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私たちが今日からできる食品ロス対策は? 研究者に聞く身近なアクション ー食品ロス問題にイチから向き合う【前編】

私たちが今日からできる食品ロス対策は?研究者に聞く身近なアクション-食品ロス問題にイチから向き合う Part.1

近年、「食品ロス」という言葉を耳にすることが増えてきました。食品ロス(フードロス、ともいわれます)とは、本来食べられるものを廃棄してしまうこと。食品ロスの増加による環境負荷や社会問題などに注目が集まり、世界全体で解決すべき課題として、さまざまなアプローチで問題提起と解決策の提案が行われています。そんな中、私たちに「今」できることはなんでしょうか?

本記事では、食品ロスを専門としている東京農業大学助教の野々村真希さんに、世界や日本の現状や、食品ロスを解決するさまざまなアクションの事例、そして私たちが今日からできる意識・行動などについて教えていただきました。

目次

野々村 真希(ののむら・まき)先生

野々村 真希(ののむら・まき)先生

東京農業大学 国際食料情報学部 食料環境経済学科 助教。1986年生まれ。京都市出身。2016年、京都大学大学院農学研究科博士課程修了、博士(農学)。2019年より現職。食品ロスが生まれる原因、食品ロスを減らすための方法について、特に消費者行動に着目して研究を行っている。共著に『フードビジネス論 「食と農」の最前線を学ぶ』(ミネルヴァ書房)、『フードシステムの未来へ 3 消費者の判断と選択行動』(昭和堂)。

東京農業大学 環境経済研究室

食品ロスはなぜ問題? 世界や日本の現状を知ろう

食品ロスはなぜ問題? 世界や日本の現状を知ろう

SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」※1によって、食品ロスが大きく注目を集めるようになりましたが、食品ロスが問題になる理由は何でしょうか。

野々村先生

食品ロスは、次のような問題に深く関わっているといわれているからです。

  • ※1
    SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」をこちらの記事でわかりやすく解説しています。

①地球温暖化

食料を生産・加工して流通させる過程や、廃棄された食品を処理する際にはエネルギーが必要であり、地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素が発生します。つまり、無駄な食品は二酸化炭素の排出量を増やし、温暖化を加速させます。温暖化は異常気象も引き起こし、農業や漁業なども打撃を受けてしまいます。

①地球温暖化

②食料不足

世界の人口は増加傾向にあり、必要になる食料は今後ますます増えていくと考えられます。一方で、食料の生産量はそれを補うほどには増えないといわれていて、将来的に食料が不足する可能性も指摘されています。そのため、今から効率良く無駄のないように食品を消費していく必要があるのです。

②食料不足

「食品ロス」と「食品廃棄物」という言葉をよく聞きますが、この2つは何が違うのでしょうか。

野々村先生

日本では、廃棄される部分によって呼び方を区別しています。食品ロスとは食べられる部分を捨てることをいいます。一方、食品廃棄物とは、食べられる部分と、皮や芯など食べられない部分のこと両方を含む廃棄物です。

世界や日本の食品ロスについて、廃棄量などの現状を教えてください。

野々村先生

世界全体で約25億トンの食料が廃棄されているという報告※2もあります。この量は、世界の食料生産量の約40%に相当するのだとか。日本では2018年度の食品ロス量は年間約600万トンという推計結果が報告されており、約半分が家庭から、残りが食品事業者から出ています。

家庭からそんなに食品ロスが出ているなんて、驚きです。

野々村先生

私たちの無意識の行動が、食品ロスにつながってしまうこともありますね。例えば、ついつい「期限」が長い商品が欲しくて、スーパーの商品棚の奥にあるものを購入する行動。それによって期限が近づいた商品が売れ残り、スーパーから出る食品ロスが増えてしまうことにつながるんです。

賞味期限と消費期限はどう違う?

