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土砂やがれきに埋まった遭難者の位置をドローンが特定。人命救助を進化させるドローン無線中継による捜索支援

スキーや登山など大自然の醍醐味を感じられるアウトドアのレジャーは美しい景色や開放感が楽しめる一方で、雪崩や遭難といった危険や思わぬ事故がつきもの。また普段の生活でも、大雨や地震など大規模な自然災害に伴う土砂崩れや建物倒壊の被害など、誰もが「要救助者」となるリスクがあります。

一刻も早い救助が求められる事態に巻き込まれたとき、助けを呼びたくても身動きが取れなかったり、携帯の電波が届かず連絡ができなかったりする場合でも、スマホの位置情報で要救助者を発見できるよう、ドローンを使った捜索技術の研究が進められています。

11月25日、ドローン無線中継システムを活用した最新の遭難者の位置特定と捜索支援システムのデモンストレーションがソフトバンクと東京工業大学、双葉電子工業株式会社の合同で行われました。

目次

スマホがつながらない場所で遭難したら…

もし、皆さんが広大な山岳地帯などで遭難したり、災害などで土砂やがれきに埋まってしまい要救助者となったとき、どこにいるのか探すのに頼りになるのが、普段から持ち歩いているスマホに搭載されたGPSの機能です。

しかし、エリア外の場所も多く存在する山の中や、電波が遮られる雪や土砂の中では、GPSの信号を送受信できないため、位置を特定するのはとても難しくなります。また、捜索活動を円滑に行うとともに、捜索中の二次遭難を防止するためには、遭難者だけでなく捜索する側の位置情報も把握できる仕組みが必要です。

ソフトバンクと東京工業大学 工学院 電気電子系 藤井輝也研究室では、通信機器を搭載したドローンを使って、電波を中継することで一定の範囲を臨時的にエリア化することができる「ドローン無線中継システム」や、そのドローンを用いて遭難者などの位置情報を取得する「遭難者位置特定システム」の研究開発を2016年から進めています。さらに、2022年には、遭難者の位置情報に加えて捜索者の位置情報をPCやタブレットで確認しながら円滑な捜索をサポートする「遭難者捜索支援システム」を開発しました。

今回のデモンストレーションでは、それらのシステムを使って、森林で遭難した人や土砂に埋まった要救助者を見つけ出す様子が実演されました。

遭難者のスマホの位置をドローンで特定「遭難者位置特定システム」

東京工業大学 藤井輝也教授がシステム概要とデモンストレーションの詳細を説明

双葉電子工業の施設である勝間ラジコン飛行場では、ドローン無線中継システムを活用した遭難者の位置特定と捜索支援のデモンストレーションが行われました。

無線中継装置(子機)や小型通信モジュール、カメラなどが搭載された双葉電子工業製のドローン

藤井輝也教授によるシステムの説明の後、携帯サービス圏外の森林の中に隠した人形が持つスマホを、ドローンで周辺をエリア化しながら捜索し、位置を特定する様子が実演されました。

森林の上空から遭難者を捜索するドローン

GPSの届かない土砂や雪の中でも遭難者を見つけ出す。スマホの電波強度を活用して位置を特定

ドローンの無線中継によって電波がつながったとしても、大量の雪や土砂に埋まってしまっている場合、スマホにGPSの信号が届かず位置情報が取得できない場合があります。

千葉県茂原市にある双葉電子工業の長生工場に場所を移して行われたデモンストレーションでは、要救助者を想定して、約4mの土砂の中にスマホを持たせた人形を埋めて実施しました。ドローンから土砂の深くまで到達する指向性の高いアンテナで電波を照射しながら捜索を行い、スマホを圏内にすることで、スマホが受信した電波強度のデータを位置情報特定サーバーに送信。さらに、GPSの信号を受信しているドローン自体の位置情報も同時に位置情報特定サーバーに送信することで、最も強い電波を検知した地点のドローンの位置の真下を要救助者のスマホの位置として特定する様子が披露されました。

上空からドローンが電波強度を測定。最も強度の高い地点のドローンの位置を要救助者の位置として特定

藤井教授によると、水分量が50%以下の土砂であれば、最大5m下に埋まったスマホの位置を特定でき、雪の中や金属の少ないがれきの下などであれば、より深くに埋まったスマホも探知できるとのこと。一方で、水中などはほとんど電波が届かないため難しいそうですが、土砂やがれきの下などこれまでスマホのGPSが使えず位置特定が難しかったケースでも、このシステムによって電波が届けばおおよその位置を特定することができ、捜索の効率が格段にアップします。

遭難者が携帯を持っていない場合には、100m程度音が届く指向性スピーカーを搭載し声による呼びかけを実施します。

捜索効率を向上させ、捜索者の二次遭難も防ぐ「遭難者捜索支援システム」

「遭難者捜索支援システム」では、「遭難者位置特定システム」で取得した要救助者の位置情報に加えて、捜索者の現在地や移動履歴などをスマホやタブレット、パソコンなどの端末でリアルタイムに確認できます。

画面には、要救助者、捜索者の位置情報がマッピングされ、この情報を捜索関係者で共有することで、現場から離れた捜索本部などでも捜索の状況をリアルタイムに把握することができ、お互いの情報や位置を共有しながら、安全で効率的な捜索活動が実現できます。

圏外の現場では、現場の捜索者と捜索関係者間の通信手段としても「ドローン無線中継システム」が活用されますが、サービスエリア内の場合は、ドローンを使用せず「遭難者位置特定システム」「遭難者捜索支援システム」単体での利用も可能だそうです。

ドローンのカメラ映像をモニターで確認しながら遠隔でのドローン操縦も可能

長時間の捜索活動を支える有線給電によるドローン飛行

捜索において非常に役に立つドローン無線中継システムを活用した「遭難者位置特定システム」と「遭難者捜索支援システム」ですが、バッテリーで稼働するドローンは、おおよそ30分程度しか飛行ができません。広い範囲を捜索しなくてはならない上に、地中深くに埋まっている遭難者のスマホと通信を行う必要があるため、スマホが電波を拾い損ねることがないようにドローンをゆっくりと飛行させる必要があります。

時間との勝負である捜索において、30分ごとにバッテリー交換のためにドローン捜索を中断することは現実的ではありません。そこで、ドローンを有線給電ケーブルにつなぎ飛行させることで、長時間の飛行を実現するシステムも開発されました。

この場合の飛行で問題になるのが、森林などの障害物。木の枝に引っかかるなどしてケーブルが切断したり、ドローンの飛行の妨げになったりするのを防ぐために、捜索ドローンに加えて、ケーブルを上空まで引き上げ障害物を避ける補助ドローンとの2機編成で飛行することで、捜索ドローンのスムーズな飛行をサポートする様子も実演されました。

捜索ドローンの上空で補助ドローンがケーブルを引き上げ樹木などの障害物を回避

モバイル通信を使った捜索は現在ソフトバンク回線のみ対応していますが、他キャリアの場合でもWi-Fiの電波を活用することで同様の捜索が可能。ソフトバンクと東京工業大学は今後社会実装を目指して、消防本部や自治体、企業と連携しながら利用拡大に向けてさらに研究を進めていくそうです。

(掲載日:2023年1月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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