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流れてくる情報が似た意見ばかり? 専門家が解説する「エコーチェンバー」との正しい向き合い方

あなたは正しい情報を見極められていますか? SNSで加速する「エコーチェンバー」の正体を専門家が解説

SNSを見ていて、「自分と似た考え方や意見が多いな」と感じたことはありませんか? 同じ意見が繰り返し目に入ることで安心感を得られる一方で、異なる視点や価値観に触れたときに戸惑いや違和感を覚えることもあります。こうした状況は「エコーチェンバー」と呼ばれ、誰にでも起こり得る現象です。

今回は、SNSの広がりとともに注目されている「エコーチェンバー」について、成蹊大学客員教授でITジャーナリストの高橋暁子さんにお話を伺いました。日常生活の中で自然に直面するこの現象の仕組みと、バランスよく情報を取り入れるためのヒントについて解説します。

高橋 暁子(たかはし・あきこ)さん

教えてくれた人

高橋 暁子(たかはし・あきこ)さん

ITジャーナリスト。成蹊大学客員教授。SNSや情報リテラシー教育が専門。東京都で小学校教諭、Webの編集者などを経て独立、現在に至る。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナー、講義、委員などを手がける。『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α新書)、『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など著作は20冊以上。

パーソナライズ化された情報がもたらす「エコーチェンバー」

パーソナライズ化された情報がもたらす「エコーチェンバー」

まずは、「エコーチェンバー」という現象の基本的な定義から詳しく見ていきましょう。

SNSには、ユーザーの行動に基づいて表示内容を変えるアルゴリズムが存在します。そもそもタイムラインには、フォローしたアカウントの投稿が表示されます。しかしそれだけではなく、どんな投稿をするか、どんな検索をするか、どの投稿をクリックするかといった行為をきっかけに、その人の好みに合わせた情報がレコメンドとして表示されるようになり、タイムラインは次第に個人に最適化されたものへと変化していきます。
この仕組みは、近しい意見や趣味を持つ人々が出会いやすくなるという大きなメリットを持っています。特に、ニッチな趣味を楽しむ人やマイノリティの立場にある人にとっては、共通の話題でつながれるコミュニティが生まれ、心の支えとなるような居場所を見つけることができます。

一方で、同じ意見を持つ人々が互いに考えを強化し合い、"自分の考えは絶対正しい”と思いを強めていき、他者の意見を受け入れるのが難しくなってしまう「エコーチェンバー」と呼ばれる現象があります。

パーソナライズ化された情報がもたらす「エコーチェンバー」

高橋さん 「そもそも、ネットには極端な意見が投稿されやすいもの。飲食店の口コミにしても、『まあ普通だった』『取り立てて言うこともなかった』という感想をわざわざ投稿する人は少ないわけです。『とても良い』か『とても悪い』の極端な意見が投稿されて、それがアルゴリズムによって増幅されていきます。
現在のSNSでは、フォロワー数や『いいね』数が多い人だけでなく、投稿数が多い人も”声の大きい人”になりやすい仕組みになっています。たとえフォロワーが少なくても、何度も投稿することで似た意見を持つ人のところに表示されやすくなり、小さなバズを生み出すことがある。誹謗(ひぼう)中傷なども同じで、わずか数パーセントの人が多くの投稿することで、あたかも世論のように感じられてしまうことがあります。たまたま目に入った投稿をクリックしてしまうだけで、アルゴリズムは『関心がある』と判断し、タイムラインにはあっという間にその情報がたくさん表示されるようになります」

「フィルターバブル」との違いは?

