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ビジネスを変革するDXとは? 定義やメリット、国内外の成功事例を専門家が解説

ビジネスを変革するDXとは? 定義やメリット、国内外の成功事例を専門家 森戸裕一さんが解説

近年、デジタル技術の進化によって、さまざまな業界で新しいサービスやビジネスモデルが生まれています。また、デジタルデバイスの普及に伴い、テレワークなど柔軟な働き方にシフトし始めている企業も少なくないでしょう。

このような社会の流れの中で注目されているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という概念。今回は、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会理事の森戸裕一さんに取材し、DXの定義や国内外の成功事例、DXが社会にもたらす影響などについて教えていただきました。

目次

教えてくれたDXの専門家

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事
森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

1990年に大手システム会社に入社して以来、システムエンジニア、セールスエンジニアの育成と企業内人材育成のコンサルティング事業などに従事。2002年に独立し、ナレッジネットワーク株式会社を起業。近年はDX、働き方改革、IoT、地方創生、次世代人材育成などをキーワードに日本各地で講演活動を展開。総務省 地域情報化支援アドバイザー、内閣官房 シェアリングエコノミー伝道師。福岡県直方市最高情報責任者(CIO)補佐官。サイバー大学教授、名古屋大学・熊本大学客員教授。

  • 取材はオンラインで実施しました

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは? ―人々の生活をより良くするための社会変革

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは? ―人々の生活をより良くするための社会変革

デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)、通称「DX」とは、簡単にいえば「デジタル技術の活用によって、企業や行政が事業や組織のあり方を変革し、人々の生活をより良い方向に導くこと」です。

いまや、パソコンやスマホを通じてサービスを受けることは、私たちにとって当たり前になりつつあります。そのため、いかにデジタル技術を活用し、最適なサービスを提供できるかは、企業の成長にも大きく関わってきます。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「講演会などで『ITとDXは何が違うのですか?』という質問を受けることがよくあります。簡潔にいえば、ITとはテクノロジーそのものの話ですが、DXは“社会変容”の話。デジタル化=DXと誤解されやすいですが、社会全体がデジタル化することによって私たちの生活や働き方が変革することを表す、より奥行きのある概念です」

スウェーデンの大学で提唱された概念がDXの始まり

2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念が、DXの発端といわれています。その後、スマホの登場をはじめ、さまざまなデジタルデバイスが広がったことにより、世界各国でDXが進展してきました。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「“ITの浸透”というのは、つまりみんながパソコンやスマホなどのデバイスを1人1台以上持っている状態です。IoTという言葉をよく聞きますが、このように人がいつでも、どこでもインターネットにつながる状態は、いわばIoH(Internet of Human)。スマホから情報にアクセスすることが生活の一部になり、モノやお金、サービスなど、あらゆるものがインターネットにつながると、人や地域、異業種の連携が生まれ、イノベーションが起こりやすくなるのです」

日本でDXが広まったのは2010年代後半

日本でこの言葉が広く知られるようになったのは、2010年代後半。2018年5月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置し、国内企業がDXを実現していく上での課題の整理とその対応策の検討を始めました。
この研究会を踏まえて「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(DX推進ガイドライン)が策定されました。

DXの3つのフェーズと得られるメリット ―業務効率化や人手不足の解消の先にあるもの

DXの3つのフェーズと得られるメリット ー業務効率化や人手不足の解消の先にあるもの

企業はDXに取り組むことで、どのような効果を期待しているのでしょうか? 森戸さん曰く、DXには次の3つのフェーズがあり、それぞれの段階で得られるメリットがあります。

DXの3つのフェーズ

フェーズ

得られるメリット

1

デジタルツールの導入により、業務を効率化

2

ロボットやAIを導入することで、人手不足の解消

3

テクノロジーを活用し、事業のあり方や働き方そのものが変わる

第1フェーズ:デジタルツールの導入による業務効率化

まずはデジタルデバイスやツールを取り入れることで、生産性をアップさせます。例えば紙の書類や伝票の受け渡しによって成り立っていた仕事の流れを、情報システムに置き換えることなども業務効率化になります。

第2フェーズ:ロボットやAIの導入による人手不足の解消

従来は人間が行っていた事務作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)やロボットなどを取り入れ、業務プロセスの一部を代行させます。今まで人間が行っていた作業をロボットに任せることで、人手不足の解消につながります。

第3フェーズ:デジタルを活用し、事業や働き方そのものを変革

さまざまなテクノロジーを取り入れ、既存の事業のあり方や働き方そのものを変革します。例えば、最近はテレワークを導入する企業が増えてきていることで、都市部の企業に勤めながら地方で生活するといった新しいライフスタイルも生まれてきています。このような意識の変革や、選択肢の広がりも、DXの1つといえます。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「DXに含まれる要素は幅広く、紙の書類からデジタルデバイスへ移行することも、ロボットを導入することも、すべて一括りにして語られがちです。DXを理解するためには、こうした3つのフェーズがあることを覚えておきましょう」

企業がDXを急ぐ理由。乗り遅れるとどうなる?

