毎日の生活に欠かせない電気。電気に関連する単位はA(アンペア)、W(ワット)、V(ボルト)、kW(キロワット)などがありますよね。「それぞれの言葉は聞いたことはあるけど、具体的に何を表しているのか、はっきりとは答えられない」という人も多いのでは? そこで今回は、電気予報士の伊藤菜々さんに、電気の単位や家電の使用電力、電気料金の計算方法など、電気に関する基礎知識を伺いました。
目次
教えてくれた人
電気予報士
伊藤 菜々(いとう・なな)さん
1989年埼玉県生まれ。再生可能エネルギー関連会社に入社。その後、電力全面自由化に伴い小売り電気事業者の立ち上げに関わる。退社後、2020年より電力業界の広報・啓発活動のため、YouTube「電気予報士なな子のおでんき予報」を開始。電力会社などの企業での講演、学校での出前授業、展示会・イベントでの登壇を行う。著書に『電気予報士なな子のおでんき予報』。
電気について改めて考えてみよう
「電気は生活や環境など、私たちの暮らしに密接に関わっているもの」。電気にまつわるさまざまな情報を伝えていきたいと思ったのがきっかけで、YouTubeチャンネル「電気予報士 なな子のおでんき予報」を開設した伊藤さん。
電力業界を「わかりやすく!」「楽しく!」をモットーにさまざまな電力業界の話題を発信している伊藤さんに、私たちの暮らしに欠かせない電気について、解説していただきました。
伊藤さん 「電気とは、簡単に言えば『電子の流れ』です。原子の中には、プラスのエネルギーを持つ陽子、重さだけある中性子、マイナスのエネルギーを持つ電子があり、電子が流れると電流になります。
乾電池などのイメージから電気は物質だと思われがちですが、そうではなく、あくまで『電子が移動する現象』です。そのため貯蔵することはできず、電子が流れる仕組み(発電機)を止めると電気も止まってしまいます。つまり、電気を使っている間は絶えず電気を作り続ける必要があるのです」
電気は主にどういった発電方法で生み出されているのでしょうか?
伊藤さん 「発電方法には、火力発電、水力発電、原子力発電、風力発電、地熱発電、太陽光発電などがあります。日本は電力のおよそ7割を火力発電で賄っています。昔、人々が電気を使い始めた頃は水力発電が一番多かったんです。しかし戦後、電気の使用量が圧倒的に増えてきたため水力発電では間に合わず、火力発電が台頭してきました。近年、増えてきているのは太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーです。日本は今、圧倒的に電力が足りていない状況で、今後もさらに電力不足が予想されます。再生可能エネルギーは気候により発電量が変動するため、それだけでは電力需要を賄いきれません。大きなベース電源となる原子力発電、調整力となる火力発電も有効に活用していくことが必要です。とはいえ、脱炭素電源である太陽光発電の技術も上がっていますし、まだまだ増やしていく必要があります。また、防災の観点でも、各家庭に発電機能があると安心です」
WやAって何? 明細でよく見る電気の単位について知っておこう
電気料金の明細でよく見かけるのが「W」「A」「V」「kW」などの文字。これらは電気にまつわる単位です。知っているようで意外と説明できないこれらの単位を確認していきましょう。
WやkWなどの電気の単位はそれぞれ何を表しているのでしょうか?