エコーチェンバーと似たような言葉に「フィルターバブル」があります。フィルターバブルは、アルゴリズムによって、主に検索などをした際に個々のユーザーの見たい情報が優先的に表示され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境のこと。エコーチェンバーと共に、問題視されることも多い現象です。

実生活に影響を与えるエコーチェンバーの問題点。沼にはまっていないかセルフチェックしよう

では、エコーチェンバーが加速すると、何が問題なのでしょうか。その仕組みや背景とともに解説していきます。

SNSでの閉ざされた交流がコミュニティの分断や極端な行動などのリスクに

近年では、エコーチェンバーが加速したことによって生まれる、「サイバーカスケード」と呼ばれる現象が問題視されています。これは、閉じた空間の中で同じ意見の人ばかりが交流することで、その意見がより極端で過激なものへと加速していく現象です。

高橋さん 「陰謀論や過激な思想がSNSで拡散されると、『自分たちだけが真実を知っている』『政府にだまされている』といった思い込みが強くなり、結果として家族や友人との関係性が分断されてしまうことがあります。

また、海外ではネット上のデマを信じた人々が、無実の人を殺害する事件まで起こっています。若者への悪影響も深刻です。ダイエット情報を熱心に調べるがあまり健康を害するほどの過激な方法を試したり、SNSで流行している危険なチャレンジをまねして命を落としたりするケースもあります」

コミュニティの分断、命が危険にさらされるリスクも

あなたは大丈夫? エコーチェンバー自己診断チェックリスト

そのようなエコーチェンバーの"沼”にはまっていないか、下記のリストでチェックしてみましょう。

  • SNSを開くと、自分と似たような意見ばかりが並んでいる
  • 特定の情報源や媒体を日常的に頼りにしている
  • 情報の確かさよりも「誰が言っているか」で判断しがち
  • 似た意見を持つ人と話していると安心感や充実感が強い
  • 自分と異なる意見や価値観の投稿を見ると、強い不快感や怒りを感じる
  • 自分の意見や立場を脅かす情報は見たくない/知りたくない

実は程度の差はあれど、SNSを利用していれば誰でもこのような状態になりがちです。それに、エコーチェンバーの中にいること自体は必ずしも悪いことではありません。

しかし、上記のほとんどに当てはまっていたら、少し注意が必要かもしれません。

情報の偏りを防ぐために。日常で取り入れたい3つの工夫

では、エコーチェンバーを抜け出したいと思ったときに、私たちはどのような対策を取れば良いのでしょうか。高橋さんのアドバイスを基に、すぐに実践できる3つの対策を紹介します。

①客観的な視点を持つために多様な情報源に触れる

最も重要なのは、「自分もエコーチェンバーの中にいるかもしれない」という意識を常に持つことだと高橋さんは語ります。

その客観的な視点を保つためには、多様な情報に触れる習慣をつけることが有効です。1つの情報源だけでは、そのメディアや発信者の意図に基づいた偏った視点しか得られません。しかし、複数の情報源を見ることで、同じ出来事でもメディアによって強調する点が異なることに気付き、「共通の事実」と「それぞれの解釈や意見」を見分けられるようになります。

対策①客観的な視点を持つために多様な情報源に触れる

高橋さんの一番のおススメは、紙の新聞を購読して読み比べること。情報の信頼性はもちろんですが、新聞の一面は記事の見出しの大きさや位置で、その新聞社が考えるニュースの重要性まで読み取ることができるからです。
ただ、特に若い世代にとって新聞の購読は、ハードルが少し高いもの…。そこで高橋さんがおススメするのが、LINEで複数のニュースメディアの公式アカウントをフォローすることです。

高橋さん 「利点はプッシュ通知が来ること。いくつかのメディアをフォローして、通知がきたらそれぞれ一番大きく取り上げられているニュースは何なのかチェックするだけでも、世の中でどんなことが起きていて、どのニュースが重要とされているかという感覚が自然と養われていきます。それさえも難しい場合は、テレビのニュースをつけっぱなしにするだけでもいいと思います。とにかく、普段関心がない分野の情報でも自然と目に入るような環境をつくり出すことが大切です」

②ファクトチェックを習慣にする

デマや偽情報を見抜くために、自分でファクトチェックを行うことも重要です。誰にでもできる簡単なファクトチェックの方法として「だいふく」の法則があります。

ファクトチェック「だいふく」の法則
  • だ:「誰」が言っているか…信頼できる1次情報か?
  • い:「いつ」の情報か…古く、状況が変わっている情報ではないか?
  • ふく:「複数」の信頼できる情報源があるか?

