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真のDXはマインドチェンジから。産官学連携で挑む “富山県DX”

真のDXはマインドチェンジから。産官学連携で挑む “富山県DX”

2022年7月、富山県庁、富山県立大学、ソフトバンクの三者が連携し、富山県庁のDXに向けた研修プログラムが開始されました。
なぜ富山県庁はDXを行うに至ったのか、そして研修を進める中で職員にどのような変化があったのか。この推進の立役者となったお2人のお話とともに、この取り組みをご紹介します。

目次

お話を聞いた方

五十嵐 佳美(いがらし・よしみ)さん

富山県知事政策局デジタル化推進室情報システム課
電子県庁推進担当
主幹 五十嵐 佳美(いがらし・よしみ)さん

1996年入庁。約20年にわたり富山県庁のインフラやシステム整備に携わるほか、BIツール導入や職員向けの研修などを担当。2022年よりデジタル化推進のための人材育成担当として、県職員のデジタル化に向けた研修・教育活動やサポートを務めている。

岩本 健嗣(いわもと・たけし)さん

富山県立大学 工学部 情報システム工学科
准教授 岩本 健嗣(いわもと・たけし)さん

民間企業を経て2009年より富山県立大学で教鞭をとる。情報通信を専門とし、情報ネットワーク、IoT等の分野で多数の研究論文執筆や学会発表を行う。2022年よりデジタル化推進特命ディレクターとして、富山県政のデジタル施策を推進するための助言や提案活動に取り組む。

デジタルは関係ない、前のやり方のままでいい。そんな文化を変えなければDXは進まない

富山県は南北に伸びる日本列島の中心、本州の中央北部に位置しており、2022年12月現在の人口は約101万人です。しかし出生数の減少や高齢化が進み、人口減少に歯止めがかからない状況が続いています。さらに、マイナンバーカード普及やセキュリティ対策など中央省庁から推進される業務も多く、職員の負荷が高くなっている状況です。
このような背景の中、富山県庁では業務のデジタル化やDXにより、自らの業務改革とともに県民の利便性向上、ひいては地域活性化につながる取り組みを行いたいと考えていたそうです。

「今までにも何度かDXのセミナーを職員向けに開催していましたが、技術論や事例紹介のような話がほとんどでした。それはそれで世の中の流れとして知っておいたほうがいいんですが、それだけがDXではないと思っていました」
そう話すのは、富山県庁でデジタル化推進や人材育成を担当する五十嵐さん。
五十嵐さんは約20年にわたり、県庁内のインフラ整備やデジタルツール導入などに携わり、研修などを通じて職員と関わる中で、進まないデジタル化の実情を痛感してきたのだそう。

デジタルは関係ない、前のやり方のままでいい。そんな文化を変えなければDXは進まない

「DXというと、デジタルに強い人がやるべきで、自分たちは関係ないという風潮が強かったですね。何かをシステム化することだけがDXじゃなくて、自分たちの文化を変えていく必要があるという人はあまりいませんでした。デジタル化やDXを自分ごととして捉えている職員はほとんどいなかったと思いますし、たとえ意欲があってもどうしたらいいのか分からないという状況でした」

2022年7月から富山県庁でデジタル施策を横断的に眺め、助言を行っている富山県立大学の岩本准教授もうなずく。

「外部の視点で見ていて、『現場の仕事を変える』という文化がないことに気付きました。職員の皆さんは日々忙しく、およそ3年ごとに異動があるのでなかなか業務改善というところにまで踏み込むのが難しいんですよね。昔から引き継がれてきたやり方が当たり前で、そこに疑問はないんです。例えば『この書類に印鑑は必要なのか?』ではなく、そこに項目があるから印を押す。これでは、単にツールを導入するといったことでは何も変わらないので、マインドを変える必要があると話しました」

デジタルは関係ない、前のやり方のままでいい。そんな文化を変えなければDXは進まない
富山県庁が採用した、ソフトバンクのDX研修プログラム

富山県庁職員が取り組むのは、ソフトバンクがグループ会社のFindability Sciences株式会社と共同で行うDX人材育成研修プログラム。
カスタマイズ性が高く、研修内容を柔軟に変更できるのが特長です。
今回の研修は管理職向け研修とDX推進リーダー養成研修に分かれており、いずれもオンラインとオンサイト(会場参加)を交えたハイブリッド型で開催されました。
2022年7月から半年間にわたり、延べ10回実施予定。管理職向け研修は約50名、DXリーダー養成研修は約100名の職員が参加。

「紙を1枚減らすことから、一歩一歩でいいからやっていこう」デジタルが苦手な職員と、本気で挑むマインドチェンジ

今回のDX研修では「マインドチェンジ」がキーワードとなっていますが、ここにフォーカスしたきっかけは何でしょうか?

