大規模災害によって、自宅が居住できない状態に…。どうやら、これからしばらく避難所で生活することになりそうです。もしあなたが同じような状況に置かれたら、一体どうすればいいのでしょうか?
正しい知識とすぐにできる小さな行動が防災意識を高め、あなたとあなたの大切な人を救います。
今回は、避難によって自宅を離れる際のチェック項目や、避難所生活でのルールやマナーをご紹介。
この災害テーマのポイント
- 避難所生活では感染症など健康面のリスクも
- 可能な限り在宅避難。避難所に行く際は、水道・ガス・ブレーカーをオフ
- ルールやマナーを守る。弱者を気遣い、快適な環境づくりに参加しよう
この災害テーマのポイント
- 避難所生活では感染症など健康面のリスクも
- 可能な限りは在宅避難。避難所に行くときは、水道・ガス・ブレーカーをオフを
- ルールやマナーを守る。弱者を気遣い、快適な環境づくりに参加しよう
目次
- リスク:無人になった住居では、空き巣被害や火災が発生。避難所生活では感染症など健康面の心配も
- 対処法①:可能な限り在宅避難。避難所に滞在する場合は、水道・ガス・ブレーカーをオフ。戸締りも厳重に
- 対処法②:「ルールやマナーを守る」は大前提。弱者への配慮を心がけ、率先して快適な環境づくりに参加しよう
- 避難生活に役立つサービス・ウェブサイト
リスク:無人になった住居では、空き巣被害や火災が発生。避難所生活では感染症など健康面の心配も
大地震や台風、集中豪雨などの大規模災害で避難所生活を余儀なくされた場合、以下のようなリスクが考えられます。
留守中の住居で想定される二次災害
- 空き巣
避難のため無人となった家で起こりやすいのが「空き巣被害」。例えば東日本大震災では、地震発生の3月から6月末までの4カ月間、民家や商店街を狙った空き巣が岩手・宮城・福島3県で1,233件発生。前年の同時期と比較して1.5倍増加しました。 - 通電火災
災害発生後、停電が復旧されるときに起こる「通電火災」。壊れた配線コードや電気器具、照明器具へ再通電することで、出火の恐れがあります。家が無人のときに出火すると初期消火ができず、自宅が全焼したり近隣の家に延焼したりして大火災になってしまう恐れも。(地震後の火災を防ぐ方法)
避難所生活で想定されるリスク
- トイレ問題
慣れない避難所生活では、多くの人が「トイレに行きづらい」と感じるようです。その結果、トイレを我慢して便秘や膀胱炎になったり、トイレの回数を減らそうと食事や水分の摂取を控えることから、脱水症状、脳梗塞、心筋梗塞など、命を落とすリスクにつながることもあります。 - 熱中症
多くの人が集団生活を行う避難所では、室内の温度が上昇しやすい傾向にあり、また、十分な空調設備が整っていない場合もあります。その結果、熱がこもりやすく、熱中症の危険が高まります。重症化すると、命を落とす危険もある熱中症、特に体温調節機能が低下している高齢者の方は、注意が必要です。(保健師に聞いた! 意外と怖い熱中症の症状や対処方法) - 食中毒
避難所で提供される食べ物や調理器具に付着した細菌が体内に入ることで、食中毒になるリスクも。2016年の熊本地震では、熊本市にある避難所でおにぎりが原因の食中毒が発生し、21人が一時入院しました。 - 感染症の流行
密集した環境下で多人数が暮らす避難所での生活は、新型コロナウイルス感染症はもちろん、インフルエンザや急性胃腸炎などの感染リスクが高まります。2011年の東日本大震災では、岩手県内の避難所で数十人規模のインフルエンザが集団発生。2016年の熊本地震では、南阿蘇村の避難所でノロウイルスが検出され、14人が病院に搬送されました。特に、冬は新型コロナウイルス、インフルエンザの同時流行が懸念される季節。適切に対応することができないと、災害から身を守るための避難所で、いろいろ感染症のクラスターが発生してしまうかもしれません。 - エコノミークラス症候群
血行不良でできた血栓が、肺の静脈を詰まらせることで起こる「エコノミークラス症候群」。限られたスペースでの避難所生活や車中での避難生活は、狭い空間で長時間座って足を動かさないことが多く、発症のリスクが高くなります。
本当に避難が必要な人の妨げにならないよう、可能な限り「在宅避難」を
東日本大震災では、避難所に滞在した方(要援護者を除く一般の方)のうち、33%が2〜3日、16%が4日〜2週間の期間、避難所に滞在。熊本地震では、最大数が一時18万人を超えるほど、多くの避難者が発生しました。
