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AIを活用した遠隔監視技術で自動運転の安全な走行を支える。自動運転の社会実装への挑戦

自動運転の社会実装に向けて。AIを活用してより高度な遠隔監視技術を開発

日本には、高齢ドライバーの免許返納に伴う移動手段の確保や、地方における交通難民、公共バスや物流などのドライバー不足(2024年問題)など、交通課題が多くあります。これらの課題を解決するため、自動運転の社会実装に向けた取り組みが急務となっています。

車や歩行者などによって常に変化している交通環境で、自動運転車の安全な走行を実現するためには、人による遠隔での自動運転車の監視サポートが重要です。また、監視者1人が目視で複数の車両を監視し続けることは非常に困難です。そこで、ソフトバンクではAI(人工知能)を活用した遠隔監視のプラットフォームの開発に取り組み、都内で遠隔監視技術の効果を検証する実証実験を行いました。開発の担当者に遠隔監視の運用における課題やプラットフォーム開発、実証実験から得られた成果などを聞きました。

山科瞬(やましな・しゅん)

ソフトバンク株式会社 先端技術研究所 先端エンジニアリング部

山科瞬(やましな・しゅん)

自動運転の運用省力化の技術開発を担当

交通は常に思わぬ危険が潜んでいる。目視による遠隔監視業務の限界

遠隔監視業務における課題は何でしょうか?

山科 自動運転の走行においては、あらゆるケースに対応していく必要がありますが、発生しうる全てのケースに対応できる自動運転システムをメーカーが開発することは容易ではありません。また、自動運転車を走行させる場合には、走行ルートの設計から、高精度な3Dマップの作成、日々の運用まで多くの運用コストが発生します。それにより自動運転の社会実装を阻害してしまっているという現状があります。中でも、運用コストの大きな割合を占めるものが、自動運転車の遠隔監視業務です。現在の遠隔監視業務は、監視者が自動運転車の走行状況および周辺の交通状況などを把握し、車内外で問題が発生していないかを認識するために、モニターを目視しながら常時遠隔で監視しています。また、事業性の面も考慮すると数百台の規模の車両を監視できることが求められますが、現在、1人が同時に車両を目視で監視できるのは3~4台が限界であり、それ以上は人だけでは実現することが難しい状況です。

遠隔監視業務においては、車内外で発生するさまざまな問題を遠隔地から効率的に認識できることが重要です。ソフトバンクでは、これらの問題を認識するには大きく以下の3つのケースがあると考えています。

自動運転車の走行中に発生しうるケース

  1. 最小リスク状態に陥った際に、車両側からの通知を受けるケース
  2. 車内で何かしらのトラブルが発生した際に、乗員・乗客、または第三者からの連絡を受けるケース
  3. 車両側だけではトラブルを判断できない際に、別のレイヤーで問題を検知するケース
  • 自律運転機能を備えた車両が交通状況を適切に判断し、乗員や他の交通参加者に対し可能な限り安全を確保できるよう、可能な限り安全な場所に停止するよう独自制御している状態のこと

①、②のケースは、ADS(自動運転システム)メーカーおよび車内外の周辺の人が問題を通知するのに対して、③のケースは、現在の自動運転システムでは正確に検知できないような複雑な交通環境下における問題を、AIやインフラ協調、デジタルツインなどの技術を活用して検知する方法を指します。車両側とは異なるレイヤーで問題を検知することによって、自動運転社会におけるフェールセーフ(誤作動した場合の安全対策)の仕組みに貢献することができます。

そこで、ソフトバンクではAIを活用して人間の代わりに車両の危険や周辺状況などを検知することで、監視者の負担軽減を図るためのプラットフォームの開発に取り組んでいます。

監視者の業務効率化とAIによる遠隔監視技術の効果を検証

実証実験でどのように検証したかを教えてください。

山科 昨年度までは遠隔監視のプラットフォームを構築するにあたって自動運転を走行させる上での運用方法や必要なデータを含め、プラットフォーム設計の基礎情報を収集してきました。本年度は、遠隔監視のプラットフォームを構築し、6月末に監視者が行う業務の検証を行いました。

