友人と一緒に撮った写真や街で見かけたかわいい子ども、カフェの店内の様子などをSNSに投稿していませんか?
そんな何げない行動がプライバシー侵害に該当してしまう可能性があるんです。今回は、IT関連に詳しい弁護士の河瀬季さんにお話を伺い、そもそものプライバシー侵害の定義や、SNS上でのプライバシー侵害のボーダーライン、投稿する際に注意したいポイントについて解説していきます。
河瀬季(かわせ・とき)さん
東京弁護士会所属、モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニアで、IT企業経営の経験を経て、現在はITに特化した法律事務所を経営。東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士・監査役を務める。『IT弁護士さん、YouTubeの法律と規約について教えてください(祥伝社 ・2022年)』『Q&A実務家のためのYouTube法務の手引き(日本加除出版・2022年)』など、出版書籍多数。
目次
- いつものSNS… のはずが、気付かぬうちにプライバシー侵害をしてるかも?
- 知っておきたいプライバシー侵害のボーダーライン
- SNSでプライバシー侵害をしないために注意したいこと
- もしSNSでプライバシー侵害をしてしまったらどうなる?
いつものSNS… のはずが、気付かぬうちにプライバシー侵害をしてるかも?
Twitter、Instagram、TikTokなどのSNSに、街で見かけたおしゃれな人やかわいい子ども、レストランやテーマパークで他の人の顔が入り込んだ写真や動画などを、何げなくアップしていませんか。無意識に行っていることが、実はプライバシーの侵害に当たってしまうケースがあるんです。まずは知っているようで意外と理解できていないプライバシー侵害の定義から確認していきましょう。
そもそも「プライバシー侵害」とは?
河瀬さん 「プライバシーの侵害とは、個人情報や私生活について知られたくないことをみだりに他者に知られたり、公開されたりすることです。刑法上の罰則はありませんが、民法上の責任はあります。
例えば、自分が街で誰かと歩いているところを撮影され、SNSなどで勝手にアップされたとします。その場合、顔が写り込んでいることよりも、“その時、その場所で、こういう人と一緒にいた”という情報を公開されたこと自体が、プライバシーに関わること=プライバシー権の侵害と考えるのが一般的です」
プライバシー権と聞くと、基本的人権などのように憲法で保障されている権利のようなイメージですが、実際のところはどうなのでしょうか。
河瀬さん 「プライバシー権は、日本国憲法十三条の解釈により保障される、基本的人権であると考えられています。ただし、憲法の規定によって明確な定義が定められているわけではないんです。実は十三条を見てもプライバシーという言葉はなにもなくて、裁判所がそう考えているから存在することになっているという、非常に曖昧な権利なんですね。基本的には他人にみだりに知られたくないプライベートな情報を守る権利という解釈がされています」
プライバシー侵害の中には肖像権の侵害も含まれる?
河瀬さん 「肖像権とは、許可なく他人が自分の写真を撮ったり、撮られた写真が無断で公表・利用されたりすることがないよう、主張できる権利のことです。プライバシーの侵害と肖像権の侵害は重なる部分が大きいため、他人が写り込んだ写真をSNSに投稿する際には、注意が必要です。
写真にたまたま小さく写り込んでしまったり、顔が判別できない場合などは、肖像権の侵害にはあたらないケースが多いです。ただし、SNSなどの拡散されやすいものに無断で顔写真を投稿してしまうと、被害者から肖像権の侵害として訴えられる可能性があります」
知っておきたいSNSでのプライバシー侵害のボーダーライン
SNSへの投稿でうっかりプライバシー侵害をしないためにもそのボーダーラインを知っておく必要があるかと思います。河瀬さんによると、SNSに投稿した写真や動画が下記の基準に当てはまる場合、プライバシー侵害に該当してしまう可能性があるそうです。
【プライバシー侵害の基準】
-
私生活に関する事実
基本的にプライバシー侵害と認められるには私生活に関する事実である必要があります。ただし、必ずしも真実である必要はなく、真偽が不明でも事実として受け取られる可能性のあるものも含みます。
-
一般的に公開して欲しくない内容
❶の私生活に関する事実が、一般的に考えて公開して欲しくないであろう内容という点も基準となります。例としては下記のようなものが挙げられます。
- 顔写真(個人が特定できるもの)
- 自宅の住所
- 犯罪歴(前科)
- 指紋データ
- 運転免許証番号やマイナンバー
- 病歴
- 身体的特徴
- 結婚・離婚歴
- 日常生活や行動
- 家庭内の私事 など
この中にあるものでも、本人がSNS等で公開している情報ならば当てはまりません。
-
まだ一般の人に知られていない(非公開である)内容
❶の私生活に関する事実がまだ一般の人に知られていない、非公開の内容であるという点も基準のひとつです。
河瀬さん 「プライバシー侵害の基準については、明確なボーダーラインというのが難しいかもしれません。投稿者に悪意がなかったとしても、一般的に考えて、公開されることが不快に感じる内容であり、かつ公開された本人も現実に不快や不安に感じたのであれば、プライバシーの侵害にあたる可能性があります。
具体例がないとイメージするのが難しいかと思いますので、SNSに写真や動画を投稿した場合に関して、どういったケースがプライバシー侵害に該当する可能性があるのか見ていきましょう」
プライバシー侵害に該当しうるケース



<友人同士で>
- 友人と遊びに行った場所で撮った写真をInstagramに投稿する際に、断りなく友人のアカウントをタグ付け