日常的に目にすることの多い電気の単位が何を表しているのかを簡単にまとめてみました。
A(アンペア)
アンペアと後述するボルト・ボルトアンペアはセットで考えましょう。アンペアが低い場合、同時に複数の家電を使うとブレーカーが落ちてしまいます。
V(ボルト)
一般家庭用のコンセントは100ボルトですが、最近では200ボルトのコンセントも増えてきています。街中の電柱の配電線は約6,600ボルト。すごい圧力で電気を送っているんですね。
VA(ボルトアンペア)
ボルトアンペアは読んで字のごとく、ボルトとアンペアをかけ合わせたもの。つまり『電圧と電流を掛け合わせたもの』を表します。ボルトアンペアは実際に電気を流した量なので、ワットとかなり近い概念。ワットが実際に消費されている『有効電力』であるのに対し、ボルトアンペアは『皮相電力』といい、電気製品を動かすために消費される損失を考慮しない理論上の電力量を指し、うまく使えず少し無駄になる電力も含まれています。
W(ワット)
基本的にはワットが高いほど大きな電気エネルギーを瞬間的に使っているということになります。家電の消費電力量はワットで表示されているので目にすることの多い単位かと思います。キロワット(kW)で表示されている場合もあり、1kW=1000Wです。ワット・アンペア・ボルトの関係性はこのような図でイメージすると理解しやすいでしょう。
kWh(キロワットアワー)
キロワットが単位時間あたりの消費電力であるのに対し、キロワットアワーはキロワットを何時間使ったかを指し、一定の期間内にどれくらい電力を使用したか表しています。電気料金の明細に記載されている「ご使用量」は、1カ月の電力使用量を表し、基本的にはkWh単位で記載されているので、なじみのある単位だと思います。
Hz(ヘルツ)
日本の電気の流れは交流といって、電気の流れる向きが同じリズムで交互に変わります。電流の流れる方向が、1秒間に変化する回数を表すのが周波数です。日本は、静岡県の富士川を境にして西側は「60Hz」、東側は「50Hz」の電気を使っています。
単位(読み方) | 意味 |
---|---|
A(アンペア) | 電気の流れる量である電流のことを表す単位。 |
V(ボルト) | 電気を押し出す力である電圧のことを表す単位。 |
VA(ボルトアンペア) | 実際にどのくらいの電気を流せるのかを表す単位。 |
W(ワット) | 単位時間あたりに消費する電力を表す単位。キロワット(kW)で表示されている場合もあり、1kW=1,000W。 |
kWh(キロワットアワー) | 実際に使用した電力量を表す単位。 |
Hz(ヘルツ) | 周波数を表す単位。 |
どうして国内で50Hzと60Hzの地域に分かれているのでしょうか?
伊藤さん 「明治時代、日本は発電機を外国から輸入していました。当時、東京はドイツ製の50Hzの発電機、大阪はアメリカ製の60Hzの発電機をそれぞれ輸入したため、東日本と西日本で使われる周波数が違ってしまったんです。
以前は、それぞれの周波数に対応していないと使えない家電もありましたが、今の家電はほとんどがどちらの周波数にも対応しています。そのため『東日本から西日本に引っ越したら家電が使えなくなった!』というような家庭レベルでの困りごとはありません。しかし、何らかの原因で電力ひっ迫が起こって隣のエリアから電力をもらう際、周波数を合わせないと融通ができずに困ることがあります」
適切な契約アンペア数の目安
引っ越しなどの際、電力会社から何アンペアにしますか?と聞かれます。何を基準に選べば良いでしょうか?
伊藤さん 「皆さんが自宅で電気を使うときは、電力会社と契約するアンペア数を決める必要があります。契約アンペア数が大きいほど、同時に使用できる電気の量が増えるということです。
アンペア数は、一般的にファミリー世帯の賃貸マンションは40~50アンペア、1人暮らしであれば30アンペアくらいに設定されていることが多いです。4人家族で戸建てに住む場合は60アンペアくらいでしょうか。よほど電気設備が多いのでなければそのままの契約アンペア数で対応できると思います。
実際に家電を使っている時にブレーカーがよく落ちてしまう場合は、『50アンペアの容量があるのに40アンペアになっている』など、最大アンペア数ではない契約になっているのかもしれません。契約アンペア数は電力会社に連絡すれば変更できますので、気になることがあればまずは相談してみることをおススメします。ただし、契約アンペア数を上げると基本料金が高くなってしまうので、その点は注意してください」
電気の単位は世界共通
伊藤さん 「一般的によく目にする電気の単位について解説してきましたが、これらの単位は日本固有のものではなく世界共通のもので、『国際単位系(SI)』という制度によって定められています。単位は世界共通ですが、日本と海外とで違うのが電圧です。
日本の標準電圧は100ボルトですが、海外では倍の200ボルトが標準であることも。そのため海外に日本の家電を持っていくと、使用した際に壊れてしまうことがあります。海外旅行に行くときは、電圧を変える変圧器を持っていきましょう。パソコンや携帯の充電器は変圧器が内蔵されているものも多いですが、ドライヤーなどを持っていくときは変圧器が必須です」
知っておきたい家電製品の消費電力量
電気の単位が何を表しているのかが理解できるようになると気になってくるのが身近な家電の消費電力量。リビング、キッチン、水回りなど場所ごとの主な家電の消費電力量を紹介します。
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機種や使用環境などにより消費電力は異なります。
主な家電製品の消費電力量
伊藤さん 「キッチンは熱を発するものが多いので電力を消費しがちです。意外と消費電力量が多いのは食器洗い乾燥機。お湯で洗ったあとに熱で乾燥させるので、電力を使うんですね。ただし、基本的に長時間使うものは少ないので、そこまで神経質に考えなくてもいいかと思います。
電力会社によっては、昼間の方が料金が安いプランがあったり、『電気は夕方ではなく昼間に使おう』というキャンペーンを行っていたりして、ポイントやキャッシュバックをもらえることがあります。日中に外出することが多い人でもタイマー機能や、HEMS(ヘムス・Home Energy Management System)という家電を自動で制御してくれる機器を使えば、お得な昼間の時間帯に家電を使用することができますよ。
水回りで多くの電力を消費するのは、やはりドライヤーと洗濯乾燥機の乾燥時。ドライヤーは短時間だけですが、乾燥機は時間もかかるので頻繁に使用していると想像している以上に電気代がかかってしまいます。でも、梅雨時や冬場など、洗濯物を外に干せないときは必須ですよね。乾燥機は留守中も使えるので、キッチン回りの家電と同じく昼間が安いプランや昼に使うとお得になるキャンペーンを活用しましょう!」
どうやって算出する? 意外と知らない電気料金の仕組み
電気と言えば単位だけでなく、毎月の電気料金も気になるところ。計算方法で算出されているのでしょうか。
電気料金の明細を見るたび疑問に思っているのですが、どのような計算方法で算出されているのでしょうか?
