冬を迎え、空気の乾燥が気になる季節になりましたね。乾燥による肌荒れとともに、今年は手洗いやアルコール消毒を行う機会が増え、手荒れが気になる人も多いのではないでしょうか。また、毎年この時期は風邪やインフルエンザをはじめとする感染症が増えてくる傾向にあります。
今回は、医師という立場から美容と健康を追求する友利新さんに、乾燥の季節に気をつけたいことをお教えいただきます。
友利 新(ともり・あらた)さん
東京女子医科大学卒業。同大学病院の内科勤務を経て皮膚科へ転科。現在、都内のクリニックに勤務する一方、美容と健康を医療として追求し、美しく生きる為の啓蒙活動を雑誌、TV、YouTubeなどさまざまなメディアを通じて展開している。
冬になると、なぜ風邪をひきやすくなったりするの?
冬になると風邪をひきやすくなると感じる人も多いのではないでしょうか? 乾燥する季節になると風邪や感染症がなぜ増えるのか、友利さんにお聞きしました。
毎年冬になると、風邪をひきやすくなるような気がしています。
まず気温が低く、空気が乾燥する冬は、さまざまなウイルスが生きるのに適した環境なんですね。種類にもよりますが、ウイルスは気温16℃以下、湿度40%以下の環境を好みます。また、外気が乾燥すると、気道や鼻の粘膜が乾燥して、ウイルスをブロックする機能がうまく働かなくなります。これによって、ウイルスが体に入ってきやすくなるんです。それに加えて、日照時間が短くなると、私たちの体内でビタミンDを生成する機能が落ち、免疫機能が低下します。このような要因が重なることが、冬に風邪や感染症が増える理由として挙げられるでしょう。
粘膜の乾燥を防ぐために行ったほうがいいことがあれば教えてください。
汗をかく夏場に比べて、冬は寒くて水分を摂らなくなる人が多いですが、喉を潤すためにもこまめに水を飲むようにしてください。また、飴をなめるなど、唾液の分泌を促すのもいいですね。乾燥対策だけではなく、唾液には、粘膜を保護したり虫歯をできにくくしたりと、口腔内を守ってくれる働きがあります。物を噛むと唾液がたくさん出るので、しっかりと咀嚼することも、とても大切です。
空気が乾燥していることも何か関係があるのでしょうか。
先にもお話した通り、乾燥はウイルスがもっとも好む環境です。昨今よく耳にする「空気感染」や「飛沫感染」が起こりやすくなるんですね。インフルエンザウイルスやコロナウイルスは、飛沫感染型といって感染者が咳やくしゃみをすると、飛沫核という目に見えない小さい粒がふわふわ浮いて、それをほかの人が吸うことで感染するタイプのウイルスです。空気中に浮遊しているウイルスが外に出てしまえば、感染するリスクはない。「窓を開けて換気しましょう」と盛んにいわれているのは、このためです。冬場は寒くて、換気をなかなかしないので、部屋が密閉した状態になりますよね。そうすると、感染しやすい状況になってしまいます。寒くても1時間に1回は窓を開けるなど、換気を習慣化することが大切です。
マスクで蒸れると逆に乾燥肌に!?すぐ実践できる対策
日常生活の中でできる乾燥対策はありますか?
食生活でいえば、粘膜の修復を促す作用がある、ビタミンA(βカロテン)を多く含む緑黄色野菜や根菜類を積極的に摂るといいですね。昼間に散歩をしたり、日光浴をしたりして、免疫力を高めるビタミンDの生成を促すことも大切です。また、冷え性の人は、皮膚が乾燥していることが多いです。冷えにはタイプがあり、手足など末端が冷える人、下半身だけ冷える人、全身が冷える人というふうに、大きく3タイプに分けられます。いずれも栄養や運動不足が原因のため、しっかりと鉄分やたんぱく質を摂る食事を心がけ、毎日に運動の習慣を取り入れることが大切です。
マスクをする機会が増えて、特に乾燥して肌荒れしてきたような気がします……。
肌荒れと感染症対策って、実は相反するんです。現在、不織布マスクとガーゼマスク、ポリウレタンマスクが販売されていますが、不織布マスクは、粒子の70〜80%をカットすると試算が出ています。一方で、ガーゼマスクやポリウレタンマスクのカット率は30%程度。数値を見ると、不織布が感染症対策に最も適しているといえますね。防御力が高いのはいいことですが、その分、マスクの中は常に蒸れた状態になります。
マスクの中が蒸れると、どのようなトラブルが起こりますか?
