皆さんは、仕事先や観光で訪れたところなど、自宅以外のところでもし災害に遭ったら、どう行動すればいいか知っていますか?
ソフトバンクの竹芝本社がある東京都港区は、陸海空のゲートウェイと呼ばれるほどいろいろな交通機関が整備され、企業やお店、学校、大使館が多く存在するなど、国際色豊かな街です。そんな港区の防災への取り組みをご紹介します。
目次
お話を聞いた人
港区 防災危機管理室長
佐藤 博史(さとう・ひろし)さん
1992年港区入区、契約、財政、赤坂地区協働推進、防災、高輪地区副総合支所長、教育長室などの課長経験を経て、2024年8月から現職。赤坂や高輪地区では、積極的に街へ出て地域住民と汗を流し、在住22年の港南地区では同じマンションの自主防災組織メンバーと笑顔を交わす。防災課長時代(2016年)には、「防災ラジオ」「マンションの防災カルテ」を導入するとともに、伝説の「港区防災アイドル」(現在は解散)を誕生させ幅広い周知に務めた。
昼間人口が夜間の約4倍。情報発信と帰宅困難者の一時滞在に注力
防災への取り組みの前提となる港区の特徴を教えてください。
2025年1月時点の住民登録者数は約27万人です。1996年頃に一時15万人を割り込む状況になったのですが、そこからまた増えてきて、現在に至ります。今後は30万人を超えるものと推計されています。この数はいわゆる夜間人口と言われる、住んでいる方の数です。一方、昼間人口と呼ばれる港区で働いている方や来街者・観光客は、大体90〜100万人に上り、東京23区の中で最も多いとされていて、夜間人口と昼間人口の差が大きいことも特徴の1つです。また、外国人が住民の約8%を占め、その国籍は130カ国にも上ります。

また、港区は、北西一帯の台地と南東の東京湾に面した低地、芝浦、港南などの埋め立て地などもあり、実は、港区は東京23区の中でも最も起伏に富んだ地形なんです。つまり土地の高低差が大きく、坂の多い地形ということです。
昼間人口の数がとても多いんですね。
東京23区の中で、港区は「事業所数、従業員数」が一番多い区です。事業所数や従業員数が多いということは、企業や店舗などが多くあり、またそこで働く人も多い。通勤者はもちろんのこと、私立学校なども数多くあるので、大勢の子どもや学生が港区に通ってきています。かつては、大地震が発生したら「地震=避難」が原則と考えられていましたが、これだけ昼間人口が多いと、実際の対策においては避難が絶対ではないのです。区立学校などの避難所は、約27万人の港区民が、倒壊などにより自宅に住めなくなってしまったときに使う施設だからです。100万人がもし避難所に押し寄せてしまったら、スペースも備蓄品も足りなくなることが容易に想像できますよね。
そうなると、100万もの人に対しては、どういった行動を促すのでしょうか?
実際に災害が発生して、帰宅困難者が大勢発生してしまった際は、民間事業者の建物を「一時滞在施設」として開放していただき、事業者とともに帰宅困難者が避難できるよう誘導・受け入れをします。ポスターやパンフレットのQRコードから、港区防災ポータルサイトにアクセスすることで、受入可能な場所が簡単に確認できます。多くの民間事業者や私立学校などの教育機関が受け入れへの協力体制を取ってくれています。
街を訪れた人にも重要な情報を届け、安全が確保されるまでとどまってもらう工夫を
住民や港区を訪れる人に、どのような形で情報発信をしていますか?
港区防災ポータルサイトや港区防災アプリから、災害情報がすぐに見られるようにしています。外国人の住民が多いことはもちろん、大使館やインターナショナルスクール、外国系企業などもあり、区を訪れる外国人も相当数にのぼります。当然ながら、情報発信の際にも多言語対応が求められているため、災害情報をはじめとする行政に関する情報は多言語で発信しています。

港区防災ポータルサイト。約100の言語に対応している
事前に情報公開されている施設がこんなにあるとは知りませんでした。「一時滞在施設」はどのような機能を持っているのでしょうか?
まず、施設内にいる人、つまりそこで働く従業員や学生、来館者、通行人などの安全を全力で守ってもらえるよう施設に対してお願いをしています。そして、3日間は施設内にとどまってもらう。災害で混乱してしまった交通機関が動き出し、安全に帰宅できるまでの猶予ということです。
ただ、大勢の人に対して十分なサポートをするには、それなりの備蓄品などの準備が必要です。例えば、水であれば1人当たり1日3リットルです。こうした体制を整えるために、施設が物資を購入する際、東京都が費用の6分の5を補助しています。さらに、港区が6分の1を補助しますので、施設側の自己負担は無しという仕組みですね。費用面だけではなく、一時滞在施設の運営マニュアルを作成し、配布するなどのサポートもしています。

一時滞在施設の数が増えることで、来街者にとってもより安心な街になると思います。区内の民間企業や施設に対して、一時滞在施設への登録を日々呼びかけしています。
集中豪雨・首都直下地震に「自助・共助・公助」の考えで備える
地震以外の対策についても教えてください。
起伏の激しい地形であることに加え、近年集中豪雨が増えていることから、土砂災害のリスクは高いと考えています。そのため、土砂災害に特化したハザードマップを作成し、住民へ配布をしています。また、浸水被害にも対応するため、東京都が地下調節池を整備しています。

