日本で近年、発生の可能性が高いとされている地震の一つが「首都直下地震」です。ソフトバンクでは、大地震などによって被災した場合に、迅速に通信を復旧し事業の継続を実現できるよう、緊急体制や各種手順をあらかじめ検討し、いざというときに備えて全社訓練を行っています。
2月に行われた首都直下地震を想定した全社訓練では、本社の被災を前提として、関東以外の社員を中心に実務を訓練。より実際に近い状況とするため、事前にシナリオを準備しない「ブラインド型訓練」で、発災直後の取るべき行動を確認しました。訓練の様子と大規模災害への備えを、訓練を企画・主導した担当者の話を交えてご紹介します。
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 総務本部 リスク対策部
星野 英雄（ほしの・ひでお）
全社のBCP策定や実効性向上、各拠点の防火防災体制強化の推進、グループ会社のBCP整備支援を担当。今回の訓練では全社の事務局として訓練を主導。
事業継続を第一にした計画を策定、訓練を通じて実効性を検証
政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会によると、今後30年以内に約70％の確率でマグニチュード7程度の首都直下地震が発生すると予測されています。
通信事業者であるソフトバンクは、防災行政上重要な役割を有するものとして、災害対策基本法にもとづき内閣総理大臣から「指定公共機関」として指定されています。災害発生時に事業が継続できない場合、社会に与える影響が非常に大きいため、防災に関する措置を円滑かつ適切に遂行することを目的として「防災業務計画」を定めるとともに、BCP（Business Continuity Plan、事業継続計画）を策定し、首都直下地震や南海トラフ地震など、年度ごとにテーマを設定して全社訓練を行っています。
設定されたテーマや被害想定シナリオに沿って、各部門はとるべき対応やタイムラインの計画を立て、訓練に臨みます。訓練後、洗い出された課題などを踏まえ、再度計画をアップデートするPDCAサイクルを回しています。
これまで行われてきたBCP訓練は事前に準備したシナリオのもと、自分の役割を行う「劇場型訓練」でしたが、今回初めて、訓練実施者に事前にシナリオを知らせない「ブラインド型訓練」を行い、実効性を検証しました。
首都中枢機能の最大被害を想定し、地方社員が中心となるバックアップ体制での稼働を確認
今回の訓練では、首都直下地震における内閣府の被害想定の最大被害ケースをもとに、東京・竹芝本社を中心とした本来の体制での初動が困難な災害が発生した場合に備え、関東以外の社員が中心となるBCP訓練が行われました。
今回の訓練の検証事項を教えてください。
星野 「首都直下地震を想定した訓練はこれまでも行ってきましたが、今回は、より実際の災害に近い状況下で、関東以外のメンバーが地震発生からの被害状況を把握し、部門間の連携が機能するかなどを検証する内容でした。主な検証事項は3つです」
- 速やかに被害情報を収集し経営層報告／緊急対策本部会議ができるか
- 関東外メンバーの初動対応が想定通り機能するか
- 想定している部門間連携が機能するか
「より実際の災害に近い状況」とはどういうことでしょうか？
星野 「今回の訓練は、いわゆる『ブラインド訓練』でした。実際に対応を行うメンバーに事前に伝えられていたのは、訓練開始時刻（首都直下地震発生時刻）と終了時刻と、自部門の対応項目のみ。
実際には、全体事務局のメンバーが詳細な訓練シナリオを作成しているのですが、それらは関東以外の訓練参加者に事前に共有せずに、ブラインドで計画通りに手順が進むかどうかを検証しました。
本社・関東体制での稼働ができない状況において、関東外メンバーが連携して地震の発生から体制立ち上げ、情報収集、緊急対策本部会議での初回報告までの行程を確実に遂行できるかというところがポイントでした」
各部門は、具体的にどんなことを訓練するのでしょうか。
星野 「各部門から全国約350人以上のBCP担当者が参加し、各部門はそれぞれが管轄する事業所やセンターと連携を取り合い、緊急対策本部会議に向けて必要な情報収集を行うという内容です。私が所属する総務本部（コーポレート部門）が情報集約の中心となり、訓練事務局の役割を担っています」
| 部門 | 役割 |
|---|---|
| コーポレート部門 | 緊急対策本部運営、役員・社員の安否確認、事業所被害確認、広報対応、災害救助法適用時の対応や端末貸し出しなどの支援活動 |
| 技術部門 | 基地局・ネットワーク被害確認、復旧 |
| 情報システム部門 | 社内ITシステム被害確認、復旧 |
| コンシューマ部門 | ソフトバンクショップ、コールセンター・ロジセンター被害確認、避難所支援 |
| 法人部門 | 法人サービス確認・法人顧客対応 |
関東外のさまざまな拠点・場所からオンライン参加し、初動2時間半を検証
訓練の所要時間やタイムラインを教えてください。
星野 「今回は、より実践的な訓練とするため、あらかじめシナリオを作った上で手順を圧縮するといったことは行わず、全部門が実時間に即して対応しました。想定より時間がかかった手順なども見受けられましたが、結果的に目標とした2時間半で、情報収集から緊急対策本部会議での報告までを終えることができました」
訓練実施者に事前に伝えられていたのは、訓練開始と終了の時刻のみ
経営層も参加する緊急対策本部会議では各部門が状況報告を実施
本社・関東が稼働できない場合は、大阪など決まった拠点が中心の体制になるのでしょうか？
星野 「在宅勤務が普及する以前は、大阪事業所を本社に代わるバックアップ拠点とした時期もありましたが、2020年頃にはテレビ会議システムやZoomなどの会議ツールを活用して、さまざまな場所からメンバーが参加できる体制を整えていました。ですので、どこか1拠点が中心ということではなく、構えがとれるメンバーによる体制構築へと変わっています」
さまざまな拠点から訓練に参加
訓練を終えて、参加した部門からはどのような声が寄せられましたか？
星野 「事前のシナリオ共有なしでの訓練は今回が初めての取り組みでした。関東外メンバーの練度向上や手順の改善案など、当事者としてやってみたからこその意見が多く寄せられたことからも、実践的で質の高い訓練が実施できたと思います。
BCPは策定するだけではなく、訓練などを通じて実効性や品質の向上を図っていくことが非常に重要です。今後も社内の各部門との連携を深め、練度向上に向けた訓練実施など改善に取り組み、BCPの強化・推進を図っていきます。
また、今回の訓練ではグループ会社であるLINEヤフーやPayPayと災害状況の情報連携を行ったのですが、今後はより一層グループ会社との連携強化も進めていきたいと思っています」
（掲載日：2025年3月10日）
文：ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクはAIやICTを活用し、災害情報の迅速な集約・伝達を行い、災害から身を守る防災対策や、災害発生後の被害を少なくする減災対策に取り組みます。
