
今や、いくつものSNSを楽しんだり、さまざまなネットサービスを利用したりするのが当たり前の時代。ですが、何気なく利用したサービスや、投稿した内容が、知らないうちに違法行為にあたるケースも少なくありません。「みんな使っているから大丈夫」「ネットや広告で紹介されていたから安心」という自己判断はとても危険です。どうすれば日々安心してネットを活用できるのでしょうか。今回は、ネットに潜む違法行為の種類や、私たちが日常的に気をつけるべきポイントについて、弁護士の中野秀俊さんに伺いました。
目次

「知らなかった」では済まされない! ネット利用で知っておくべき法律のキホン

ネットの世界では新しいサービスが次々に登場していますが、「これって大丈夫?」と思いながらも、何気なく利用してしまう人も少なくありません。しかし、法律の世界では「知らなかった」では済まされないことも多く、軽い気持ちの利用が思わぬトラブルにつながる恐れがあります。
例えば、次のような行為は注意が必要です。
- 海外サイトだから大丈夫と考えてオンラインカジノをプレーする
- 新しいアプリやサービスを、規約をよく理解しないまま利用する
- SNSでの投稿や動画配信を、著作権を確認せずに行う
こうしたネット利用時の身近なリスクを踏まえ、注意すべき法律上のポイントを整理していきましょう。
グレーゾーンってあるの? 違法の境界線は?
最近、オンラインカジノをプレーしたことで、逮捕される事例がよく聞かれます。中には「違法だと知らなかった」と話す人もいますが、知らなかったとしても処罰対象になるのでしょうか。
「刑法38条3項には、“法律を知らなかったとしても、そのことを理由に罪を犯す意思がなかったとは言えない”といった記載があります。つまり、“知らなかったとしても、犯罪には変わりないですよ”ということ。『法律にどう定められているかなんて、教えてもらってないよ』と思うかもしれませんが、法律は公に公開されているものですし、改正されるごとに公式発表されています。だから、『知らなかった』という言い訳は通用しないのです」
法律に違反するつもりがなかったり、悪意がなかったりしたとしても、法律違反が成立するということでしょうか。
「その通りです。その行為が“わざとかどうか”“悪意があってやったことなのか”は、罪の重さに影響することはありますが、犯罪そのものが成立しなくなるわけではありません。例えば、自分が扱ってよいお金だと思い込み、会社のお金を自分の口座に振り込んだとします。本人に横領するつもりがなくても、客観的には会社のお金を勝手に移動させているため、横領罪が成立します。『横領という罪があることを知らなかった』という理由で、罪を免れることはできないのです」
ここ1~2年で、オンラインカジノ利用者の摘発が増えているのは、なぜなのでしょうか?
「海外のオンラインカジノを日本国内から利用する行為は、以前から賭博罪の対象でしたが、5〜6年前までは判例が少なく、“グレーゾーン”と捉える人が多い状況でした。しかし2022年、警視庁が“日本国内から利用する場合も賭博罪が成立する”という見解を公表したんです。それを知らずに、大丈夫だと思ってプレーした人が、最近、逮捕や書類送検をされている状況です」
ネットを介して行うお金のやり取りは、慎重に
オンラインカジノが違法ならば、オンラインガチャはどうなのでしょうか?
「賭博とは、得をする人と損をする人が発生するものを指します。それに該当しなければ、オンラインガチャは違法ではありません。例えば、1,000円でガチャを回して、誰かは5,000円のものが当たり、別の人はハズレで何も得られないとなると、賭博と見なされます。ハズレでも払った1,000円分の価値があるものをもらえるのなら大丈夫です。ただ、マニアが好む品物のように、一部の人にとっては価値があると見なされるものは多いですから、“損するとは何なのか?”という線引きは、とても難しいですね」
最近はネットのライブ配信で「投げ銭」も盛んですが、これも法的な問題があるのでしょうか?
「普通に投げ銭をする・してもらうのは問題ありません。ただし、『生活に困っているからお金をください』といった発言でお金を募る行為は、“物乞い行為”と呼ばれ、軽犯罪法違反にあたる可能性があります。これまでに摘発された例はありませんが、あまりにも目に余る場合には、見せしめとして逮捕される可能性も否定できません」
これってNG? ネット上でやりがちな行為をチェック!

