テレワークやデスクワークが当たり前になった今、「腰痛がなかなか治らない」「膝がイタイ」「疲れやすくなった」と感じることはありませんか? その痛みや不調は、長時間同じ姿勢を続けることで、知らず知らずのうちに膝や腰などに負担がかかっていることが原因かもしれません。こうした身体の不調は、放置すると慢性化することも。快適に仕事を続けるためには、適切な対策を知っておきたいものです。
今回は、テレワークで起こりやすい身体の不調の原因や、簡単に実践できる予防・改善策について、京都大学大学院医学研究科の青山朋樹教授に詳しく伺いました。
教えてくれた人
京都大学 大学院医学研究科 教授
青山 朋樹(あおやま・ともき)さん
群馬大学医学部医学科卒。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。1994年より整形外科医として病院に勤務。2009年より現職。専門は再生医学、リハビリテーション医学。一般社団法人ココカラボを立ち上げ、転倒・介護予防の啓発活動を展開している。
目次
長時間の座り作業が原因? テレワークで発生しやすい身体の痛み
テレワークを長時間続けた後、身体の痛みや、重だるさを感じることはありませんか? その原因として、主に次のようなことが考えられます。
- 背中が丸まった姿勢になりやすく筋肉に負担がかかる
- 長時間同じ姿勢を維持することで血行が悪くなる
- 机やイスの高さ、モニターの位置などが適切でない
- 移動する機会が少なくなり、運動不足に陥りやすい
青山さん 「会社にいると、特に意識しなくても、立ち上がったり、移動したりする機会が自然と多くなります。ところがテレワークの場合、気づいたら3時間経っていたなど、長時間同じ姿勢のまま座っていることも少なくありません。このように、不自然な姿勢を維持することで、筋肉や関節に負担がかかり、痛みや不調が生じてしまうのです」
姿勢が悪いとどのような症状が現れる? 放置がもたらす身体への影響とは
では、テレワーク時に長時間同じ姿勢を維持することで、身体にどのような症状が現れるのでしょうか? 特に痛みや違和感が生じやすい「膝」「腰」「首・肩・腕」の3つについて、それぞれの症状と、放置した場合どのような影響が出るのかを見ていきましょう。
❶膝の痛み
長時間座りっぱなしでいると、膝関節が固定されてしまい、膝周りの筋肉が固まっていきます。そうすると、立ち上がろうとしたときに関節に大きな負担がかかり、痛みや違和感を覚えるようになることも。コロナ禍の外出自粛を機に、このような症状を訴える方が増えたため、青山さんはこれを「コロナ膝」と名付けて注意を促しています。
症状が進行すると…
通常、コロナ膝の痛みや違和感は短い時間で治りますが、症状を放置すると関節がどんどん固まってしまい、動きが悪くなったり、筋力が落ちたりすることにつながります。また、膝の軟骨の代謝も落ちるため、将来的に軟骨がどんどんすり減ってしまい、変形性膝関節症になってしまう恐れもあります。
❷腰の痛み
仕事に集中して前のめりになると、猫背の姿勢が続き、腰の筋肉に負担がかかります。その結果、背骨(脊椎)の骨と骨の間にある「椎間板」や、腰の筋肉を覆う「筋膜」に重だるさや慢性的な痛みが生じます。また、パソコンのモニターとキーボードの位置の関係で、腰を少しひねって作業をするなど不自然な姿勢を取り続けると、左右の筋肉のバランスが崩れ、片側の腰だけが痛くなるケースも少なくありません。
症状が進行すると…
長時間座りっぱなしでいると、椎間板に圧がかかり続けます。これによって、椎間板が変性し、椎間板ヘルニアを引き起こしやすくなります。また、ヘルニアが悪化すると、神経が圧迫され、腰だけでなく、お尻や脚にまで痛みやしびれが広がる可能性もあります。
❸首・肩・腕の痛み(頸肩腕症候群)
首・肩・腕にかけての筋肉や神経に関連する症状が現れる疾患の総称を「頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)」と呼びます。この症状は、長時間のデスクワークを続けることで発症しやすく、特に首・肩の緊張や血行不良が関係しています。キーボードを打つなど同じ作業を繰り返したり、不自然な姿勢を取り続けたりすることによって、首・肩の痛みや凝り、腕のしびれやだるさ、緊張型頭痛などの症状が現れます。
症状が進行すると…
頸椎(首の骨)から腕にかけての神経が圧迫されると、腕や手にしびれや痛みが生じます。これが悪化すると、頭痛や目の疲れ、吐き気、食欲不振、睡眠不足など、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。
テレワークによる身体の痛みを改善するためには、まず自分の状態を把握することが大切です。次のページでは、身体の痛みのセルフチェックポイントをご紹介します。
あなたはいくつ当てはまる? 身体の痛みのセルフチェック
以下のチェックシートを用いて、「膝」「腰」「首・肩・腕」の痛みをセルフチェックしてみましょう!