岩本さん

「県の業務に関わるようになり、そこでの『当たり前』がかなり古いと感じたことですね。でもそれは悪気があってそうなのではなくて、昔からの仕事のやり方やルールを疑うことなく続けているだけ。前やってたから正しいというマインドなんです。『このやり方は本当に正しいのか? 効率的なのか?』という視点を持たないとDXを進めるのは難しいと思いました」

五十嵐さん

「5~6年前から、オープンデータやシビックテックなど外部の活動に参加して、いろんな方と意見交換することで、デジタル化によって一歩進んだ行政サービスが提供できることがあるということを体感していました。また、職員から日常的に受ける庁内LANへの相談が派生して、『こういうことやりたいんだけどできない?』とか『これやってほしいと言われたんだけどどうすればいい?』といった相談が来ていました。でも、よくよく話を聞いていくと、チーム内で整理すべき課題やフローなど、デジタルや技術以前の内容もたくさんあって… そうじゃなくて、仕事のあり方を自分たちできちんと見直して『こういう課題があるからこんなアプリを作りたい』というように、根拠をもとに次の行動を考えてほしいと以前から思っていました」

DX研修プログラムへの参加にあたり、職員からはどのような反応がありましたか?

五十嵐さん

「今回は課内での旗振り役となる『DX推進リーダー研修』の参加者を係長級以上でお願いしましたが、やはり皆さん忙しく、特に遠方からは月1回、半日の講義でも半年間通うのはつらいと言われていました」

岩本さん

「研修メンバーを課から選出するとなると、たいてい一番若い職員が選出されるんですよね。でもこのDXにおいては業務改善の推進、旗振り役を担っていただくので、管理職自身が参加しなければ意味がないと強く訴えました」

「紙を1枚減らすことから、一歩一歩でいいからやっていこう」デジタルが苦手な職員と、本気で挑むマインドチェンジ

五十嵐さん

「リーダーに選出された方はデジタルに明るい人材が多いわけではなく、泣き言を言われることもありましたが、研修最初のオリエンテーションで『デジタルが苦手な方がいっぱいいらっしゃるのも分かってます。まずは紙を1枚減らすとか、テレワークを進めるとか、一歩一歩でいいからやりましょう』と話しました。実際、若い職員では組織を引っ張っていくのは難しいので、やはり権限を持って自分で業務推進できる人でないと、組織全体としてDXを進められないんです」

岩本さん

「多くの職員は、デジタル=テクノロジーの話だと思っていました。でも、デジタル化とかDXは業務改善の話なんですよ。それをどう推進していけばいいのか、どうチームを引っ張っていくかというマインドが重要なんです。ですので研修の企画段階で、マインドチェンジの内容を多く盛り込んでほしいと依頼しました」

なるほど。実際に研修を開始されてから職員の方々に変化は見られましたか?

五十嵐さん

「研修終了後のアンケート結果で意識の変化を感じています。研修前後で同じ内容を聞いているのですが、『DXとはどういうことだと思いますか?』という設問については、『技術的な活用』という回答から、『業務を効率化していくための手法』という回答に変化がみられました。また、自分がデジタル化の推進役なんだと理解してくれた方も多く見受けられました」

岩本さん

「研修メンバー全員が参加するグループチャットがあるのですが、そこでちょっとしたトラブルがあり介入するか迷っていたら、メンバー同士で意見を出し合って自主的に問題解決していたんです。変化の兆しとして非常にいいことだと思っています」

「紙を1枚減らすことから、一歩一歩でいいからやっていこう」デジタルが苦手な職員と、本気で挑むマインドチェンジ

少しずつマインドが変わってきているんですね。最後に、今後の課題や取り組みを教えてください。

五十嵐さん

「まだ腹落ちしていない職員へのフォローや、旗振り役となってくれている職員たちをどう手助けして育成できるかが今後の課題だと考えています。また、今回の研修に興味を持ってくれた市町村もあるので、来年度に向けて合同研修の準備を進めています」

岩本さん

「研修で得た内容を、実際に自分の仕事に取り込めるかどうかが次の課題ですね。
例えば、イベントのアンケート結果を今までよりちゃんと統計のことも考えて分析してみようとか、まずはそういう小さなところからでいいと思っています。
僕はそれを後押しする風土ができるよう、庁内で働きかけを続けていきます」

(掲載日:2023年1月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部