ネット上には、誰もが一度は見たことのある行為や投稿がありますが、その中には法律に触れるものも少なくありません。ありがちなネット上の行為について、「NGかOKか」を中野さんに聞いていきます。
フリマアプリなどでの“売る・買う”行為も、要注意
フリマアプリでの転売
| ○ | 「古物商許可証」を取得して販売する |
|---|---|
| × | 中古品を許可なく継続して販売する |
| △ | 個人の不用品整理の範囲だが、頻度が高く営利性がある |
「どこかから中古品を仕入れて、それを売るには、古物営業法に基づいて『古物商許可証』を取得し、警察に届けなくてはいけません。許可を取っている人であれば問題ありませんが、取っていない人が継続的に転売を行えば違法になります。個人の不用品整理程度であればグレーですが、繰り返し行っていると営利目的と判断される可能性もありますよ」
フリマアプリでの医薬品・食品・チケットの出品
| ○ | 販売条件を満たした一般商品をルールに沿って出品する |
|---|---|
| × | 薬やサプリを出品する/消費期限や食品表示がない食品を出品する/定価以上でチケットを転売する |
「販売が禁止されている、または条件がある品物がいくつかあります。たとえば、医薬品やサプリメントは、薬剤師免許や販売許可がなければ出品できません。食品や飲料も、衛生管理や食品表示の基準を満たしていない場合は違法となる可能性があります。チケットについては、『チケット不正転売禁止法』によって、定価を超えて販売することが禁止されています

また、上記のような規制のある商品以外でも、取引時には次の点に注意しましょう。
- あきらかに傷や破損がある場合は隠さず説明する
- 品物の状態や欠陥を正確に開示する
- 規約違反やトラブルを招く行為を避ける
こうしたルールを守らずに取引をすると、詐欺や不当表示といった違法行為に該当するケースもあります。基本的なルールを押さえておけば安全に取引できますが、少しの不注意が違法行為につながることもあるため注意が必要です」
アイコン1つでも、著作権法の違反に?
SNSのアイコンや画像の使用
| ○ | 自分で撮った写真や描いたイラストを使用する |
|---|---|
| × | アニメキャラ・漫画キャラを無断使用したアイコンに設定する |
| △ | ファンアートを個人で投稿する |
「自分で撮影した写真や、自作のイラストを使うのは問題ありませんが、アニメや漫画のキャラクター画像をアイコンに設定するのは、著作権侵害にあたる可能性が高いです。出版社は著作権への意識が高く、訴えられることもあります。ファンアートの投稿はグレーで、商用利用や無断転載でなければ黙認されている場合もありますが、著作権者の方針によっては削除要請や警告を受けることもあるため注意が必要です」
YouTubeやTikTokへの動画掲載
| ○ | 自分で撮影・編集した動画をアップする |
|---|---|
| × | 映画やテレビの映像を転載/リアクション動画や要約動画として投稿する |
「ドラマや映画を10分ほどにまとめた“要約動画”が一時期流行しましたが、著作権侵害として厳しく処罰された例もあります。転載したコンテンツを使って収益を得ている人が優先的に取り締まられますが、たとえ収益化していなくても、SNSにアップするだけで違法となる可能性があります。ミュージックビデオに対する“リアクション動画”も、映像や音声をそのまま使用している限り、著作権侵害にあたるため注意が必要です」

ゲーム実況・配信
| ○ | 公式に個人配信が許可されているゲームを使って実況する |
|---|---|
| × | 配信が禁止されているゲームを配信する |
「ゲーム実況はグレーな領域と思われがちですが、実際には各ゲーム会社が“個人利用に限って配信可”などのガイドラインを出しています。許可されていないゲームを無断で配信すると、著作権侵害にあたる場合があります。配信を始める前に、必ずゲームごとのルールを確認するようにしましょう」
公道以外では、他者の写り込みに配慮を!
他人が写り込む場面での撮影・投稿
| ○ | 公道で偶然写り込んだ人がいる動画を投稿する |
|---|---|
| × | 他人を狙って撮影する/しつこく撮影する |
「公道での撮影で、通行人がたまたま写り込む程度であれば問題になることは少ないでしょう。ただし、他人を意図的に狙って撮影したり、追いかけて撮ったりするような行為は、肖像権の侵害にあたる可能性があります。また、店内などの私有地では、そもそも撮影が禁止されている場合もあり、他人の顔がはっきり映った動画を許可なく公開すればトラブルになることもあります。撮影や投稿の前に、その場所のルールを確認することが大切です」
生成AI作品を公開する際の注意点とは?
最近は生成AIを使って画像や文章を作成する人が増えていますが、AIが生成したものであっても著作権のトラブルに巻き込まれる可能性はゼロではありません。特に、「依拠性(既存作品をどれほど参考にしたか)」や「類似性(既存作品とどれだけ似ているか)」 が問題となるケースがあります。