監視者の業務効率化と遠隔監視技術の効果を検証

人が遠隔で自動運転車を監視する際に使うモニターは3つあり、左側から「運行情報一覧」、「運行マップ」、「AI監視」です。自動運転車に搭載されているカメラや位置情報や遠隔監視のプラットフォームのAIで解析された情報から、運行状況に滞りがないか「運行情報」モニターで確認できたり、「運行マップ」モニターでは、車両の急ブレーキや異常挙動などが起きたときにリアルタイムで通知し、地図上から車両の現在位置を確認することができます。

「AI監視」モニターは複数の自動運転車を同時に監視できる

複数の自動運転車を同時に監視できるAI監視モニター

「AI監視」モニターは自動運転車に搭載されているカメラで捉えた内容をAIによって解析し、リアルタイムで表示させています。今回の実証実験で使用した実際の自動運転車は2台だったため、残り8台分の映像は同じ竹芝エリアのデジタルツイン上で走行させています。このような技術を活用することによって、公道では実際の検証が難しい交通環境や、数百台規模の自動運転の交通環境を構築することによって、さまざまなケースをシミュレーションすることが可能となります。

「インシデント対応」は監視者が対応しなければならない対応の内容を確認できる

対応が必要なインシデントが確認できる

画面上の赤枠は走行上で問題があった際に、AIによって監視者の対応が必要なタスクが一覧で表示され瞬時に通知で知らせます。タスク内の「対応開始」をクリックすると画面の中央に発生している問題の詳細が表示され、監視者はその内容を確認して、AIが提案してくれる対応を実施することで問題を解決します。さらに、該当の車両の映像データをクリックすると、問題が起こった直前の状況を容易に確認することができます。

遠隔監視の検証の様子は動画をご覧ください

遠隔監視プラットフォームとシステム連携した自動運転車が都内の公道を走行

遠隔監視技術プラットフォームとシステム連携した自動運転車が都内の公道を走行

自動運転車の走行と遠隔監視はどのように連携するのでしょうか。

山科 遠隔監視のプラットフォームが正常に動作するか確認するため、都内で実際に遠隔監視プラットフォームとシステム連携させた自動運転車を走行させました。都内は交通量や路上駐車が多く、難易度が高いため、走行時に課題となりうるポイントについてプラットフォームで収集して、自動運転システムの改善に役立てています。

遠隔監視技術プラットフォームとシステム連携した自動運転車が都内の公道を走行

車内の天井に設置されているモニターは、車に搭載されているセンサーやカメラから周辺の認知・予測・プランニングしている状況を可視化したもので、遠隔監視プラットフォームにも情報として伝達しています。自動運転の社会実装に向けて今回の技術検証で蓄積したデータを活用して、プラットフォームをさらに成長させていきます。

「実証検証で遠隔監視技術の価値が見いだせた」

実証検証で遠隔監視技術の価値が見出せた

実証実験を行って得られた成果は何ですか?

山科 実証実験を通して、AIを活用した遠隔監視技術の価値が見出せたのは大きな収穫になりました。また今後は、交通インフラのデータと連携してプラットフォームの精度を上げていくとともに、遠隔監視の業務がどうあるべきか、最適な業務設計を考えていく必要があるので検討していきたいと思っています。

今回の取り組みはどのようにして自動運転の社会実装につながるのでしょうか?

山科 自動運転の開発において達成すべき課題が多くあり、多岐にわたります。その中でも重要なのが、自動運転車の走行ルートの設計や高精度な3Dマップの作成や日常運用などの運用コストが大きいということが挙げられます。また、日本では他の国に比べて、自動運転車の走行の安全性が確保されるよう、慎重に開発に取り組んでいます。その安全対策にも多くのコストがかかっている現状があります。
そのような安全性とコストの課題に関して、われわれが開発しているAIを活用した遠隔監視プラットフォームにより全体としてコストの削減と安全性の向上につながれば、自動運転の普及が加速するのではと期待しています。

プラットフォームについては以下の記事で詳しく紹介しています。

今後の展望をお聞かせください。

今後は、自動運転車の死角となる情報を交通インフラから得たデータと連携することで、プラットフォームの精度を上げていくとともに、レベル4の自動運転時代における遠隔監視の業務がどうあるべきかなどを検討していきたいと思っています。

関連プレスリリース

自動運転のレベル4の解禁に向けて、自動運転の走行経路の設計や遠隔監視の運行業務などをAIで完全無人化する実証実験を開始(2023年3月10日、ソフトバンク株式会社)

(掲載日:2023年10月5日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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