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ダイバーシティについて説明できる? 意外と知らない定義と企業経営に必要な理由

ダイバーシティについて説明できる?意外と知らないその定義と企業経営に必要な理由とは

近年、主にビジネスの場で「ダイバーシティ」という言葉を耳にする機会が増えています。グローバル市場でも重要視されているダイバーシティは、長期的な企業価値の向上を目指す上で、いまや必要不可欠な要素の一つとされています。しかし、実際にダイバーシティがどのような概念なのかしっかりと理解できている人は少ないのではないでしょうか。

今回の記事では、ダイバーシティの専門家である谷口真美さんに、そもそものダイバーシティの定義やダイバーシティ経営など企業で重視されている背景、日本での取り組みなどについてうかがいました。

目次

教えてくれた人

谷口 真美(たにぐち・まみ)さん

谷口 真美(たにぐち・まみ)さん

早稲田大学商学学術院 教授。1996年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学取得)。2020年度まで経済産業省ダイバーシティ経営企業 100選/プライム 運営委員。ダイバーシティの国内第一人者。著書に「ダイバーシティ・マネジメント 多様性をいかす組織」(白桃書房、2006年経営行動科学学会 優秀研究賞)。「人的資本経営実現に向けた検討会」委員として人材版伊藤レポート2.0の策定に参画。

そもそもダイバーシティとは?

そもそもダイバーシティとは?

ビジネスシーンでよく耳にする「ダイバーシティ」。その定義について谷口さんに聞いてみました。

谷口さん

「ダイバーシティ(Diversity)とは、日本語で『多様性』。異なる属性を持った人々が、社会や国、組織、集団、職場、チームなど特定の枠組みの中で共存している状態を指します。

ダイバーシティを語るうえで注意したいのが、多様性のどの側面に着目するかによって意味合い、最も多様な状態、目指す姿が違うということです。多様性には3つの捉え方があります。

  • 格差
    集団の中での権限や地位などの影響力の偏りの程度。この側面で最も多様な状態は、意外かもしれませんが、マイノリティーとマジョリティーの「格差が大きいこと」です。そして目指す姿は、例えば管理職に女性を増やして男性との影響力を均衡させ、「格差」を解消することです。
  • 距離
    価値観の相対的距離の違い。心理的距離や価値観が異なるとコミュニケーションがうまくいかず、集団としてのまとまりがつかなくなります。そこで心理的距離を縮め、協働できるようにする必要があります。
  • 種類
    個々のメンバーが持っている知識・経験・スキルの集団における散らばりの程度。この側面で最も多様な状態は、一人一人が全く異なる知識・スキル・能力を持っている状態です。この捉え方は、違いをいかして新たな問題解決策を導いたり、革新的なアイデアを創造しようとするものです。

この3つの捉え方を理解していないと、同じダイバーシティの話をしているつもりでも相手と議論がかみ合わないといったことが起きてしまいます。どうしても、ダイバーシティというと、女性の管理職の少なさや活躍度の低さなどで性別の『格差』の側面に注目が集まりがちです。しかし、企業としてイノベーションを起こすためには『種類』の多様性の側面に目を向けていく必要があるかと思います」

ダイバーシティの2つの種類。「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」

性別、年齢、人種・民族だけでなく、経歴やさまざまな要素で構成されているダイバーシティですが、表層的・深層的という2つの種類に分けられるそうです。

①表層的ダイバーシティ

谷口さん

「『表層的ダイバーシティ』とは、人種や民族、性別、年齢、障がいの有無など、外見から見分けられる属性のこと。同時に、自分の意思では変えられない、または変えることが困難な属性です。外観から判断しやすい基準なので、どの国でも差別を禁じる法律の規制対象になっています」

②深層的ダイバーシティ

谷口さん

「『深層的ダイバーシティ』とは、宗教、学歴、性的指向、経歴、スキル、価値観など、外見ではわからない属性のこと。表層的ダイバーシティに比べて、その人と深く関わらなければ分からない内面的な特性が含まれます。

