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補聴器のフィッティング環境を必要な場所へ。医療MaaS「ほちょうきカー」が誕生

日本での補聴器購入者の満足度は、欧米と比較して3分の2というデータがあるなど、比べて決して高くありません。これは、適切な補聴器フィッティングがされていないことが背景にあります。こうした課題を解決するため、適切な補聴器フィッティングに必要不可欠な聴力測定や効果測定が可能な車両「ほちょうきカー」が開発されました。3月15日に開催された「補聴器フォーラム東海2026」で、どんな車両か体験してきました。

高度な遮音性能と吸音性能を備えた「音場測定環境」をコンパクトにパッケージ

補聴器を適切に調整する上で大切な聴力測定と効果測定には、必要な測定機器と音の反響を抑えた防音室が必要ですが、対応できる医療機関や補聴器販売店は限られています。

こうした背景を受け、MONET Technologies株式会社(以下「MONET」)は、耳鼻咽喉科の専門医や遮音、吸音部材メーカーらと共同で、聴力測定と効果測定が適切に行える車両を開発しました。

ワンボックスタイプの車両の中にどんな技術が詰まっているのか、日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院耳鼻咽喉科の医師 柘植勇人さん、MONET MaaS事業部の植草誠さんに紹介していただきました。

フィッティングは、補聴器にどんな役割を果たすのでしょうか?

柘植さん 「フィッティングとは、補聴器をその人の聴力や生活環境などに合わせることです。欧米と比較して、日本ではこのフィッティングが不十分なことが多いのです。また、補聴器には『聴覚リハビリテーション』という発想が大切です。初めて補聴器を装用するとさまざまな音をうるさく感じるのは自然なことであり、難聴によって発生した脳の変化が関わっています。これが、眼鏡と最も異なるポイントです。そのため、補聴器に対する不快感が改善するまで、高齢者では3カ月以上かかる場合もあります。こうしたことを理解していただいたうえで、最適なフィッティングのゴールに向けて繊細な調整を進めるには、補聴器を装用した状態での効果測定を繰り返すことが必要です」

日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院耳鼻咽喉科 柘植勇人さん

フィッティングをする車両には、どのようなことが求められるのでしょうか?

柘植さん 「言語聴覚士や補聴器技能者が適切なフィッティングを行うには、正確な測定が必要です。そのためには高い遮音性が求められるため、車内は二重構造の防音を施しました。遮音性能は聴覚医学会が推奨する基準を大きく超えました。また、室内の残響時間は欧米の基準を参考に0.5秒以下/ 500Hzを目指しました。残響時間とは、音が止まってから60デシベル減衰するまでの時間で、この時間が長いと音が反響してしまい、正確な効果測定ができないからです。今回は専門の音響測定ができる環境で、車内騒音レベルや残響時間などの目標値をクリアしていることを確認しました」

測定方法の例、車内騒音レベル

通常、こうした環境は医療機関などの専用の測定室で確保されるものですが、それをワンボックスタイプ車両の中で実現していることが特長です。車が設置されていたのは、イベントホールのエントランスで車道に面する場所。車通りもあり、賑やかですが、車内に入ってみると驚くほど静かです。

実際に聴力測定をしている状況で、被験者の前には、当日行われていたイベントの映像がオンラインで流れており、遠隔診療も実現可能であることがわかります。

検証を重ね遮音の厳しい基準をクリア

車両内というスペースに制限がある中で、こうした基準をクリアするためにどのような工夫をしたのでしょうか?

植草さん 「MONETとして、初めて “遮音” を手掛けたため、試行錯誤の連続でした。遮音環境を実現するために、構造そのものから車両の設計を見直しました。二重構造の防音室を設け、振動を抑える素材や吸音材を組み合わせ、車両特有の外部からの振動や低音の影響を防いでいます。また、エンジン停止時でも快適な環境を維持するために電動エアコンを導入するなど、測定環境を維持するための工夫を施しました。さらに、周囲が騒がしい環境でも正確に測定できるかどうか、実証実験を繰り返しながら性能の検証を行います」

MONET MaaS事業部の植草誠さん

高機能な測定ができる車が近くまで来てくれるなら、適切な補聴器調整を受けることができそうですね。

植草さん 「この車は、山間部や介護施設、患者さんのご自宅など、さまざまな場所に移動できます。これまで適切な補聴器調整を受けられなかった方にも、同じ環境を提供できるようになります。車内では、言語聴覚士や認定補聴器技能者が対応し、必要に応じて医師とオンラインで連携することも想定しています。医師が現地に同行しなくても、専門的な判断を取り入れた診療が可能になります。各医療機関が個別に車両を保有するのではなく、自治体などと連携し、必要なときに利用できる仕組みも検討しています」

車両内を見学するために列ができるほど。関心の高さがうかがえました

MOMETでは他に妊産婦の検診に特化した医療MaaSも手掛けていますよね。医療関連で他に今後検討していることはありますか?

植草さん 「今回の難聴支援にとどまらず、耳鼻科・眼科・精神科などの専門外来について、医師と遠隔でつながるサービスが自宅近くまで届く仕組みは、へき地だけでなく都市部でもニーズがあると考えています。専門医の都市部への偏在は大きな社会課題であり、国としてもこの診療科の偏在対策のために適切に遠隔医療を推進していく方針を掲げています。実際に、多くの自治体や大学、研究機関からお問い合わせをいただいており、ニーズの高さを実感しています。今後は、社会課題の解決に資する取り組みを中心に、検討を進めていきます」

MONETでは他にも医療関連のMaaSの取り組みを推進しています

(掲載日:2026年5月15日)
文:ソフトバンクニュース編集部