「消費期限」は安全性の目安であり、日持ちが5日以内の食品に表示されています。一方、「賞味期限」は5日以上日持ちする食品に表示され、“おいしく食べられる期限”ともいわれています。賞味期限は年・月・日で表示されることが多いですが、3ヵ月を超える場合は、年・月のみの表示が認められています。

スーパーなどの小売業へは、以前納品したものより賞味期限が1日でも前だと納品できず、廃棄せざるを得ないことも。年・月のみの賞味期限表示にすることで、わずかな日付の違いで納品できないケースが減り、食品ロスの削減につながるのです。

食品ロス削減に向けた世界や日本のアクション

食品ロス減少に向けた、世界や日本のアクション

2030年のSDGs目標達成に向け、多くの国や企業が食品ロス解決のために動き出していますが、日本の食品ロス対策の事例を教えてください。

野々村先生

日本で認識が広がっているアクションとして挙げられるのは「フードバンク」。フードバンクは、事業者から過剰在庫や規格外品などを引き受け、福祉施設などに無料で提供しています。また、ECサイトを通じた対策も広がっています。最近では、売れ残った商品がある飲食店と、食品を買いたい人をマッチングするフードシェアリングなどのサービスも増えてきていますね。

世界や日本で行われているユニークなアクションはありますか?

野々村先生

イタリアでは、スーパーから出る食品廃棄物を集めて調理し、レストランで提供する取り組みが行われています。事業者や市民が入れた食品を自由にシェアできるコミュニティー冷蔵庫を街角に設置するといった取り組みも、世界各地で見られます。
日本には、育ちすぎたり熟しすぎたりして通常販売できない果物を、フローズンフルーツとして販売している事業者があります。廃棄されてしまうところだった農産物を、値段を下げるのではなく、よりおいしく価値を高めて販売している点に注目しています。

ソフトバンクが取り組む「つながる募金」
ソフトバンクが取り組む「つながる募金」

「つながる募金」とは、スマートフォンやパソコンを利用して社会課題の解決に取り組むさまざまな非営利団体などに寄付できる、ソフトバンクのサービス。「つながる募金」を通して、食品ロスに取り組む「クラダシ基金」に寄付をすることができます。
つながる募金を詳しくみる

食品ロスは毎日お茶碗1杯分。減らすために、私たちに今できるアクション

食品ロスは、毎日お茶碗1杯分。減らすために、私たちに今できるアクション

食品ロスを減らすために、個人ができるアクションを教えてください。

野々村先生

日本の食品ロス総量は、1人あたり1日お茶碗約1杯分(約130g)といわれています。食品ロスをすべてなくすことは難しいとされていますが、まずはお茶碗半分だけでも、減らすことに意味があります。今日からすぐに取り組める、3つのアクションをご紹介します。

①てまえどり

「てまえどり」とは、購入後にすぐ食べるものであれば、商品棚の手前にある商品や販売期限の迫った商品を積極的に選ぶ購買行動のこと。私たちが無意識に商品棚の奥のものを購入する行動に変化をもたらすべく、農林水産省、環境省、消費者庁、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が連携し、小売店舗が消費者に対し「てまえどり」を呼びかける取り組みが、2021年6月より始まっています。

①てまえどり

②冷蔵庫をゾーン分けし、あるものを使う日を設ける

農林水産省では、食品の期限を切らしてしまったり、腐らせたりして廃棄することを「直接廃棄」と呼んでいます。冷蔵庫の中に“早く使ったほうがいい食品”のゾーンを作ったり、1週間に1日は、食品を使い切る日を設けたりするなど、計画的に使い切る工夫をしたいですよね。

②冷蔵庫をゾーン分けし、あるものを使う日を設ける

③過剰除去を減らす

ニンジンやゴボウなど、むかなくても食べられる野菜の皮をむいてしまったり、分厚くむいたりすることを「過剰除去」といいます。皮をむく習慣を見直したり、ヘタをできるだけギリギリのところで切り落としたりすることが、食品ロスの削減につながります。

③過剰除去を減らす

最後に、食品ロスを減らすために、個人の意識をどう変えることが大切か、アドバイスをお願いします。

野々村先生

食品ロスを大きなグローバルな問題として考えすぎてしまうのではなく、日常の中の身近な問題と捉えていただきたいなと思います。もし自分が食品を無駄にしてしまって「もったいないことをしたな」と胸が痛んだら、次は食べ切れるように、小さなアクションを起こせるといいですよね。
そして、企業がどのようなアクションをしているかアンテナを張ったり、社会に貢献するサービスを見つけたら積極的に利用したりすることが、食品ロスに取り組む企業やサービスを増やしていくことにつながります。また、食べ切れない食品を寄付することができるフードドライブという取り組みもあり、そういった取り組みも、ぜひ気軽に活用してみてください。私たち消費者が社会に及ぼす力は、思っている以上に大きいです。
食品ロスをどうやったら減らせるか、皆で考えて取り組んでいきたいですね。

(掲載日:2021年10月26日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト