普段の会議や話し合いの場で、発言力や影響力のある人に圧倒されて意見を言いづらい。相手の本音が分からずなかなか全員が納得できる結論がまとまらない――。そんな経験に心当たりがある方はいませんか?
そんな悩み解決の手だてとして、子どものおもちゃとして親しまれる「レゴブロック」で遊ぶ(?)ことを通して、チーム力を高めることができるワークショップがあるそうです。本当はただ遊んでいるだけなのでは… という疑念を心の片隅に置いて、実際にワークショップが行われるという現場を取材してきました。
やってきたのは、青森市立浪岡北小学校。
校庭は雪一色、辺り一面銀世界に囲まれた冬の小学校。教室内では、スーツやジャージ姿の先生たちが机の上でレゴブロックを使って真剣に何かを組み立てている様子です。
- カラフルなブロックを黙々と組み合わせる先生の様子
- 講師のファシリテーターがやってきました。組み立てては語り合うプロセスを繰り返しています
レゴブロック作りを通して、自分や他者の価値観があらわに
先生たちが参加するのは、「レゴシリアスプレイ」というメソッドと教材を用いたワークショップ。ファシリテーターが出すさまざまな問いに対してレゴブロックを組み立て、作品作りと意味づけを行った後、各作品を使った対話をグループ内で行うというプロセスを繰り返すというものです。
語る側も質問する側もレゴブロックで作った作品を使ってブロックに込めた思いを語り、他のメンバーからの質問に答えていくことで、自分や他者の価値観に気付いていきます。お互いが作品だけを頼りに対話するというのもこのメソッドの特徴です。「悪夢のような学校とは」「自分の強みは」といったお題に沿って、ひたすら手を動かしながらレゴブロックを組み立てる過程を通して自分の中の潜在意識を引き出していきます。
制作した作品をグループ内で発表すると、「なぜこの色?」「どうしてこの高さ?」「これにはどんな意味が?」といった質問が投げかけられ、参加者同士で対話を行います。
質問を受けて「言われてみれば、なんでだろう…」と考えていた先生も、慣れてくると自分の価値観に気付けることにおもしろさを感じてくるようです。「レゴブロックがあると話がスムーズに進む」といった声も。
どんな学校を作りたい? グループで未来を創造する
「理想の学校」と「自分の強み」というテーマで組み立てたレゴブロック作品を発表した後、最終的にグループ全員の作品を並べて1つの作品の完成に向けて共同作業を行います。
こちらのグループの作品は、人が手をつないでいたり、動き回っているイメージがうかがえますね。どんな思いが込められてるのでしょうか?
グループに参加した先生「写真の左側の作品は、手前の赤い帽子をかぶっているのが自分で、奧の旗の手前に立っているのが指導力のある先生です。自分には高いスキルがなくても、指導力のある先生や右のタワーのそばにいる力のある先生と、つながって互いに協力し高め合える学校を描いています。写真の右奥にある作品が表すのは、ジグザクの階段を自分の力で上がっていく子どもたちや、赤い頭の1年生に手を差し伸べ協働する6年生の姿を現しています。助け合う学校のイメージです。写真の右下には、先生や子ども、保護者が手をつなぎ助け合っていく学校を描いています」
最初は「なぜブロック?」と疑問を感じていた先生たちも、ワークショップを通して、周りの先生たちや自分自身が大切にする考えに改めて気付いた様子。感想を聞いてみました。
「これまでの学校の研修で初めて経験する活動でした。今回のワークショップを通して、『レゴシリアスプレイ』は、間違いなく今後の学校現場で子どもにも教職員にも活用できるツールだと感じましたね」
「レゴブロックを使って自分の考えや思いを表現するのがとても新鮮で、他の先生方の思いを知ることができてとても有意義な時間となりました。コミュニケーションが苦手な人でも、アイスブレイクのような感覚でできそうです」
「ただ『話す・書く』だけでは気づかない潜在意識をレゴブロックを作ることを通して引き出すことができたと思います。これからも、コミュニケーションを取ることの大切さを改めて意識して、子どもたちと接していきたいと思いました」
学校でレゴシリアスプレイを活用するとどんな効果があるのか
文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」によって、全国の小・中学校では授業でのタブレットやパソコンなどICTツールの利活用が進む一方、学校現場の先生は急激な変化への対応が必要となっており、子どもたちの新たな学びの実現に向けて奮闘しています。今回のワークショップの主旨は、学校の在り方や目指すべき姿などを模索する中で、教員一人一人の思いをレゴブロックを使って可視化することでさらなる議論を深めていくことです。
今回、ワークショップの講師を担当したソフトバンクの社員に話を聞きました。
レゴ®シリアスプレイ® 認定ファシリテーター 田中 光太郎(たなか・こうたろう)
ソフトバンク株式会社 公共事業推進本部 教育ICT推進部
レゴ®シリアスプレイ®の認定ファシリテーターとは?
![レゴ®シリアスプレイ®の認定ファシリテーターとは?](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/sbn_30/20230208/20230208134325.jpg)
株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツが行うファシリテーター養成トレーニングを受講することで取得できる民間資格。ソフトバンクにはトレーニングを修了した認定ファシリテ―タ―が多数所属しています。
学校で活用するのは今回が初めてということですが、実際にやってみてどうでしたか?
「昨今企業や自治体職員の方向けに活用が広がりつつあるレゴシリアスプレイですが、学校現場においても先生方に体験いただく価値と効果は高いと感じます。事前に学校の課題や教育目標、学校経営方針などヒアリングを行いコンテンツに盛り込みました。
最後に、各チームで理想の学校とそれに向けての自分のアクションを形にしたストーリーを一人一人語っていただきましたが、先生方が作品を通じて晴れ晴れと語られる姿がとても印象的でした。実際に、『長い教員人生で、こんなに学校について語り合う先生たちの姿を見たことはありません』という感想もいただきました」
レゴシリアスプレイにはどんな効果が期待されているのか教えてください。
「ブロックで作った作品は、潜在意識が可視化されたものであり、人格と意見を切り離すツールにもなりえるので、議論を戦わせるには最適です。意見を伝えるときも、ブロックを介して話し合いを行うため、『自分は違う考えを持っているけど、反対意見を伝えたら相手の感情を傷つけるかもしれない』といった心配をせずに本音で対話ができます。
誰でも簡単に、楽しく参加できることはもちろん、レゴブロック作品の制作を通して思考の整理ができたり、チーム全員のアイデアや意見を出し合い、全ての人が納得できる合意形成や場づくりにつながるといった効果があります」
どんな人がレゴシリアスプレイを受けるといいのでしょうか?
「多様な価値観のメンバーで構成されたチームで、何か新しいことに挑戦するといった場面では欠かせない『チームビルディング』に最適だと思います。
自分の居場所を見つけられず孤独感を抱いたり、言いたいことをうまく口に出せない経験をしたことがある方に、「『シリアス』 プレイ」まさに 『真剣に』 遊ぶことを通して、お互いが本音を伝え合って1つのゴールを創り出すという体験をしていただきたいです。
GIGAスクール構想が目指す子どもたちの新たな学びの効果とも大いに共通点があると思います。学校現場の先生方にもぜひこのメソッドでの体験を活かしていただき、正解のない予測不可能なこれからの社会を生き抜く子どもたちの育成につなげていただけるとうれしいですね」
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(掲載日:2023年2月14日)
文:ソフトバンクニュース編集部
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