
森林での作業中、事故やケガが発生しても、すぐに連絡が取れない。
通信が届きにくい山間部で行われる林業では、こうした状況が現実として存在しています。
和歌山県の大辺路森林組合では、林業現場の安全性向上を目的に「Starlink Business」を活用したソフトバンクの可搬型の広域衛星通信サービス「SatPack(サットパック)」を導入しました。導入の背景を担当者に聞きました。

ソフトバンク株式会社
IoT&プラットフォーム本部 環境IoT事業推進室 室長
平安 俊紀(ひらやす・としき)

ソフトバンク株式会社
IoT&プラットフォーム本部 環境IoT事業推進室
倉島 将(くらしま・まさる)
日本の林業が抱える課題と安全確保において通信が果たす役割
日本の林業にはどんな課題があるのでしょうか?
平安 「人工林の世界的な割合は約8%であるのに対し、日本では40%以上と極めて高い水準です。1950年代を中心に森林資源を急速に回復・拡大するための拡大造林政策によって作られた人工林が大きな資源となるはずだったのですが、現在は、その多くが十分に活用されていません。木材として使い切ってしまった後、適切な間伐など十分な手入れをしてこない森が多く生まれてしまったのです」
林業の課題に取り組むことになった経緯を教えてください。
倉島 「日本の林業コストは海外と比べて高額になる傾向です。主な理由は地形です。欧米などでは平地での大規模林業が主流であるのに対し、日本は山地が多く急斜面での作業が中心です。この違いが生産性に直結しています。大型の機械による効率化が難しく、海外で取り入れられている林業のテクノロジーは日本には適用しにくく、人手に依存しているのが実情です。手入れをしたくても少子高齢化が加速する中、圧倒的な人手不足で林業に従事する人が減っている状況です。こうした課題をテクノロジーの力で解決したいと感じたのが、取り組みを開始したきっかけです」
可搬型の広域衛星通信サービス「SatPack」とは
2025年2月に労働災害が発生し、緊急連絡に苦労した経験を持つ大辺路森林組合(以下、組合)。和歌山県西牟婁郡白浜町エリアに位置する同組合は、以前から山間部への基地局設置を要望していましたが、地形的な制約などから容易ではありませんでした。
こうした背景の下、ソフトバンクは、通信環境の整備に向けた取り組みを開始。衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」と広域Wi-Fi、ポータブル電源を組み合わせたオールインワン型で可搬型の広域衛星通信サービス「SatPack」を開発。2026年2月に組合へ提供開始しました。
今回、組合で導入された「SatPack」とはどんなサービスなのか詳しく教えてください。
倉島 「衛星・Wi-Fi・電源を一体化したオールインワン構成で、短時間で屋外に半径約300mのWi-Fiのエリアが構築できます。工具を使わずに設営が可能で、電源を入れるだけで通信環境を構築できるため、回線工事が難しい場所でも迅速に対応できます。複数のスマートフォンを同時に接続でき、LINE通話、IP電話、画像・動画共有も可能です」


「SatPack」のパッケージ。コンパクトサイズの車のトランクに収まるサイズ
つながることが安心感と従業員の利便性向上に

山での現地調査や実証を通じて、どのようなことを感じましたか?
平安 「かつては6人1組で作業を行っていたそうですが、現在は人手不足の影響で2〜3人の少人数へと変化しています。その結果、作業中に事故が発生した際の対応がより困難になっています。例えば、誰かがケガをした場合、通信環境が整っていない山間部では、すぐに緊急通報をすることができません。やむを得ず、通信可能な場所まで走って移動し、ドクターヘリを要請するケースもあることが分かりました。実際に、林野庁の調査によると、林業における労働災害のケガや死亡の発生率は、全産業の平均と比較すると高い水準※です。また、線状降水帯や土砂災害など、気象に関わる情報をスマートフォンでリアルタイムに把握することも難しい状況です。こうした背景を踏まえ、従業員の安全を確保するために、最適な通信手段が必要と強く感じました」
倉島 「山の中で通信できることは、安全性の確保だけでなく、快適に過ごせるという満足感にもつながると感じました。スマートフォンで通信できるようになれば、休憩時間の使い方も変わってきます。動画を見たり、家族や知人と連絡を取り合ったり、当たり前にスマートフォンがつながることで労働環境の改善にもつなげたいと思いました」
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出典:林野庁「林業労働災害の現況」
「SatPack」としてパッケージ化した理由は何ですか?
平安 「例えば、『Starlink Business』のスタンダードV4アンテナのみの場合、Wi-Fiのエリアは屋内でアンテナから半径20m程度、また別途、電源を確保する必要があります。
一方、山の中ではアンテナから遠く離れて、さらに、空が見えない場所で作業することもあるため、より広い範囲をエリア化する必要があります。『SatPack』では、屋外対応Wi-Fiアクセスポイントを用いました。空が開けた場所にアンテナを設置することで、周辺の森林内を含め、見通しが確保できる範囲においてWi-Fiの到達エリアを最大約300mまで拡張できます。付属の電源で約10時間、連続稼働するので、終日の作業にも十分対応できます。組み立ても1人で約10分で完了できる設計にしました」

2月に和歌山県の白浜町で行われたデモンストレーションではどのような反応がありましたか?
平安 「同様の課題を抱えている森林組合や自治体から問い合わせが寄せられています。大辺路森林組合では、引き続き、毎日現場で『SatPack』を設営して活用しているとのことで、現場への従業員の入退場が『LINE』ですぐに見られることで管理側の利便性が向上したり、従業員が休憩時間にスマホを楽しんでいるなどの声をいただいています」
山林で働く仲間の安心・安全の確保は共通の理念
「SatPack」を導入した大辺路森林組合のご担当者から、次のようなコメントが寄せられました。

「林業に携わる者にとって、山林で働く仲間の安心・安全の確保は共通の理念です。しかし、山間部では携帯電話の不感地域が多く、事故やケガが発生した際の迅速な連絡手段の確保には課題があります。 危険を伴う作業が多い中、山林内では通信手段が十分に確保できないのが実情です。
『SatPack』の導入により、緊急時の迅速な連絡、労務管理や気象情報の取得等が可能となりました。山間部における新たな安全基盤として大きな期待を寄せています」
他に林業のような屋外作業が必要な現場に対して、どのようなソリューションを展開していますか?
倉島 「データ通信だけでなく、スマートフォンの音声通話に対応するサービス『BizCell』を提供する準備をしています。特に林業においては、救急や警察などへ直接、緊急通報ができることで、さらに速やかな対応ができる安心感につながるのではないでしょうか。また、同サービスでは指向性アンテナを採用することで、最大約600mまで通信距離を伸ばしています。林業はもちろん建設現場などでも活用いただけると思います」

(掲載日:2026年4月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部
可搬型の広域衛星通信サービス「SatPack」

「衛星・Wi-Fi・電源」を一体化したオールインワン構成で、専用の収納ボックスにまとめて持ち運ぶことができます。工具を使わずに設営でき、展開後は短時間で利用を開始可能。電源を入れるだけで通信環境を構築できるため、回線工事が難しい場所でも迅速に対応できます。




