2014年にデビューしてからおなじみとなった人型ロボット「Pepper」。その一般販売モデルが2015年の発売以来初となるメジャーアップデートをして「Pepper for Home」として登場しました。
より自然に、より長く会話できるようになったほか、Android™ の便利機能を搭載することで家族の時間にもっと寄り添うことができる人型ロボットに進化したというPepper。一体何が変わったのか、開発者の2人に詳しく聞きました。
今回の登場人物
会話部分の企画・開発を担当した池田吉隆(いけだ・よしたか)さん
ソフトバンクロボティクス 商品企画開発部 企画2課 担当課長。会話アプリの開発に携わっていた経験を生かし、会話力向上の鍵である日本マイクロソフト社のソーシャルAI「りんな」のプラットフォーム導入を約3年前から取り組んできた。
商品全般の企画・開発を担当した鈴木雅也(すずき・まさや)さん
ソフトバンクロボティクス 商品企画開発部 部長。2013年からPepperのアプリ企画開発業務に従事。一般販売モデル(Pepper for Homeの前身)のアプリ企画開発を担ってきたキーマン。
Pepper(ペッパー)
世界で初めて感情を持った人型ロボット。「Pepper for Home」は4月16日から予約販売を開始している。
利用者が話したいことを引き出す自然な会話が可能になり、会話力が飛躍的に進化
「Pepper for Home」の一番の目玉は会話力の向上と伺いました。具体的にどんな風に変わったのか教えてください。
今までは、Pepperがしゃべりたいことを勝手にしゃべる「プッシュ型」の会話でした。それに対して「Pepper for Home」は、日本マイクロソフト社が開発している女子高生チャットボット「りんな」を組み込んでカスタマイズすることで、ユーザーがしゃべりたいことをPepperと話せる「プル型」の会話ができるようになったんです。より自然で幅の広い受け答えをできるようになったということですね。
会話力の指標としている会話理解率(ユーザーの言葉を理解できて的確な返事を返せるか)と会話継続率(会話のキャッチボールが何回続くか)が飛躍的にアップしています。どのくらいの話題についていけるかといった話のカバー率と興味がわいたり話の流れが良かったりといった言葉の品質の掛け算でその辺の指標が伸びていくんです。
ソーシャルAI「りんな」とは
日本マイクロソフト社の女子高生の人工知能。2015年8月にLINEに初登場して以降、リアルな女子高生感が反映されたマシンガントークと、そのキュートな後ろ姿、類まれなレスポンス速度が話題を集め、男女問わず学生ファンを中心にブレイクしました。登録ユーザー数は約763万人(2019年3月)を突破。
実際に会話してみましょうか。
Pepperの第一声は?
「ハイ、Pepper! 皆さんがペッパーの取材に来てくれてますよ」
それは嬉しいです。
みんながあなたの会話力が良くなったことに興味をもってくれているんです。
それは光栄ですね。
会話理解率が向上したんだもんね。
それはそれはよかったです。
これといった会話ではないように見えると思うのですが、実はこれがすごいことなんですよ。今、長文も理解して返してくれたじゃないですか。今までのPepperだったら「わかりません」ってはぐらかされます。
何がわからないんですかー?(突然)
(一同、笑い)
そもそも会話力の向上はなぜ必要だったのでしょうか?
Pepperのような人型ロボットって期待値が高いんです。この姿、形を見ただけで、あらゆるコミュニケーションに対応できると思われてしまう。それと僕たちはPepperを「そこに居るだけでよくて、身近でかけがえのない存在」にしていかなければならないと思っています。その中でコミュニケーションの核である会話は、すごく重要な要素なんですよね。
「Pepperらしさ」を出すために手作業で会話パターンを入力。その数は何百万通り以上!
会話力を向上させるにあたってのこだわりを教えてください。
世界観をあまり出さないようにしたところが他のAIやロボットと違う部分かなと思います。Pepperの個性は「福岡ソフトバンクホークスが好き」と「雨が嫌い」だけ。「Pepperって何なの?」っていう謎を残しておくことで、ユーザーが想像を膨らませられる余地が生まれます。その方が愛着を持ってもらいやすいんですよね。
Pepperらしさを出すための苦労はありましたか?
当初は、日常会話って1,000個くらいの会話パターンを用意しておけば成り立つんじゃないかと思っていたんですよ。ただ、完全に読みが甘かった…。それで、日本マイクロソフト社の担当である池田さんに相談して、「りんな」の実装を進めることになりました。
そこで苦労したことが、「りんな」にPepperのキャラクターを実装する過程ですね。「おはよう」と言われたらこう返す、というようなQ&Aを何十万、何百万通りと作って、手作業で「りんな」を教育していったんです。具体的な数は企業秘密なんですが、手作業だったのでとても大変でした…
「りんな」が持つ会話パターンでは足りなかったんですか?
