SNSボタン
記事分割(js記載用)

脳科学者に聞いた、スマホとのベストディスタンス。脳過労の症状と対策とは?

脳科学者 枝川義邦先生に聞いた、スマホ脳過労の症状と対策

今や私たちに欠かせないアイテムといえるスマホ。コロナ禍で“おうち時間”が増える中、動画視聴やネットショッピング、テレビ電話などスマホを使う場面はますます増加。今まで以上に便利で、私たちの生活を豊かに彩ってくれる存在になりました。

一方、スマホの使いすぎは脳の疲れにつながる面もあるとのこと。場合によっては「脳過労」という状態を引き起こしてしまうのだとか。そこで今回は、脳科学者の枝川義邦先生に、スマホと脳過労の関係や症状と対策について伺いました。

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

枝川 義邦(えだがわ・よしくに)先生

早稲田大学理工学術院教授。1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。早稲田大学ビジネススクール修了、MBA。研究分野は、脳神経科学、人材・組織マネジメント、マーケティングなど。企業経営や人間の思考や行動などについて、経営理論だけでなく脳の仕組みや働きからの解説も多い。

目次

もの忘れやイライラの爆発など……。「脳過労」の症状とは?

脳過労とは、脳の使いすぎによって機能低下した状態のこと。その原因はさまざまですが、スマホも使いすぎると、脳過労につながる可能性があります。スマホを見ていると、小さな画面の中にたくさんの色や光、文字、映像などがあり、一度に大量の視覚情報が飛び込んでくるので脳は高速でそれを処理しなければならず、それが過剰になると、疲れがたまる一因になります。

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「脳の中で疲れやすいのは『前頭前野』という部分です。ここは、人の価値判断や意思決定を司どる場所です。会社の最高経営責任者をCEO(Chief Executive Officer)と呼びますが、前頭前野は脳(brain)を統率するCBO(Chief Brain Officer)といえるでしょう。ここが機能低下してしまうと、さまざまな不具合が起きます」

脳科学者に聞いた、スマホとのベストディスタンス。脳過労の症状と対策とは?

脳過労のよくある症状として挙げられるのは、1時間ほど前に聞いたことを思い出せないなど、「もの覚えが悪くなる」こと。脳が疲れているので、新しい情報が脳に入りづらいのです。認知症などの症状とも似ています。また、「ちょっとしたことで怒りが抑えられなくなる」ことも考えられます。イライラしたときにブレーキをかけるのも前頭前野の働きです。

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「そのほか、『判断力が鈍る』のも脳過労の特徴の1つ。例えば、ネット広告などで見た商品をよく吟味せずに買ってしまうといったケースも考えられます。『何をするのもめんどくさいと感じる』『今やっていることをなかなかやめられない』ということもあるでしょう」

確認しておきたい、脳過労のセルフチェック項目

  • ネットサーフィンをダラダラと続けてしまう
  • ゲームをダラダラと続けてしまう
  • 単純ミスが多い
  • ネット広告の商品を衝動買いしてしまう
  • イライラしやすい
  • 少し前に聞いたことを思い出せない

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「脳が疲れる原因はスマホ以外にもあるので、すべてがスマホのせいとは断定できませんが、多くの項目が当てはまるようであれば、注意が必要です」

脳過労を改善する3つのポイントは?

  • 対策① スマホを“スマート”に使う
  • 対策② 脳にやさしい生活習慣
  • 対策③ 脳を休める「デフォルトモードネットワーク」

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「まずは脳の“使いすぎ”を予防することが基本です。そのためには、スマホなどの使い方を工夫することに加えて、生活習慣を全体的に見直すことが必要です。それでも脳に疲労がたまってしまったら、疲れを癒やすことを考えましょう」

3つの対策が、具体的にどのようなものなのか、次のページから詳しく解説します。

スマホの使い方にメリハリを! 対策①「スマホを“スマート”に使う」

脳科学者に聞いた、スマホとのベストディスタンス。脳過労の症状と対策とは?

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「目的があってスマホを使う場合はいいのですか、ダラダラ使い続ける習慣がついてしまうと、ついつい見てしまったり、目的もなく漠然とサイトやアプリを渡り歩いたりと、いわば“スマホに使われている”という状態に陥ってしまいます。そうではなく、『何のために使うのか、いつ使うのか』を自分で決めて、賢く使いこなすことが重要です」

上手く使うためのルールを設定

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「まず使用する時間や使い方に関する“ルール”を作りましょう。通知をオフに設定するのも有効。通知をオンにしていると、いつ通知が来るか気になり、スマホに注意を向け続けてしまうからです」

上手く使いこなすためのルール例
  • 長時間、使い続けない。例えば30分使ったら5分はインターバルを設けるなど、適度に休みを入れる
  • 検索するときは、目的を決めて行い、調べたいことがわかったらそこでやめる。目的のないネットサーフィンを続けないようにする
  • メールやアプリからの通知をオフにする
  • ベッドにはスマホを持ち込まない

すぐに使いたくなる気持ちを抑える工夫

あえてスマホを使うのが面倒になる・不便になるような設定をすることで、すぐにスマホを使いたくなる気持ちを抑えることもオススメとのこと。すぐにパッと使えるのがスマホの良いところですが、便利すぎるがゆえに、手離せなくなってしまうからです。

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「例えば、画面ロックの解除方法を複雑にするなど、スマホを使い始めるためにいくつかの手続きを踏まなければいけないようにすると、面倒に感じるので、目的なく使ってしまうことが減るかもしれません。また、スマホの画面を一時的にモノクロにしたり明るさを下げたりして、あえて少し見づらくすることも有効です」