安全に活用するために、以下の点を意識しましょう。
- プロンプト(指示文)を記録する
万一、既存のコンテンツと似た作品ができてしまった場合でも、意図的でないことを証明するために、入力したプロンプトを写真や動画で残しておきましょう。 - 商用利用・規約を確認する
生成AIサービスごとに商用利用の可否や利用規約が異なります。商用に使う場合は、必ず規約を確認し、著作権やライセンスの条件を満たしているかをチェックしましょう。 - 意図的な模倣は避ける
有名作品や著名キャラクターに寄せたデザインや文章は、著作権侵害にあたる可能性が高いです。安易に真似しないようにしましょう。
ネット上での違法行為を避けるために、心がけたいポイント

ここまで、ネット上で起こりがちな違法行為の例を見てきましたが、実際にトラブルを避けるためには、どのような意識を持てばよいのでしょうか。日常的に意識しておきたいポイントについて中野さんに伺いました。
ネット上のコンテンツにはすべて著作権がある!
日常的にどんな意識を持って、何に気をつければ良いのでしょうか?
「とにかく、世の中に溢れているあらゆるコンテンツには、著作権があると思ってください。著作権はどこかへ登録して発生するものではなく、生みだした瞬間に制作者のものになります。『ネット上に転がっているんだから、使ってもいいじゃないか』と言う人がいますが、“ネット上にある=勝手に使っていい”というわけではないんです」
「みんなやっている=大丈夫」と思わない。まずは調べて確かめる習慣を
YouTubeへの動画の転載などは、よく見かけるので違法ではないと思いがちですが、そうではないのですね。
「例えば、少し前からYouTubeに“歌ってみた動画”をアップするのが流行っていますが、自分で演奏しているか、アカペラでなければ違法です。カラオケ音源に載せて歌ったものをアップするのもNG。なぜなら、カラオケ音源はカラオケ配信会社に著作権があるからです。YouTubeで自分の演奏もしくはアカペラならOKとなっているのも、YouTubeがJASRACという著作権管理団体と音楽利用に関する契約をしているから許されているだけ。楽曲の制作者に著作権があるので、本来は他人が歌って公開してはいけないのです」
知らないことばかりで、気づかないうちに違反行為をしてしまう場合もあるかもしれません。どうやって違法かどうかを確かめればいいですか?
「まずはGoogle検索でもChatGPTでもいいので、自分の行為が違法である可能性を探ってみましょう。ただ、ChatGPTは便利ですが、法律的な内容の正確性はまだ不十分で、誤った情報(ハルシネーション)が生じることもあるので、法律的に“怪しそうな点”を見つけるきっかけとして活用するのがよいでしょう。その上で、もし『◯◯法に違反しているかも』と返答があれば、その法律がどの分野に関するものかを確認し、所管する省庁(たとえば法務省、厚生労働省など)のウェブサイトなどで法律そのものを確認しましょう。各省庁には問い合わせ窓口がありますから、何か困ったことが起きたり、面倒に巻き込まれたりした場合には、そこから問い合わせてみてください」
違反行為に相当するとわかったら、どうすれば良いでしょうか?
「弁護士などに相談するのがいいでしょう。それ以前に、まずは“いつ・どこで・何をやったか”といった事実をまとめてください。『オンラインカジノをやってしまった』という場合でも、実はもらったポイントをゲーム内で消費していただけで、違法には当たらないかもしれない。事実がわからないと弁護士などの専門家も判断ができませんから、あわてずに1つずつ洗い出すようにしましょう」
ネット上には、意外と違法なコンテンツが出回っていることがわかったのではないでしょうか。「みんながやっているから問題ない」と思い込まず、著作権や肖像権などの法律を意識して投稿や配信を行うことが大切です。お金や権利に関する判断が難しいケースも多いため、自己判断せず、トラブルを避ける行動を心がけてくださいね。
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(掲載日:2025年8月28日)
文:佐藤葉月
編集:エクスライト