女性をいかす、高齢者をいかす、障がい者をいかすといっても、表層的な切り口で、特定の人たちをただ雇用しただけでは、仕事上でダイバーシティをいかしているとはいえません。その人の持つスキルや経験、知識など、仕事に関わる深層的ダイバーシティをいかすことが、真にダイバーシティをいかすということです」

ダイバーシティが重視され始めた背景

ダイバーシティが重視され始めた背景

ダイバーシティはなぜ世界中の企業で重視され始めたのでしょうか。その背景について谷口さんに聞いてみました。

谷口さん

「人の属性に関するダイバーシティは、もともとアメリカで生まれ広まった概念です。注目を集めたきっかけは、1950年代から60年代にかけて盛り上がった、アフリカ系アメリカ人を中心とした公民権運動。1965年に公民権法が発令されると、公民権法に基づき、米国雇用機会均等委員会(EEOC)が設置され、人種や性別、出身地、宗教、年齢などの違いによる雇用差別を受けたと感じた人は、誰でも訴えを起こせるようになりました。いわば、社会問題としての位置付けです。

1980年代から1990年代前半には、『ダイバーシティ・マネジメント』を企業の経営的に合理性があるものとして捉える潮流が起こります。これによって、多様性を受け入れることが組織にとってプラスに作用し、利益をもたらすという認識が広がりました。2000年前後になると、多様な人材の採用による雇用拡大や組織の構造改革が一段落し、社内にいるマイノリティー個々人が、組織の一員として自らがいかされていると実感できるかという視点を強調した『ダイバーシティ&インクルージョン』という言葉が登場。特にオバマ政権時代のアメリカの企業では組織や企業が持続的な成長をするためには、ダイバーシティ&インクルージョンの風土が不可欠という考え方が定着しています。このようにダイバーシティは、時代とともに変化を続けてきました。それに合わせて、ダイバーシティ経営やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)など、新しい言葉も次々と生まれました。

現在、日本でもさまざまな企業がダイバーシティ経営に取り組み始めていますが、社会的責任として『SDGsを意識する』、あるいは経営合理として『消費者ニーズを意識する』『事業に結びつける』といったように、取り組む意義や、目的が定まっていなければ、取り組みも定着せず、達成できたかどうかを評価できませんね。

企業がダイバーシティを進めるには、なぜ取り組む必要があるのか、経営者がしっかり自社なりの論拠と価値創造にいたるまでのストーリーをつくることが大切です。日本企業は、『ダイバーシティ=格差をなくすこと』と捉えがちですが、CSRの一環で社会的マイノリティー救済をリードする取り組みもあれば、社会的責任は順守したうえで、経営合理的な戦略の一環で、集団内の異なる属性同士が相互触発し、イノベーションを創出しやすい環境を整える取り組みもあってもいいでしょう。最近では、いかに事業と結び付けて多様性をいかすかといったことに軸足を移し、真剣に取り組んでいる企業も出てきています」

知っておきたいダイバーシティの関連用語

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
多様性を意味する「ダイバーシティ」と、その多様性を受け入れて個々の特性を生かす「インクルージョン」を掛け合わせた言葉

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)
ダイバーシティ&インクルージョンに「公平・公正性(エクイティ)」という考えをプラスした概念

日本におけるダイバーシティの取り組みは?

日本におけるダイバーシティの取り組みは?

組織内の多様な人材をいかし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていくダイバーシティ経営に、日本でもさまざまな企業が取り組んでいます。実際にどのくらい浸透しているのでしょうか。

谷口さん

「ダイバーシティという言葉は知っていても、イノベーションを起こすための仕組みづくりができている日本企業は、まだ少ないのが現状です。

そんな中で、特に積極的に取り組んでいるのはグローバルな競争に直面している企業、例えば製薬会社でしょう。製薬会社は5年後、10年後を見据えてイノベーションを起こし、新しい薬の開発をしなければ生き残っていけません。なぜなら、特許切れによってジェネリック薬が登場し、既存の薬が売れなくなってしまうという外部環境変化に直面しているからです。ある大手製薬会社では、性別や国籍を問わず多種多様な人材を雇用し、その知識やスキル、バックグラウンドをうまくいかしています。多様性の『種類』の側面に注目しているわけですね。