すぐに使いたくなる気持ちを抑える方法の例
  • 画面ロックの解除方法を複雑にする(指紋認証→パスワード入力へ変更など)
  • 使わないときは、スマホをカバンの中にしまっておく
  • 画面をモノクロにする
  • 画面の明るさを下げる

日頃の行動やクセが脳に影響!? 対策②「脳にやさしい生活習慣」

脳科学者 枝川義邦先生に聞いた、スマホ脳過労の症状と対策

スマホ以外にも普段の思わぬ習慣や行動が脳に負担をかけていることも。そのため、スマホを使う時間を減らすだけではなく、生活全体を見直すことが必要になります。

マルチタスクとのメリハリをつける

人間の脳が特に疲れやすいのは「マルチタスク」をしているとき。つまり、複数の作業を同時にこなすことです。マルチタスクというと、「複数のタスクを同時に進めている」というイメージを持つかもしれませんが、実際は、脳は複数のタスクを同時にこなすことはできません。現実には同時進行ではなく、脳は一つ一つの作業を細かく分け、高速で切り替えながら処理しているのです。こうした繰り返しは脳にとって負担となります。

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「テレビをつけながらパソコンで調べ物をしたり、SNSでメッセージを送ったりすることもマルチタスクです。家事をしながらスマホを見るなど、マルチタスクになってしまう場面は日常的にあリますし、“ながら作業”は時間を有効に活用している気分になるので、忙しい人はやりがちなことでしょう。ただ、脳の健康を考えると、やりすぎは禁物です。なるべくマルチタスクは避けて、一つ一つの行動に集中するように心がけてください」

議論を重ねる会議の合間に休憩を挟む

会話も、脳の疲れを引き起こすことがあります。会話をしているとき、脳内では相手がどんなことを考えているのか、今どんな言葉を発すべきかなど、さまざまな判断が行われています。特に難しいテーマで議論をしているときや、重要な決定をする会議などは脳が疲れやすいので、一定の時間ごとに休憩を設けるようにしましょう。

脳科学者に聞いた、スマホとのベストディスタンス。脳過労の症状と対策とは?

脳科学者 枝川義邦先生に聞いた、スマホ脳過労の症状と対策

質の高い睡眠をとる

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「活動はなるべく昼間に集中させ、夜はなるべくゆったりと過ごしましょう。また、起きたら太陽の光を浴び、夜はなるべく柔らかな光(白熱灯など)で過ごすなど、明るさのメリハリをつけることが質の高い睡眠につながります」

恋愛も脳を酷使する!?

脳内には、情報を一時的に保存し、処理をする「ワーキングメモリ」という場所があります。ワーキングメモリは情報を一時的に置いておくところであり、一度に使える容量は限られているので、何か心配事を抱えてしまうと、その間は容量が圧迫されてしまいます。そういう意味では、恋愛も脳にとっては、同じような影響があると考えられます。頭の片隅で好きな人のことをずっと考えてしまうのも、メモリを使い続けることになり、脳の疲れにつながる可能性があります。

脳科学者に聞いた、スマホとのベストディスタンス。脳過労の症状と対策とは?

疲労が回復し、ひらめき力もアップ! 対策③「デフォルトモードネットワーク」

脳科学者 枝川義邦先生に聞いた、スマホ脳過労の症状と対策

身体と同じで、脳もしっかりと休憩させると、疲れから回復することができます。そのためには、脳の疲れを癒やす「デフォルトモードネットワーク」の状態をつくることが大切とのことです。

デフォルトモードネットワーク(DMN)とは

脳がタスクをこなしていない状態で働く神経ネットワークのこと。次に何をしようか考えず、ボーッとしている状況で働き、脳の疲労回復を促進します。

デフォルトモードネットワーク(DMN)とは

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「デフォルトモードネットワークによって、脳の疲れがとれるだけではなく、アイデアやひらめきなども生まれやすくなると言われています。仕事の課題について、職場で一生懸命考えていても何も思いつかないのに、シャワーを浴びているときや、散歩をしているときなどに、突然良い案を思いつくことがありませんか? そういうときは、デフォルトモードネットワークが有効に働いているのです」

アイデアが生まれやすい「三上」

かつて中国の詩人・欧陽脩が、文章などを考えるのに良いシチュエーションのことを「三上」と表現したと伝えられています。三上とは、「馬上(馬に乗っているとき)」「枕上(布団の上で横になっているとき)」「厠上(トイレにいるとき)」を指します。まさに、デフォルトモードネットワークをつくりやすい状況ですね。

デフォルトモードネットワークの状態をつくるコツとしては、

  • 遠くの緑がゆれる様子
  • 焚き火や川のせせらぎ
  • 木々のざわめき

など、自然のノイズを見聞きしながら、ボーッとすること。こうしたノイズは人をリラックスさせる効果があります。

脳科学者 枝川義邦(えだがわ・よしくに)先生

「しばらくボーッとしていると、いろいろな考え事、悩みなどが浮かんでくると思いますが、それらに対して、『答えを出そうとしないこと』がポイントです。何か判断をしようとすると、脳がそのタスクをこなすことになるので、結局脳が疲れてしまいます。ただ思い浮かべるだけ。そのうちに頭がすっきりして、脳過労からの回復も期待できます」

私たちにとって、もはやスマホはなくてはならないもの。スマホとのベストディスタンスを保つことが大切です。自分にとって心地良く、最適な使い方を考え、工夫してみましょう。

誰もが安全・安心にスマホやインターネットを使えるように

ソフトバンクは、利用時間の管理を始めとした子どもたちに適切な使用を促すための啓発活動や、お客さまが犯罪に巻き込まれないための仕組みづくりに取り組んでいます。

(掲載日:2021年1月15日)
文:有井太郎
編集:エクスライト
写真:山野一真