストと同列で語ることもできそうです。

【4】エンタメ×テクノロジーはこの先どうなるのか!?

新たな“エンターテック”を創り出せ! xRイベントから考える「エンタメ×テクノロジー」進化論

ソフトバンクニュースでは、『DIVE XR FESTIVAL』の開催に合わせ、主催するエイベックス・エンタテインメントの担当者、ソフトバンクの担当者、そしてデジタルコンテンツに造詣が深い慶応義塾大学大学院の杉浦教授を招いて座談会を企画。

エンタメとテクノロジーの融合を「エンターテック」と題して、未来のエンタメやソフトバンクがイベントを協賛する意図、日本ならではのコンテンツ文化などについて、徹底討論してもらいました。さらなるライブ体験創造のヒントが、たっぷり詰まっているはずです。

新たな“エンターテック”を創り出せ!
xRイベントから考える「エンタメ×テクノロジー」進化論

今回「ADIRECTOR」ブースで体感した未来のライブの形は、5Gの商用サービスがスタートする2020年以降、バーチャルアーティストだけに限らず、多くのアーティストのライブに導入されていくのかもしれません。

ライブの在り方はこれからさらに変わっていく。『DIVE XR FESTIVAL』に参加してそう強く確信しました。

(掲載日:2019年10月04日)
文:渡辺彰浩
編集:エクスライト
撮影:DIVE XR FESTIVAL、エクスライト