DXを推進することで、企業は市場における競争力を獲得し、10年後、20年後も生き残っていく可能性を高めます。一方、課題を抱えながらも現状を打開しようとせず、DXに乗り遅れた企業は、今後デジタル社会の中で競争力を失っていくかもしれません。ただし、都市と地方ではやや状況は異なるでしょう。特に地方においては、人手不足の解消や生産性アップは重要な課題です。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「もちろん既に高い競争力を持っている企業や都市部で安定した経営を続けている企業であれば、当面は第1フェーズくらいまでのDXでも十分です。しかし、現状で多くの課題を抱えている企業や業界であれば、第2/第3フェーズを視野に入れて動き出す必要があります」

2025年の崖とは?

経済産業省は2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」内で、もしDXが進まなければ「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と言及しています。これが「2025年の崖」と呼ばれる問題です。DXが促進されず、老朽化・複雑化した“レガシーシステム”が使われ続けることにより、システムの維持管理費の高騰や、システムトラブルやデータ滅失のリスクが高まる可能性がある、というのがその要旨です。

企業がDXを急ぐ理由。乗り遅れるとどうなる?

(出典)経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月)
※一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の進展に対する意識調査」(平成29年)を基に作成

日本や世界のDXの現状は? ―森戸さんセレクトの事例も紹介

日本や世界のDXの現状は? ー森戸さんセレクトの事例も紹介

実は、日本のデジタル普及度は、先進国の中でもあまり高くありません。スイスの国際経営開発研究所(IMD)による「世界デジタル競争力ランキング」でも、日本は2019年に21位、2020年にはさらにランクを下げ、63の国・地域のうち27位となっています。

世界デジタル競争力ランキング2020

順位

国・地域

1

アメリカ

2

シンガポール

3

デンマーク

4

スウェーデン

5

香港

6

スイス

7

オランダ

8

韓国

9

ノルウェー

10

フィンランド

27

日本

IMD WORLD DIGITAL COMPETITIVENESS RANKING 2020」より作成

さらに、最近では新興国・途上国でもデジタル化の波が押し寄せています。アジアやアフリカ諸国ではスマホが急速に普及し、オンライン決済やECなどデジタルを活用したサービスが浸透してきています。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「多くの先進国は、まず固定電話や旧型の携帯電話が普及し、その後に1人1台スマホを持つようになるというプロセスを経てきました。しかし、新興国ではこうした段階がなく、アナログから急速にデジタルに移行しました。課題がある地域だからこそ、新しいテクノロジーをすぐに取り入れるのです。これを“リープフロッグ(カエル跳び)現象”と言います」

企業がDXを進める4つのステップ。つまづきやすいポイントは?

ステップ

目指すこと

1

未来思考のビジョン作り

2

リーンスタートアップ(小さなことから試してみる)

3

試してみたことを、アジャイルで発展させる

4

うまくいきそうな事業を、新規事業として運用していく

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「まずは未来思考でビジョンを持つこと。DXは、今抱えている課題をどう解決するかという視点ではなく、未来を見て、どのような世界を作っていきたいかを設定することが重要です。次に大事になるのは、リーンスタートアップ。つまり、小さなことから試してみることです。小さな種をたくさんまき、それらを並行しながらアジャイル(短い期間で実装やテストを繰り返す)で、育てていきましょう。その中で、社会に受け入れられそうだと思えるものがあれば、正式に事業化する。まずは小さいことからでも挑戦することがポイントです」

森戸さんセレクトの国内外の優れたDX事例3選。シェアリングエコノミーやフリマアプリなど

それでは、実際にはどのようなかたちでDXが行われているのでしょうか。ここからは、数多くのDX事例を見てきた森戸さんが秀逸だと感じた、国内外の事例を3つご紹介します。

① シェアリングエコノミーで旅の不安を解消

民泊サービスやタクシーの配車アプリなどのシェアリングエコノミービジネスは、DX事例の最たるものといえます。スマホ1つで宿泊場所の予約や車の手配が手軽に行えるサービスは、世界各国で人気を集めています。

