毎年のようにニュースなどで話題になる花粉や黄砂、PM2.5。花粉は「花粉症」でおなじみですが、黄砂とPM2.5については、「聞いたことはあるけど具体的にどういうものなのかは知らない」と、詳しく知らない人も多いのでは? そこで横浜内科・在宅クリニック院長の朝岡さんに、花粉・黄砂・PM2.5の発生原因や体への影響、普段の生活でできる対策法を伺いました。
よく聞く「花粉・黄砂・PM2.5」ってどんなもの?
花粉・黄砂・PM2.5がどのくらいの大きさか知っていますか? それぞれのサイズの違いをわかりやすくするとこのような形になります。
それぞれの特徴や発生原因、飛散のピーク時期などを朝岡さんに聞きました。
花粉
朝岡さん 「花粉とは、花のおしべから出る粉状の物質のこと。花粉症は、花粉によって引き起こされるアレルギー疾患のことを言います。花粉症の原因となる花粉は、スギやヒノキなど約60種類。日本では、春先に見られるスギ花粉症の患者がもっとも多いと言われています。
花粉の大きさは種類によって異なり、スギ花粉は約30~35µm(マイクロメートル)、ヒノキ花粉は約25~30µmです。1日の中で飛散量が多い時間帯というのは特にありませんが、比較的、朝方は飛散した花粉が落ち着いていることが多いでしょう。
スギ花粉は2〜4月、ヒノキ花粉は4〜5月がピークです。そのため『花粉症=春』のイメージが強いですが、春だけではなく、秋にもブタクサやイネなどの花粉が飛散しています。
実は、どういった体質の人が花粉症になりやすいのかはまだ判明していなくて、同じようにスギの多い地域で生まれ育っても、花粉症になる人もいれば、ならない人もいます。それまで全く症状が出なかったのに、ある年にいきなり発症することも。花粉の飛散量が多い年は、発症する方が急増します」
黄砂
朝岡さん 「春先に車を外に駐車していると、いつの間にかボディやフロントガラスなどが砂でジャリジャリになっていることがありますよね。その原因となっているのが黄砂です。
黄砂とは、中国のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂塵が偏西風に乗って運ばれてきたもの。もともと鉱石や鉄骨だったものが年月を経て微小な粒子となっているため、粒子の成分は一種類ではなくさまざまです。
黄砂の大きさは4µm程度で、35µm前後の花粉と比べるとかなり微小。春先になると黄砂に関するニュースが増えますが、実は日本の黄砂の飛散量は世界的に見ると少ないほうで、アジアには日本よりも黄砂の影響を強く受けている国がたくさんあります。日本の飛散のピークは、偏西風が吹く4〜5月頃です。
花粉と違って、黄砂そのものが抗体反応を引き起こすことはありません。ただ、黄砂が目に入ったり肌に付着したりすることで、目や肌にかゆみを生じる人もいます」
PM2.5
朝岡さん 「PM2.5とは、大気中に浮遊する粒子のうち、大きさが2.5µm以下の非常に小さな粒子のことです。別名を『微小粒子状物質(Particulate Matter)』といい、2.5µm以下の粒子は全てPM2.5に該当します。
粒子の大きさで呼び名が決まっているため、窒素酸化物や硫黄酸化物、塗料から出た物質や排ガスなど、成分はさまざま。
PM2.5は、主に自動車の排ガスや工場の燃焼物など人間の活動が原因で排出されますが、火山活動などの自然現象が原因になることもあります。年間を通して飛散しており、ピークの時期は特にありません。
PM2.5は花粉・黄砂と一緒に語られることが多いので、春の風物詩のように捉えている方もいるかもしれませんが、実は季節性のものではありません。日本ではエコロジーや環境問題の文脈で知られるようになった概念で、実際にPM2.5の飛散量は減ってきているようです」
黄砂とPM2.5の違いは?
