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「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

「3密の回避」「人との接触を減らす」など、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために発表された「新しい生活様式」。消費行動や働き方などライフスタイルが大きく変化する中、私たちの生活や仕事と密接につながっている「住まい」はどのように変わっていくのでしょうか。

今回は、“withコロナ”時代の新しいライフスタイルや価値観、それに伴う「住まい」の変化について、都市や消費について知見の深い、社会デザイン研究者の三浦展さんにお聞きしました。

プロフィール

三浦 展(みうら・あつし)さん

社会デザイン研究者/カルチャースタディーズ研究所代表
三浦 展(みうら・あつし)さん

1958年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、パルコに入社。マーケティング情報誌「アクロス」編集長を務める。1990年、三菱総合研究所入社。1999年、「カルチャースタディーズ研究所」設立。世代、家族、消費、都市問題等の研究を踏まえ、新しい社会デザインを提案している。著書に、『下流社会』(光文社)、『第四の消費』(朝日新聞出版)、『東京高級住宅地探訪』(晶文社)他多数。近著に『コロナが加速する格差消費』(朝日新聞出版)、『首都圏大予測』(光文社)。

自分が住む街を見つめ直した人が多いはず。「新しい生活様式」で変わる暮らしと働き方

「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

今回の三浦さんへの取材は、オンラインで行いました

新型コロナウイルス感染症の流行後、社会で最も変化したことは何だと感じていますか?

「次は一体、何が起こるんだ?」というように、リスクに対して社会全体が敏感になった気がします。食事や運動、メンタルケアに気を配るなど、健康志向が加速していることも変化の一つといえるでしょう。

消費の面だと、密を防ぐために、従来よりも少ない客数でビジネスを成り立たせないといけなくなりました。客単価の低い、いわゆる薄利多売のチェーン系は、今後状況が厳しくなっていくかもしれません。

また、人々の暮らしに目を向けると、家にいる時間が増えたことで、自分の住んでいる街を新しい目で見るようになった人が多いのではないかと思います。

確かに、緊急事態宣言が発令された後、「今まで入ったことがなかった飲食店でテイクアウトをしてみた」「駅向こうのスーパーに行ってみた」といった話を耳にしました。

私が住んでいる地域に、緊急事態宣言中も営業を続けていた古本屋があるのですが、店主が「駅ビルや百貨店の書店が閉まったことで、普段は来ないような新規のお客さんが来てくれるようになった」と言っていました。コロナ禍を機として、人々がそこにしかないもの、街本来の魅力に気づくことで、小さな街単位の消費が今後伸びていくかもしれません。

政府から「新しい生活様式」が発表され、リモートワーク中心になった人も多いと思います。今後、働き方はどのように変わっていくと思いますか?

勤務時間の概念は柔軟化し、究極的にはいつ働いてもいい方向に向かうでしょうね。その代わり、成果主義の傾向が高まると思います。今までは、出社して朝から夜まで仕事をすれば、それなりの給与が支給されていましたが、リモートワークが主流になればそうはいかないでしょう。

今後は、会社と社員の関係はより契約的になっていき、正社員間の給与格差も広がると思います。また、子育てや介護など、自分のライフステージやニーズに合わせて1〜3年くらいの単位で働き方を選べる従業員ファーストで働ける方向に変わっていくのではないでしょうか。

働き方が変わると、住む場所の選び方も変わりそうですね。

これは、コロナ以前から言い続けてきたことですが、今後は郊外居住が再評価される方向に進むと思います。仕事の大半を在宅でこなせるなら、都心にこだわる必要はないですから。郊外に広い家を買って暮らし、週1回だけ都心に出勤する生活が現実になる人も増えるでしょう。

「新しい生活様式」とは?

「新しい生活洋式」とは、新型コロナウイルス感染症の長期流行を見越し、感染拡大を防ぐために政府が出した行動変容の指針のこと。「食事」「買い物」「娯楽、スポーツ等」などのカテゴリーに分け、46項目の実践例が示されています。「働き方のスタイル」の項目には「テレワークやローテーション勤務」「会議はオンライン」なども含まれており、私たちの今後の生活や働き方に大きく影響する指針といえるでしょう。

家が仕事場になる時代、必要なのは新しい発想が浮かぶ「第三空間」

住む場所に加えて、新型コロナウイルスが人々の住まい選びにどんな影響を与えると思いますか?