土砂災害のハザードマップなど、多くの配布物が英語でも作成されている
都心の港区の地下に池があるんですね。初めて知りました。
港区に流れている古川の下にある地下調節池は、大雨により河川水位が上昇した際に、調節池に一時的に川の水を貯留することで下流の河川の水位を下げて浸水被害を防ぐ地下トンネル式の池です。全長約3.3km、貯留容量135,000立方メートルを誇る都内でも比較的大きな施設となっています。アスファルトが多く、地面に水が染み込みにくい都会では、こうした対策が非常に有効ですね。

古川の地下調節池トンネル内の様子
帰宅困難者の対応は交通機関とも連携。災害発生時の自助・共助のマインドも大切に
港区は、品川駅や新橋駅など通勤・通学客が大勢利用する駅もありますね。交通機関に関する対策などはありますか?
JRの東海道線や山手線、京急本線、東京メトロ、都営地下鉄など、数多くの路線が通る港区では、交通機関の混乱による帰宅困難者対策にも力を入れています。利用者の多い駅に、周辺の企業・事業者を中心とした「滞留者対策推進協議会」を設置し、区が警察署・消防署とともに各鉄道会社と連携して、帰宅困難者への対応を協議しています。

鉄道各社とも連携しているんですね。
災害時の行動を表す言葉に「自助・共助・公助」があります。災害が起きた瞬間は、まず自分の命を自分で守る「自助」、その次のステップは、近くの人を支えてあげる「共助」が大切なんですね。港区の職員約2,000人では、住民約27万人、区内への通勤や観光客などを含めた昼間人口100万人をカバーするには限界があるのです。行政が行う「公助」は、災害への備えや災害が起きた後の復興の場面で効果的な力となります。事前の備えという点で、鉄道会社との連携なども行っていますが、実際に災害が発生したときには、誰かに何かしてほしいという気持ちだけではなく、自分たちが何とかしなければ、という滞留者対策推進協議会に参加する各企業の方々の言葉を、気持ちや行動力につなげてほしいです。

港区立芝公園には、災害用のマンホールトイレのほか、かまどベンチ、雨水貯留槽などが設置されている
自助を促す活動として他にどんなことが挙げられますか?
区内の全世帯に携帯トイレを配付しています。これは区民の9割が集合住宅に住んでいる背景があります。災害により断水が起こり、配管・排水管の破損による詰まりによって、その集合住宅の皆さんがトイレに行けなくなる。そうした事態に備え、各世帯人数分(一人当たり20回分×世帯人数) の携帯トイレを、2023年に無償で区民に配付しました。その後に区内へ転入して来た方にも順次発送しています。
全世帯が携帯トイレを持っていればそれで安心かというと、そうではありません。携帯トイレをしまったままにしないでほしいと、私はいつも区民の皆さんに呼びかけています。普段の生活の中で、携帯トイレを試しに使っておくことで、いざというときに慌てず、適切な行動につながるからです。
もし、避難所生活をすることになっても、使い方を知っていれば、次に使う人のために、このキットのシートをセットしてあげられる。マナーやルール作りまで経験しておけば、衛生面でもきっと役に立つのではないでしょうか。
地震発生時の動きを実際に確認。住民と協力したエレベーター閉じ込め対策
首都直下地震の観点で、特に注意していることはありますか?
エレベーター閉じ込め対応訓練に注力しています。東京都が発表している首都直下地震による被害想定※は、2012年に死者200人、負傷者9,127人だったのに対し、2022年は、死者127人、負傷者5,274人と減少しています。一方、閉じ込めにつながり得るエレベーター台数は、2012年の745台から2022年は1,357台へとほぼ倍増しました。近年の高層ビルやマンションの建設などに伴い、エレベーターの数そのものが増えているためです。
地震が発生すると、非常用の電源で近くの階まで動いて自動でドアを開くエレベーターは増えてきていますが、全てがそうではありません。このため、エレベーター閉じ込めに備える訓練を、区が個々のマンションと協力して取り組んでいます。
- ※
首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年5月25日公表)

個別のマンションと一緒に訓練しているとは驚きです。
これまでに24のマンションと訓練をしました。マンションの管理組合の協力を得て、実際に非常用電源を使って、近くの階に止まるまでの一連の流れを住民の方にも体験してもらっています。

エレベーターの隅に三角形の椅子のようなものがあるのを見たことはありませんか? このエレベーター用防災チェアは、普段は椅子として、閉じ込められたときには、椅子の中に水・明かり・トイレなどが入っており、役に立つというものです。

区では、所定の要件を満たしたマンションなどにエレベーター用防災チェアやキャビネットを無償で配付し、エレベーターの閉じ込めに備えるお手伝いをしています。
ありがとうございました。
「地域の活動に普段からぜひ参加してほしい」とお話されているのが印象的だった佐藤さん。
「避難所に行ったらプライバシーが保たれないこともある。いざというときに “初めまして” の関係ではなく、顔なじみの人がいるのは非常に心強いものです」とメッセージをいただきました。
いつやってくるかわからない災害に備え、自宅はもちろんのこと、通学先や勤務先の自治体が発信する防災関連の情報を確認したり、避難訓練やお祭りなど地域でどのような活動が開催されているか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
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竹芝地区で推進するスマートシティのプロジェクト「Smart City Takeshiba」でリアルタイムデータを活用した都市課題解決の取り組みを拡大~都市OSやデジタルツインの活用で防災力の強化や防災業務の効率化などを実証~(2023年6月5日 ソフトバンク株式会社)
(掲載日:2025年2月20日)
文:ソフトバンクニュース編集部