朝岡さん 「両方とも大気中に飛散している微粒子ですが、PM2.5は黄砂と違って『汚染物質』として認識されています。PM2.5の粒子は2.5µm以下で、4µm前後の黄砂よりもさらに小さい物質です。どちらも、粘膜や口から体内に入ることで健康被害が起こると言われています。
花粉症も黄砂もPM2.5も、くしゃみや鼻水、目や皮膚のかゆみといった健康被害を引き起こします。しかし、実は『命にかかわるほどの深刻な健康被害があった』という事例は報告されていないんです。とはいえ、症状が出るとQOLが下がるのでしっかり対策したいですよね」
花粉・PM2.5・黄砂の違い
項目 | 花粉 | 黄砂 | PM2.5 |
---|---|---|---|
サイズ | 10〜100µm(スギ花粉は約30~35µm、ヒノキ花粉は約25~30µm) | 4µm程度 | 2.5µm以下 |
飛散時期 | 春(スギ、ヒノキ)、秋(ブタクサなど) | 春(3月から5月) | 一年中(特に冬から春にかけて増加) |
飛散エリア | 全国 | 西日本を中心に全国 | 全国 |
発生源 | 主に植物(スギ、ヒノキ、ブタクサなど) | 砂漠地帯(主に中国の砂漠) | 人間活動(工場、車の排ガスなど) |
主な成分 | 植物由来の有機物 | 砂、鉱物(シリカ、アルミナなど) | 有機物、硫酸塩、硝酸塩、金属成分など |
健康への影響 | アレルギー症状(花粉症など) | アレルギー症状、呼吸器系への刺激、視界不良 | アレルギー症状、呼吸器系疾患、心血管系疾患 |
花粉・黄砂・PM2.5は具体的にどんな影響がある?
花粉・黄砂・PM2.5はそれぞれ別物ですが、引き起こす症状は似ているそうです。具体的に、日常生活や健康にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
生活面への影響
朝岡さん 「生活面では、洗濯物や布団を外に干したときに付着する、車や窓ガラスに付着するなどの影響があります。特に屋外に置かれている車のボディやフロントガラスに黄砂らしき砂で汚れているのを見たことがある人は多いかと思います。あれを見ると、『これだけの量が飛んでいるんだな』と実感しますよね。
他には気づいていないだけで玄関や床などにも、たまっていることがありますね。雑巾で拭いたとき、黄色いものが付いたら花粉、ジャリっとした砂っぽいものが付いたら黄砂だと思っていいでしょう」
健康面への影響
朝岡さん 「花粉症は、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、頭痛、目や皮膚のかゆみ、喉の痛みや咳などの症状が出ることでおなじみですね。黄砂もPM2.5も、基本的には花粉症と同じような症状が現れます。ただ、花粉症は基本的に『鼻水がひどい』と訴える人が多いですが、黄砂に関しては『目がゴロゴロする』というような目のかゆみや違和感を訴える人が多い印象です。
花粉・黄砂・PM2.5が原因の場合、重度の食物アレルギーのようにアナフィラキシーショックで死に至るようなことはめったにありません。しかし、鼻水や目のかゆみで仕事や勉強に集中できないなど、症状によってQOLが大きく低下することがあります。
採取した鼻水に好酸球という物質が出たら、それはアレルギー反応です。しかし、そのアレルギー反応の原因が花粉・黄砂・PM2.5のどれによるものなのかは断定できません。原因が何であれ、治療法は、原因物質を取り除くことと薬による対症療法です。今はアレルギーの治療法として『舌下免疫療法』が広まってきていますが、これで治せるのはスギ花粉とダニにアレルギー抗体がある場合だけです」
花粉症が悪化する!? 花粉・黄砂・PM2.5の気になる関係性とは?
