近年は「災害級の暑さ」と呼ばれるほどの酷暑となる日が少なくありません。2024年4月から運用が始まった「熱中症特別警戒アラート」は、過去に例のない危険な暑さが予想される場合に、熱中症への警戒を特に呼びかけるためのもの。いざ熱中症特別警戒アラートが発令されたとき、自分や家族の身を守るためにどんな行動を取るべきなのでしょうか? 実際の対策と事前の備えについてあわせて解説します。
この災害テーマのポイント
- 2024年4月から「熱中症特別警戒アラート」の運用が開始
- その日の暑さ指数を確認し、「31」以上の日は外出を避けること
- エアコンや日傘などを適切に使って暑さ対策を行おう
この災害テーマのポイント
- 2024年4月から「熱中症特別警戒アラート」の運用が開始
- その日の暑さ指数を確認し、「31」以上の日は外出を避けること
- エアコンや日傘などを適切に使って暑さ対策を行おう
目次
リスク:熱中症の大きな要因は「環境」「からだ」「行動」の3つ
人間は体温が上昇すると、皮膚や汗などから外へ熱を逃がし、体温を調整します。しかし、さまざまな要因により体温調節機能がうまく働かず体の中に熱がたまると、熱中症の状態になり、めまいや吐き気などの不調が現れます。熱中症を引き起こす主な要因は以下の3つです。
環境 | 気温や湿度が高い、風が弱い、日差しが強い、閉め切った部屋にいる、エアコンを適切に使っていない |
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からだ | 脱水状態や低栄養状態にある、肥満、糖尿病や精神疾患など持病がある、二日酔い、睡眠不足などで体調が悪い |
行動 | 激しい筋肉運動や慣れない運動、長時間の屋外作業、水分補給ができない状態 |
特に筋肉量の少ない高齢者や乳幼児などは熱中症になりやすい傾向にあります。筋肉は大量の水分を蓄えている臓器であり、筋肉量が減ると高温多湿の状況などで脱水の危険が高まるためです。その他、体調不良の人や肥満の人、日常的に運動をあまりしない人も注意しましょう。日の当たらない屋内にいても、エアコンをつけていなかったり水分補給を怠っていたりすると、熱中症を発症するリスクは高まります。
熱中症による死亡者数は増加傾向に
熱中症は重症化すると、死に至る危険もあります。熱中症で亡くなる人の数は、その年の暑さによって変動があるものの、全体的には増加傾向であることが分かります。
熱中症が増えている背景のひとつに、地球温暖化による気温上昇が挙げられます。昔に比べ、最高気温が35℃以上の猛暑日が増加。特に都市部は建物や自動車からの排熱、人口増加などによりヒートアイランド現象が起き、より気温の上昇が深刻化している状態です。
さらに熱中症になりやすい高齢者の増加、特にひとり暮らしの高齢者が増えていることも熱中症増加の一因と考えらえています。熱中症になると持病のある人は病状が悪化する可能性があり、救急医療のひっ迫につながるといった影響も。熱中症にならないためにも、各自で事前の対策が必要です。
2024年4月から始まった「熱中症特別警戒アラート」
令和6年から、熱中症警戒アラートより一段階高い警戒を呼びかける「熱中症特別警戒アラート」の運用が始まりました。気温や湿度、日射状況などで割り出される暑さ指数(WBGT)をもとに発表されます。
- 熱中症警戒アラート
最高暑さ指数(WBGT)の予測が「33」を超える場合に発表。熱中症による健康被害が生じる可能性があるため、十分な対策が必要。 - 熱中症特別警戒アラート
最高暑さ指数(WBGT)の予測が「35」を超える場合に発表。広域的に危険な暑さになる可能性があるため、近隣の都道府県も注意が必要。市区町村長は暑さをしのげる場所として、市町村が事前に指定を行っている「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」を開放できる。
対処法:熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートが発表されたら?
