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いつでもどこでも、だれでもインターネットを使える世界の実現を目指して、革新的な取り組みがアフリカのルワンダで始まっています。基地局ではなくWi-Fiスポットを現地に増やし、地域の人々の手に届きやすい価格でインターネットを提供しようというプロジェクトです。通信インフラを通して、現地に新たな可能性を引き寄せようとするソフトバンクの想いとは? NY在住のフリーアナウンサー大橋未歩さんとプロジェクトの担当者がオンラインで対談しました。
PROFILE
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大橋 未歩
OHASHI MIHOフリーアナウンサー
1978年兵庫県生まれ。上智大学卒業後、2002年にテレビ東京に入社し、多くのレギュラー番組で活躍。2013年に脳梗塞を発症後、約8カ月の療養を経て復帰。15年間勤めたテレビ東京を退社し、2018年にフリーアナウンサーに転身。2023年アメリカ・ニューヨークに移住。日米を行き来しながら、テレビ、ラジオ、イベントなど幅広く活躍中。
ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 アフリカプロジェクトを担当
梅原 悠季(うめはら・ゆうき)
日本に追いつくのに100年? アフリカの通信インフラ事情とは

梅原さんは今、アフリカでのプロジェクトを担当されているそうですね。私もニューヨークに移住してからアフリカ出身の人と接する機会が増えたのですが、みなさんすごく勤勉で、向学心にあふれた人が多くて。国や家族を背負って出てきているんだな、と感じます。梅原さんは以前から、アフリカに興味をお持ちだったんですか?
はい。学生時代からアフリカの暮らしや文化にすごく興味を持っていて、1年間アフリカに留学もしていました。大学では獣医学について勉強していたので、将来はアフリカで獣医をしたり、野生動物の保護などに携われたらいいなと思っていて。
獣医を目指されていたんですね! そこから、どうして現在のようなお仕事に就くことになったんですか?
アフリカに滞在するうちに、いろんな現実が見えてきたんです。貧困の裏側には富が再分配されない社会構造があったり、国によっては支援を受けることが当たり前になってしまっていて、外国からの支援が経済的な自立につながっていない部分もあったり。そういった大きな問題を解決するには、ビジネスの力が必要だと痛感して、ソフトバンクに入社しました。
強い想いを持って、アフリカでのビジネスに取り組まれているんですね。そもそもソフトバンクがアフリカでビジネスを展開しているとは初耳だったのですが、どんなことをされているんですか?
世界には、離島や都市から離れたエリアなどの通信インフラが整っていない場所に暮らしている人たちや、経済的な事情から通信サービスを満足に使えない人たちがまだたくさん存在します。
そうした通信サービスを使える人と使えない人との間に生まれる格差を「デジタルデバイド」というのですが、ソフトバンクは通信技術を使って世界中のデジタルデバイドを解決することを目指し、そのための取り組みをアフリカのルワンダで行っています。

アフリカのデジタルデバイドはどのくらい深刻なのでしょうか?
アフリカは、世界でもっともデジタルデバイドが大きいエリアだと言われているんです。現在の日本と同レベルの通信水準に達するには、この先100年かかるとも言われています。
100年... ! 日本やアメリカのように通信環境が整っている国で暮らしているとなかなか想像できませんね。
もちろん、アフリカであっても首都圏や都市部は非常に発展している国も多いのですが、田舎の方にいくと電気や水道といった基本的なインフラが整っていない場所もまだまだたくさんある。そのような環境下では、通信インフラの優先度はどうしても下がってしまうという現状もあります。
そうした環境下では、スマホやパソコンなどのデバイスを所有する意味を、そもそも感じないという人も多そうですね。
そうなんです。でも、そういった場所に通信インフラを届けることができれば、技術の進歩の過程をスキップして、現地の人たちにいきなり最先端の技術に触れてもらうこともできるかもしれない。いわゆる「リープフロッグ」と呼ばれる現象ですね。先進国に追いつくには100年かかると言われるエリアで、少しでもそのタイムギャップを埋めようと尽力しています。
安価で誰でも使える通信を実現する「コミュニティWi-Fi」