- 友人の運転免許証の写真が面白かったので、ついInstagramのストーリーに投稿
- 高校の卒業アルバムに掲載されている友人の写真を撮影してSNSに投稿
- 友人の家に遊びに行った際に撮影した写真(部屋全体が写っている写真、家の外観がはっきりわかる写真)を無断でSNSに投稿
- 友人の彼氏が知らない女性とカフェにいるのをたまたま見かけたので、こっそり写真に撮って「浮気現場!?」というニュアンスでSNSに投稿
<外出先で>
- 他人の子どもの写真を無断でSNSに投稿
- 煽り運転をしてきた他人の車の写真やナンバーをSNSに投稿
- 電車内でマナーの悪い人を動画に撮ってSNSに投稿
- 自分の働いているお店に有名人が来店したことをSNSに投稿
<その他>
- 「SNSでの投稿は控えてください」と注意書きがあったイベントの様子を、SNSの鍵アカウント(非公開アカウント)で公開
- SNSで鍵アカウント(非公開アカウント)の投稿内容のスクショ画像を投稿
河瀬さん 「FacebookやInstagramなどのストーリーは、24時間限定公開ですが、だからといってプライバシー侵害にならないというわけではありません。また、マナーの悪い人を動画で撮影してSNSにアップする行為なども、プライバシーの侵害にあたります。そういう方を見つけたら、SNSにアップするのではなく、まずは然るべき機関に報告するようにしましょう」
すぐに消してもプライバシー侵害に該当するケースも
河瀬さん 「すぐにSNSへの投稿を消せば大丈夫ではと思っている人もいるかもしれませんが、先ほどのストーリーでの投稿と同じで、すぐに消したからプライバシー侵害にならないというロジックは存在しません。見ている人が少ないから、慰謝料の金額が低くなるという話にはつながるかもしれませんが、少なくともプライバシー侵害に該当しなくなるということはありえないですね」
SNS以外でも気をつけたいプライバシー侵害
河瀬さん 「友人同士のLINEなどでも、前述したプライバシー侵害の基準に当てはまる情報をメッセージで送ったり、動画を公開したりするとプライバシー侵害となる可能性があります。特にLINEは個人間のやりとりなのでグループに公開したのでなければ問題ないのではと思ってしまいがちですが、プライバシー侵害は不特定多数でなく、個人間のやりとりでも成立するんです」
SNSでプライバシー侵害をしないために注意したいこと
SNSへの投稿でプライバシー侵害をしないためには、普段からどのような点に気をつければいいのでしょうか。
河瀬さん 「プライバシー侵害については、個人情報などの知られたくない情報を、“みだりに”公開しないこと、と最高裁では言っています。絶対公開してはいけないと定められているわけではありませんが、少なくとも無断で他者のプライベートな情報をSNSに公開することはやめましょう。そもそも、SNSは常に不特定多数の人に見られているという意識は忘れないようにしたいですね。
許可なく写真を公開することは、場合によっては肖像権の侵害にもあたります。第三者の顔はなるべく写らないように撮影したり、知人の写真を投稿するときは写っている本人にSNSに投稿してもいいか事前に確認するようにしましょう。お店で店内の様子などを撮影した場合も、念の為店員さんにSNS投稿していいか確認しておくとトラブルを避けられるかと思います」
SNSでは、写真以外にも投稿の内容に注意が必要です。匿名だからといって、嘘や不確かな情報を書いたり、誹謗中傷や差別的発言をしたりするなど、配慮を欠いた投稿はしないことが大切です。SNSに投稿する際には、うっかりプライバシー侵害の加害者になってしまわないために下記のチェックリストに当てはまるものがないか、自分の中で確認してから投稿するように習慣づけるようにしましょう。
【SNS投稿前のチェックリスト】
- 友人が写っている場合、許可が取れているか
- 他人のプライバシーに関わる情報・写真を公開していないか
- 他人の個人情報に関するものが写り込んでいないか
- 通行人の顔がはっきり写っていないか
- 不快になる表現、過激な表現をしていないか
- 事実の誤認はしていないか
- 差別的な発言をしていないか
- 無許可でタグ付けしていないか
プライバシー侵害をしてしまったらどうなる?
もしも自分が投稿した内容が知らないうちにプライバシーの侵害になってしまっていたら、どうなるのでしょうか。
河瀬さん 「自分が加害者になってしまったことに気付かないケースも多いですが、仮に、被害者の方から弁護士に依頼があり、投稿者特定等の措置が行われた場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。
実は、日本の相場的にプライバシー侵害の慰謝料自体はあまり高くはありません。ただし、投稿者が匿名であれば、プライバシー侵害は被害者側が弁護士に依頼をして加害者を特定するしかないので、被害者側が支払った弁護士費用は、調査費用として慰謝料に上乗せされることがあります。つまり、例えば慰謝料が30万円でも、被害者が弁護士に払った費用が70万円ならトータルで100万円になるというケースもあります。早い段階で自分から連絡をとって和解するのをおすすめします。また、投稿した画像や動画はすぐに削除しましょう」
SNSは投稿前に内容をしっかり確認しよう
普段からSNSをよくやっているという人は、投稿する画像や内容が他者のプライバシー侵害にあたらないかどうか、よく確認することが大切です。個人情報はもちろん、何気ない日常であっても、勝手にSNSに公開されれば不快に感じる方も多くいます。画像や動画に写っている人のプライバシーに注意し、今一度確認するようにしましょう。
あわせて読みたい
(掲載日:2023年5月19日)
文:川添祥子
編集:エクスライト