警戒アラートの指標ともなる暑さ指数(WBGT)は気温だけでなく、湿度や日射、赤外線の熱などを表す輻射(ふくしゃ)をもとに計算されます。体感温度や汗が乾いた際の涼しさ度合いなどに着目し、割り出される指標のため、熱中症予防を行うには住んでいる地域の気温や湿度を調べるだけでなく、暑さ指数(WBGT)を確認することが大事です。
特に暑さ指数(WBGT)が「31」以上になると、命に関わる暑さが予想されます。熱中症警戒アラートや熱中症特別警戒アラートが発令されたら、外出は避け、エアコンの効いた室内で過ごしましょう。
やむをえず外出する場合の対処
- リモートワークを活用するなど、屋外にいる時間を短くする
- 自治体のウェブサイトから、近くのクーリングシェルターの場所を把握しておく
- 屋外での運動や長時間作業のほか、高所作業や運転など危険の伴う可能性のある活動は中止する
- 日傘やファン付きウェア、首を冷やすタオルなどを使い、体の温度を下げる
- 建物や木陰など日差しを遮れる場所でこまめに休憩をとる
- 1日当たり1.2Lを目安に水分補給を行う
- 塩分やその他の栄養素も意識して摂取する体への吸収率が高く、塩分なども含まれる経口補水液を飲む
- 吸湿性・速乾性のある通気性の良い衣服を着て、汗の蒸発を助ける
- 保冷剤や氷などでわきや首、足の付け根など太い血管が通っている部分を冷やす
高齢者や小さい子どもの場合の対処
- 体調に変化がないか、水分などを摂取しているかなどをこまめに確認し、その都度対処を行う
- 高齢の家族が遠くにいる場合は、電話などで声かけする(例:「エアコンを使ってね」「お水をこまめに飲んでる?」など)
- 子どもの服が汗でぬれている場合は着替えさせ、汗が蒸発しやすい状態をつくる
自分でも早く気づきたい、熱中症のサイン
次の症状がみられたら熱中症になっているかもしれないため、すぐに涼しい場所に移動して、水分・塩分などの補給を行う、体を冷やすなどの対処を行いましょう。
- めまいや立ちくらみ
- 顔のほてりなど皮膚の異常
- 大量の汗をかく
- 筋肉痛やこむら返り、筋肉のけいれんなど
- 体のだるさ
- 体温が高い
病状が進むと、次の症状が現れます。その場合は重度の熱中症が心配されるため、即座に医療機関を受診してください。
- 頭痛や吐き気
- 呼びかけに反応しない、返答がおかしい
- まっすぐ歩けない
- 自分で水分補給ができない
熱中症が疑われる人を見かけた際の応急処置
熱中症の症状が見られる場合、以下の応急処置を行いましょう。ただし、自力で水が飲めない、受け答えができないなど、重症と思われる症状がみられたときはすぐに救急車を呼んでください。救急搬送が必要なケースか判断に迷うときには、東京消防庁救急相談センター「#7119」※に相談しましょう。
- ※
全国24のエリアが対象。対象地域の確認はこちらから。
- 建物内や風通しの良い日陰などへ移動する
- 衣服をゆるめ、首やわき、足の付け根など太い血管を冷やす
- 経口補水液などで水分や塩分などを補給させる
- 安静にし、十分な休息をとらせる
事前の備え:暑さに負けない対策を
熱中症は条件がそろえば、誰でもかかる可能性があります。熱中症にならないためにも、日頃の対策や備えが重要です。
暑さに対する工夫
気温や湿度を調べ、エアコンを上手に使ったり風通しを良くしたりするなどの対策を。通気性・速乾性・吸水性に優れた衣服や、日光を遮る日傘を使うなどの工夫も大切。冷却グッズなどを寝る際に取り入れれば、熱中症のひとつの原因となる寝不足を予防できます。
暑さから身を守る行動
テレビやウェブなどで熱中症情報をチェックし、危険な暑さが予測される日はなるべく出かけないなどの判断を。危険な暑さの中やむを得ず外出する場合は日傘などを使い、必ず飲み物を持ち歩き、喉が渇く前に水分補給をすること。さらに建物内や日陰で必ず休息をとりましょう。
暑さ指数や熱中症特別警戒アラートの通知設定を!
暑さ対策への意識を高めるために、暑さ指数や熱中症特別警戒アラートの通知設定を行いましょう。環境省熱中症予防情報サイトでは、無料で以下の通知サービスを登録できます。
- 暑さ指数メール配信サービス:暑さ指数の予測値や、実測値をメールで受け取れる。受診頻度や知らせてほしい暑さ指数などを設定できる。
- 環境省LINE公式アカウント:LINE公式アカウント「環境省」を友達登録すると、熱中症警戒アラートや熱中症特別警戒アラートなどの通知が届く。通知を受け取りたい都道府県は5カ所まで登録可能。
酷暑のときに役立つサービス・ウェブサイト
Yahoo! 天気・災害「全国の熱中症情報」
天気予報のほか、災害情報も知らせてくれる総合サイト。「全国の熱中症情報」では、ほぼリアルタイムの熱中症指数を確認できます。
監修者プロフィール
防災講師・防災コンサルタント
高橋 洋(たかはし・ひろし)さん
1953年、新潟県長岡市生まれ。1976年、練馬区に就職し、図書館、文化財、建築、福祉、防災、都市整備等に従事。1997年より防災課係長として、地域防災計画、大規模訓練、協定等に携わる。現在は、防災講師・コンサルタントとして、自治体等で講演、ワークショップ指導などを行う傍ら、復興ボランティア、終活ガイド・エンディングノート認定講師としても幅広く活動。防災関係著書・論文、防災関係パンフレット類監修多数。
(掲載日:2024年8月15日)
文:大瀧亜友美
編集:エクスライト
イラスト:高山千草