「生活の場」と「働く場」が一緒になったことで、息抜きがしにくくなったと感じる人が増えていると思います。家の中に「第一空間(住居)」のほかに「第二空間(職場)」ができてしまったので、「第三空間(「住居」や「職場」とは別の、個人としてくつろげて新しい発想が浮かぶような場所)」が、家の中や地域に必要になります。

「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

三浦さんご自身の第三空間は、お家の中の緑溢れるすてきな空間

以前、アメリカの郊外住宅地を視察したことがあります。家の図面を見てみたところ、階段の踊り場に「カフェ」と書いてあったんですよ。

もちろん、そこにスターバックスがあるわけではなく、家の中に「カフェ」という第三空間を用意しているんです。親が子どもに「最近どう?」とちょっと声をかけて話をするときに、そういう場所を使うんでしょうね。リビングやそれぞれの個室で親子が向かい合うと、かしこまった雰囲気になりがちですが、カフェなら気軽に会話を交わせるんでしょう。

面白いですね。

日本の「縁側」なども、まさに家の中にある第三空間なんだと思います。昔の家は、生活の場であり働く場でもあった。縁側を作ることで、ちょっと集まってお茶を飲み、お菓子を食べて、世間話をする…といった息抜きができたんです。

現代の日本では、階段の踊り場にカフェを作れるほど広い家を建てるのは難しいけれど、リビングとは別にフリーな空間を作るなど、第三空間を作る工夫はいくらでもできるわけです。

だから今、家をバージョンアップするために、模様替えをしたり、家具を買い換えたり、ベランダに花を飾ったり、ちょっとしたリフォームやDIYをしたりする人が多いんですよね。

持ち家でなければ、家の中に第三空間を作ることは難しい気がしますが…。

そういう人は、ストレスが溜まったときに吐き出せる、気軽に訪れてホッとできるような第三空間が、家の周りに必要ですね。例えば、公園、池のほとり、川べり、喫茶店、床屋など。今後は、駅前のマンションというよりも、そういった要素がある街に住みたいと考える人が増えていくと思います。

住まい選びの優先順位は「通いやすさ」から「暮らしの充実」にシフトする

コロナ禍を機に、引っ越しを検討中の人もいると思います。さまざまな街を見てきた三浦さんがオススメする「いま狙い目の街・地域」を教えてください。

自然が多く、急行電車が停まるほどではないけれど、街もそれなりにひらけていて、スモールタウンの良さがあるようなところがいいでしょうね。そこに大学や美術館などがある文教的な雰囲気の街は、子育てにも良い環境だと思います。

先ほど「週の半分以上を在宅勤務でこなせるなら、都心にこだわる必要はない」というお話がありました。住む場所の選び方も、今後は変わっていきそうですね。

在宅勤務が増えるなら、駅前の地価の高いところに住まなくてもいいし、急行電車が停まらない駅でもいいわけです。例えば、西国分寺、谷保、北浦和、西千葉、玉川学園など。そうすると、コロナ以前に比べて、住む場所の選択肢は4、5倍に増えるでしょうね。

住むには抜群の環境だけど、通勤に不便な街というのはいくらでもあって、例えば埼玉県所沢市の椿峰ニュータウンなどはそのいい例です。電車とバスを乗り継がなければいけないので、都心まで毎日通うことを考えると二の足を踏んでしまいますが、週1回の通勤なら構わないという人は多いでしょう。

「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

埼玉県所沢市、椿峰ニュータウンの様子

また、このような街は、もともと通勤しづらいところだからこそ付加価値を上げるためにいい街を作ろうと頑張っていたところが多い。リモートワークが当たり前になったら、そういう街は再評価の大きなチャンスです。

コロナ禍をきっかけに、いわゆる住みたい街ランキングの順位が変わる可能性はあるでしょうか?