高橋さん 「熊本地震のとき、『ライオンが逃げた』というデマが流れましたが、写真が1枚しかなく、よく見ると海外の信号が写っていました。一方、本当に札幌にヒグマが出た際には、テレビや新聞、そして個人からも撮影日時と場所が異なるさまざまな写真が複数投稿されました。こうして複数のソースを照らし合わせることで、何が事実で、何がデマなのかを見分けていきます」

自分で調べるのは難しいと感じる場合は、ファクトチェックの専門機関が公開している情報を活用するのも有効です。例えば、国内では「ファクトチェック・イニシアティブ」「日本ファクトチェックセンター」といった非営利組織が活動しています。

③家族とのコミュニケーションを大切にする

対策③家族とのコミュニケーションを大切にする

元小学校教諭でもある高橋さんは、特にSNSを使い始めたばかりの子どもがエコーチェンバーに陥ってしまうことを防ぐには、親が積極的に関わることが重要と話します。

高橋さん 「大切なのは、SNSについて会話できる状態をつくること。会話を通じて、親は子どもの利用状況や交友関係を把握できるようになり、ちょっとした異変にも気づきやすくなります。子どもを一方的に管理するのではなく、オープンに関わっていくことで、健全なインターネットとの付き合い方を一緒に探せるようになるはずです」

具体的なコミュニケーション方法
  • 「一緒に」使う習慣をつける
    「SNSはダメ」と一方的に禁止するのではなく、一緒にやってみることが大切です。例えば、子どもがTikTokを使いたいと言い始めたら、「一緒に10分だけ見よう」と誘い、流れてきた動画について親子で話し合ってみる。そうすることで、子どもが見ている情報の内容を把握し、怪しい情報は「これってどう思う?」と対話をしながら情報の見極め方を学べます。
  • YouTubeはテレビ画面に映して見る
    YouTubeなどの動画は、画面の小さなスマホではなく、テレビ画面に映し出して一緒に見るのもおススメです。大きな画面で見ることで親も一緒に内容を確認しやすくなります。関連動画に表示されるコンテンツに偏りを感じたら、親が意識的にさまざまなコンテンツを視聴して、“リセット”することもエコーチェンバーを回避する1つの方法です。
  • まず自分のSNSを見せる
    高橋さんは、息子さんがLINEを使い始めたとき、自分のスマホを渡してLINEのやり取りを自由に見てもらったそう。こうすることで「見せてもらったから、自分も見せてみようかな」という心理(返報性の原理)が働き、お互いの利用状況についてオープンに話せる関係を築きやすい、というメリットがあります。また、この方法は、自分の親世代にも応用できます。陰謀論など偏った情報だけを信じているような兆候があれば、自分のSNSのタイムラインを見せて、流れてくる情報に違いがあること・それはどうしてなのかを考えてもらうきっかけをつくりましょう。

企業・プラットフォーマーにも求められるエコーチェンバー対策

ユーザー個人が対策を講じることと並行して、情報を提供するプラットフォーム側も対策の必要性が高まっています。企業の営利活動がエコーチェンバーを助長している側面がある以上、社会的責任として何らかの取り組みが必要不可欠です。

近年、日本でも多様な意見が共存する場をつくるための試みが始まっています。例えば、Yahoo!は2023年に「Yahoo!ニュース」のコメント欄(通称:ヤフコメ)に、多様な意見が上位に表示されやすくなる独自AI「コメント多様化モデル」を導入しました。このモデルは、多くの共感を集めたコメントだけでなく、異なる視点や意見を提示するコメントも上位に表示することで、特定の意見に偏りすぎることを防ぐ狙いがあります。

エコーチェンバーは、現代社会に生きる私たちにとって、避けて通ることのできない現象です。しかし、プラットフォームのアルゴリズムに操られるままになってしまうか、自覚的に距離を取って上手に活用するかは、私たちの意識と行動次第です。

今回ご紹介した対策を参考に、日頃から複数の情報に触れる習慣をつけたり、ファクトチェックを行ったりと、インターネットとの付き合い方を見直していきましょう。それは、自分自身や大切な人を守ることにもつながるはずです。

(掲載日:2025年9月9日)
文:坂口ナオ
編集:エクスライト