
ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、HAPSや静止衛星、低軌道衛星などの非地上系ネットワーク(NTN)を組み合わせることで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指し、災害時の分断や通信網の整備格差といった現在の通信インフラの壁を越えて、世界中の人やビジネスにイノベーションを起こす「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」(以下、UTX)を推進しています。
UTXについてシリーズでお伝えしていく本企画の第2回は、SDV(Software Defined Vehicle)向けにグローバルにIoTプラットフォームおよびコネクティビティサービスを提供するソフトバンクのグループ会社Cubic³(キュービック)との取り組みについて紹介します。 Cubic³は今年、地上のモバイルネットワークとNTNの両方に対応した世界初の自動車向けのSIMを発表。ソフトバンクとCubic³は、数年以内にコネクテッドカー向けのユビキタスネットワークソリューションの商用化を目指しています。日進月歩で進化する衛星通信との連携によってどのようなサービスが生まれるのか、担当者に話を聞きました。

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 事業戦略部 部長
才木 一志(さいき・ひとし)
世界中のネットワークを調達可能な、グローバル一括管理プラットフォーマー
車両のデジタルプラットフォーム化が進む中、信頼性が高くシームレスな通信接続は、無線ソフトウェア更新(OTA)や予知保全、安全機能、テレマティクス、ナビゲーションなどの重要な機能を安定して動作させるために不可欠なものとなっています。このようなシームレスな通信サービスを実現するために、ソフトバンクとCubic³は地上のモバイルネットワークと衛星通信をはじめとする非地上系ネットワークを融合させ、あらゆる場所で通信を提供するコネクテッドカー向けのユビキタスネットワークソリューションを、今後数年以内に展開することを目指しています。
まず、Cubic³はどのような事業を展開している会社か教えてください。
才木 「Cubic³は、自動車をはじめ、建設機械、農業機械、トラックなどの車両メーカーに対してグローバルに通信を提供している企業です。アイルランドに本社を置き、200を超える国・地域でSDV(Software Defined Vehicle)向けの高度なコネクティビティソリューションを提供し、2,500万台以上の車両で利用されています。
自動車メーカーの例で説明すると分かりやすいと思いますが、例えば、Cubic³の主要顧客の一つであるフォルクスワーゲングループは、ドイツの工場で製造された車両を日本、アメリカ、ヨーロッパなど世界中に輸出しています。その際、日本に輸出する車であれば、右ハンドル仕様で出荷しますが、車の通信においてもCubic³のようなソリューションがなければ、例えばソフトバンクのSIMを搭載して出荷するというように、輸出先の国ごとにSIMの差し分けや通信事業者との契約が必要になります。200を超える国と地域に対応しようとすれば、その負担は自動車メーカーにとって非常に大きなものになります。
そこでCubic³は、その200を超える国と地域の550以上のモバイル通信ネットワークに対して、単一のSIMでグローバルに対応できるコネクティビティを提供しています。Cubic³のSIMを車両に搭載しておけば、その車が世界のどこに出荷されても、現地のネットワークに自動でつながる。そのようなグローバルな通信サービスを実現しています」

Cubic³は通信事業者なのでしょうか。また、ソフトバンクとの関係は?
才木 「Cubic³はグローバルにIoTソリューションを提供している移動体通信事業者です。ソフトバンクは2024年3月にCubic³(当時の会社名はCubic Telecom)へ出資を行い子会社化し、グローバルIoTプラットフォームの営業協力や、新規サービスの開発などで連携しています。
Cubic³は今年、地上のモバイルネットワークとNTNの両方に対応した世界初の自動車向けのSIMを発表しました。モバイル通信と衛星通信をシームレスに切り替えられるこの技術は、ユビキタスネットワークの実現に向けた大きな一歩であり、新たな可能性を切り開くものです。ソフトバンクとCubic³は、SDV向けのユビキタスネットワークの実現に向けた戦略的パートナーシップを締結し、主要な衛星通信事業者との連携を通して、数年以内にコネクテッドカー向けのユビキタスネットワークソリューションの商用化を目指しています」

eBook(電子書籍)「Ubiquitous Connectivity: For a Smarter Automotive Future」では、乗用車や農業、その他の産業に関連する車両メーカーにおけるユビキタスネットワークの価値と可能性を詳しく紹介しています。
ユビキタスネットワーク:よりスマートな未来の実現に向けて
そのようなSIMを発表したCubic³は、UTXにおいてどのような役割を担っているのでしょうか?
才木 「われわれはUTXのコンセプトの下、Cubic³の既存のソリューションにNTNを統合することを実現したいと考えています。先ほどお話したようにCubic³は、世界各国の通信キャリアと提携し、グローバルにモビリティ向けのIoTソリューションを提供している企業です。ユーザーである自動車メーカーの立場からすると、Cubic³と契約していればどこの国に出荷しても現地の通信事業者のネットワークに接続することができます。そこにNTNが加わることによって、今後はさらに各国の『モバイルネットワークの圏外』までもカバーし、まさにユビキタスネットワークを実現します。これにより、利便性、安全性、ユーザー体験は一層向上します。
ユビキタスネットワークの実現のためには、衛星と地上の通信基盤の両方が不可欠です。Cubic³が地上のモバイル通信においてさまざまな国や地域でつながる仕組みを持っていることは非常に大きな意味があります。Cubic³というパートナーがいることによって、ユビキタスネットワークの構築プロセスを一気に前進させることができると考えています」