① シェアリングエコノミーで旅の不安を解消

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「『Uber』などの配車サービスの登場で、海外旅行などは特に便利になりました。現地のタクシーに乗るときに運転手の信用度を事前に確認することができ、料金の支払いも事前にスマホで済ませることができるため安心感がありますよね」

② スマホ完結で誰でもバイヤーになれるフリマアプリ

フリマアプリは、スマホ1つで簡単に商品を売り買いすることができます。ネットオークションは以前から存在しましたが、スマホ完結型のサービスにすることで広く受け入れられ、多くのユーザーを獲得しました。

② スマホ完結で誰でもバイヤーになれるフリマアプリ

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「フリマアプリの登場は、誰でも“バイヤー”になることができるという世界観を作り出しました。テクノロジーによって、ライフスタイルや商品の流れが大きく変わった例と言えるでしょう」

③ スマホで授業が受けられるオンライン学習サービス

オンライン学習サービスは、いつでも学びたいときにパソコンやスマホを使って一流講師の授業をオンラインで視聴することができます。時間や場所を選ばず利用でき、費用も塾や予備校に通うのに比べると安く済むので、経済的な事情で塾に通えない子ども・学生たちにも支持されています。

③ スマホで授業が受けられるオンライン学習サービス

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「オンライン学習サービスは、多くの子どもたちの家庭学習に活用されているだけでなく、今では学校などの教育現場にも導入されています。アプリ内で成績管理などができるサービスもあり、教職員の仕事もサポートしています。学びのDXの中では大きな成功事例といえるでしょう」

今後DXを進展させていくためのポイントは? ―オンラインストレージやRPAなどのツールを活用

実際にDXを進めるために、企業はどのようなアクションを起こせばいいのでしょうか。ここからは、DX推進に際して押さえておきたいことや、DXをサポートする代表的なツールについて紹介します。

DXのポイントは「スマホで何ができるか?」という視点

DXのポイントは「スマホで何ができるか?」という視点

現在では、コミュニケーションや商品の購入、情報収集など、私たちの日常のほぼ全ての行動が、スマホに紐づいています。そして、スマホ内に集められた大量のデータは、日々クラウドへ送信され、さまざまな用途に利用されています。DXを検討するなら、まずは「スマホによって何ができるか?」といった視点は持っておきたいところです。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「勤怠管理や人材育成、営業日報、財務管理まで、全てスマホでできるようになれば、人々はオフィスから解放されるでしょう。人手の少ない中小企業や地方都市は特に、スマホをベースにした働き方に変えていくことが、DX推進への近道だと思います」

DX推進を支援する代表的な4つのツール

DX推進を支援する代表的な4つのツール

① オンラインストレージ

インターネット上のサーバーに書類や写真などのデータを保存するサービス。テレワーク中のデータのやり取りなどにもよく使用されています。

② クラウドで管理できる会計や労務管理ソフト

会計や人事労務など、バックオフィス業務では、生産性の向上や手続きのスムーズさから、クラウドで管理できるソフトウエアを導入するところが増えています。

③ RPA(Robotic Process Automation)

データの転記や入力などの事務作業を自動化する、ソフトウエアロボット。

④ 営業を支援するSFA(Sales Force Automation)

営業に関する業務を支援するシステム。スケジュールや顧客情報、予算管理などを一元化することができ、営業担当者の負担軽減や、業務上の課題発見にもつながります。

DXの先にあるのは、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」?

DXが進展する中で、次のステップとして、今後の社会は「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」を目指すことになるだろうと言われています。つまり、DXによって自分たちのビジネスのあり方や働き方を変えるだけではなく、環境や社会の持続可能性にも配慮した変革を目指していくことです。
経済産業省も2019年に「企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図る」ことを「SX」と定義しています。

一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一(もりと・ゆういち)さん

「既存の働き方は、環境に負荷をかけている面も多くありました。例えば、大勢の人が毎日車や電車を使って通勤すると、それだけで二酸化炭素を大量に排出することになりますよね。移動や配送などの無駄を無くすことは、便利なだけではなく、環境にとっても良い影響があります。これからは安いものを大量に消費する社会ではなく、本当に欲しいものだけを求め、より豊かなものに触れる、そういう社会に変わっていくのではないでしょうか」

(掲載日:2021年5月7日)
イラスト:小林ラン
文:佐藤由衣
編集:エクスライト

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