2〜3日など避難所滞在期間が短い人たちの中には、自宅が十分住める状態であるのにもかかわらず、「とりあえずインフラが止まってしまったから…」という理由で避難所行きを決める人もいるようです。しかしそのような人が増えると、本当に避難が必要な人のスペースが圧迫され、必要以上の密状態を作り出すことに。「自宅が住める状態にある人は、可能な限り在宅避難を行う」が鉄則です。
自宅を離れることを決断。避難所に向かう前、到着後の対処法まとめ
対処法①:可能な限り在宅避難。避難所に滞在する場合は、水道・ガス・ブレーカーをオフ。戸締りも厳重に
前述したように、自宅が住める状態にある人は、なるべく在宅避難をしましょう。在宅避難中に物資が不足した場合、基本的には避難所から物資を受け取って自宅に持ち帰ることも可能ですが、配給される物資には限りがあります。在宅避難に備えて、普段の食料の最低3日〜1週間分×人数分の家庭備蓄をしておきましょう。また、ラジオやスマホなど情報を手に入れる手段の確保や、トイレの準備も大切です。(家庭用食糧備蓄のコツ)
家を離れて避難する際の対処ステップ
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水道・ガスの元栓を閉める
復旧時、家の中が水浸しになったり、ガス漏れしたりする危険を回避するため。
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電気のブレーカーを落とす
通電再開時、倒れて破損した電化製品などから起こる通電火災を防止するため。
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安否を知らせる
玄関先に「全員無事です」といった貼り紙をして、知り合いや救護隊に無事を告知。空き巣被害を防ぐため、貼り紙に避難先は書かないようにしましょう。
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戸締りを厳重に行う
空き巣や火災の延焼を防ぐため、後付けの錠前で二重ロックにするなど、戸締りはしっかりと行う。シャッターや雨戸があれば閉める。
避難の際は、長袖・長ズボン、紐でしめられる運動靴など、季節や天候に合わせた動きやすく安全な服装で。あればヘルメットで頭を保護してください。また、緊急車両の通行や防災活動の妨げにならぬよう、避難は原則徒歩で行いましょう。
「非常用持ち出しバッグ」を準備しておこう
非常時に持ち出すものは、あらかじめリュックサックなどにまとめて、すぐに持ち出せるようにしておくのがオススメ。
最低限用意したい内容例
- 貴重品
- 医師から処方されている薬や常備薬
- 懐中電灯
- 下着
- マスク
- 除菌グッズ
できれば用意したい内容例
- 飲料水、食品(缶詰など、できるだけ調理のいらないもの)
- 貴重品(預金通帳、はんこ、現金など)
- お薬手帳※
- 救急用品(ばんそうこう、包帯、消毒液、体温計など)、生理用品
- ヘルメット、軍手
- 懐中電灯、携帯ラジオ、携帯電話の充電器
- 衣類、非常用ブランケット
- ハンドソープ
- 使い捨て手袋
- ティッシュペーパー
感染症対策として、マスク、消毒液、体温計、ハンドソープ、スリッパは家族分を備えておくのがおすすめです。乳児のいる方は、上記にプラスしてミルク・紙おむつ・ほ乳びんなども用意しておきましょう。
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※ お薬手帳があれば、避難所などに来ている医療チームから日頃服薬している処方薬を受け取りやすくなります。
対処法②:「ルールやマナーを守る」は大前提。弱者への配慮を心がけ、率先して快適な環境づくりに参加しよう
避難所到着後のステップ例
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連絡先を申告する
住所・氏名・連絡先を申告。隣近所の人や町内会ごとに、まとまって過ごすと安心です。
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居住スペースを確保する
乳児がいる人は同じエリアに、病気の人は暖かい場所になど、それぞれに合わせたスペース配分を。
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周囲の人の安否を確認する
掲示板や災害用伝言ダイヤルなどを使って、家族や隣近所の人の安否を確認・告知。
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生活面での役割分担をする