自動車業界でのユビキタスネットワークの需要は?
才木 「自動車業界全体でも、衛星通信をはじめとするNTNへの関心は急速に高まっています。例えば5GAA(5G Automotive Association)のような業界団体でも、ここ数年でNTNの必要性が強く打ち出されるようになってきました。将来のコネクテッドカーには、地上のモバイルネットワークだけでなく、NTNを加えた常時接続性が求められるという認識が業界全体で共有されつつあります。
しかし、地上通信の場合と同様に、衛星通信においても地域ごとに利用可能な事業者が異なり、ある地域は衛星通信会社Aのサービスを使い、またある地域では別のサービスを使うというように複数の衛星通信サービスを使い分けなければならない状況です。通信速度やカバーする地域も事業者によって異なるため、利用者にとっては複雑かつ負担が大きいと言えます。さらに現段階では、通信の仕組み自体が事業者間で異なっている部分もあり、統一された環境とは言い難い状況です。
そのため、Cubic³はモバイル通信で果たしてきた役割と同様に、NTNの融合においても多様な衛星通信事業者のインフラを束ねる役割を担えるのではないかと考えています」
既に連携している衛星通信事業者は?
才木 「Cubic³はすでにIntelsat(インテルサット)やSkylo(スカイロ)、Viasat(ヴィアサット)との提携を発表しています。Intelsatが運用する通信衛星とは車両向けの衛星通信の接続テストに成功し、地上ネットワークと衛星をシームレスにつなぐ手法の検証も成功しています。 現在は、衛星事業者のサービスをいかにCubic³のネットワークにつないでユビキタスネットワークを実現していくかという全体のプランニングを、ソフトバンクとCubic³が共同で取り組んでいる状況です」

高度3万6,000キロメートルの静止衛星から、動いているものに通信を提供することができるのですね。
才木 「はい。衛星単体で、車両などの動いているものに対して通信を提供することはすでに技術として確立されています。検証のポイントとなったのは、通信のスピード、あるいは通信するためのコストというところでした。スピードと通信料金の観点でいうと、地上のモバイル通信にアドバンテージがありますが、基地局からの距離や建物の影などの影響で通信が途切れることもあります。一方、静止衛星通信は、建物の中ではつながりにくいという課題もありますが、高度3万6,000キロから地球に電波を届けるため、基本的に空が見えていればどこでも通信可能という強みがあります。
つまり、衛星通信だけでもほぼ100%カバレッジできるのですが、それだと少しスピードが遅くて料金が高くなってしまうため、地上のネットワークにつながるときはそちらにつなぎ、地上のモバイル通信エリアから外れそうなときは衛星通信に切り替える。そこをうまくコントロールしていくことで、お客さまに料金的にもリーズナブルで、通信のパフォーマンス・体感としてもベストなサービスを提供していきたいと思っています。米国で行った技術検証では、車を実際に走らせて、郊外に行ったときには衛星通信に切り替わり、都市部に戻ってきたら地上のモバイル通信につながるといった検証をSD-WAN(Software-Defined WAN)を介して行いました」

ユビキタスネットワークがもたらす自動運転時代の安全・安心と快適な車内体験
Cubic³によるユビキタスネットワークの実現によって将来もたらされるものは?
才木 「大きく分けて二つのポイントがあると思っています。一つは、安全・安心面での貢献です。最近、自動運転が進展して、既に一部の都市やエリアでは完全自動運転が始まっています。今後5年、10年と進むにつれて、さらに普及していくでしょう。そうした時に、もし万が一、運転者がいない車にネットワーク圏外でトラブルが発生した場合、コントロールすることが難しくなり危険な状況に陥る可能性もあります。
しかし、このユビキタスネットワークが実現すれば、どこにいてもつながり続けられる安心感が得られます。常につながる環境が整うことで、自動運転の普及も進んでいくのではないでしょうか。これが一つ目のポイントです。
もう一つは、自動運転の進展にともなって、搭乗者の車内での過ごし方や体験が大きく変わってくるという点です。例えば、飛行機に乗っているときのように、動画を見たり娯楽を楽しんだりすることが増えてくるでしょう。まだ今は運転者がそのようなことをするのは難しいと考えられていますが、おそらく5年、10年後にはそうした移動中のインフォテインメントやエンターテインメントが普通になっていくと思います。
その際に、ネットワークが途切れて動画が止まったりゲームができなくなったりすると、快適な車内体験が損なわれてしまいます。これに対して、ブロードバンド衛星通信を含むNTNと地上のモバイルネットワークを組み合わせてシームレスな接続を保つことで、より良いサービスを提供し、豊かな車内体験を実現できると考えています」
今後の展開を教えてください。
才木 「Cubic³の既存のソリューションにNTNを加えていくというときに、どこか1社と組めばそれで完結するというものではないと思っています。衛星通信の技術も日進月歩で進化していますし、新しい通信規格もどんどん出てきています。かつて衛星通信といえば静止軌道衛星が主流でしたが、近年では低軌道衛星の多様化が進むなど技術が急速に進化し、今後も市場が変化していくことが予想されます。将来を見据えながら、お客さまのユースケースや要件に応えられるソリューションをラインアップに加えていくには、複数のパートナーと柔軟に連携し、最適な技術やサービスを取り入れていくことが重要だと考えています。そうすることによって、つながり続けることが求められる車の安全・安心のための通信も、車内で動画やゲームを楽しみたいときのブロードバンド通信も『適材適所』で提供できるようこれからも挑戦を続けていきます」

ソフトバンクが描くUTX
ソフトバンクが推進する「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」についてシリーズでお伝えしていきます。過去の記事はこちらからご覧いただけます。
(掲載日:2025年8月26日)
文:ソフトバンクニュース編集部
UTXでソフトバンクが目指す世界

ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、人工衛星や成層圏通信プラットフォームを活用した非地上系ネットワークを融合することで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指します。