設置されたコミュニティWi-Fi
具体的に今梅原さんはどのようなことをされているんですか?
「Rural Broadband Sustainabilityプロジェクト」という、持続可能なモデルで農村部など都市部以外にも通信を届けましょうというプロジェクトを立ち上げて、現在実証実験を行っているところです。
ル、ルーラル... プロジェクト... ?
プロジェクト名だけ聞いてもピンとこないですよね(笑)具体的には、ルワンダの農村部など都市部から離れたエリアにWi-Fiスポットを複数箇所設置し、インターネットを格安または無料で提供しようという取り組みで、私たちはこの取り組みを「コミュニティWi-Fi」と名付けています。
なるほど。でも、基地局ではなくWi-Fiなのはなぜでしょうか。
通信エリアをカバーできる広さを考えると、もちろん基地局を建設した方がベターです。ただ、電気や光ファイバーといったインフラが整っていない農村部では、基地局をひとつ建設するだけでも数千万円規模のコストがかかってしまう上、データ料金を支払うことのできる顧客数も限られるため、どうしても赤字になってしまう。サステナブルなビジネスとして続けることが難しいという事情があるんです。
その点、コミュニティWi-Fiのような形であれば、導入コストを非常に安価に抑えられますし、通信エリアはある程度限られてしまうものの、大掛かりな工事も必要なく簡単に導入も行えます。
なるほど。現地でサステナブルに事業を展開する上での工夫というわけですね。そもそもなぜ、アフリカの国々の中でもルワンダを選ばれたんでしょうか?

ルワンダは1990年代にジェノサイド(民族対立を背景とした大規模な虐殺)が発生し、多くの犠牲者を出した歴史がありますが、そうした悲劇を乗り越え、経済成長を遂げている国です。
そうして国の立て直しに力を入れる中で、IT技術を取り入れたり、国を挙げてICT化を進めたりすることに、すごく注力している国でもあるんです。ソフトバンクでも、ルワンダ政府と協力して世界で初めて成層圏からの5G通信試験を成功させた実績もあり、非常に重要なパートナー国になっています。
ルワンダがICT化などにそこまで積極的に取り組んでいる国だとは知りませんでした! でも、そんなルワンダでもスマホを持っている人はまだまだ少ないのでしょうか?
そうですね。都市部ではスマホ所有者は増えてきているのですが、農村部に行くとまだまだ少ないのが実情です。そもそも、スマホの使い方が私たちとは全然違うんです。
充電を節約するために普段は電源を切っていて、必要な時に1ドル以下の低価格で数百MBの少量のデータを1日分だけ購入し、用が済んだらまだ電源をオフにする... というような。
そうか、常時つながりっぱなしというわけではないんだ...。
そうなんです。せっかくスマホを持っていても、金銭的な理由から24時間ずっとではなく、我慢して使っている人が多い。そうした我慢を取り払って、自由にインターネットを使ってもらえるような環境を実現したい。そんな想いでこのプロジェクトに取り組んでいます。
苦心の末に考え出した新しいビジネスモデル

話を聞いて、私たちが当たり前のようにスマホでネットにいつでも接続できるのはとてもありがたいことなんだと思えてきました。ひとつ質問なんですけど、農村部の人に格安もしくは無料で通信を提供してしまうと、ビジネスとしてやっていけるんでしょうか?
まさに、そこが頭を悩ませたポイントでした。「ビジネスとしてのサステナビリティをどのように実現するか?」は農村部で事業を行う上で必ずぶつかる大きな課題で。やはり、「購買力」にどうしても限界があるし、スマホを持っている人の絶対数も限られている。
導入コストや維持費用をどれだけ抑えても、農村部のみでビジネスを行うのは持続可能性がないという結論になってしまうんですよね。これを打開するために考え出した解決策が「利益移転型支援」というビジネスモデルです。
利益移転型支援、初めて聞く言葉ですね。気になります。

「利益移転型支援」について
まずは比較的購買力が高く、スマホ所有者が多い都市部や、都市部に近い郊外でコミュニティWi-Fiサービスを提供する。そこで得られる収益の大部分を、農村部でのコミュニティWi-Fiの導入・維持費に充てるというものです。つまり、儲けのためではなく農村部へ安価な通信を提供するために、都市部や郊外で事業を作るということです。
このモデルを実現することで、私たち日本人が外から支援をするというような形ではなく、都市部で生み出された利益が、自然な形で農村部へ継続してサステナブルに通信を提供し続けることができるようになります。寄付による活動は寄付金がなくなると継続できなくなってしまうことがこれまでの課題でしたが、資金が尽きることなく、継続して農村部の通信維持費に補填し続けることができるんです。
一方的に支援するわけではなく、ルワンダ国内でビジネスを循環させようという発想が素晴らしいですね!
ありがとうございます。加えて、都市部で生み出された利益は、農村部の学校での教育などにも移転されています。
利益を教育にも移転... どういうことですか?