ランキングの順位自体はそこまで変動しないのではないでしょうか。例えば、よく上位に入る吉祥寺などは知名度が高く、住民以外が訪れるスポットもたくさんあるため、住んでいなくても行ったことやテレビなどで見たことのある人がとても多い。そのため、必然的に住みたいと思う人の数も多くなる。一方、下位の街はメディアに出ないし、そこに行ったことのある人自体が少ない。

しかし、そのような順位の低い街でも、第三空間が多く、住んでいる人の満足度が非常に高いところはたくさんあります。今後、そういった街の魅力により多くの人が気づくようになれば、順位自体は変わらなくても、上位と下位の実質的な「開き」はどんどん縮まっていくと思います。

コロナ禍で、理想の暮らしを考える人が増えている

住む場所の選択肢が増えることで、暮らし方の価値観はどのように変わっていくと思いますか?

よく「nLDK」という言葉を聞きますよね。4人家族なら3LDK、5人家族なら4LDKなど、子どもそれぞれに部屋を与えて、残った部屋は夫婦の寝室にするという考え方です。

しかし、これからは郊外の広い家に住み、在宅勤務を行う人が増えることで、従来の間取りに1部屋プラスして、そこを仕事部屋などにする作りがスタンダードになっていく可能性があります。仕事部屋に間仕切りを置けば、夫婦それぞれの机を置くなんてこともできます。3人なら3LDKか4LDK、4人なら4LDKかもしかして6LDKと、仕事用の部屋や第三空間を増やしていくことになるでしょう。

「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

三浦さんご自身の仕事部屋デスク周り。エアコンが見えるのが嫌いなのでポストカードを貼っているのだそう

コロナ禍で仕事が減り、賃料の不安から引っ越しをする人もいるようです。より暮らしやすい街や、条件のいい住居を求めて、引っ越しをする人は増えると思いますか?

都心に住む理由の一つは、チャンスが多いからですよね。いろいろなところにすぐ行けるし、新しい情報をいち早くつかめるし、クライアントとのやりとりもしやすい。でも、クライアントとのやりとりがオンライン中心になれば、無理して高価な狭いワンルームにこだわる必要はないわけです。

いざというときすぐ都心に出られる――例えば、西側も東側も六本木にもすぐ出られる赤羽のような――街など、もっとコスパのいい街に引っ越す人は、今後増えるのではないでしょうか。特に、子どもがいない夫婦や単身者の場合、より住み心地の良い街を求めてのホッピング(引っ越しを繰り返すこと)はあり得るし、家賃が安い郊外ならよりホッピングしやすいですよね。

三浦さんご自身は、今現在、引っ越しは考えていませんか?

新潟県上越市に実家があり、そこが空き家になっているので、事務所の荷物を全部新潟に送って、月の半分は新潟で暮らそうかな…と考えています。リモートで取材を受けられるなら、どこに住んでいても仕事ができますからね。

しかも上越市には、現存する日本最古の映画館「高田世界館」があって、現役でミニシアター系の文化的作品を上映しているし、高田城趾横にはスターバックスもできたので、東京にも後れをとりませんよ(笑)。

「通いやすさ」から「第三空間」へ。社会デザイン研究者の三浦展さんに聞く“withコロナ”時代の暮らしと住まい

新潟県上越市にある日本最古の映画館・高田世界館。「こうした資源を生かすことができれば、地方移住も増やせる」と、三浦さん

東京と地方の二拠点居住を選ぶ人も多くなっていますし、これからさらに増えると思います。コロナ禍を機に、多くの人が理想の暮らしについて考えたはずですし、その実現に向けて動き始めている人もいるのではないでしょうか。他方、そうした人々を集めるために、郊外も地方都市も、先ほどの映画館などのように、リアルだからこそ意味のある場所や伝統を生かした場所をつくることが大事になるでしょう。

数年後は想像もしていなかった場所で暮らしているかもしれない

いつ終わるとも知れない状況に不安の声が上がる一方で、「コロナ禍は、自分にとって大切なものを見つめ直すいい機会になった」という声も多く聞きます。働き方が変われば、今まで想像もしなかった選択肢が目の前に開けるかもしれません。三浦さんのお話を参考にして、みなさんも、新しい住まいや暮らし方について考えてみませんか?

(掲載日:2020年7月22日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト

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