皮膚の角層を構成する角層細胞のすき間は、細胞間脂質というセメントのような脂質で満たされています。この細胞間脂質は、外部からの刺激の侵入や、体内の水分の過剰な蒸散を防ぐ、角層のバリア機能として働くんです。マスクで肌が蒸れることによって、細胞間脂質がふやけて水分が蒸発すると、乾燥につながってしまいます。
また、不織布マスクは摩擦が起こりやすく、それによって皮膚が炎症を起こすと、バリア機能の低下につながります。感染症対策には不織布マスクのほうが適していますが、肌のためにはガーゼマスクやポリウレタンマスクのほうが好ましい。人混みの中を歩くときは不織布マスク、スーパーなど近所に出かけるときはガーゼマスクやポリウレタンマスクなど、状況に応じて使い分けたいですね。
アルコール消毒を頻繁に行わなければいけない状況の中、手荒れに悩んでいる人も多いと思います。どのような対策を取ればいいでしょうか?
手は皮脂腺が少なく、体の中でも荒れやすい部位です。かゆみは炎症のサインなので、炎症を止める薬を塗ったり、皮膚科に行って治療をしたりしないと、荒れが長引いてしまいます。手が荒れて傷ができると、そこからさまざまなウイルスが入ってきやすくなりこうなると本末転倒です。まずは手荒れを抑えるために、アルコール消毒は控えて、流水で15秒間手洗いしたり、おしぼりで手を拭いたりするようにしましょう。
乾燥や感染症対策のために、部屋に設置するといいアイテムはありますか?
ウイルスをホコリごと吸い込んでくれる空気清浄機や、空気を循環させるサーキュレーターがあるといいですね。空気清浄機を選ぶときは、ヘパフィルターと呼ばれるフィルター付きのものを選びましょう。また、肌や喉の乾燥を防ぐために、加湿器は外せません。家に加湿器がなければ、洗濯物を部屋に干しておきましょう。湿度計を置いて、湿度50〜60%前後くらいに保つといいですね。
自分の肌を知ることから始めよう! 友利先生が教える、スキンケアの秘訣
冬場は、体が乾燥してかゆみが生じたり、顔が乾燥して化粧乗りが悪くなったりするなど気になることが増えます。どのように対策すればいいでしょうか?
皮膚は、外部からのさまざまな刺激を防ぎ、内側に含まれている水分が外に出ていかないようにする、大きな袋です。袋が擦り切れるのと同じで、乾燥すると内側の水分が漏れていってしまいます。乾燥によってバリア機能が低下すると、外的刺激を受けやすくなり、セーターを着たときにチクチクとしたかゆみを感じたり、花粉がついたときに痒くなってしまったりするんです。皮膚のバリア機能を守るためにも、トラネキサム酸やグリチルリチン酸など炎症を鎮める成分と、セラミドやヘパリン類似物質など保湿成分の両方が入っているスキンケア製品を選びましょう。最近は、マスクの肌荒れ防止用のミストなども販売されているので、そういったものを活用するのもいいと思います。
友利先生は、羨ましくなるほどきれいな肌をしていますよね。先生のスキンケア方法を教えてください。
よく聞かれるのですが、私と同じスキンケアをすることで、必ずしもきれいな肌を得られるわけではありません。私はよく、患者さんに「自分の顔に地図を描いてください」と伝えます。自分の顔のどこがテカっているか、毛穴が開いているか、乾燥しているかを把握すれば、「目の周りが乾燥しているからクリーム使おうかな」「鼻はテカテカしているからここに油分はいらないな」など、自分で判断できるようになります。乳液やクリーム、オイルなど、さまざまなスキンケア製品がありますが、すべて重ねる必要はありません。自分の肌タイプや、そのときの状態によって選んでいけるといいですね。
売れ筋ランキングや口コミを参考に人の真似をするよりも、自分のことを研究したほうがいいんですね。
そうですね。スキンケアは、何より楽しむことが大切。「誰かがいいと言っていた」ではなく、自分が使っていて気持ちがいいもの、買いやすいもの、使い続けやすいものが正解です。いま悩んでいたとしても、その悩みが自分の肌を知ることにつながると考えましょう。また、専門家に聞くことも、自分の肌を知る近道です。乾燥や肌荒れなど、困っていることがあれば、皮膚科医に相談してみましょう。
指が乾燥してスマホがうまく操作できない! そんな人はスマホ用タッチペンを。
この季節、指先が乾燥してスマホのタッチパネルが反応しない、と困ったことはありませんか? これは指先に水分がないため、本来静電気に反応する画面の感度が下がっていることが原因です。乾燥指で困るスマホ操作が快適になりますよ。
空気の乾燥がピークを迎えるこれからの時期、「むやみに恐れず、正しい知識を持って、自分にできる対策を続けましょう」という友利先生の言葉を意識して生活したいと感じました。自分にできる対策を続けて健康やスキンケアを心がけたいですね。
(掲載日:2020年12月14日、更新日:2024年2月9日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
撮影:山野一真