現地の学校の様子
都市部で生まれた利益を活用して、学校に無償で通信環境と教育コンテンツを提供しているんです。同時に、先生や子どもたちがそれらを活用できるようなトレーニングも実施しています。
デジタルデバイドの背景には、十分な教育を受けられないことによる情報リテラシーの格差もあると思うんです。通信インフラの整備と教育機会の提供、その両輪で考えることがデジタルデバイドの解消のためには重要だと私たちは考えています。
本当にその通りだと思います。教育というのは、貧困を抜け出すひとつの手段にもなりますから。情報を得ることで、正しい判断ができたり、命が救われたりということもありますよね。
だからこそ、通信を届けるということと、通信や情報を正しく使ってもらうための教育活動を両方セットでやっているソフトバンクさんの取り組みには、とても共感します。

コミュニティWi-Fiを使用してオンライン会議している際、子供たちが興味津々に集まってきている様子
世界規模で共感してくれる仲間を増やしたい
現地の人たちの反応はどんな感じでしょうか。 皆さん、喜んでくれていますか?
誰か1人がスマホを持って、その周りにみんなが集まって動画を見ているみたいな光景はよくありますね。私がその光景を遠くから眺めていると、片言の英語で「Wi-Fi、グッドグッド! 」と声をかけてくれたりして(笑)そうやって喜んでくれている姿を見ると、すごくやりがいを感じます。
もうひとつ、うれしかったのがWi-Fi環境が整ったことで、新しいビジネスを始めたいという人たちも出てきたこと。
すごい! どんなビジネスですか?
ルワンダは行政サービスのオンライン化がすごく進んでいる国で、出生届やビザの申請、転居の際の手続きなど、さまざまな申請がオンライン上でできるんです。ただ先ほども言ったように、スマホやパソコンなどのデバイスを持っていない人も多い。じゃあ、そういった手続きを私たちが代行しますよ、というようなビジネスですね。
私たちが現地で提供するサービスを使って、そこから自分たちの収益やコミュニティにも貢献するような動きが出てきたのが本当にうれしくて。こうした動きがもっともっと広がっていけばいいなと思っています。

ルワンダ郊外のコミュニティWi-Fiの近くでスマホを利用する人々
社会課題解決への効果がとても期待できる事業ですよね。企業が持続可能な形で社会貢献的な事業をやるのって、とても難しいと思うんです。心から社会に貢献したいという濁りのない想い、そして何より企業としての体力が必要だと思うので。本当に誰にでもできることではないな、と。
うれしいお言葉です。ソフトバンクは「情報革命で人々を幸せに」という理念を掲げていますが、これは日本だけに限った話ではなく、世界中の人々が対象です。この理念は本プロジェクトにも大いに生きていると思います。
「利益移転型支援」のようなモデルがしっかり形になって成功すれば、他のさまざまな企業や団体にも真似してもらえるようなモデルケースにもなるな、と。

どんどん真似してもらってOK、という感じなんですか?
私たちだけの力では、サービスを展開できる国の数もスピード感も限られてしまうので「こういうやり方があるんだ」ということを多くの人に知ってもらった上で、共感してくれる仲間を増やしていけたらいいなと思います。
さまざまな企業・立場の人たちが、みんなで力を合わせて社会課題解決に貢献していくような、そんな大きなムーブメントを生み出すきっかけとなるようなプロジェクトに育てていきたいですね。
梅原さん、まだお若いのに、本当に使命感や強い想いを持ってビジネスに取り組んでいて尊敬します。私もすごく触発されたというか、勇気づけられた部分がありました。私も次はルワンダに行って、直接お話を聞いてみたくなりました(笑)
ぜひぜひ! 来ていただけたら現地を案内しますし、現地の人たちも喜ぶと思います(笑)アフリカが初めてということなら、ルワンダはすごくおすすめの国ですよ。

文・編集:X PROJECT編集チーム
写真:ヤマノウチ ユウスケ、高島啓行、梅原悠季