膝の痛みのセルフチェック
- 歩いたり動かしたりすると膝から音がする
- 膝周りが固まる感覚がある
- 立ち上がる際、足に力が入りづらい
- 階段の上り下りのときに足が動かしづらい
- 足に踏ん張りがきかない
腰の痛みのセルフチェック
- 立ち上がる際に腰に痛みや違和感がある
- 腰をひねると動かしづらさや痛みを感じる
- 朝起きたときに腰が固まったように感じる
- デスクワークの途中で腰に疲労が蓄積している感じがする
- 座っていると腰の奥のほうが痛くなる
首・肩・腕の痛みのセルフチェック※
- 首、肩、腕から手にかけて痛みやしびれがある
- 腕に脱力感がある
- 腕が重い
- 字を書きにくい
- 腕や手が冷たい
- 仕事をしていると症状が強くなる
- 不眠(なかなか眠れない)
- 食欲が低下している
- ※
チェック結果を踏まえて、次に取るべきアクション
ご自身の身体の状態を把握できたでしょうか? 複数の項目にチェックがついた場合や、症状が続いている場合は、筋肉や関節に負担がかかっているため対策が必要です。
青山さん 「症状が軽いうちは、セルフケアによって痛みや違和感を緩和できることもあります。まずは、良い姿勢を維持できるよう作業環境を整えたり、仕事の合間にエクササイズをしたりするなど、できることから取り組みましょう。ただし、セルフケアを試しても症状が改善しない場合や、むしろ悪化してしまった場合は、迷わず整形外科を受診してください」
次のページでは、身体の負担を軽減するための具体的な生活改善のポイントや、仕事の合間にできるエクササイズをご紹介します。今すぐ取り入れられる対策をチェックして、快適なテレワーク環境を目指しましょう!
ちょっとした工夫で痛みを予防! 「勝ち組」になるための生活習慣とエクササイズ
「テレワークが一般化して以降、働き方の変化に適応し、環境やライフスタイルを見直した “勝ち組” と、何かしなければと思いながらアクションを起こせていない “負け組” の二極化が進んでいます」と、青山さんは話します。 “負け組” の人は、身体の痛みが気になって生産性が落ちるなど、負の連鎖を招いてしまう可能性も。そうならないためにも、今日からできる生活改善ポイントと、簡単に実践できるエクササイズを青山さんに教えていただきました。
身体を守る生活改善のポイント
❶パソコンの位置やイスの高さを見直す
身体の痛みを防ぐには、作業環境の見直しが欠かせません。パソコンはディスプレイが目線と同じか、やや下になるように調整し、デスクの高さやディスプレイの角度を適切に設定しましょう。キーボードはディスプレイの真正面に設置し、作業中に前かがみや不自然な姿勢にならないように工夫します。イスは、膝関節が90度になる高さが理想です。
❷1時間に1回、立ち上がる習慣をつける
「集中していたら、いつの間にか3時間経っていた…」とならないように、リマインダーアプリなどを上手に使って、1時間に1回は立ち上がる習慣をつけましょう。立ち上がったら、その場で簡単なエクササイズをすることをおススメします。
❸夜はゆっくりお風呂に浸かる
1日の終わりには、しっかりと身体をリラックスさせることが重要です。筋肉や関節は繊維でできており、お風呂で温めることによって、硬くなった繊維がほぐれていきます。また、お風呂に入ると血流が良くなり、痛みの緩和につながります。
仕事の合間に! その場でできる簡単エクササイズ3選
❶「背伸び」で曲がった関節を伸ばす
- 両足をそろえて立つ。
- 両手の平を合わせて真上に伸ばす。指先から天に引っ張られるようなイメージで。
- 大きく息を吸いながら、前腕から肩、肩甲骨、腹筋、背筋、すねの筋肉まで、全身の筋肉を上に引き上げ、5秒間キープする。
- 息を吐きながら、全身の力を抜いていく。
- 2〜4を3回繰り返す。
青山さん 「不自然な座り方をしていると、腰の左右どちらかの筋肉に負担がかかります。偏りをなくすためにも、腰の左右の筋肉を同じようにグイーンと伸ばしてください」
❷「30秒足踏み」で下肢の関節に刺激を与える
- 両足をそろえて立つ。
- その場で腕を振りながら30秒間足踏みをする。
青山さん 「行進のように膝を高く上げる必要はありません。軽く足踏みをするだけで股関節や膝関節に刺激が加わり、関節の可動をスムーズにしたり、血流が改善されたりするほか、冷えやむくみの予防にもつながります」
❸左右5回ずつ腰をひねる
- イスに座ったまま、両肘を左右に張って脇を広げる。
- 右に大きく腰をひねる。
- 左に大きく腰をひねる。
- 2〜3を5回繰り返す。
青山さん 「腰を大きくひねることで、猫背で凝り固まった肩甲骨周りの筋肉や、腰回りの筋肉がほぐれます。また、腰周りのねじれ癖が解消されて、左右の筋肉のバランスが整います」
巻き肩改善には「肩甲骨を閉じる運動」が効果的!
デスクワークを続けていると、気づかないうちに「巻き肩」になってしまうことがあります。巻き肩の状態が続くと、首や肩のこり、猫背の悪化につながるため、意識的に正しい姿勢を保つことが大切です。そこで、巻き肩を防ぐための簡単なエクササイズについても青山さんに教えていただきました。
- 椅子に座り、両腕を肩の高さまで持ち上げる。
- 手のひらを開きながら、肩甲骨を寄せるようにして両肘を後ろに引く。
- ゆっくり元の位置に戻す。
- 2〜3を5回繰り返す。
この運動を1時間に1回程度行うことで、肩周りの筋肉がほぐれ、巻き肩の改善が期待できます。デスクワークの合間に、ぜひ取り入れてみてください!
「最初は気にならない程度の痛みでも、放置することで、将来的に関節が変形したり、歩行が困難になったりするなど、重大なリスクを招くことがあります」と青山さん。本記事でご紹介した生活改善やエクササイズは、誰でも簡単に始められるものばかりです。仕事の合間に身体と頭をリフレッシュする習慣を取り入れて、テレワークの “勝ち組” を目指しましょう!
ソフトバンクの健康経営への取り組み

ソフトバンクでは、「心身の健康づくりに関する基本方針」にのっとり、社員の健康維持・向上を目指し、「健康経営宣言」を掲げています。
(掲載日:2025年3月25日)
イラスト:POP CORN STUDIO
文:佐藤由衣
編集:エクスライト