受け付け、炊き出しなど避難所での仕事を分担し、協力して作業を行う。できるだけ率先して動くようにしましょう。
避難所生活で心がけたいこと
大勢の人が集まる避難所では、新型コロナウイルスなどの感染症の増加が懸念される上、スペースの確保が早い者勝ちになってしまったり、赤ちゃんの泣き声を気にする家族が廊下で生活したりと、さまざまな問題が表面化しがち。多くの人が少しでも心地よく過ごせるよう、避難者同士で声をかけ合って助け合うことが大切です。
- ルールやマナーを守り、譲り合いの心を持って生活する
- 要配慮者(高齢者、障害者、乳幼児)、および要援護者(高齢者、障害者、乳幼児、妊婦、外国人など)を優先する行動を心がける
- 居住スペースは個々の「家」と同じと考えて、お互いのプライバシーが確保できるように気遣う
- 物資が配給される際は落ち着いて順番を待ち、要援護者の分は代わって届けてあげるなどの配慮を
- 感染症対策のため、できるだけ人と人との距離を1~2m程度は空けることを意識して過ごす
- 酔っ払って騒がない、タバコは決められた場所のみで吸うなど、飲酒・喫煙のルールを守る
- 基本エチケットで衛生を守る
- 食中毒や感染症予防のため、手洗いやうがい、手指の消毒はこまめに。なるべくマスクを着用するなど「せき・くしゃみエチケット」も徹底する
- 食事の際は、可能な限り家族単位でのスペースを確保し、大人数での「会食」のようにならないよう注意する
- 調理器具・食器類は清潔に。水が使えない場合は、食器や使い捨て容器にラップに敷いて使用する
- トイレを汚してしまった場合は、自分で清掃する
- ゴミの分別収集を徹底し、ゴミ集積場を清潔に保つ
- 内履き(スリッパ)と外履きを区別し、生活スペースへは土足で入らないようにする
- ダンボールベッドや簡易ベッドの上で寝ることは、床からのウイルスが飛散するのを防ぐ効果も。また、つい立てやテントの使用も、プライバシーの確保はもちろん、感染症対策にも役立つ
- 健康管理に気をつける
- 夏はこまめに水分・塩分補給をしたり、速乾性のタオルを水で濡らして首元に巻いたりして、熱中症予防を
- 冬は床にダンボールなどを重ねて敷いたり、毛布にくるまったりして、効率的に暖が取れるようにする
- 毎日の体温・体調確認を心がけ、発熱や体調に異変を感じた場合はすみやかに申し出る
- エコノミークラス症候群予防のために、歩いたり、膝の曲げ伸ばしをしたりするなど、1日何回か体を動かす
- その他
- ペットを連れて避難した場合は、自治体や避難所のルールに従ってペットだけを集めた居住空間を作るなど、動物アレルギーや鳴き声を気にする人への配慮を。もしルールが決まっていない場合は、事前に、自治体や避難所スタッフ、地元住民とで話し合っておくのがオススメ
- 避難所は完璧に安全な居住環境ではないため、「自分の身は自分で守る」といった意識が大切。もし怪しい人を見かけたら、警察や施設担当者に連絡するなど、みんなで被害防止に努めましょう
避難生活に役立つサービス・ウェブサイト
① 安否確認手段に災害用伝言板
大規模災害などで音声発信が集中してつながりにくくなった際に、安否情報を確認できるサービスです。無料で使えて、事前の申し込みも必要ありません。家族・知人の安否確認にオススメ。
② 電話を使った災害用伝言ダイヤル
被災地の方の電話番号宛に、安否情報などの伝言を音声で登録・確認できるサービス。「171」をダイヤルし、利用ガイダンスに従って使用します。スマホや携帯電話の操作が不安という方は、こちらが使いやすいかもしれません。
③ 東京都防災マップ
東京都内の一時滞在施設や避難所、避難場所、災害時帰宅支援ステーションの場所を探すことができるWebサイト。近くの避難所を探す際に便利です。
④ 首相官邸「災害に対するご家庭での備え~これだけは準備しておこう!~」
災害に備え、家庭で取り組むべき主な対策を紹介するページ。家族同士の安否確認方法や、非常用持ち出しバッグについての知識も。
監修者:防災講師・防災コンサルタント 高橋 洋(たかはし・ひろし)
1953年、新潟県長岡市生まれ。1976年、練馬区に就職し、図書館、文化財、建築、福祉、防災、都市整備等に従事。1997年より防災課係長として、地域防災計画、大規模訓練、協定等に携わる。現在は、防災講師・コンサルタントとして、自治体等で講演、ワークショップ指導などを行う傍ら、復興ボランティア、終活ガイド・エンディングノート認定講師としても幅広く活動。防災関係著書・論文、防災関係パンフレット類監修多数。
(掲載日:2020年7月27日)
監修:高橋洋
文:内藤マスミ
編集:エクスライト
イラスト:高山千草