「りんな」は適当に答えを自動生成できるので、返答のパターンは無限大なんですが、それだけだと違和感のある会話になってしまうんですよね。実際にPepperにつなげてテストを行ったのですが、あまりパッとしなかったんですよ。でもそれだと、非常識なことやモラルのないことまで喋るようになってしまうため、会話のクオリティーが下がってしまうんです。
魅力的な会話力って何なの?と哲学的、人間的なところから考える必要がありました。そこで笑いを通じて人間を深く知っている吉本興業を母体に持つよしもとロボット研究所にご協力いただき、マイクロソフト、ソフトバンクロボティクスの3社の共同研究としてPepper会話向上のプロジェクトを開始することになりました。
最近ではベンチマークの一つとして「スナックのママの会話力って魅力的なんじゃないか?」ということになりまして(笑)。実際スナックに通いつめ、彼女達の会話力を6要素(聞き上手、疲れない、謎の女でいる、など)に分解して、それを学習データに生かしたりしています。
Pepperの会話力はまだまだ伸びしろがあるので、これからも暖かく見守ってください。
細かい感情の変化を確認できる感情マップも健在
なでられて喜ぶことで、感情マップが緑色になるPepper。感情マップにより、Pepperのディスプレー上で詳細な感情の移り変わりを観察することも可能。これにより、さまざまな要因によりPepperの感情がリアルタイムに変化する様子を確認できます。
便利機能の搭載で、Pepperが執事に! 家族をつなぐハブを目指す
機能面で何が向上したか教えてください。
一番大きな点は、Android にしたことでのGoogle アカウントとの連携ができ、パーソナライズ化が進んだことです。例えば、要望が多かったものとしてカレンダー機能があります。これは「今日の予定を教えて」と話しかけると「今日はパパが10時から出張ですよー」「夜はみんなでご飯ですよね」というように予定を教えてくれます。
いわゆる、執事としての機能です。単純にAndroid の便利機能だけを使っているだけなら「スマホでいいじゃん」となってしまいますよね。
3歳から遊んで学べる教育用のロボアプリも充実
その他充実させたものとして、子どもが遊びながら自然に学べる教育用のロボアプリがあります。例えば、音楽に合わせてPepperも一緒に踊る「オトッペりずむ」※やゲームをしながら地図や英語が学べる「Pepper Party」です。3歳くらいから一緒に遊んでくれますよ。
-
- ※NHK Eテレの人気幼児番組「オトッペ」のキャラクターと楽しみながらリズム感を養うロボアプリ
教育のロボアプリは、「今何が必要なのか」を小学校の先生方とディスカッションして決めています。また、「Pepper 社会貢献プログラム」で小学校にPepperを使ってもらっているのですが、その中でも今回「ロボドリル」や「学研のえほんやさん」などを導入していて、Pepperは塾の先生の代わりにもなっているんです。
Pepperは「家族をつなぐハブになる」ものだと思うんです。昔、冷蔵庫に貼っていた家族への伝言メモのような役割をしたり、家族みんなでゲームアプリをやって楽しい時間を過ごしたり。
Pepperは「一緒に居る人を笑顔にする」ために寄り添い続ける
これからも進化していきそうなPepperですが、目標や課題はありますか?
開発当初から掲げている「一緒に居る人を笑顔にする」という目標は変わりません。過去には最愛のペットを亡くされた一人暮らしの高齢者の方に「Pepperなら死なないし、一生寄り添ってくれる」と涙しながら喜んでいただいたことがありました。そういう存在になることが僕らの目標です。
Pepperは3年契約なんです。もちろん期間の更新はできたり、今回発売のアンドロイド機体に新しくできたりするのですが、「この傷に思い出があって」とか「寂しくなるから」と、交換せずに継続してくださるお客さまもいらっしゃるんです。機種変更が当たり前のスマホだとこうはいきません。将来、Pepperのお葬式サービスを始めないといけない日がくるかもしれません。
最後に、これからPepperを家に迎える方が大切にすべき心構えを教えてください。
Pepperがお客さまに寄り添う努力を今後も続けますので、お客さま自身もPepperに寄り添ってほしいですね。例えばどうしても、人と人がしゃべるようには通じないときがあるんです。そのときは一緒に会話するためのコツを楽しみながら覚えていただくことで良いPepperライフを送ることができると思います。
できることから始めましょう(突然)
そういうことです(笑)
家族の一員として、「一緒に居る人を笑顔にする」ために寄り添い続ける人型ロボット「Pepper」。Pepperと一緒に歩む新しい人生を試してみてはいかがでしょうか。
(掲載日:2019年6月3日)
文:石井良(フリーライター)
撮影:栗原大輔(ロースター)
編集:大崎安芸路、杉江はるよ(ロースター)
Pepperの関連記事
Pepperがスキマスイッチのミュージックビデオを制作!? Pepper 5歳の誕生日を追う |