伊藤さん 「電気料金はこのような計算方法で算出されることが多いです。電力自由化によって新しい電力会社や契約プランが出てきているので、項目や計算式が違うケースもあります」
電気料金の明細に表示されることが多い項目
名称 | どんな料金? |
---|---|
基本料金 | 電気の使用量に関わらず発生する料金。 |
電力量料金単価 | 1kWhあたりに消費される、電気料金のこと。電気の使用量に応じて金額が変動する。「最初の120kWhまで(第一段階)」「120kWhをこえ300kWhまで(第二段階)」「それ以上(第三段階)」の3段階の料金を設定していることが多い。 |
燃料費調整単価 | 化石燃料の価格変動に応じて、電気料金を調整した費用。日本は火力発電に用いる燃料(原油・液化天然ガス・石炭)のほとんどを輸入でまかなっているため、電気料金を固定していると燃料の価格が高騰した際に電力会社が大きな損失を被ってしまう可能性があり、このような調整が行われる。 |
再生可能エネルギー発電促進賦課金 | FITまたはFIP認定されている再生可能エネルギーによって発電した電気を国が定めた価格で一般送配電事業者が買い取り、その費用を電気を使用する人全員に負担してもらうための料金。 |
「高い」と感じることが多くなりました。電気料金を抑えるためにはどういった対策をすればいいのでしょうか?
伊藤さん 「そういった場合に家電の使い方を見直して節電を心がけたり、ランニングコストの安い最新の省エネ家電を買うといった行動をする人が多いと思いますが、気軽に誰でもできるのは電力会社や契約プランを見直すことです。
現在では電力自由化によって新しい電力会社や契約プランがたくさん出てきていて、昼間の電気料金が安いプランや、スマホ利用とのセット割り引きでポイントが貯まるといったプランもありますので、まずは自分の生活サイクルに合ったプランがあるのか調べてみてはいかがでしょうか」
電気料金の今後の見通し
電気料金の値上がりが続いています。今後もこの傾向は続くのでしょうか?
伊藤さん 「電気料金は今後も値上がりすると思われます。その理由は2つあり、1つは日本のエネルギー自給率が低いこと。日本の発電の4割は、輸入した化石燃料の中の天然ガスを使っています。しかし、今は他のアジア諸国も天然ガスを使い始めたので、取り合うことによってますます価格が上がるでしょう。
もう1つの理由はカーボンニュートラルです。今は「化石燃料や火力発電を減らすべき」という流れがあり、再生可能エネルギーに注目が集まっていますが、その稼働率はまだまだ高いとは言えません。太陽光パネルの発電効率もまだ十分とは言えず、今後もしばらくは電力不足が続くでしょう。また、気候によって発電量が変動する再生可能エネルギーを補うために調整力というものが必要ですが、蓄電技術の普及がまだ道半ばですので火力発電も廃止できず、運営費がかかります。電力が不足する限り、電気料金は値上がりしてしまいます」
今はたくさんの電力会社やプランがあるので、自分に最適なものを選びましょう。また、節電を心がければ電気代の節約になるばかりでなく、環境にも配慮できます。無理のない範囲でできることから、節電を心がけてはいかがでしょうか。
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(掲載日:2024年9月12日)
写真:山野一真
文:吉玉サキ
編集:エクスライト