また、ある大手制御機器メーカーでは、取引のグローバル化という外部環境変化に対応して、商圏としての国籍の『種類』に着目し、外国人従業員を積極的に雇用しています。ただ雇用し登用するだけでなく、グローバル全体での相互触発を促す取り組みを行い、その取り組みがどのくらい投資対効果があったか定量化することで、自社の事業課題の解決にもつなげています。このように、イノベーションを起こすための価値創造ストーリーをきちんと描けている点が、ダイバーシティ経営の先進企業として評価されています」

日本企業の取り組みにも新たなムーブメントが

日本でダイバーシティという言葉が使われ始めたのは1980年代。欧米に比べて浸透スピードが遅く、企業経営に取り入れられ始めたのはごく最近のことです。そんな日本で、新たな動きが起きているそうです。

谷口さん

「日本企業では、最近、人的資本経営の推進の中でもジョブ型雇用と相まって、表層的ダイバーシティよりも深層的ダイバーシティに着目して、事業改革やイノベーションを促そうといったムーブメントが起こっています。ダイバーシティがプラスにいきる取り組みを進められている点は、評価できるところだと思います。他方、Black Lives Matter以降、アメリカでは特定の州によっては、ダイバーシティ&インクルージョン=人種間の格差の問題と同義とみなされ、かえって表層的属性同士の対立を際立たせることになって、人種間闘争に終始してしまう恐れもあり、なかなか難しいんです」

ダイバーシティとSDGsの関係は?

SDGs全体の理念として「誰一人取り残さない」という考え方があります。これは、「格差」の多様性を解消する取り組みです。達成するには、ダイバーシティ&インクルージョンの実現が不可欠です。しかし、どれだけ多様な人材を集めても、組織内でメンバー同士の対立や拒否感があれば、その人材は簡単に辞めてしまいます。多様な人材がお互いに認め合い、受け入れ合う機会と風土を作り出すインクルージョンの取り組みによって、本当に一人一人がインクルージョンを実感することができれば「誰一人取り残さない」ことへとつながっていくのです。

ダイバーシティ推進の課題とは?

ダイバーシティ推進の課題とは?

谷口さんいわく「ダイバーシティは諸刃の剣」であり、推進することで、「派閥争い」や「コミュニケーションの弊害」「多様な意見の調整難航によるチームパフォーマンスの低下」などのトラブルが発生することがあるそうです。そのような事態を防ぐためにはどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。

谷口さん

「ダイバーシティという言葉を誰もが使うようになって、日本でも『アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・差別)』に関する研修を実施する企業が増えてきました。しかし、このような取り組みが、逆に組織内の分断を促してしまう危険性もあります。

普段、仕事をしているときに、同僚の性別や年齢を意識することは、ほとんどありませんよね。ところが、アンコンシャスバイアスに関する研修などを受けた途端、相手との違いを意識し、ステレオタイプで見るようになってしまうという実証結果が数多くあります。無意識の偏見や差別意識があるといったマイナスなことを認識させるだけでなく、多様性によるプラスの側面もあることを伝えていくことで、本当の意味でのダイバーシティが浸透していくでしょう」

まとめ

企業が長期的に価値を向上させるため、また多様な属性やバックグラウンドをいかしイノベーションを起こすために、ダイバーシティの推進は不可欠です。谷口さんによると、日本でも経営戦略に「ダイバーシティ」を掲げる企業が少しずつ増えているとのこと。今後は表層だけでな深層のダイバーシティに着目して、形だけではない、実質的に事業改革やイノベーションを促していくムーブメントが盛んになっていくでしょう。

(掲載日:2023年7月28日)
イラスト:小林ラン
文:佐藤由衣
監修:早稲田大学 谷口真美
編集:エクスライト

ソフトバンクのダイバーシティへの取り組み

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