朝岡さん 「黄砂とPM2.5は、どちらも春先に濃度が上昇します。そのため、もともとスギやヒノキの花粉症で症状が出ている方は、症状をより強く感じてしまうこともあるでしょう。反対に花粉症ではないのに花粉症のような症状が出る方は、黄砂やPM2.5が原因かもしれません。
花粉と黄砂とPM2.5はそれぞれ別物ですが、空中を飛散するときに混ざりあっていてもおかしくはありません。ウイルスが唾についてくるように、黄砂やPM2.5が花粉についてくることもありえます」
普段の生活でできる花粉・黄砂・PM2.5への対策法
大気中の花粉・黄砂・PM2.5を根絶することはできません。しかし、きちんと対策をすることによって症状を軽くすることはできます。では、花粉・黄砂・PM2.5による健康被害を防ぐにはどのような対策法があるのでしょうか。
① 外出時はマスクやメガネを着用する
朝岡さん 「シンプルなうえにもっとも効果が高いのは、外出する際にマスクとメガネで粘膜のある目・鼻・口を守ることです。市販のサージカルマスクは5µmの粒子を95%以上カットするため、花粉の侵入を防ぐことができますよ。黄砂とPM2.5は完全には防ぎきれませんが、つけないよりはいいと思います。目・鼻・口を守れば、粘膜からの侵入はかなり防げます。
コンタクトレンズを使用している場合、花粉が飛散している時期はレンズに花粉が付着したままになって症状が悪化してしまうことがありますので、この時期だけでもコンタクトではなくメガネを使用しましょう。どうしてもコンタクトにしたい場合は、一日使い切りのタイプがおススメです」
② 外出前に飛散状況をチェック
朝岡さん 「外出前に予報を見て、飛散量が多い日は外出を控えたり、外にいる時間を短くするなどの工夫も大事です。
花粉の飛散量は天気予報サイトなどでわかりますし、PM2.5や黄砂についても、環境省や気象庁が提供しているサイトでリアルタイム情報を確認できます。外出する予定がある日は、事前にそれらのサイトをこまめにチェックするようにしましょう」
③ 粒子をできるだけ家に入れない&家に入ったものは除去する
朝岡さん 「粒子をできるだけ家の中に入れないために、洗濯物は外ではなく部屋干しにする、できるだけ窓を開けないようにするといった対策も大事です。部屋干しだと洗濯物が乾きにくいなという場合は乾燥機も併用していきましょう。
また、家に入った粒子を取り除くために空気清浄機を使用するのもおすすめです。床掃除は花粉が落ち切っている朝のタイミングでするのが良いでしょう」
④ 体に付着した粒子を家に持ち込まないようにする
朝岡さん 「粒子が付着するのは外出時。そのため、外出時はナイロンなどのツルツルした素材の服を着る、帽子をかぶるなどの工夫も大切です。
外から帰ってきたら、玄関に入る前に服をはたいて、身体に付着した粒子をしっかり払い落としましょう。服だけでなく髪の毛にも粒子が付着するので気をつけてください」
⑤ 外から帰ってきたら手洗い、うがいをする
朝岡さん 「ウイルスや菌に気を付けるのと同様に、外から帰ってきたらすぐにせっけんで手を洗い、うがいをしましょう。鼻うがいも効果的で、付着した粒子が鼻水と一緒に洗い流されるので、鼻の中がきれいになります。鼻の粘膜を傷つけると言う人もいますが、正しくやれば傷つけることはありませんよ」
⑥ くしゃみや鼻水、鼻づまり、咳などの症状が出ていたら、医療機関で相談する
朝岡さん 「いわゆるアレルギーの症状が出ている場合、市販薬が効くならそのまま乗り切っても大丈夫です。ただし市販薬は処方薬に比べて効果が弱く、種類も少ないため、人によってはなかなか合う薬に出会えないことも。病院に行けば、医師が症状に合った薬を見つけてくれますよ。
外出せずに医師に相談できるという点でオンライン診療もおすすめです。医療機関の待合室などでの飛沫(ひまつ)感染なども気にしなくてよかったり、再診で決まった薬を定期的に処方してもらえたり、メリットが多いですね。私のクリニックでもオンライン診療を導入していますが、もっと全国的に広まればいいなと思っています」
花粉・黄砂・PM2.5はそれぞれ別物ですが、それらが引き起こす症状や対策法は同じです。命には関わるほど重症化しないことがほとんどですが、くしゃみや鼻水などの症状が続くとQOLが低下するもの。なるべく原因物質を取り込まないように適切な対策をして、快適に過ごしましょう。
(掲載日:2024年5月31日)
文:吉玉サキ
編集:エクスライト